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プレイン共和国、絶えた希望の妄執編
10.思わぬ出会いに驚いて
しおりを挟む花に塗れた森の中をしばらく歩くと、木々の向こうに開けた空間が見えてきた。
あれがフォキス村だろうか……。
どんな所だろうと森を抜けると、そこには少し意外な風景が広がっていた。
「意外と……普通だね」
「う、うん……」
ブラックの拍子抜けしたような言葉に頷く。
そう、フォキス村は……思ったよりもずっと、普通の村だったのだ。
屋根は木製で、外壁は岩を積み上げて隙間を漆喰か何かで塞いだ感じの家が多い。数件ほど木造の建物が有るが、どことなく他の建物よりも作りが細かいので、もしかしたら、この村では木造建築は偉い人が住む場所なのかもしれない。
なんにせよ、こんな所に存在する村にしては、他との違いがあまりないな。
鬱蒼とした森のド真ん中にある村と考えればちょっと不思議な気もするけど、まあそもそもココは岩の上だし今更か。
にしても……村に入って大丈夫かな。
こんだけガードの固い村だと、外様は受け入れて貰えんかもしれんぞ。
でも、ブラックが何も言わないって事は、それなりにフレンドリーな村なのかな?
まあとりあえず行ってみるかと思い、俺達は村へと足を踏み入れた。……と。
「……ん?」
一番手前の質素な家から、若い男性が出てきた。間違いなくこの村の人だな。
彼が第一村人かと思って見ていると、彼はこちらに迷わず歩いて来た。
なんだろう。挨拶でもしてくれるのかな? 凄いフレンドリーな村だな。
何を言われるのかと思って待っていると――――
近付いて来た村人は、にっこりと笑って俺達にこう言った。
「やあ、ここはフォキス村だよ!」
それを聞いて、俺は思わず噴き出してしまった。
「ぶふぉっ」
「うわっ、なにツカサ君」
「ム。なにか面白い要素が有ったのか?」
お、面白いも何も、だってこれゲームの定番の奴じゃん。
こんなん絶対リアルで言わない奴じゃんか! そら笑うわ!
「おお……もしや黒髪の貴方様は、勇者様の系譜に連なるお方ですか!?」
「えっ?」
「なんという事だ、よくこの地にお越し下さった! おおいみんな出てこい、勇者様のお言葉に反応する少年がいらっしゃったぞー!!」
若い村人(男)が声を発すると、村中の家から村人が飛び出して来た!
……ってここまでゲームかよ!
「さあさあとにかく村長の家へ!」
「えっ、えぇえええ!?」
何が何だかわからない内に、俺達はわっしょいわっしょいと村の人達に運ばれて、一番豪勢に見えた木造建築の洋館に連れ込まれてしまった。
何なんだこの唐突な展開は。
というか勇者様の系譜ってなんだ。もう一から十まで意味が解らんぞ。
ブラックとクロウも何故こうなったのか理解出来ないようで、頭上にハテナマークを浮かべながら、困ったように俺と周囲を交互に見回していた。
さもありなん。俺も未だに状況が把握できてないんだもんよ。
村人達を後ろに従えたまま玄関ホールで待っていると、奥の方から慌てた様子で村長さんらしき人が俺達に駆け寄ってきた。
……おっ、まさかの桃色髪のおっとり美人な巨乳村長さんだと!?
ばかな……ここまで来ての初めての女村長、しかもゲームとしてはイレギュラーな存在だと……! いや俺は一向に構いませんけどね!
ピンク髪で巨乳……基本だね。基本過ぎて逆につられちゃうね!
「ツカサ君また変な事考えてるね……」
「グゥゥ……」
「あ、アハハハ……え、えっと……村長さん……ですか?」
俺を睨むおっさん共をいなしながら美しい村長さんに問いかけると、彼女は丁寧にスカートを上げてお辞儀をしてくれた。
「はい、私がフォキス村第百五十二代目村長、ソラティナ・アルカメイナと申します。どうかソラとお呼び下さい」
「あ、俺はツカサって言います。こっちはブラックでこっちはクロウです」
「ご丁寧にありがとうございます……。それで、あの、ツカサ様は勇者様のお言葉で噴き出されたとの事ですが……」
「ええと……その……申し訳ないんですが、こっちもイマイチ状況が掴めてなくて、理解が追いついてないんですが……良かったら、説明して頂けないでしょうか」
恐る恐る言うと、ソラさんはやっと俺達が何も把握していない事に気付いたのか、何度も「すみません」と頭を下げて応接室へ案内してくれた。
む、むむ、ピンク髪天然巨乳美女……設定盛り過……いやでも基本セットだしもうこれは逆にたまらないというかリアルでこんな一生懸命美女に謝られると何か心がぴょんぴょんするというか。ああそれにしても女の人は良い匂いがするなあ。
久しぶりの美女成分を噛み締めつつソファに座ると、両隣にオッサン達がギュムと詰めて来た。こんちくしょう俺の美女堪能タイムを散らしやがって……。
「それで……ツカサ君がなんだって?」
礼儀も何もないブラックの問いに、ソラさんは嫌な顔一つせず答えてくれる。
その内容は、驚くべきものだった。
……結構長かったので、掻い摘んで説明すると、こうだ。
まず、俺の疑問に答えるには、この村の成り立ちを話さねばならない。
実を言うと、このフォキス村は元々別の場所にあって、そこでは毎日のように強いモンスターに襲撃されて村人はとても苦しんでいたと言う。
しかし、そこへ【勇者】と名乗る人物が率いる一行が現れて、モンスターを一瞬で退けたあと、村人達をこの不思議な岩の上――――【勇者】曰く“楽園”――――へと移住させて、この村が外敵に襲われないようにしてくれたのだと言う。
その時に勇者に教えて貰ったのが、あの「フォキス村だよ」だったらしい。
なんでも、これで笑う奴は俺の同郷だから歓迎してやってくれと言われたとかで、それからは村の入り口近くに住む人が持ち回りで言うようになったんだって。しかしそうなると……やっぱりその勇者ってのは……俺と同じ日本人なのか。
ソラさんが言うには何百年も前の話らしいので、その勇者にはもう会えないのだが……こんな所で俺とは違う冒険をした日本人の話を聞くなんて思わなかったよ。というか凄いなオイ。何百年経っても自分の功績が残って感謝されてるって相当だよ。
情けない話だが、素直に羨ましい……俺だって、チートな能力を持ったからには、一回くらい人に崇められるような事をしてみたいもんだが……今までの功績は他人に譲ってばっかりで、俺は普通の冒険者ヅラしてきちゃったからなあ……。
うーん、やっぱし一回ぐらいはドヤ顔で「そうです、この俺がやりました」って言っちゃえば良かったかなぁ……。
俺だって、男に生まれたからにはでっかい花火を打ち上げてみたいぞ。
異世界でチートな能力を持ってんだから、人助けして平伏される事くらいは有って当然……って、そんな妄想話は置いといて。
そんな日本人に優しい村が、どうして俺が勇者の言葉に反応した程度で沸いたのかと言うと……――――
「モンスター?」
「……はい、そうなんです……。実は最近、この村の周辺でモンスターが出るようになりまして……。数は一匹や二匹という程度なので、村の曜術師がなんとか対処してくれているのですが……こんな事態は初めてで、みな戸惑っておりまして」
「だから、オレ達に何とかして欲しいと」
クロウの端的な言葉に、ソラさんは心苦しそうに眉を寄せながら頷いた。
「勇者様の系譜に連なる方なら、その原因を突き止めて下さるのではないかと……。私どもでも冒険者の方に依頼を頼んだりしたのですが、どうしても発生源が判らなくて困っているのです。昨日もモンスターがでて、お蔭で商人の方も迂闊に村から出られずに困っている有様で……」
「そんなに……」
しょんぼりするソラさんに、キュンとしつつも俺は胸が痛くなる。
ああやはり女性が悲しんでいるのは見ていられない。俺に好意的な女の人なら、尚更悲しみを取り除いてあげたくなる。美女に涙は似合わない。俺達でやれる事ならば、是非とも手伝ってあげねば。あ、でも、邪な気持ちは無いぞ。これはあれだ、フェミなんとかって奴なんだ。
俺はフェミだかファミだか、とにかく女性への思いやりに燃えているのだ。
「なあブラック、俺達でどうにかしてやれないかな」
「ツカサ君、それ本当に善意から? 善意からそう言ってるの?」
「もちろん純粋な善意からに決まってるじゃないか! なあクロウ!」
「そこは怪しい所だが、人助けは悪い事ではないな。ツカサのためにもなるし、少し手伝ってやるのも良いのではないか」
クロウが冷静にそう言うと、ブラックも何か思う所が有ったのか……チラリと俺を見て、しぶしぶ引き下がってくれた。……もしかして、俺の為?
俺が同郷の人間に関する話を聞きたいかも知れないと思って、遠慮してくれたのかな。……まっ、まあ、あの、ま、まあ、嬉しいよな! まあ、うん……えっと。
「ツカサ、顔が赤い」
「べべべ別に赤くないぞ! あの、あ、あれだ、熱いからな!! ええとその、それじゃあソラさん、とりあえず村の人達の話を聞かせて貰えませんか。俺達に勇者と同じ事が出来るかは解らないけど、とにかくやってみますから」
そう言うと、ソラさんは顔をぱぁっと輝かせて、またもや何度も頭を下げた。
どうやら彼女は村長さんだと言うのに腰が低すぎるらしい。
これも、裏街道というひっそりとした地域に住んでいるからなんだろうか……。
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宿の主人のナザルさんか……。というか、ここにも宿が有るんだな。
と言う事は、結構旅人が立ち寄っているんだろうか。
そこら辺の話も聞けたらいいなと思いつつ、俺達は荷物を置く為にも、ソラさんに紹介された宿に行ってみる事にした。
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