異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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プレイン共和国、絶えた希望の妄執編

16.巨岩内部空間―探索―

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 とりあえず、一番近場の分かれ道に戻って、俺達は再び探索を開始した。

 先にモンスターを斃しておいたからか、通路はひっそりと静まり返っていて、俺達の靴の音しかしない。周囲には血腥ちなまぐさい臭いが残っているものの、血の跡も無残なモンスター達の屍も見当たらなかった。

 ……そう、ない。
 モンスターの死骸がさっぱり消え去っているのだ。

 そらもう、アレだ。
 異世界チート小説によく出てくる、ダンジョンが死体を食っちまうって奴みたいに、モンスターの死体はすべからく消え去ってしまっていたのよコレが。
 ブラックは「遺跡ではよく有る事だ」と言っていたが……現実でこんな事が起こるなんてあり得るのかな……。

 だって、この世界は“何かのゲーム”が基礎になっている世界じゃないみたいだし、遺跡や洞窟という単語はよく聞くけど、ダンジョンコアという単語は聞かないし……。それに、野生のモンスターの死骸は土に還るんだ。なのに遺跡だけダンジョン方式ってのはおかしい。

 あ、因みにダンジョンコアって言うのは、ダンジョンを生成する核みたいなもんで、この核がモンスターを生み出したり呼び寄せたり、はたまた宝などを生成したりして、ダンジョンにいざなわれた人などを飲み込んで成長していくんだが……まあ、これはチート小説なら初歩中の初歩な知識だよな。
 俺だって大まかには覚えてるぜ。

 でも、それはお話の中でなら納得出来た話で、今現実で同じような物事を見せられても、まったく理解が出来ない。
 だって、気付いたら死体がなくなってるんだぞ。軽くホラーじゃないか。

 ホログラムと言われた方がまだ納得できるが、しかし俺はさっき赤眼蜥蜴ルビーアイ・リザードの肉を入手したし、ミーレスラットの素材も剥いだ。なんなら、ポイズンバットの毒牙とか羽とか剥いだりして、今もしっかり【リオート・リング】の中に保存してる訳で。
 立体映像だとこうはいかないもんな……。

 もしかしたら……ダンジョンコアとは言えないかも知れないが、それに似たメカか何かが遺跡には存在するのかも知れない。

 あの、ほら、死体を吸収じゃないにしろ、お掃除機能とかがあって、知らない内に汚れが綺麗にされちゃうとか……そう言えばこの遺跡、崩れてる場所もあるのに結構綺麗だしカビくさくもないしさ。だったら納得できる。

 でも、だとすると、死体が敷き詰められてるゴミ集積場がどこかにあると言う事になるが……ま、まあ、そこら辺は考えないでおこう……。

 とにかく今は休める場所……というか拠点を探さなければ。
 三人でキョロキョロと周囲を見回しながら、薄暗い通路を進んでいくと。

「……うん? なんだ、ここ……」
「崩れた部屋と……きっちり閉じた扉が左右にあるな」

 来た道を分岐点まで引き返し、進まなかった方の通路を歩いて数十分。俺達がぶちあたったのは、左にドアもなく廊下側の壁も少し崩れ落ちている部屋があり、右にはきっちりと扉が残っている不思議な空間だった。

「えっと……ドアのない方は、結構広いな。不思議と明るいけど……どっかから光が漏れて来てるんだろうか。別段罠とかはなさそうだけど……」

 どうかな、と用心棒さんを振り返ると、彼は俺達より先に左の部屋へ入ると、すぐに頭をひょいと出して頷いた。どうやら本当に罠は見当たらないらしい。

 このあたりはモンスターも出ないようだし、休憩するなら丁度いいかもな。
 ……でも……そうなると右の扉が気になるなあ。

「なあ、右の扉って開けた方が良いと思う?」

 問いかけると、ブラックはまたもや難しい顔をして腕を組んだ。

「うーん……僕は開けても良いとは思うけど……なんだか嫌な予感がするなあ」
「金属の臭いは無いようだが、オレもあまり気が進まん」
「そっか……。じゃあ、やっぱし開けない方がいいかな……」

 ここまで露骨だと、右の扉には罠が有ってもおかしくないもんな。
 普通は、モンスターを完全に避けられる右の部屋で休みたいと考えるだろうし、左の朽ちた部屋には見向きもしないに違いない。

 だけど、そこを狙って遺跡が罠を仕掛けてくる可能性もある。用心棒さんが罠の有無うむを調べてはくれるけど、出来れば危ない橋は渡りたくない。
 でも……もし右の扉にモンスターの発生源があったとしたら……。

「とにかく、一旦休んで回復しよう。開けるかどうかは落ち着いてからだ」
「そうだね。右の扉を開けたらモンスターがギッシリ……なんて事もありそうだし。他の場所を探すにしても、少し休憩しないと」
「うむ。臭いはせんが、警戒しておくに越したことはないな」

 り、リアルモンスターハウスっすか……考えたくねぇ……。
 まあでも扉が閉じている間は安全だろうし、ビクビクしてても仕方ないよな。

 こういう時こそ豪胆に行かなきゃいけないんだと自分を奮い立たせて、俺達は左の殺風景な部屋で昼食を済ませる事にした。
 ふふふ、メシについては抜かりはありませんよ俺は。ちゃんと作って来たからな。

 今回の昼食は、ヒポカムの肉を薄切りにし塩コショウで焼いて葉物野菜と挟んだ、穀物パンのサンドイッチだ。本当はステーキサンドみたいにしたかったのだが、ヒポカムのお肉は分厚く切って焼くとタンパクな味が故にパッサパサになり、俺が思い描くステーキサンドとは程遠くなってしまうのだ。

 あと、普通に調味料がないんで、分厚い肉の調理が難しいってのもある。
 なので切り落とし肉の如く薄く削いで焼くしかなかったのだ。はあ、醤油と味噌が凄く恋しい。アレが有ればもっと違うのに。

 自家製のマヨネーズは作れるけど、マヨの酸味や風味が苦手な人もいるだろうからなあ……。しかも賞味期限は短いし。ブラックとクロウは色んな味に慣れてるみたいだからウマウマと食ってたけど、用心棒さんの場合はどうか解らなかったから、結局マヨは使えなかったんだよな。
 ……まあ、焼き肉に直でマヨって? という問題もあるが、それはともかく。

 油が少ないのでどうかと思ったが、肉をよく叩いて置いたお蔭かヒポカムの肉は適度に柔らかくなり、白パンよりも歯ごたえがある浅黒い穀物パンにも美味いこと渡り合ってくれた。何にせよ食べられるデキになって良かったよ。

 用心棒さんも一度も止まらずに食べてくれているので、不味くはないって事だろう。彼にも地味にお世話になっているので、ちゃんと食べて貰えて良かった。
 まあでも……調味料は今後の課題だな……。

 そういえば、フォキス村には俺と同郷の【勇者】が来ていたっていうし、何らかの調味料とか伝わってないのかな。帰ったらちょっとソラさんに訊いてみよう。
 そんな事を考えながら昼食を終えると、俺達は再び探索を再開した。

 ……のだが、その探索は空振りに終わってしまった。
 俺達が今いる通路は先が行き止まりになっていて、探索していない場所はもうあの扉しかなくなってしまったのだ。

 こうなると何か誘い込まれているような気がしないでもないのだが……調査しない事には先に進めないので、仕方なく俺達は件の扉を開ける事にした。

「鍵開けは……またお願いしても良いですか、用心棒さん」

 俺がそう言うと、相手はローブを深く被ったままでコクリと頷いた。
 用心棒さんを頼る事に対してブラックは凄く不満げだったが、ブラックの鍵開けは曜気を使って行う術なんだから、ここで無駄打ちさせる訳にはいかない。
 いつ金の曜術が必要になるかも解らないんだからな。

 なにより、俺達にはまだ時間が有る。じっくりと鍵を開けて貰っても、なんの支障も無い。ここは堅実に「まほうつかうな」の指示でいかないとな。

 と言う訳で、俺達は用心棒さんに鍵開けを頼んだのだが……。

「術を使わずに開錠すんのって、やっぱ針っぽいのとか使うんだな」

 細長い棒を何本か鍵穴に突っ込んでカチャカチャとやっている用心棒さんを見て、改めて「あー盗賊っぽいなあ」と思いながら呟く。
 すると、隣でぶーたれているブラックがフンと鼻を鳴らした。

「曜術で開錠しない場合は手間がかかるからね。罠が有るかどうかも見抜けないし、罠が有ればそれを解除するために細かく探って行かなきゃならない。だから、手仕事で鍵開けをやる奴は少ないんだよ」
「そっか、鍵自体に罠がある場合も有るんだもんな」
「鍵穴から出る罠と言えば……毒針とか、そういうものか」

 クロウが不意にそんな事を言った瞬間――――

 俺の頬をかすめて、何かが背後の壁にバシンと音を立て突き刺さった。

「………………」
「すまん……針の解除を失敗した」

 …………は、はは、ははは……。
 ま、まあ、針での攻撃だったら、回復薬で治ると思うから良いんだけど……。

 なんというか…………ま、まあ、アレだな。
 初めて用心棒さんの声を聴いたけど……意外とシブくて格好いい声なのな!

 いやー、まあ……し、死ななかったからよし!









 
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