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遺跡村ティーヴァ、白鏐の賢者と炎禍の業編
8.超古代の技術は大抵現在の技術と似ている
しおりを挟む…………結局、俺のズボンと下着は、そこらへんにあった石の囲いに水の曜術の【アクア】で水を満たして、石鹸で洗うことになってしまった。
いや、別にそれはいい。もう良いんだ。俺が打たれ弱いのが原因だしな。けど……流石に、今の格好はちょっと……。
「うう……ズボンの替えも用意しときゃよかった……」
そう。俺は洗濯物が炉の前で乾く間、下半身下着一枚で過ごす事になってしまったのである。……死にたい。なんだこの格好。
シャツが微妙に長いから辛うじて股間部分は隠れるんだけど、これはこれで余計に変態っぽい。だってこれ傍目から見たら穿いて無いみたいじゃん。
フルチンで靴だけ履いてるって、エロゲ以外じゃ許されねえぞこの格好。
なのにブラックの奴は。
「はぁぁあ~~! ツカサ君のむっちりした太腿と、すらっとした膝下が丸見えだよぉお! ああぁまた興奮してきた……はぁ、はぁあぁぁ……」
「うるさいばか変態オヤジ!! ちったぁ反省しろー!!」
なんでテメェは毎回毎回お約束のようにそうなるのかなあ!
いやまあキショイってドンビキされるよりマシだけど、でも俺が恥ずかしいのを解っててこんな事言ってくるのは、完全に俺をおちょくってるって事だよな?
うう、ちくしょうめ。服が乾いたら覚えてやがれ……。
「ところでさあツカサ君」
「なんだよ!」
「ツカサ君が可愛いお尻を出して洗濯してる間に、暇だったからちょっと金の曜気を探ってみたんだけどさ。向こうの広場の方になんかあるみたいなんだよね」
……前半は聞かなかった事にしよう。
ブラックは炎と金の二属性持ちなんだよな。前もアタラクシアの近くにある鉱山で鉱石をばっちりサーチしてたっけ。しかしヒマだから探るって……お前って奴ぁ本当色々規格外だな……。まあいい。広場の方に何かあるって……なんだろ。
「曜具とかそういうの?」
「うーん……それはちょっと判断が付かないけど……形的にはこう……こういうの」
そんな事を言いながら、ブラックは手で箱のジェスチャーをして、その箱の下に何かが伸びているような動きを見せて来た。
箱の下に結構長い棒……なんか見た事あるなソレ。
「もしかしてそれ、案内板か何かなんじゃないの?」
「案内板? 金属で出来てるのに?」
「えーと……なんて言うか……あっ、アレだよ。フォキス村の遺跡で見ただろ? 壁にブーンて画像が出てくるアレ。あの機能が小さくなって、箱に投影されるんだ」
擬似投影とかヴァーチャルナントカと言っても俺には詳しい事が説明できないので、身振り手振りでブラックに解って貰おうとする。
解って貰えるかなと不安だったのだが、遺跡で似たような物を実際に見ていたのが効いたらしく、ブラックは俺の微妙な説明でも「ああ」と納得してくれた。
「なるほど……アレは視覚拡張の術とかじゃなかったみたいだから、どうやってるんだろうと思ってたけど……本当に古代技術だったんだねえ」
あ、そうか……。この世界でも【視覚拡張】とかの五感を強化する術は存在するんだよな。その術を応用して、俺の“携帯百科事典”も空中に疑似映像を出現させる事を実現出来ているし、港町ランティナでも、祭で船のレースを行う時なんかに、大勢の曜術師や冒険者を使って実況中継用の映像を空中に投影させていたんだ。
ブラックからしてみれば「難しいけどやれない事は無い技術」として見えたから、この疑似映像が古代技術には思えなかったのか。
普通、気の付加術の【視覚拡張】で映し出される映像は、自分だけにしか見る事が出来ないモノだからなあ……。
……それを考えると、フォキス村のあの遺跡のマップも、あそこだけは視覚拡張の術を使ってたのかな?
俺は全属性+大地の気が解るんだし、確認して置けばよかったな……。
まあ何にせよ、ブラックに解って貰えて良かった。
でも、金の曜術に反応があったって事は死んでない機械なんだろうか。
「もしかしたらまだ動くのかな?」
「うーん、そこまではちょっと判らないんだよねぇ。だから~、確認しに行こう?」
「むむ……」
この格好で確認しに行くのはちょっと抵抗があったが、しかしズボンを乾かす間の時間が勿体ない。色々考えたが、仕方なく確認しに行くことにした。
「…………うぅ……でも、やっぱ、なんか……」
この格好で外に……大通りに出るのは、恥ずかしい……。
思わず壁に懐いてしまった俺に、ブラックは「ンモー」と声を出した。
「ツカサ君たらホント恥ずかしがり屋なんだから。仕方ないなあ~」
いや、普通はこうなるでしょ……と思っていると、ブラックはンモーと言ったくせして嬉しそうに笑うと、俺を軽々抱え上げた。
そうして、自分のマントで俺の下半身を包み込む。
「これなら平気だよね?」
「う……うん……」
クッ……まさかこんな事になるとは……ていうかブラックの野郎、まさかコレを狙ってやがったのでは……!?
思わず疑惑の目を向けると、ブラックは人懐こい笑みでにっこ~とわざとらしく笑って、俺の頬にキスをしてきやがった。
ああこんちくしょう、わざとだ。絶対わざとだコレ。覚えてろよこの野郎。
い、今は無理だから、いずれな! いずれ!
「つ、つ、ツカサ君の百面相、ほんと可愛いなぁ……はぁ、ハァ……」
「やめて本当やめて」
ごめんなさい俺が悪かったから至近距離でハァハァしないで。
すぐに近付いて来ようとするブラックの顔を押しのけつつ運ばれていくと、俺達の目の前に広場が見えてきた。
どんな場所かと思っていたら――――
「あっ……植物が生えてる…………」
およそバレーボールのコート一面分くらいの大きさの広場には、中央に噴水らしきオブジェがあり、その噴水の水を噴射する部分には沢山の蔦が絡まっている。
上を見て見ると、ドーム状の天井からはカーテンのように大量の蔦が伸びており、その隙間に木の根っこなどが見えた。相変わらず空気は淀んでて、外の清々しい空気などは感じられないので、天井は塞がっており、そのわずかな隙間から植物が伸びて来てるんだろうけど……なんか不思議な光景だ。
周囲にはベンチらしきものがあったり、掲示板が有ったっぽい柱などがそこかしこに崩れ落ちていて、俺が見た事のある地下商店街と構造はあまり変わらない。
なんなら花壇らしき跡もあって、ここが稼働していたなら地下の憩いの場だったのだろうなと思わせるような雰囲気だった。
今は明かりが無いから廃墟でしかないけど、明るかったら壁画とかこの緑も癒しだったんだろうなあ……。
「謎の反応は……おっ、あったあった」
ブラックが近付いて行く場所には、確かにタッチパネル式の案内板のようなものがぽつんと置かれていた。そういえばこの装置だけ金属だな。
抱えられたままその装置を見てみると、やはり俺が想像した通りの形をしている事が解る。でも……電源が無いんじゃ確認する事も出来ないよな。
むむむと唸っていると、ブラックが俺の横に頭を出してきた。
「これ、やっぱり案内板に見える?」
「うん……俺の世界だと、こういう場所に有ってもおかしくないモノなんだけど……。電源……ええと、動かす燃料もないだろうし、やっぱ使えないよな」
そう言いながら、ぺたりと液晶画面のように黒い部分に触れてみると。
「…………ん?」
何だかよく解らないが、一瞬画面に金色の光が見えたような気がした。
金色……といえば大地の気かな。そういえば勇者が残した地図にも、アニマがウンタラって書いてあったよな。確かアニマってのは、「大地の気」という意味だったはず。だとしたら、もしかして。
「ブラック、ちょっと降ろして」
「ん」
こういう時は素直に降ろしてくれるブラックに礼を言いつつ、俺は両手を液晶画面のような部分に乗せて、大地の気を送るイメージを脳内に浮かべた。
すると、すぐに俺の腕にいつものように幾重にも絡まる光の蔦が出現し、今度は黄金の光になってするすると液晶の奥へと延びて消えて行く。その様を見つめていると――不意に、案内板が変な音を立てた。
「おっ……!」
液晶画面の奥で光が閃いたと思った刹那――真っ黒だった画面に、いきなり色鮮やかな光景が映し出された。
「うおお!」
「うわっ……これ術……じゃないね!? すごいな……これも動かせるのかな」
「どうだろ……タッチパネルなら……」
いったん手を離して、指で画面に触れてみる。
すると、装飾された文字がポンポンと浮かんできた。
……が、当然俺には読めない。助けを求めて後ろを振り返ると、ブラックは再び俺に抱き着いてマントで俺の体を隠しながら、明るい画面を見つめた。
「む……これも【希求語】だね。それにしてもやかましい文字だな」
「わかる?」
「んー……なんとか。えーと…………ようこそ、地下販売、店舗街へ……。その下は……目次かな? 店舗街の地図と、あと……なんだろ、由来?」
「どれどれ……」
店舗の地図を指でタッチしてみると、画面がすぐに切り替わり、ちくわの断面図みたいな図が写しだされた。どうやらこれがこの大通りの地図みたいだな。
画面を動かすと他の場所の地図も見る事が出来たので、ここは記憶力がハンパではないブラックに覚えて貰う事にした。こういう時に超人がいると助かる。
あらかた記憶して貰って、今度は由来と説明されたところをタッチしてみた。
「うおっ」
今度は美しい風景と遺跡を背景にした文章がずらりと出て来たぞ。
指を上下に動かすと、文章の続きが見れるみたいだ。こちらもブラックに翻訳してもらうと、次のような事が解った。
このティーヴァ遺跡の地下店舗街は、遥か昔に存在した【黒鋼の国】の北西に位置する都市の商店街で、国のありとあらゆる品物が揃う場所だったらしい。
規模は国内最大級ということで、色々な美辞麗句を並べ立てていたが、その中でも俺達が注目したのはこの商店街のある都市の由来だった。
『我が都市は文明神アスカーの加護を抱く栄誉ある都市であり、同じく加護を受けた学問都市【ミレット】との相互輸送を可能にしている。森羅万象の知識を集める都市と森羅万象の品を集めるこの都市は、まさに国の頭脳と心臓と言えるだろう』
――――学問都市、ミレット。
もしかすると、この遺跡に行けば“白金の書”の事も判るかも知れないが……。
「まさか、この国の首都……って訳じゃないよね……?」
ブラックに問いかけると、相手はすぐに首を振った。
「いや、位置からして少し違うみたいだね。ええと……ミレットの位置は、東南……かな? プレインの首都はこの国の丁度中央にあるから違うだろう。しかし説明からすると大分遠いみたいだけど、よく輸送だのなんだのと言う単語が出て来るな。これも古代の技術で問題ない感じだったのかな?」
「多分……? なんかこう、馬が必要ない凄い早い馬車とかでギューンと移動してたのかも知れないぞ」
「そんなの想像出来ないな……なんか気持ち悪くない?」
えっ、ブラック的には気持ち悪いの!?
俺としては自動車の事を言ったつもりだったんだけど……でも確かに馬がいない馬車が走るって気持ち悪いな。怖い。そんなんおばけの仕業やんけ。
「確かに怖いな……」
「むう……古代技術恐るべし……」
とかなんとか言ってる間に、大地の気が切れてしまったのか、案内板はまた真っ暗な画面に戻ってしまった。
「……もっかいやる?」
「いや、今ので充分だよ。他に目ぼしい情報は無かったし、なにより……」
「ん?」
何だろう。
気になってブラックを見上げると、相手は微笑んで、軽いキスをしてきた。
完全に油断していた口を塞がれて思わずびくつくと、相手は「エヘヘ」と気の抜けた声を漏らしながら、俺を抱き締めた。
「ツカサ君に無理させたくないしさ……だから、もう良いよ」
「っ……。そ、そう、かよ…………」
「えへへ……。ま、とりあえずさ、この遺跡があいつが言ってた遺跡かどうかは判らないし、戻って改めて話を聞こうよ。そろそろズボンも乾いてるだろうしさ」
ああもう、解り易いくらい上機嫌になりやがって。
そんな顔されたら、やめろって拒否する俺が悪いみたいになるじゃないか。
結構真面目な話してたのに……。
「ツカサ君、顔真っ赤で可愛い……」
「ん゛っ!? ちっ、違っ……その、マントが熱いんだよ! さっさと戻るぞ!」
そう言って無精髭だらけの顔を手で引き剥がすが、しかし……ブラックのマントの中から出る事は出来なくて。
何だか子供がワガママを言ってるみたいになって来て、余計に恥ずかしくなった俺に、ブラックは何を言うでもなく嬉しそうに口を緩めて、再び俺を抱き上げた。
「今日は二人っきりでいちゃいちゃ出来て嬉しいなぁ~。はー……。やっぱ、戻るのやだなあ。依頼なんて受けずにこのまま二人でどっか逃げちゃおっか」
「お、お前なあ……」
「冗談冗談」
目が笑ってないぞおい。
……まあでも……逃げたくなる気持ちは、ちょっと解るかも。
ほんと、俺もチート小説みたいにのんびり世界を旅出来たらな……。
そしたら色々考えずに、もっと俺も、ブラックと……。
いや、何考えてんだ俺。だ、だめだ。やっぱ薄暗い所で二人きりはだめだな。
こんな事を考えてる暇はないんだ。早くズボンを穿いて、クロウとマグナが待っている部屋に戻らなくては……。
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