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プレイン共和国、絶えた希望の妄執編
7.ズルをすればお仕置きを受ける
しおりを挟む二日目の野宿ともなると、やはり色々と慣れて来るものだ。
誰も居ない荒野を三人でぽつぽつ話しながら歩いていると、徐々に「旅人」としての経験が思い出されてくる。裏街道に入るまではずっと馬車での移動だったから、ぶっちゃけ馬車の中でゴロゴロする時間の方が長かったんだよな。だから、頭がまだ寝惚けてたんだ。
けど、外の風に吹かれながら寝袋で一日寝てしまえば、ブラックと徒歩で歩いて旅をしていた時の記憶と緊張感が蘇ってくる。
そうなれば、後はもう流れに身を任せるだけだ。
朝起きたら改めて水を確保し、しっかりと食事を食べてひたすら歩く。そうして、夕方になる前に寝床を探して、モンスターに襲われないように寝ずの番をしながら次の朝を待つのだ。この世界の個人の旅とは、そういう事の繰り返しなのである。
でも、ぶっちゃけた話、俺としてはこういう旅が好きだ。
藍鉄に助けて貰っての快適快速な旅も楽しいけど、自分で歩いて景色が徐々に変わって行くのを眺めたり、荒野にまばらに生える野草を観察しながらゆっくり歩くと言うのも良いもんだ。
それに、適度な運動や緊張感があるから眠くならないし、ブラックもクロウも御者をせずに三人で色々話が出来るからな。
会話の内容は中身のない他愛ない話だったりもするけど、そう言う事を三人で話すのが楽しいっていうか……まあ、とにかく俺は徒歩も好きなんだよ。
それに、歩いていると裏街道の事も色々知る事が出来るしな。
――長い距離を歩いたお蔭で解ったのだが、どうやらこの裏街道は、俺達のように個人で旅をする人々にはとても優しい道らしい。
その最たる例が、先人が残した道標だ。
裏街道にはある一定の感覚で古い木の道標が建てられており、それが「村まであと○キロ」とか「湧水この先半刻」などと事細かに情報を教えてくれるのである。
そのおかげで、俺達が今どのくらいのペースで歩いているのか解るし、なんなら道標の裏に刻まれた「野宿は西へ行け」などという昔の誰かさんの落書きにより、楽に野宿の場所を見つける事が出来るのである。
表とも言える大通りが馬車で移動するのに最適な道なら、こちらは徒歩で移動するのに最適な道と言えるだろう。
ただ、食料を補給できる場所は少ないから、大路を歩くよりも幾分かキツい道だとは思うけどね。
しかし……二日目になっても人とすれ違う事も無いのはどういう事だろう。いくら裏街道とは言っても、村が有るんだし人が通るはずだよな。道沿いの村の人達って、本当に今でもこの道を使ってるのかな……?
もしかして、村が無くなってたりして……いやそんなまさか。
なんせ本当に人と会わないもんだから、不安になって来るわ。
廃道って事は無いと思うけど、この雰囲気なら廃村は本当にあるかもだぞ。怖い。
道に関しては、ブラックとクロウがいるから迷う事はないが……しかし不安だ。
とりあえずの目標にしている村が廃村になってたらマジでどうしよう。食料補給が出来ないぞ。そのうえ、この荒野っぽい道が続くとなると、野草を採取して料理って訳にもいかないだろうし……。
湧水だっていつ「この先補給できず」になるか解らない。地図には道標みたいにお役立ち情報が描いてある訳じゃないからなあ……。
色々と不安だったが、しかし、歩いて行く内に俺の不安は杞憂に終わった。
最初は草木もまばらで大岩がぽつぽつと見える道だった裏街道は、半日ほど歩くと、国境の山から流れて来た川に沿うような道になったのだ。
改めて地図を開いて確かめたところ、確かに細長い線が道を横断しているのが描かれており、川が有ると言う事を示していた。……縮尺が有ってるかどうか不明だったから、川とか全然気にしてなかったんだよな……。
でも、地図が間違ってなくて良かった。
この分なら、明日には村に辿り着けるだろう。
道の脇に生える野草も増えて来たし、川には魚もいるだろうから、いざとなったら魚料理を振る舞おうではないか。よし、なんとか生きていけそうだ。
あと水浴びしたい。汗臭いとクロウにすぐ舐められそうだから早く水浴びしたい。
さすがに野外で視姦されつつの舐めまわしプレイはされたくない……。なんとしてでも、穏便に回避せねば。クロウとの約束は守るけど、場所と期限までは決められてないはずだ。どうせやるなら恥ずかしくない場所が良いんだよ俺は。
道標の落書き情報によって川べりに良い感じの洞穴を見つけた俺達は、今夜はその洞穴で夜を明かす事にして、再び野宿の準備に入った。
今日もクロウがお肉を狩って来てくれるらしいので、期待して待とう。
……その間に水浴びするけども。
「ツカサ君ほんとに体洗うのー? 熊公怒るんじゃない?」
洞窟に荷物を置き、布を持って外に出ようとする俺をブラックが引き止める。
そう言われると行き辛かったが……しかしやっぱり野外ではちょっと。
恋人に視姦されながら野外で羞恥プレイって何の拷問ですか。嫌ですよ俺は。
「や、やんないとは言ってないだろ……。外なのが嫌なだけで……」
「今夜やらないなんて、僕のムスコの今晩のオカズはどうしてくれるのさ。僕はもうツカサ君の痴態を見ながら抜くって決めてたのに!」
「オメーなあ! 他人に舐められて喘いでる恋人見てシコんじゃねーよ!!」
なんなのその性癖!
思わず叫びながら振り返ってしまったが……何故だかブラックは顔を輝かせて俺に近寄ってきていて。
何をそんなに喜ぶ事が有るのかと面食らっていると、いきなり抱き締められた。
「ぶはっ、な、なに……んむっ!?」
どうしてそんな顔をしてるんだ、と、問いかける前に口を塞がれる。
思わず硬直してしまうが、ブラックはそんな事などお構いなしに角度を変えて俺に何度も口付けてきた。
「むっ、んぅうっ……! んん……っ!」
「はぁっ、は……はむっ……う……うむぅ……」
「んっ、んふ」と、笑ってるのか興奮しているのか解らない低い吐息を漏らしながら、ブラックは俺の背中を指先でなぞって舌を入れて来る。
唐突なキスで息をする暇も無かった俺は、唇をこじ開けて来る力強い舌を拒めずに侵入を許してしまった。だけど、それをとがめる気持ちは湧いて来なくて。
「んっ、んぅっ……う……ふ……ふぁ、ぅ……」
耳の奥で、聞こえないはずの口の中の音が聞こえるような気がする。
くちゅくちゅと唾液まみれの舌が俺の舌を撫でて絡みつく度に、カッと体が熱くなって、指で触れられている背中がぞくぞくして。そんな風になるなんて変だとは解っていても、俺は下腹部がきゅうっと熱くなるのを感じてしまい、ブラックの胸に縋りつくしかなかった。
こんなやらしいキスをされる雰囲気なんて微塵も無かったのに、何で急にサカるんだよバカブラック。お、俺、水浴びしに行くって言ったのに……!
深いキスをされるたびにじんじんする下腹部はとても辛かったが、ここで流されたら終わりだと理性を総動員して、俺はブラックに縋る手で服をぐいぐいと引っ張り、必死にやめてほしいと訴えた。
もう、これ以上やると、何をされても「やめろ」と言えそうになかったから。
そんな俺に、何度目か解らないくらいのキスの後で、ブラックはゆっくりと俺から口を離して……だらしなく顔を緩めながら俺の唇の端を舐めて来た。
「へっ、へへっ、へふ……」
「んっ……も……っ! やだってば……っ、な、なんなんだよ、急に……!」
舐めるなと手で押しやるが、さっきの濃厚過ぎるキスのせいで手が震えて力が入らない。う、うう、もう何度もキスしてるはずなのに、どうしてこうなるんだ。
せめて意思は伝えなきゃと思って睨むと、ブラックはデレデレしながら顎の下から口までをべろりと舐め上げた。
「えへっ、だ、だ、だって、ツカサ君、僕の事恋人って……」
「…………ん?」
「無意識に恋人って言っちゃうくらい慣れてくれて、僕嬉しくってもう……!」
あれ、俺そんな事言った?
…………待て。待て待て待て。逆に意識してないの怖い。ヤバいってそれ。
意識してなくて恋人って言ったって事は、俺少なくともブラックの前では恋人って宣言できるようになってるって事だよな。待て、待て待てそういう気付き方はしたくないっていうか、あの、俺まだ素面で言えないんですけど、言えないんですけど!
だって、ほら、俺ってば日本男児だから、結局そう言う事を面と向かって言うのは恥ずかしいって言うか、そう言うことを言ったら絶対情けない顔になるから見せたくないし言えないって言うかああもう違うんですアレは勢いでついぃ!
「まっ、待って待って! あっ、あれはその言葉のはずみっていうか」
「良いんだよツカサ君、こ、言葉のはずみってのは深層心理が出るもんだからね! ふっ、ふへっ、ふははっ、つ、ツカサ君、ふ、ふ、不意打ちは卑怯だなぁ……僕をこんなに興奮させてみ、水浴びなんて、誘ってるのかな!? えっちでいけない子だねツカサ君は……!!」
「ああああ違うんです違うんですぅううう」
俺はただ爛れた関係を嘆いただけでえええ。
「はぁっ、は、はぁぁ……つ、ツカサくっ、せっかくだからさ、日が落ちる前に河原で一発セックスしとこうか……!? 全身汗だくになるし、く、熊公もきっと喜ぶよ……!」
「無駄打ちは駄目ですぅうう!」
「そうだぞブラック。ツカサの精液が薄くなるではないか」
ん。
……ん、んん……?
こ……この、声って……ま……まさ、か……。
「チッ、帰ってきやがったか」
ブラックの声に恐る恐る洞穴の入り口を振り返ると――そこには、何やら大きな獣を片手で持って来た、野性味あふれるクロウの姿が!
ってああああああとんでもない話を聞かれてしまったあああああ。
「せっかく獲物を狩って早めに帰って来たと言うのに……ツカサ、いくらオレでも、不義理をしたら怒るぞ」
案の定、ブラックは俺が無駄打ちしようとしたことに怒っている。
ああそうだ。そりゃそうだろう。クロウからしたら裏切りだもんな、食べる前に俺がブラックとセックスするだなんて。食べたがってる物が減るものね!
「くっ、クロウ待って、俺えっちするなんて言ってないってば!」
「ほう? なら、その手に持っている布はなんだ、ツカサ」
「こ、これは水浴び…………ぁ……」
言っちゃった……。
思わず固まってしまった俺に全てを悟ったのか、クロウは大仰に眉を顰めてその場に獲物を放り投げる。どすんと重い音がして思わず俺は体を震わせたが……クロウは眉を不機嫌そうに歪めたまま、ブラックに抱かれている俺に近付いて来た。
「……水浴びしようとしていたのか。オレとの約束を無視して」
「あ、あぅ」
「そんなに汗を掻いた体を舐められるのが嫌か? オレが嫌いなのかツカサは」
「いっ、いや、それは違うって!」
「何が違う」
即座に返されて、ぐっと言葉に詰まる。
だけど答えない訳にもいかず、俺は正直に考えていた事を話すしかなかった。
「う……。そ、その……だって……ここ、外だし……。外で、ブラックに見られて、クロウに色々されるのは……は、恥ずかしいから……」
「……宿に泊まるまで延期しようと?」
「う、うん……」
クロウは普段は口数が少ないけど、だからと言って察しが悪いわけじゃない。
むしろ、ブラックよりマトモなせいで、時々ブラックより……厄介で…………。
「そう怯えるなツカサ。そんな風に弱々しく男に縋る姿を見せられたら、我慢が出来なくなる。オレは今、その衝動を抑えられるほど冷静じゃない」
「……ご、ごめん……ごめんなさい、クロウ……」
謝るが、クロウは目を細めるだけで何も言ってくれない。
本気で怒っているんだと思うと、それ以上謝る事も出来なかった。
だって、約束を延期しようとしてズルしようとしたのは俺なんだから。
「…………ブラック、ツカサを“お仕置き”するのはお前だけの特権か?」
俺を無視してブラックにそう問いかけるクロウに、ブラックは俺を抱き締めたままで「うーん」と悩むような声を喉で唸らせたが……やがて、にっこりと笑った。
「まあ、ズルい方法で約束を勝手に延期しようとしたのは悪い事だからねえ。今回は、お前のしたい事をすればいい。ただし、セックスは駄目だぞ」
「……ああ、心得ている」
――――解っちゃいた事だけど、どうして俺はこんな人でなしと恋人なんだろう。
でも、自分がズルしようとしたことは確かなので、逆らう事すら出来なかった。
→
※挿れないんですけどまた何か変態みたいな事してるんで次ご注意下さい
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