異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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プレイン共和国、絶えた希望の妄執編

  底知れぬ 2

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 普通の大岩じゃないって……どういう事だ?

 思わず眉間にしわを作った俺に、ブラックは見せた方が早いと思ったのか、付近を確認する事も無く立ち上がって目的の地点に近付いた。

 一瞬慌てたけど……良く考えたら、【索敵】は本来敵が周囲に居るかどうかを確認する術だ。ブラックが無防備に歩き出したって事は、さっき出て来たトカゲもどこかに行ってしまったんだろう。

 俺とナザルさんは少々躊躇ためらったが、ペコリア達も居るからと覚悟を決めてブラックの後を追った。……こんなに木々が生い茂った森の中だと、どこからモンスターが襲って来るのか解らなくて怖いんだよなあ。
 そんな場所でホイホイ歩いて行くんだから、ほんとブラックって場馴れしてるって言うか胆力が有るって言うか……その豪胆さを得るまで何度戦えばいいんだか。

 俺にはまだ身に付けられそうも無いなと思いながらついて行くと、徐々に目的の場所の全貌が解って来た。

「これって……穴……?」

 そう。俺達の目の前に現れたのは、直径……って言っても良く解らんな。ええと、だいたい大人が入れるくらいのマンホール程度だろうか……そのくらいの大きさの穴が、少し開けた空間の中央にぽっかりと空いていた。

 しかし……穴の開いた部分は、かなり奇妙な様相になっていた。
 何が奇妙かって――――その部分だけ、不自然な部分が露出していたからだ。

「これ……なんだ……? 煉瓦みたいな石が周りに…………」

 そう。そうなのだ。
 ぽっかりと穴が開いた部分は、まるで煉瓦が崩れ落ちたようになっており、その穴もきちんとした円型ではなくタイルが部分的に剥げ落ちたような歪さだった。
 これ……どう考えても人工的なものの穴だよな……。
 周囲は森だし、そもそもここは大岩の上なのに、どうしてこんな変な穴が……。

「ブラック、中の様子は解る?」

 穴を覗きこんでいるブラックに問いかけると、相手は難しい顔で首を振った。

「それは流石に無理かな……。だけど、ここからモンスターが出て来てるって事は、この穴がどこかへ繋がっているのは間違いない。……それは少なくとも……岩の下ではないだろうね」
「そ、そりゃどういうことだ?」

 イマイチ状況が把握できていないらしいナザルさんが頭を捻る。
 俺も岩の下には繋がっていないと言うのは引っかかったが、昨日ブラックに教えて貰った事を思い出して「あっ」と声を出した。

「もしかして……この穴の中には洞窟か……遺跡が有るかも知れないって事か?」
「そう言う事。岩の中にモンスターを抱えられる空間があるのか、それともどこかの洞窟に繋がってるのかは解らないけど……とにかく、調査が必要だね」
「穴の中に入るのかぁ……。装備とかきちんとしなきゃな」

 とりあえず、モンスターが無限湧きする【スポーン・サイト】がこの場に在る訳ではないのは解ったけど、まだ安心はできないよな。
 どうしてモンスター達が外に出て来たのかも解らないし、このままモンスター達を放置って訳にもいかない。それに相当な数のモンスターが出て来ちゃってるから、とにかく穴を塞いで、まず彼らを退治しないと。

 でも大岩の上の村の周囲が血で染まるのはちょっとやだなあ……。
 村の人達の為だから、仕方がないんだけどさ。
 これから嫌と言うほど見る事になるだろう光景に暗澹あんたんたる気持ちになりながらも、俺はブラックに同意を求めるように問いかけた。

「まずは、先に出て来ちゃったモンスター達をどうにかしなきゃな」

 俺の言葉に、ブラックも頷く。

「そうだね。内部がどうなってるか解らない以上、放っておくのは危険だ。もしあのモンスター達が新たな住処を求めて這い出てきたのであれば、始末しないと村に害を及ぼす可能性が高くなる。今は大人しくしていても、相手は所詮モンスターだ。これから増える事も考えたら、根絶やしにするしか解決する方法は無い」

 俺が出会ってきたモンスターの中には、ダハのロクショウやペコリアに、ピクシーマシルム、それにクラッパーフロッグと言った温厚で友好的な種族が多かったけど、でもそれと同時に人を襲うモンスターも多く見て来た。
 その事を考えれば、ブラックの言う事は正しいんだけど……ロクショウを相棒と言ってはばらない俺としては、ちょっと悲しく思えて来てしまう。仲良く共存できる術が有れば良いんだけど、それを見つけるには時間が足りないからなあ。

 現状、どうにも出来ない以上、駆除すると言う方法しかなかった。

 ナザルさんもその方法に賛同なのか、頷きながら腕を組んだ。

「山狩りならぬ森狩りって奴か……よし、解った。そっちは俺らでなんとかするよ。そう強いモンスターでもないし、あの学者の先生がたと俺らでなんとか戦えそうだからな。お前達は、引き続き穴の中を調査してくれ。発生源を断たなけりゃ、またモンスターが村にやってきそうだしな」

 おお、じゃあ村の周辺のモンスター退治は村の人達に任せようではないか。
 俺は内心ほっとしつつ、準備や報告を行うために一旦村に戻る事にした。

 穴の中を調査する準備のためでもあるが、今後の事を村長のソラさんや村の人達に話しておかねばならない。学者のお姉さま達にも協力して貰わなきゃいかんしな。

 とりあえず、木の曜術の【グロウ】で蔓を格子状に生やして穴を塞いでおけば、穴の中のモンスター達が新たに這い出て来る事は無いだろう。……普通の【グロウ】だと防ぎきれないかも知れないけど、俺がやったのは黒曜の使者の力をちょっと籠めた奴だからな、簡単に壊されない……はず。
 ま、まあ、一日程度は大丈夫だろう。

 てな訳で村に戻った俺達は、ソラさんとリトさん達に報告をして協力を仰いだ。
 村の人達はともかく、リトさん達は協力してくれるのだろうかと心配だったが……どうやら彼女の夫……じゃなくて、妻であるマボさん(男)が水の曜術を使えるとの事で、こころよく駆除に協力してくれた。

 リトさんは「大丈夫? マボちゃん」と心配しつつイチャイチャしていたが、マボさんは「僕も妻として君をまもらなきゃね」と頼もしい事を言いながらイチャイチャしていたので、まあ何も心配はいらないだろう。
 っていうかあの、混乱するんで頼むから関係性が逆転してるのを前面に押し出さないでくれませんか。辛いです。俺バカなんで混乱するんで辛いんです。

 俺の聞き間違いだったらば良かったんだけど、どうやら二人は本当に「女性であるリトさんがで、男性であるマボさんが」という関係らしいんだよな……。
 俺としては姉さん女房にしか見えないけど、関係性が逆転してるって事は、多分夜のアレソレも女性が挿れる方って事で……ああ考えたくない。

 いや、女性優位のプレイもあるだろうし、俺は全然構わないんだけどさ、でも実際そういう関係を目の前で見ると混乱しちゃうじゃん?
 だって俺、女性が「妻」にしかならない世界で生きて来たんだからさ!!

 いくらこの世界が「男が男を娶れるし、女性が夫になれる」と言うのが普通な所でも、さすがに立場逆転ってのは俺も理解するのに時間が要るわけで。
 ……案外、一番理解するのに苦労するものと言うのは、自分の常識に良く似ているまったくあべこべな物なのかも知れない。

 だって、俺にはリトさんが巨乳お色気金髪眼鏡美女にしか見えないんだもん。どう見ても嫁にしたら尽くしてくれそうなママにしか見えないんだもん……。
 夫って言われても理解が追いつかないよお。

 …………ゴホン、閑話休題。

 とにかく、学者先生二人の了承は得た。
 なので、俺達は明日から穴の中に潜入するための準備を始める事にした。

 穴を塞ぐ時にどのくらいの深さかを確認したので、その長さ分の頑丈なロープと、内部で数日籠って調査するための食料、それに、色々と小物を揃える。

 ロープなどはソラさんが融通してくれたけど、それでも洞窟探検には何かと物入りな訳で、村では揃えられない物もあった。なので、昨日利用したばかりだと言うのに、また俺はラトテップさんに荷物を広げさせてしまっていた。

 毎回広げるの面倒臭いだろうに、二日連続で利用しちゃって申し訳ない。
 でもここにラトテップさんがいてくれて良かったよ。お蔭で、使い捨てにする為の武器や罠を張る為の道具なんかも買う事が出来る訳だし。
 ゲームでもダンジョン前に商人が居てくれると本当に助かったんだよなあ。

 ありがたやありがたやと思いながら、ブラックとクロウと一緒に品物を選んでいると――――不意に、ラトテップさんが思わぬ事を提案してきた。

「ところで皆さん、明日穴に潜るとの事でしたが……もし良かったら、私の用心棒を連れて行きませんか?」
「え……用心棒って……彼を?」

 ラトテップさんの背後に控えていたローブの男の人をみやると、ラトテップさんは笑いながら頷く。ま、まあ、そうだよな。一人しか連れてないんだから当たり前なんだが……しかし、良いんだろうか。
 彼は商人の為の用心棒だし、本当ならラトテップさんを守るのが役目だろうに。

 思わず眉根を寄せる俺に、守られるべき本人は笑って手をひらひらと振った。

「ははは、私は宿にいるだけなので大丈夫ですよ。そんな私の警護をさせるくらいなら、お三方の助けになるほうが余程有益だ。……なにより、私も早くここから出たいと思ってますからね。手数は多い方が良いでしょう? 遠慮なさらず」
「た、確かに助けてもらうのはありがたいですが……」

 好意を素直に受け取るべきか否か迷ってブラックを見やると、相手もどうすべきか困っているのか、眉間に皺を寄せて肩を竦めた。

「別に構いはしないけど……初対面の相手をパーティーに組み込むのはねえ」

 ブラックの言葉に、クロウも頷く。

「オレ達は三人でやってきたからな。いきなり一人増えても対応しきれん」
「ああ、その点はご心配なく。この男は隠密系であり、盗賊のように罠の解除や鍵を開ける事も出来ます。それに、戦闘ではお邪魔はしません。その程度の実力は有りますので……是非」

 そこまで言うなら……ついて来て貰った方が良いかなあ。
 ブラック達も別に嫌そうな雰囲気じゃないから、頼んでもまあいいか。

「あの、じゃあ……よろしくお願いします」

 俺がそう言って軽く会釈をすると、用心棒と言われた相手は一度だけコクリと頷いたのだった。












 
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