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遺跡村ティーヴァ、白鏐の賢者と炎禍の業編
5.お国の騒動には巻き込まれたくない
しおりを挟む食事、と言うからには台所のような場所に行くとばかり思っていたのだが、残念ながら俺の予想は外れてしまった。マグナ曰く、食事はすべて酒場の親父さんに頼んでいるんだそうな。勿論有料で。
まあそれは良いが、しかしどうやってそれを食べるんだと問うと、マグナは再び「付いて来い」と言い出して。今度は、来た道とは別の道へと歩き出した。
どこに行くんだろうかと思っていると、マグナは真新しい梯子が掛かっている行き止まりに辿りつく。案の定その梯子を登ると、上部の蓋を開けた。
その蓋の先は、どこぞの倉庫に繋がっていたのだが……なんとびっくり。そのどこぞの倉庫は、ティーヴァ村の酒場のカウンター……の下に存在している、秘密の食料倉庫だったのだ。
マグナは、いつもここで酒場の親父さんから飯を渡して貰っているらしい。
なるほど、ここなら誰にも見られずに食事を貰えるな。
倉庫への入口はカウンターの中側にあるから、俺達が蓋を開けても親父さんしか気付かない。それに、客席側からは、カウンターの中を覗きこまなければここを見つけられないのだ。故に、食事の受け渡しも誰にも見られずに済むって訳だな。
しかも、代金さえ置いて行ってくれれば、倉庫の食べ物は何でも持って行って良いとの事で……なんか、なんかこう……ワクワクするな!!
なんで倉庫とかバックヤードで粗野に食べる食事ってワクワクするんだろう。
固い干し肉と浅黒い穀物パン、リンゴイモが粗雑につっこまれた塩味のスープだけでも、なんだか秘密の隠れ家にいるみたいでとても楽しい。
それに、木の器ってのがまた良いんだよなあ~。コーティングとかしてないから、使い捨てだし洗うの大変だけど、でもやっぱこの冒険感だけはやめられない。
……まあ、そんな事を考えている場合じゃないんですけどね、今は。
なんたって、マグナがどうしてこの村にいるかって事を話して貰うんだから。
「…………いつもながら食材を殺すのがうまい味付けだな」
話して貰うと言った矢先に、マグナが料理について呟く。
いや、おまえさん、今から重大そうなことを話すってのに、緊張感も無く料理をディスってて良いんですか。確かに味気なくはあるけども。
突っ込むべきかどうか迷っていたが、オッサン達もこの料理に関しては思う所が有ったのか、マグナにつられて余計な事を言い出した。
「うーん、料理を作る人によってこんなにイモの味が違うとは……」
「口の中がパッサパサだパッサパサ」
クロウの忌憚ない意見に「パッサパサだよ親父さん!」と某クッキーの話のように言葉を続けたくなったが、俺は必死に口を噤んでパンをスープに浸した。
い、今はその話にノッてる場合じゃない。つーか普通にメシくってどうすんだ。
せっかく料理を作ってくれた親父さんにも失礼だし、ここは話を戻さねば。
「それで……マグナ、何で逃げたかって話は?」
長くなるならそろそろ話してくれと促すと、相手は口の中の物を飲み込んで、フムと声を漏らしてスプーンを置いた。
「経緯を話すと長くなるので、先に結論を言うが……俺が逃げた理由は“気に入らない兵器の開発を強要されたから”だ」
「な、長いって言ってたのに一言で済んじゃったじゃねーか! しかもまた国にそういうの強要されてたの!?」
「だから経緯を省いたと言っただろう。詳しい事は今から話すから待て」
そ、そうだな。話を聞こう。
食事を終えて一息つくと、マグナは事の“経緯”を話し始めた。
あの事件の後、ハーモニック連合国からプレイン共和国へと送還されたマグナは、世界協定の裁定員であるシアンさん立会いのもと、この国の最高権威である【十二議会】との話し合いに望んだ。
最初はマグナの逃亡を逆手に取って、以前と同じ作業をさせようとしていた議会だったが、しかし、国家間の争いを鎮める機関の偉い人であるシアンさんに出て来られては旗色が悪かったらしく、師匠のシディさんの根回しも有ってか、マグナの処遇は「保留」となり首都のシディさんの邸宅に拘留される事となった。
この時は別段不自由も無く、マグナも監視されてはいたが好きに曜具作りなどを行っていたのだが――そこから一月ほど経つと、急に環境が変化し始めたらしい。
邸宅の周囲には黒いマントで顔を隠した不審者がうろつくようになり、それに加えて使用人達が急に失踪したり、シディさんにも色々と危機が及ぶようになったのだ。
もっとも、彼女は前から身分の低い人々や位の低い立場にいる獣人、それに色情教のような「健全な行動を行う自由」を求める人達に対して援助をしていたので、その事が原因だった可能性も有るのだが――シディさん曰く、このように直接的な攻撃を受けた事は初めてらしく、彼女も危機感を募らせていたそうだ。
そんな最中、十二議会の下位組織――このプレインで使用される曜具や、術式機械(巨大な曜具をそう呼ぶ)を制作する機関――である【大いなる業】という名の集団から、手紙が届いたのだという。その内容は、とんでもない物だった。
――【神童】マグナ氏に告ぐ。我らが尊き国の栄光に貢献せよ。我らが尊き国は、現在この大陸の永久なる安寧の為、粉骨砕身の心で全技術を注ぎ込んでいる真っ只中である。新たなる【平和の鍵】を神から賜り、我らが尊き国がその平和を実現せんが為に邁進している事を、貴殿は重々に知らねばならない。
また、その神童と呼ばれる所以である貴殿の能力は、私欲の為では無く我らが尊き国と平和の為に行使すべきである。これは十二議会の総意でもあると知れ。
故に、貴殿はすみやかに出頭し、その役目を果たすべきである。
国から与えられた技術は、その恩を以って国に返す事こそが人道である。
非国民の如き態度を続ける事は、国の温情を失う事になるであろう。
「…………要するに、脅迫だ。この国は今、人族の大陸を統一できるほどの恐ろしい兵器を作っている。その兵器作りに俺が力を貸さなければ、師匠やその周辺の者達がことごとく“謎の失踪”を遂げる事になるだろう……そう言っているんだ」
「なに、それ……。【大いなる業】って、公務員なんだろ? なのに、そんな脅し方をするなんて、何考えてんだよ……!」
思わず話の腰を折ってしまうが、マグナは怒らずに沈痛な面持ちで少し俯いた。
「昔はどうだったか知らないが、今のこの国は間違いなく狂っている。だから、恥ずかしげも無くそんな手紙を送って来れたんだろうさ。……だが、俺は結局その通告には従わなかった。師匠が手紙を読んで、すぐに手を打ってくれたからな」
「……もしかして、お前の関係者全員、あの色情教の総本山……【アトスロシコン】に逃げ込んだって事かい」
ブラックの予想に、マグナは抗う事も無く頷いた。
「あの町は、この国で唯一攻め落とされた事が無い場所だ。しかも、色情教の奴らは、数百年の迫害の歴史から逃げる術を数えきれないほど会得している。師匠は密かに援助していた彼らに助けを求める事で、危害が及びそうな身内を守ったんだ。……しかし、そのせいで師匠は首都には戻れなくなってしまったがな」
「まさか、あの変態集団がそこまで有能だったとは」
クロウの言葉に、マグナもさもありなんと言った様子で苦笑した。
まあ、そうだよね……凄い格好して「エロは正義!」みたいな事ばっかり言ってる人達だし、普通はそんな忍者みたいに凄い集団なんて思わないよ。
でも、彼らのお蔭でシディさんとマグナが助かったんだもんな……今度会った時は総本山の司教さん達に感謝しないと。
「まあ、そう言う訳で俺達は一度あの街に逃げたんだが……それでも、俺があの場に居る以上、他の奴らも危険なのには変わりがないんでな。色々と話し合った結果、俺はこの村に隠れ住み、時が来るのを待つ事にしたんだ」
「時って?」
何を待っていたんだろうと首を傾げると、マグナは顔を上げて俺をみやった。
「それは、お前達がこの国に来る時……という意味だ」
「え……」
「俺は、ずっとお前がこの国に来てくれるのを待っていた。友人であるお前に、ある依頼をする為にな」
依頼って、なんだ。
眉根を寄せる俺達に、マグナは真剣な顔で告げた。
「……俺が頼みたい事は、一つだ。……この国のどこかにあるという、とある遺跡。その遺跡の中に眠っている……情報を、持って来て貰いたい」
――――ある遺跡に眠っている、情報?
「その、情報って……どんなものなんだ」
何故か動悸が激しくなってくる。
その衝動を抑えながら、冷静に聞くと……マグナは、険しい顔で答えた。
「その情報の名は……【白金の書】……。俺が無理矢理読まされる予定だった、バカげた兵器を完成させるための……凶悪な、禁忌の書だ」
白金の、書。
……何故だろう。
全く聞いた事のない題名の本のはずなのに……俺の心臓は、痛いくらいに怖がって激しく脈打っていた。
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