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遺跡村ティーヴァ、白鏐の賢者と炎禍の業編
14.誰かを思う情
しおりを挟む「はー……それにしても驚いたなぁ……。まさか、魔族の御用達アイテムをマグナが作ってたなんて……」
いやまあ、増産は別の人の仕事かもしれないが、でも、魔族が当たり前に使用するほどの発明品を考え出していたなんて、マグナってばホントに凄いよ。
今更ながらに、俺の友達はすげえんだなあって実感するわ。
しかし……アンナさんの説明を思い出すと、【号令板】ってかなり前から使われていた感じだったよな。となると……マグナって何歳でアレを発明したんだろうか。
まさか、年齢一桁とか?
でもマグナなら有りえるかもなあ……。
アルビノキャラは大抵が天才肌で非凡だから……なーんて言う気は無いが、しかしマグナの凄まじさは【神童】という名前からしてもう明らかだ。
だとしたら、小学一年生で体は子供頭脳は大人な状態でもおかしくない。
ブラックだって歩く図書館レベルの凄い奴だし、クロウも拳一つで大地を割るような恐ろしい力の持ち主だ。ならば、年齢一桁の発明家が居るのも普通だろう。
……にしても、そうまで超人のバーゲンセールをやられると、本当に俺がショボい奴に見えて来るからヤダなぁ……。
ちぇっ、どうせ俺はチート以外は人並みですよーだ。
でもいつかは俺だって色々とご立派になって、ブラックみたいに毛も立派な大人に……ってそれはどうでもいい。今はそっちの話じゃない。
とにかく、俺だって頑張るのだ。もっとレベルを上げるのだ。
「…………久しぶりに気の付加術でも練習するかな……」
せっかく縦笛の練習とか言って抜け出して来たんだし、秘密の特訓ってのも悪くは無いかも。そんな事を思いつつ、俺は酒場の倉庫への梯子を登って上蓋をよいしょと開けた。いつ使っても盗賊の抜け穴っぽい道だ。
「まだ親父さんは店に居るよな」
倉庫に備え付けられている水琅石の明かりを灯して、俺はカウンターの内側に出る蓋を少しだけ開ける。すると、酒場の喧騒が耳に入って来た。
どうやらまだまだ御盛況のようだ。
しかしどう出たものかなと思っていると、蓋が不意に大きく開いた。
「おう、どした?」
親父さんが気を利かせて開けてくれたようだ。
俺は頭を下げつつ、少し穴から這い出て親父さんにコソコソと話した。
「あの、実はマグナの事でちょっと……」
「おうそうか。だったらちょっと待ってろ、今からちょうど休憩なんでな」
言われたとおりに倉庫に戻って待っていると、親父さんは倉庫の端に有る扉から入って来た。どうやらここは二か所から出入りできるらしいな。
忙しい時は、ウェイトレスのお姉さんにカウンターの方から物を受け取っているんだろうか。だとしたら結構ラクかも。
「で? 坊ちゃんがどうしたって?」
「えーっと……実はちょっと、マグナと気まずい感じになっちゃっいまして……。あっ、でも、喧嘩したとかじゃないんですよ!? だから、その~……気まずいのを取り除くために、アイツが好きな物か何か作ってやりたいなって思って……」
「作るって、あれか。料理か」
「はい……」
そう言うと、親父さんはがっしりした顎の髭をちょいちょいと触って、唸りながら太い腕を組んだ。
「そりゃーおめえ、好物っつったら菜食料理よ。坊ちゃんは我慢すりゃあ肉も喰えるみたいだが、基本的に肉類は苦手みたいだからな」
「あー……そう言えば、肉食べてなかったっすね」
「とは言え、この国の主食のリンゴイモにも飽きてるみてーだから、菜食っつっても今は肉も我慢して食べてるみたいだがよ」
うーん、まあ、プレインの料理もライクネスより少しマシなレベルだからな……。
マグナも味に飽きて来て、まさに苦肉の策って奴なんだろう。匿われている手前、肉を断る事も出来ないだろうしなあ。
「坊主よぉ、俺からも頼むぜ。なんか良い料理が有ったら、坊ちゃんに作ってやってくれや。俺としても気の利いた料理も出してやれねえで心苦しいんだわ」
「うーん……」
親父さんにまでそう言われると、作らない訳にはいかなくなるな……。
だけど、何を作ったら良いんだろう。この世界で良く見かけるスープや炒め料理を作ったんじゃ、マグナも喜んでくれないだろうしなあ。とりあえず倉庫にどんな食材があるのか探してみるか。
と言う訳で、倉庫の棚などを遠慮なく漁る。
親父さんに説明して貰いながら食材を探した結果、数個良い物が見つかった。
この世界でも同じ名前のトマトに、お酒のおつまみに重宝するマッシュルームの形をしたニンニク風味のニオイタケ、それに定番の玉葱に似たタマグサと……。
「親父さん、これなに? 香草?」
蓋付きのバスケットの中には、卵型の可愛い葉っぱが沢山保管されていた。
結構ツンとした香りで、スパイスっぽさがあるな。もしかしてハーブかな?
俺は見た事が無かったので聞いてみると、親父さんは丁寧に教えてくれた。
「ああ、そりゃ【モクソウ】って言う香草だ。大陸の東側……しかも南部にしか生えねえ野草でな、本当はプレインでも南端に行かないと手に入れられねえんだが、俺はギルドに依頼して、旅がてらこっちに来る冒険者にこまめに摘んできて貰ってんだよ。こってりした味の料理にゃいい付け合せなんだぜ」
試しに食ってみな、と言われて小さめの葉っぱを口に入れてみると……強烈な味がして、思わず体がビクリと震えてしまった。
こっ……これ……たぶん、あれだ。バジル……かな?
ふーむ、バジルか……。
今まで見つけた良い食材と、バジル……それにリンゴイモ……。
それと俺が持っている食材を合わせるとなると――――
これは、アレを作るっきゃないでしょう!
「よしっ! 良い料理を思いつきましたよ親父さん!」
「おっ!? そうか、で、何を作るんだ坊主! この倉庫と店のモンだったら何でも使っていいぞ!」
「そうですね、作る~~……前に、下拵えをしなきゃ行けないので、親父さん、ある物を用意して頂けますか!」
「おう、なんだ?」
何でも言えよとワクワクしている親父さんに苦笑して、俺は“おおよそ用意して貰う物ではないモノ”を、いくつか頼んだ。ふっふっふ、コレが一番重要なのだと親父さんは気付くまい。完成するまでは秘密にして、みんなをビックリさせてやろう。
さあまずは下準備だ。菜食主義のマグナにも喜んで食べて貰える料理を張り切って作らなきゃな!
というワケで、俺は店の奥の厨房を借りて、下準備を行っていたのだが……。
――それから一時間ほど経った頃だろうか。二つの大鍋をやっと休ませる段階になったなと思って火を消している所に、親父さんがなにやら小さなものを掲げながらやって来た。
「おーい坊主、あの方からお手紙が届いたぞ」
「あの方って……あ、もしかして」
シディ様、かな?
親父さんを見やると、相手は俺の言いたい事が解ったのか頷いた。
「下拵えはもう良いのか? だったら、坊ちゃんと一緒に見てみな」
「あ、はい。じゃあとりあえず、コレは箱型の器に小分けして……っと。冷やすので、倉庫に置いといてもいいですか?」
「おう、ホコリが入らないように覆いを掛けとくから安心しとけ」
親父さんの有り難い言葉に甘える事にして、俺は使った道具をきちんと洗ってから遺跡へと戻った。……結局笛の練習は下拵えの間にちょっとしか出来なかったが……まあやっぱり俺には連想しきれる曲ではなかったので、ここは素直にマグナの技術に頼る事にしよう。
そんなわけで遺跡へと戻り、俺はマグナ達がいる部屋に戻ってきた。
「おーい、シディさんからのお手紙が来たぞー」
手紙を掲げながら戻ると、三人が一斉に俺の方を振り向いた。
「やっとか……」
「あれ、ツカサ君なんで手紙持ってるの?」
「ム……美味しい匂いがする……」
ぎゃーオッサン達の事わすれてたー。こいつら嫌になるぐらい聡いんだったー!
やっべどうしよう。いやでも嘘をついて変に弁解したらすぐに見破られてしまう。
ここはやはり「肝心な所は言わないけど本当の事を言う」作戦で行こう。
「ちょっと小腹が空いて倉庫に行ったら、親父さんに手紙を渡されたんだよ」
「ふ~ん……?」
…………う、疑ってる。疑いの眼差しで俺を見ているぞ……。
だがここは敢えて無視!
俺の体をふんふんと嗅ごうとして来るクロウも頭を抑えて無視だ。
マグナに手紙を渡すと、相手は躊躇せずに封を切り、中から出て来た便箋にさっと目を通す。そうして、手紙から目を離すと真剣な顔で溜息を吐いた。
「……少しまずいことになったようだ」
「と、言うと?」
「どうやら【十二議会】の奴らもバカではなかったらしい。旅人の運ぶ不審な荷物に気付いて、この裏街道に目星を付けたようだ。……この遺跡が見つかるのも時間の問題だろう。師匠からは『世界協定との連絡が付いたから、国外へ逃げろ』との指示だ。使者が誘導してくれるらしいが……間に合うかどうかは分からんらしい」
マグナの深刻そうな声に、ブラックが訝しげに問いかける。
「その使者がどのくらいに来るかは特定できないのか? それに、逃げるとしても、僕達への依頼はどうするんだ」
「使者は手紙と同じくらいには来ると言っていたが、果たして間に合うかは解らん。一日くらいは待つ余裕はあるだろうが……外を警戒して貰わねばならん。それと、お前達への依頼は残念だが一旦中止だ。まずは俺が国外へ逃げないと、探る前に危機的状況に陥りそうだからな。落ち着いてから、改めて考えよう」
「まあ、そう言う事なら仕方ないか……」
ブラックの渋々と言った台詞に、俺とクロウも深く頷く。
そうだよな、今まではここがマグナの安全地帯だったから悠長に「遺跡を調査して情報を……」なんて言っていられたけど、居場所を知られたとなるとのんびり俺達の調査を待つ訳にもいかない。
俺達がここを離れている間にマグナが捕まれば計画はおじゃんだし、俺達がマグナを連れて遺跡に行くってのもちょっとなあ。そんなの、ライオンの群れの前に餌を持って行くような物だし……。マグナが絶対に安全だと言えない以上、国外に逃げて行ったん体勢を立て直すしか道は無いだろう。
なんにせよ、マグナが【十二議会】に連れ戻されたらアウトなんだからな。
うむ。やっと覚えたぞじゅうにぎかい。
「ひとまず国外へ逃げれば、相手も権力を使っての捜索は難しくなる。ベランデルンもアランベールもプレインには協力的な国家ではあるが、両国とも他国の兵士が侵入して来るのを嫌がる程度には排他的だ。協力を取り付けるにも、手続きが長く掛かるだろう。だから、完全に消息を絶つまでの時間稼ぎにはなる」
マグナのその言葉には間違いがないのか、ブラックもクロウも反論はしなかった。
俺には国同士の事は解らないので何とも言えないが、二人が肯定しているのなら、本当に時間稼ぎになるのだろう。良かった、一応この世界でも越境捜査ってのは面倒臭いものなんだな……。
ホッとしていると、マグナは更に言葉を続けた。
「師匠が言うには、俺さえ逃げ延びれば計画は停滞する事になるらしい。なんの計画かは教えられてないから、俺には内情が分からんが……周囲を脅してまで俺を縛ろうとするような計画である以上、俺は全力で拒否しなければならない」
そう言いながら、マグナは俺をじっと凝視してきた。
強い光を放つ真紅の瞳で。
「…………あいつらが俺に造らせようとしている道具が、誰かを不幸にして苦しめる物だとしたら……俺はもう、そんな物など作りたくない。……道具は、誰かを幸せにするために存在する。それを教えてくれた友を、裏切る訳には行かないからな」
「マグナ……」
そうか。
マグナはあの時の事をずっと覚えていてくれたのか……。
だから、遺跡の中で隠遁生活をしてまで絶対に逃げ延びようとしていたんだ。
もう二度と人を悲しませるための物は作らないって、あの時決心してくれたから。
ならば、俺はその思いに応えてやらなければならない。
マグナが強い意志で決心した事を守ろうとしてくれるのなら、俺もそれを全力で守ろう。人を脅してまで造る道具が、誰かを不幸にしない訳がない。現に今、マグナは薄暗い遺跡での生活を強いられているじゃないか。
これが理不尽じゃなくて何だというんだ。
だからこそ、絶対にマグナを渡す訳にはいかない。
マグナをまた悪者にしない為にも、友人として俺が絶対に守ってやらなければ。
「……マグナ、絶対に俺達がお前を逃がしてやるからな」
真剣な目に強い言葉で返すと、相手はただ口を笑みに歪めて頷いてくれた。
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