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遺跡村ティーヴァ、白鏐の賢者と炎禍の業編
17.人は本当に驚くと何も考えられない
しおりを挟む※すみません遅れました……(´;ω;`)
男なら誰だって一度は「美女と混浴」というキーワードを思い浮かべるはずだ。
嫌がられず、恥ずかしがられず、かといって意識されない事も無く。あれっこれは今夜イケるんじゃないか、童貞を卒業出来るんじゃないのか? などと考えながら美女とのしっぽりタイムを楽しむ妄想というのは、した事が無い奴もおろうが誰だって嫌な妄想だとは思うまい。というか俺は妄想したい。あわよくば現実でそんな美味しい事になりたい。お姉さまに童貞貰って欲しい。
……ゴホン。
ええ、まあ、そんな訳なので、女体をうっかりガン見しまっても問題ない混浴いや美女のエネさんとの混浴を物凄く、ものすごぉおおおおく楽しみにしてた。
んだけども。
「…………現実は無常だな……」
脱衣所でホカホカの体を布で拭いつつ、深い深い溜息を吐く。
そう。お察しの通り、俺はエネさんとの混浴を実現させる事が出来なかった。
なんでだ。チート主人公ってのは一度は女子とウハウハ混浴タイムがあるはずじゃなかったのか。いやそれは置いといて。
なんというか、今ほど“この世界の常識”を恨んだ事は無い。
異世界人の俺の目には歪に見えるとは言え、性差が無く性的興奮を否定せず誰もが等しく「抱く」か「抱かれる」かを選べる世界は、ある意味では素晴らしいと思う。時には男も襲われるけど女の子に守って貰えるし、女装も男装も好きにやって良い。それに、ブラックと恋人だって事を隠さなくたって良いんだ。
そういう事を考えると、ここは良い世界だなって俺も思う。
でも……でもさあ……。
「相手が“オス思考”か“メス思考”かで風呂場を分けるのは、やっぱりどうかと思うんだよなあ、俺は……」
そう。そうなんだよ。俺がエネさんと混浴できなかった理由はそれなんだ。
なんとエネさんはまさかの「夫になりたい」方で、風呂屋に到着するなり「ツカサ様は絶対にこちらに来てはいけませんよ」と忠告し、さっさとオスの方の青い暖簾をくぐってしまったのである。もう本当に、ごく自然に……。
……あの……俺が出会う美女出会う美女、半分くらいオス思考ですよね。
なんで組み敷く方向なんですか、なんで抱かれる方じゃないんですか。
前に聞いた話では、抱かれる方の男女は女の比率の方が多いので男でもメスに認識されていたら「おんな」と呼ばれる事があるらしいんだが、それにしては俺の周囲にそんな人が見当たらないんですけどね。
あっ、そうか。俺自身が周囲に「おんな」だと思われてるから、彼女達には同性と認識されて意識して貰えなかったんだっけ!
だから俺の周囲にはメスの女子がいなかったのかぁ!
ハハハハ、忘れちゃってたなんて俺ってばお馬鹿だなぁ。最初っから普通の女の子には脈が無かったってのに~……やばい死にたくなってきた。
「お、俺が何したってんだ……」
この世界の全女性から男扱いされないなんて、どう考えても切な過ぎる。
ぶっちゃけた話、女性の「オス」の人から迫られるのは嫌じゃないし嬉しいけど、でも竜の姿のアンナさんに舐められた時みたいに「女」としてイロイロされるのは、な、なんかちょっと……その……男としてのプライドが……。
いやこれがM男プレイとかだったら俺も喜んでやりましたよ!?
女王様にアンアン言わされるのも一興だと思うし、俺はまだ性春真っ只中だから、大人のお姉さまに酸いも甘いも教えて貰うのはやぶさかでもないし!?
でもさ! 俺はやっぱり女の子で童貞喪失したいわけでさ!
女の子にケツをどうこうされるのはやっぱ違うと思うんだよねー!!
まあそれ言ったらオッサンにケツ掘られてるのもどうかって話になりますけど!!
「はぁあ……どうしてこう世の中は上手くいかないのか……」
これが普通の異世界だったら、今頃俺は美少女美女ハーレムで混浴三昧だったんだろうになあ……。ああ、この“忘れた頃に他の異世界を思い出して発狂する”発作すら悲しい。俺がチート小説さえ読んでいなければ……。
「……いや、でも、女性にコレは付いてないんだし、だったら逆レみたいなもんだと思えばあるいは……」
…………でも、アンナさんにペロペロされた時に感じたのは、間違いなくブラックと同じ雰囲気だったし……それを考えると、俺がヤりたい行為とは全く異なる行為が行われそうでなあ……。
そう考えて、俺はあの冊子の「女性だが股間に男性器を生やしたい」という質問を思い出し、湯上りだというのに寒気を覚えて震えてしまった。
ああ、解決方法を書けてしまうこの世界のハチャメチャさが恐ろしい。
もう色々考えずに早く帰ろうと思いのろのろと番台へ向かうと、ダジャレが好きな番頭さんが俺の様子を見て話しかけて来た。
「なんだ兄ちゃん、そんなに連れのねーちゃんが気になってたのかい」
「ぐぅう……」
きっちり正解を当てられて思わず唸ると、番頭さんはワハハと笑った。
ちくしょう笑うんじゃない。こっちは楽しみにしてたんだぞ、すっごく純粋にワクワクしてたんだぞ。
「その様子じゃ相手もオンナだと思ってたか。ははは、兄ちゃんもまだまだだなあ。あんな雰囲気しといて兄ちゃんと同じなわきゃねーよ」
「雰囲気って、それどこで判断するんですか……」
「そりゃお前、相手が他の奴を見る時の目だよ」
「め、ですか?」
よく解らなくて首を傾げると、番頭さんは俺の顔をびっと指さした。
「ほら、ソレ。オス気質の女ってのはな、好みの奴がお前さんみたいな迂闊な挙動をすんだろ? そしたら、つい目が離せなくなっちまうんだ。言動は普通のメスらしい女ではあるけど、やっぱしどっかオスと同じような行動をしちまうんだよ」
「そうなんですか……」
「兄ちゃんもオスっぽい所はあるけどよ、まあ兄ちゃんの場合、体とか仕草とか……その大人しさも相まって、完全にメスだかんなぁ。あの金髪の綺麗な姉さんが一緒に風呂に入るなって言うのも仕方ないと思うぜ」
「むぅ……」
メスとは何度も言われたが、改めてそう言われると解せない。
俺は別に「抱かれたい!」なんて一言も言ってないのに、どうしてメスっぽい仕草とか言われるんだろう。俺は自分の世界と全く同じ行動しかしてないのに……。
しかし、オスメスって言われると本格的に悲しくなってくるな。
俺生物学的にもオスなんですけど。
「あの、そのオスメスって、別の言い方とかないんですか……? 俺、その区別する単語を最近知ったんで、凄く馴染めなくて……」
せめてメス扱いはやめて貰いたいので別称が無いか問いかけてみるが、番頭さんの答えは芳しくない物だった。
「ははぁ、兄ちゃんさては西側から来たな? そらまああっちはオスだのメスだのと言わないモンな。風呂も古臭い分け方だし。だがよ、東側の国を歩くなら、兄ちゃんもいい加減オスメスには慣れといた方が良いぜ。コッチ側は獣人との色々な話し合いで、肉体的な区別より性欲的な区別を推奨してっからな。下手にオスの風呂に入って強姦されたら嫌だろ?」
「ひっ……は、はいぃ」
「だったら、変に思えるかもしれねえけど慣れとくこったな」
……どうやら、別の言い方は無いらしい。
ライクネスではオスメスとかの区別は無かったけど、やっぱし東側の地域だと獣人とかがいるから、男女の区別より性的嗜好で区別する事になってんだな。西側は人族以外の種族が少ないから、オスメスって単語を聞かなかったんだろうか。
まあ、ライクネスとオーデルは古いしきたりを重んじる国だし、オスとかメスってのは直接的過ぎるから言葉にはしないようにしてたのかもな。
そもそもあっちは娼姫も女の人が多かったから、もしかしたらライクネスとかでは俺の世界と同じく女性が女性として生活してるのが普通なのかも。
だとしたら……俺、もう色々と終わったらライクネスに引き籠ろうかな……。
俺がメスっつっても、ライクネスでは普通に男風呂に入れてたわけだし。
危険が少ないならあの国に住みますよ俺はもう。
ぐったりしながら風呂屋を出て、またもや出て来るのが遅いブラック達を待つために、入口から少し離れて待つ。
よくよく考えてみたら、二人は髪が長いから洗うのに手間がかかるし、それに二人とも髪を洗うのを面倒くさがる性質だから、手間取るんだよな。だから、いつも俺が先に外に出て来ちゃうんだ。
やっぱ、オスメスの区別のある風呂だとさっと髪を洗ってやれなくて不便だ。
お風呂は嬉しいが、こういう不便さも有るんだなあ、と。
考えて――――
「ツカサ」
名を呼ばれ、俺は急激にその場から移動させられた。
「――――っ」
え。
……え?
なに、何が、起こって。
それに、今の声……聞いた事が――――
「こっちへ来い……!」
どこか怒っているかのような声。
だけど俺の名を呼んだ相手の声音がどうしても思い出せず、俺は混乱しながら相手を振り返った。自分を強引に引き摺る相手の顔を見るために。
――俺の名を呼んだ、声の主。しかし、その相手は……。
「え……!?」
背が高く、両手にグローブをはめた……特徴的なマントの、人。
それは間違いなく、ブラウンさんだった。
だけど、違う。声が違う。なんで、どうして。
考えている間に俺は風呂場の裏手へと連れて行かれ、抵抗する暇も無くあの裏口から中へと連れ込まれる。薄暗く、白い蒸気を噴き出す機械の間に押し込まれて、壁に強引に押し付けられた。
目の前に、ブラウンさんがいる。
でも、声があの人のじゃない。姿は一緒なのに、背丈も違わないのに、着ている物は絶対にブラウンさんの物なのに、声が……。
「やっと、お前を見つけた…………」
若い、声。
脳が理解を拒む相手の変化に、目を見開いたまま動けない。そんな俺に、フードを目深に被ったブラウンさんのような相手は――そのフードを、取った。
そこ、には。
「あ……――――」
「……ずっと、こうして話がしたかった……ツカサ……」
鮮やかな赤い髪と、青い瞳を持つ、ひと。
まったく予想していなかった、あいて。
俺の、目の前に居たのは――――――
レッドだった。
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