異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編

47.信頼できる変態(できない)

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 ……結果的にバレなかったし、借りた服もクロウのお蔭で(というのもアレだが)とりあえず汚れる事は無かったから、俺達は何とかトイレでの事を誤魔化してその後のパーティーも最後まで務め切ったのだが、なんというか本当に疲れた。

 これは気を吸われたとかじゃなくて、ガチの気疲れだ。
 なんせ、戻ってきた途端にまた取り囲まれたんだからな……。

 今度は三人で固まる暇すら与えられず、会場に戻った瞬間に、それぞれがお貴族様達に取り囲まれてしまったのだ。それで言われる事はと言えば、トランクルの事や「是非遊びに行きたい」なんていう歪曲なおねだりだったり、男女両方からの妙なお誘いだったり……とにかく、ろくに息つく暇も無かった。
 クロウとブラックからのお仕置きで精も婚も尽き果てていた俺にとっては、本当にしんどかったよ……。

 だけど、二人はやはり大人だからか、はたまた面倒を起こしたくなかったのか、表面上はお貴族様達に笑顔や丁寧な態度で接していて。そこは凄いなあと俺も思ったんだが……時々俺に向けて来るどす黒い視線はいかんともしがたい。

 俺だって好きで囲まれてる訳じゃないし、お前らがなんか綺麗な人達に愛想よくしてるのにイラッとし……してない。イラッとなんてしてない。
 とにかく俺も大変なんだよ! 大変なのになんで睨んで来るんだお前らは!

 おかげで話しの区切りばっか探しちゃって相手に嫌な気分にさせてないか気にしちゃうし、トランクルの為には仲良くしといた方が……と思っても中々好意的に手を握ったり勧誘したり出来ないしぃいいい。

 リタリアさんやセルザさんは、俺のてんてこ舞い具合を見かねてかばってくれようとしたけど、リタリアさんはそもそもお貴族様に人気な人なので、俺達をアシストしようにも同じように人にたかられてこちらに近付く事も出来ず、セルザさんも貴族様や王様への対応でいっぱいいっぱいで。

 ラスターも王様のそばから離れられないから、助けに入ってはくれない。俺を心配そうにチラチラ見てくれるのは心強いんだが、本当に見るだけだから結局は精神の支え程度にしかならなくて。

 ……結局、王様が頃合いを見計らって「お開き」と言うまで、俺達はお貴族様にこってり絞られて、帰りの馬車の中では死屍累々になってしまった。
 人間ってのは、精神的に疲れても駄目なんだなあ……。

 リタリアさんとは「また手紙を送りますね」と約束を交わして会場で別れたんだが、彼女も疲れていたみたいなので、今回の宴は相当きつかったんだろう。

 まあ、トランクルの良さは出来るだけ語ったつもりだし、貴族達は不思議と庶民の俺達に好意的だったから、村の評判は心配ないと思うけど……。
 ブラックとクロウも大人気だったし、変な事は言ってないだろうから心配ないと思いますけどね。きれーなにーちゃんねーちゃんに笑顔振りまいてましたからね、ええ! 語気荒いけど怒ってないです!!

 ずっと下半身がおかしいのに放置しやがった事も全然怒ってませんから!
 自力で鎮静化させましたからね!!

 ………………ま、まあ、それはそれとして。

 周囲が薄暗くなった時間にやっと貸家に帰って来て、リオルに麦茶を淹れて貰いながら、俺達は住み慣れた貸家のテーブルに頬を預けていた。
 ……ちなみにラスターは事後処理があるとか何とかで、またも別行動だ。
 なんだかんだ一緒に行動する回数が少なくて寂しくはある。

「まーそんな解りやすく疲れちゃってー。旦那がた、麦茶に砂糖いれるんですっけ?」
「いや、僕は無糖で温かい奴で……」
「オレもツカサのと同じがいい」
「慣れたんすねえ。まあ、ツカサちゃんがそっちの方が好きなのに、大人の御二方おふたかたがいつまでも砂糖入りってのも何か間抜けですしね~」

 リオル、疲れてる時に挑発するのやめて……オッサン達、疲れてるって言っても人を半殺しするくらいの気力は残してるから……。
 木のコップに入れて貰った麦茶をずるずると飲みつつ、俺は溜息を吐いた。

「所で、ツカサ君はあいつらと何の話をしたの?」
「あ……そうだった、まだ話してなかったよな」

 ブラックが機嫌が悪いのを隠しもせずに問うて来るが、俺にやましい所はないぞ。こういう事は先に話してしまった方が良いかと思い、俺は姿勢を直した。
 そんなこちらの態度に拍子抜けしたのか、ブラックとクロウは顔を見合わせたが、同じように姿勢を正して話を聞く体勢になった。
 どうやら真面目な話だと分かってくれたらしい。

 リオルには一応下がって貰って、俺は麦茶でのどを潤しながら、王様から聞いた話を包み隠さず全部話した。二人とも俺が異世界から来た事は知っているし、クロウにも俺の能力について大体の部分は話してある。
 なので、神社の事も踏み込んで話したのだが……二人には驚愕の事実ばかりだったらしく、話し終わってからも口をぽかんと開けたまましばらく動かなかった。

 ……そらそうなるわな。
 ライクネス王国建国の際に異世界人の少女が居た事や、ラスターやこの国の王が異世界人の話を知っていた事、そしてそもそも【勇者】と言う存在が、異世界から来た少女がもたらした【神聖授与】という能力によって成されるものだった……って事を一気に教えられたら、ポカンともなるだろう。

 ――この世界の【勇者】と言う存在は、限定解除級の曜術師でもかなわない物凄い存在だ。他国にモンスター退治を要請されれば勇んでおもむき、誰も討伐出来なかった敵を見事に討伐する。そんな事が当たり前に出来る存在だと思われているほどの、凄い存在なんだ。
 ソレが異世界の力で選ばれていたなんて、そらすぐには呑み込めないだろうさ。

 その上、おどしとも取れる命令で、わざわざプレイン共和国まで旅をしなきゃ行けないんだ、二人からしてみれば寝耳に水どころかミミズって感じだよな。

 英雄の【法術】も、元を辿たどれば異世界人が与えた物ってのもヤバいよなあ……。
 俺は彼女とは違って曜気を与える事しか出来ないし、術を与えるってどうやるんだよレベルだから、恐らく“黒曜の使者”である俺とハルカって女子は別の職業(と言っていいものかどうか)なんだろうが、にしたって要素が似通ってて恐ろしい。

 神の使者と災厄の象徴。どちらにせよ、異能には違いない。
 彼女がどういう経緯でライクネス王国に関わったのか、そして王様が他にどんな異世界人の情報を握っているのかは分からないが、国王が俺を長い事泳がせてまで【エンテレケイア】と言う遺跡を調査したがっていた所を見ると、恐らく彼の資料に存在する異世界人達は、みな何かの異能を持っていることになる。

 だとしたら……。

「なるほど、ツカサ君が僕達の世界に連れて来られた理由や……【黒曜の使者】についても、何かが判るかも知れないね」
「しかし、かなり昔から異世界人が居たとは驚きだ……」

 あ、そっか。クロウは【アタラクシア】(ブラックの一族が管理してる図書遺跡の事な)で俺達が見聞きした話は知らないんだっけ。そこに驚くのも無理ないか。
 そもそも、この世界では「異世界」なんて学者なんかが辛うじて知ってるんじゃないかレベルだし、異世界人が居たなんて歴史は習わないからなあ普通。

 クロウは普段の立ち振る舞いからして、武闘派なのにかなりのインテリって感じだし、獣人の国では結構勉強していたんだろう。だからこそ、思っても見ない世界の事実に余計に驚いてるって事なんだろうな。
 知識がある人ほど、突拍子のない話はすぐには信じられないって言うし。
 ……って、このファンタジーな世界で突拍子も何もないとは思うけどね。

「獣人の国でも、異世界人の事は何も?」
「ああ。基本的に獣人の国は歴史に頓着しない。下剋上も普通に起これば、平民が突然におさに成ったりもする国だからな。だから、基本的に王族以外は大まかな歴史しか知らん。中には人族が他の大陸にいるという事すら知らない獣人もいる」

 クロウの言葉に、ブラックはさもありなんと眉を上げて肩を竦める。

「ま、そこら辺は人族とどっこいどっこいだね。僕らの住む大陸にだって、村から出ずに一生を終える事の方が普通だし……住んでる村の歴史も、覚えていれば頭が良いと褒められる程度の物だから」

 ……そう言えば、俺の世界でもそんな人は沢山居るな。
 山奥の秘境に住む人は日本どころか海すらも知らないし、反対に俺達もそう言う人達の事を何も知らない。日本から出ずに一生を終える人なんて珍しくも無いんだから、こういうのは世界が変わっても普遍的な事なんだろうな。

「しかし……そうなると厄介だね……」
「ん?」
「だってさ、あのキンピカ王が異世界人の情報を秘匿していたとなると、他の国でもツカサ君みたいな子を特定する方法が残ってるかもしれないだろう? 現状では国家権力に対抗する術なんて、僕達には無い訳だし……」
「世界協定の後ろ盾があるのではないのか」

 クロウのツッコミに、ブラックは難しそうな顔をして首を振る。

「ダメダメ。世界協定は超法規的機関だけど、その実権を握ってるのはシアンだけじゃない。アレは各国の頂点に君臨する存在……王や首長、皇帝などが裁定員の権限を持っているし、基本的に相互不可侵。内政に干渉できるほどの力は無いんだよ。……シアンは『神の名のもとに』強制執行出来る権限を持っているけど、実際にソレをやったら各国からの信頼度は激落ち必至だしね」

 難しくて良く解らんが、要するに「強いけど内政には介入出来ない」って事?
 あ、そっか。だからオーデルが大変な事になってるのに、シアンさんは表立った支援が出来なかったってことなのかな。
 なんか前に一回説明されたような気もするけど、よく解んないとすぐ忘れちゃうからなあ、俺……。だめだな……これはさすがに改めないと駄目かな……。

「とにかく……どっちにしろ僕達に選択肢は無いんだ。それに……ツカサ君が“どうして異世界に来たのか”って理由も解る可能性があるんなら、プレインの遺跡には行ってみるべきだろう。……一つの所に留まり続けるのも、あんまりいいとは思えないし……ね。旅に出るにはそろそろ良い頃合いだろう」
「え……」
「そうだな。ツカサの不安が一つ消せるなら、もとより行かない手はない」

 二人とも……そんな、簡単に決めて…………。

「い……いいの……? 多分また、面倒臭い事になるよ……?」

 自分でも何でこんな口調になるのかと思うが、語気が弱くなってしまう。
 てっきり一言ぐらいは「面倒臭い」と言われると思ってたのに、そんな風に素直に受け入れられたら、その…………。

「あは、ツカサ君顔赤いよ」
「っ!? なっ、そんなこと……っ」
「嬉しかったの? んも~可愛いんだからぁ~~!」
「ツカサ、オレ達にそんなについて来て欲しかったのか……!」
「うぁっ!? ま、っ、ちょっ、まって、違う、そ、そうじゃないんだってば……!」

 そりゃアンタらに「ヤダなぁ」って言われたらどうしようと思ってたけど、その、俺がユデダコになったのは嬉しかったとかその……まあ、嬉しい、けど……いやそうじゃなくって! だから、その、アンタらを安く見積もってた自分が浅はか過ぎて、凄く恥ずかしいって言うか、そう言う意味で赤面しただけで!!

 だから違うって言いたいのに、声が出てこない。
 目の奥が熱くなるくらい顔の温度が上昇して、ブラックとクロウがニヤニヤと俺を見つめて来る。それが余計に辛くて震える俺に、ブラックは近付いて来てぎゅっと抱き締めた。

「んん~……バカだなあツカサ君は……。僕がツカサ君のやりたい事を拒否すると思う? ……ついて来るなって言われたって、僕はついて行くよ。だって、ツカサ君は僕の恋人なんだからね……」
「ブラッ、ク」

 少し陰のある低い声で抱き締められて、胸がきゅうっとなる。
 見上げた顔は、潤んだ菫色すみれいろの目を猫のように細めて嬉しそうに笑っている。
 声に見合わぬ顔に、思わずまた顔が熱くなって……俺は、口を歪めた。

「ツカサ、オレも一緒だぞ。お前が望む事なら、どんな事をしても叶える。それが、愛しいメスを守るオスとして当然の行為だからだ」
「クロウ……」

 ちょっと価値観が違うけど……でも……クロウも、俺を心配してくれてるんだ。
 ずっと解っていたはずなのに、自分が失敗したかも知れないと思った事を素直に受け入れられてしまうと、余計にその事が強く、大きく、胸を揺さぶるようで。
 二人の気持ちに思わず涙ぐみそうになったけど、俺は目を擦って抑え、精一杯の素直さで二人に礼を言おうと口を開いた。

「なんか……」
「ん?」
「…………ごめん……ぁ……あり、がと……」

 何でこういう時って、謝る言葉の方が素直に言えちまうんだろう。
 本当は、ありがとうって言葉の方が、もっとずっと大事なのに。

 もどかしいのに、それ以上何も言えなくて。
 これで良いんだろうかと、再び二人を見ようとすると……。

「ん……んんん……つ、つかしゃくんぎゃわいぃぃ…………っ」

 ブラックが、気持ち悪い唸り声を発しながら俺の体をまさぐって来た。

「…………何してるのかな、おい」
「ツカサ、素股。スマタをしよう。たまらん、勃起してきた」
「クロウ待って、何、マジでどういうこと」
「おいバカこら駄熊僕が先だ、僕が楽しんでからにしろ!!」

 ……こいつら…………。

 ああもうこんちくしょー何でお前らはすぐそう言う風になるんだよ!
 そんなんだから素直に感謝出来ないのにぃいいいい!!












 
※あと一話でトランクル終わります(;´Д`)
 次ちょっとブラック達の出番少ないかも……。
 
 ちなみにトランクルが成功したかどうかはあとで解ります
 まあ結果は解り切ってますが、ホテルとか詳しく説明してなかったので
 その時にでも出来たらなあと思ってます(;´∀`)
 
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