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プレイン共和国、絶えた希望の妄執編
旅は道連れ世は情け2
しおりを挟む「遺跡や洞窟で最も出現率が高いモンスターって、何だと思う?」
村人や宿泊客四人との話を終えて部屋に引っ込んだ俺達は、寛ぎながら先程聞いた話を纏めようとしていた。
……とは言っても、三人ともベッドに座ったり椅子に座ったりハチミツの瓶に指を突っ込んでペロペロしたりと、大よそ大事な話をするような雰囲気ではないのだが、まあいつもの事なので気にしない。俺もナザルさんに貰った木の実食ってるし。
んで、そんな中で、ベッドに座ったブラックがそんな質問してくるもんだから、俺とクロウは「はてなんぞや」と首を傾げてしまった。
「クロウ、解る?」
「オレの国ではほとんどの洞窟に部族が住んでいるから解らんな」
えっ。じゃあ、ダンジョン無いってこと? 獣人の国って洞窟で暮らす部族が結構いるのか……。思わぬ事実にちょっと驚いてしまったが、まあそれは置いといて。
素直に「わかりません」と両手を上げて降参ポーズをする俺達に、ブラックは少々呆れたように眉を上げたが、正解を発表してくれた。
「答えは、ネズミ・トカゲ・コウモリだよ」
「へ~……まあでも、言われてみればそんな気もするな……」
そういや俺の世界の洞窟でも、そういう奴らって定番だったよな。
普通はスライムとかを想像するけど、現実だと洞窟と言われてすぐに思いつくのはやっぱりコウモリだ。それに、洞窟には小さなトカゲも住みつくし、なんならネズミだってねぐらとして使う事もあるだろう。そういうのは異世界でも同じなんだな。
納得の御三家と言った所だが……待てよ。その三種って……。
「つまり……その御三家がフォキス村の周辺に突然現れたって事?」
俺の言葉に、ブラックはご名答とばかりに微笑んだ。
「本当はここにゴブリンだとかスライムとかが加わるんだけど、地域によっては出現しない所もあるから、基本的にはその三種が目安になってるね。……で、こいつらが出て来た場所の近くには遺跡や深い洞窟が有る事が多くてさ。冒険者達がどこに目的地が有るのかを探す目安にしていたりするんだ」
なるほど……冒険者の知恵って奴だな。
ねぐらから出て来た動物の数や仕草を見て判断すれば、周囲に何が有るかを把握できる。場所の特定までは至らないだろうが、それでも予想をある程度まで絞れるし、良い判断材料になるだろう。
しかしそうなると、この周辺にも遺跡か何かが有ると言う事になるが……。
「でもそれって、なんか変じゃない? 今までずっと御三家は出て来なかったのに、今になって出現したんだろ? フォキス村は何百年も前からここにあるのに、今になって急にモンスター達が這い出て来る事なんて有るのかな。それに……もし洞窟か遺跡が有るにしても、モンスター達はどっから出て来てるのやら……」
「そこなんだよねえ。しかも、奴らはどうも遺跡の中で起こす習性と同じ事をこの外の区域でやってるんだ。普通に考えてちょっとありえないんだよ」
「習性とはなんだ」
名残惜しげに手を舐めながらハチミツに蓋をするクロウに、ブラックは答えた。
「あいつらは、遺跡の奥に進めば襲って来るけど、反対に遺跡から逃げようとしても襲って来るんだ。何故そうするのかは未だに解明されてないけど、一説には“侵入者を自分の縄張りに元からある物だと誤認するから”だって言われている」
「進んだり殺したりすると敵だけど、立ち止まってれば無害と認識するってこと?」
極端な事を言ってみたが、ブラックは驚く様子も無く頷いてしまった。
ええ……なんか、それはそれでおかしくないか。こっちが動かなければ相手も襲って来ないって……まるで不思議のダンジョンみたいじゃないのさ。
……でも、考えてみれば遺跡にだけ出現するモンスターって事だから、そういう変な習性を持っててもおかしくないのかな……?
なんせ、唾液が凄いカエルやら人を襲う植物がいるんだもんな……。
だけど確かに解せないな。
ブラックが言うようにここが「遺跡の中」ならそう言う習性が働くのも解るけど、この場所は外だ。遺跡の中でも無いし、それは流石にモンスター達も解るだろうに……どうして襲って来るんだろうか。
「まあとにかく、相手は特殊な状況で生きるモンスターだ。こんな辺鄙な所に唐突に出てくるなんてありえないんだから、きっとどこかに奴らが這い出てくる穴か何かが有るはずだよ。もしくは……解せない部分はあるけど……【スポーン・サイト】ってのがここにあって、何らかの理由で発動したか……とか」
「あ……そっか、そういう可能性もあるのか……」
【スポーン・サイト】とは、ライクネス王国で知った所謂「ボスが沸く地点」の事だ。俺達が教えて貰ったモノはボスが沸いて来るタイプだったが、もしかしたらここには普通のモンスターが沸いて来る物が有るのかも知れない。
だとしたら、これはこれで由々しき事態だ。もし本当にそう言うモノがあるのなら、俺達だけじゃ解決できないぞ。
しかし……ブラックったらよくそんな事覚えてたな。
つーか、普通そう言うのって、ゲームの事とかを良く知ってる俺の方が思いつかなきゃいけない事なんだろうが……。
ま、まあ、ブラック頭良いからね! そら俺より先に思いつくよね!
自慢のナントカって奴かな?!
「とにかく、発生源を突き止めないといかんな。今から行くのか?」
まだ指をぺろぺろ舐めているクロウが言うが、ブラックは気を抜いたように息を吐いて肩を竦めた。
「そんな事しなくたって、僕らには簡単に周囲を調べられる方法があるじゃない」
「ん? そんな方法あったっけ?」
「んもー、ツカサ君たら、自分がナニモノか忘れてない?」
え、俺?
俺が何って……あっ、そうか。何が言いたいのか解ったぞ。要するに、俺の黒曜の使者の力で大地の気をブラックに与えて【索敵】を行うって事だな!
そうか、確かにそうすりゃ簡単だ。
【索敵】は、大地の気を使って発動する、冒険者なら誰でも使える【気の付加術】という曜術の亜種みたいなモンの術の一つで、【査術】という物を調べたりする術の一系統に当たる。
まあ要するに、チート小説とかで定番の【サーチ】とか【鑑定】とかの探査スキルみたいなのを纏めて【査術】と言っているって事だ。その中で、敵や特定のモンスターなんかをサーチするための術が【索敵】なのである。
んで、その【索敵】なんだが、ブラックの【索敵】はスキャン出来る範囲がかなり広い。恐らくこの巨岩の上なら一発で全てをスキャン出来るだろう。そんなレベルの術を使えるんなら、わざわざ危険を冒して森に調査しに行く事なんて無いよな。
「あー、そっか。プレインは全然大地の気の光が無いから、無意識にそっちの方法を除外して考えてたよ」
「あはは、ツカサ君たらホント自分の事に無頓着なんだからぁ」
いやー、だって使う機会がホントに少ないから忘れちゃって……。
旅してる時だと全然使わなくていいんだもんなあ、黒曜の使者の力。そもそも俺は曜術も人並みに扱える訳だし、戦闘とかもそう頻繁に起こらないもんで、どうかすると曜術の事すら忘れてる訳で……異世界人としてこれでいいのか?
でもなあ、ホントにモンスターとのバトルなんて滅多にないし……危険だ危険だって言われてるけど、この世界って案外旅しやすいよな。
「ほらツカサ君、早く早く」
「あ、うん」
やれるんなら早くやった方が良いか。
ブラックがこっちに手を伸ばしてきて急かすので、仕方なくそっちに近寄る。
手を握って気を送ってやればいいかな、と思っていると――抱き着かれて、そのままベッドへとダイブさせられてしまった。
……うん。えっと、ちょっと待って。
この体勢って、まさか……。
「おっ、おい、ここでえっちな事するとか言うなよ!?」
「えぇ~……せっかくベッドのある所に来たのに、セックスしないのお?」
「当たり前だこの野郎! つーかクロウが居る前でヤれるか!!」
「オレはおこぼれが貰えれば別に構わんが」
「俺が構うんだよ!!」
だーっ、もーっ、このオッサン共はッ!
本当にいい加減にし……脱がそうとすんなブラックこらー!!
「チッ、流されないか……」
「お前なあっ、本当いい加減にせーよ!?」
昼間からサカるなと怒ると、ブラックは渋々と言った様子で俺を抱いてそのままベッドに座る姿勢に戻ると、改めて俺にぎゅっと抱き着いた。
「じゃあ、せめてこういうのでちょーだい」
「……ったくもう…………取りたきゃ取れよ」
ブラックもクロウも俺から曜気を引き出せるんだし、俺が一々分け与えようなんて思わなくても、勝手に気を奪えるだろうに。
そう思ってぶっきらぼうに言ったが、ブラックは嬉しそうな声で笑うと、俺の髪に顔を埋めながら腕に力を込めた。
「ツカサ君、駄目だよそんな事いったら……。僕、調子に乗って奪い過ぎちゃうよ。また倒れさせるような事したくないよ……」
「…………ん……」
ああ、そうか。ブラックは、まだあの時の事を引き摺ってたのか。
そういやラスターに解決方法を訊くのを忘れてしまっていたが、とりあえず原因が解って対処法も解ったんだから、別に気にしなくても良かったのに。
要するにえっちし過ぎなければいいだけの話だったんだからさ。
…………なのに、未だにちょっと引き摺ってるなんて……仕方ない奴だなあもう。
「ツカサ君……」
「良いから、やれってば」
煮え切らねえなあとブラックの服をゆるく掴んで引っ張る。
すると、俺の髪に顔を埋めていたオッサンは唐突に「ふごっ」と鼻息を漏らして、その瞬間――――俺の体に、びりびりとした強い感覚が走った。
「っあぁあ……!」
「んっ、ぅ……ツカサ君っ……ツカサ君……!」
ブラックが俺の名前を呼ぶたび、抱き締める腕の力を強くするたび、体の中を鼓動の音と同じようなリズムで、刺激が駆け抜ける。背筋が痺れて、体の奥が熱くなって、下半身に重たい熱が溜まって行く感覚が強くなって行く。
「あっ、ぅ……あぁっ、ぁ……」
思わず甲高い声が漏れてしまう。
ああ、そうだ……俺、二人に気を奪われるとこうなるんだった……。
わ、忘れてた。どうしよう、ダメ、こんなの続けてたら――――
「もっ、ゃ……だめっ、ぶらっ……くぅ……っだ、め……だめぇえ……っ」
「はっ、ハァ、は……つ、ツカサ君……そんな声だしたら興奮しちゃうよぉ……」
興奮しちゃうよぉじゃないよ、したら困るんだよ!!
つーか興奮してんのは俺! お前が興奮したら駄目でしょうが!
やめろとブラックを引き剥がそうとするが、相手は俺の情けない声に何故か興奮してしまったのか、俺を押し倒さんばかりの勢いで掻き抱いて来る。
とんでもない事態になってしまったと青ざめるが、どうしようもない。ブラックはまだ俺から気を補給しているのか、俺の体はひくひくと勝手に震えてしまっていて。
もう、自分でもどうにもならなくなってしまっていた。
だ、だけど、このままだとクロウの前でえっちする事になっちゃうし、もう……!
「だめっ……」
と、力のない声で拒否しようとすると……クロウが唐突に言葉を放った。
「ブラック、今ここで交尾をしたらまたツカサが余計に寝るぞ」
「ぐっ」
……ぐ?
何だろうかと思ったら、ブラックはクロウの言葉に痛い所を突かれたかのような顔をして、しぶしぶ俺の頭から顔を離した。
気が付けば俺の体もビクビクしなくなっていて、股間も収まってしまっていたが……何なんだよもう。つーかよく今の一言で押し留まったなブラック。
もしかして、やっぱり俺の事が心配なのかな……?
「……ま、まあ、ツカサ君から充分に気を貰えたし……セックスなら夜にすればいいんだもんね! 今焦る事は無いか!」
「おいお前結局それか」
てめえ、俺のさっきのキュンとした心を返せ。
こんちくしょうこうなったら絶対今日はヤらせないぞ。ヤらせないからな!!
もう早い所索敵しちまえよもう!!
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