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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編
45.人間、拒否できない時も有る
しおりを挟む豪華な装飾だらけの廊下でも、あの神殿みたいな場所から帰って来るとなんだか懐かしい感じに思えてくる。
だけど、今はその微妙な懐かしさに安堵できる余裕も無い。
腕を組んで唸りながら、俺は長い長い廊下をトボトボと歩いていた。
「うーん…………ブラック達に何て言おう……」
悩むが、一人。
途中までラスターと国王に送って貰ったが、今は周囲には誰も居ない。何か言葉を吐いても虚しく空を滑るだけで、俺はますます落ち込んでしまっていた。
途中まではラスター達と一緒に会場へ戻るべく歩いていたのだが、途中で官職っぽい人に呼びとめられて、どっか行っちゃったんだよなあ。
まあ、王様とその側近なんだし、本当なら俺みたいな庶民が気軽に話せる存在じゃないんだから仕方ない。そもそも忙しい身なんだもんな、二人とも……。
でも、そう考えると最初からラスターの行動はおかしかったんだなと今更ながらに思ってしまう。だってさ、ラスターは騎士団の団長なんだぜ?
「……だから、最初は変だと思ったんだよなぁ。噂で聞きつけたからって、一人でこのファンラウンド領までやって来るなんて……」
俺もこの国の地理に明るいワケではないが、しかしトランクルからベイシェールまでの距離を考えると、王都は更に遠いのだろうなと考えるには十分だ。
そんな距離を、国防の象徴である騎士団をほっぽって団長様が単騎でやって来るなんて……考えてみれば変な話である。
冒険者ならまだしも、立場のある貴族だよラスターは。普通なら御付の人くらい来るでしょう。もしくは部下の兵士とかさあ。
いつも傍に付いていた執事のメラスさんも見当たらないし、そう言えばラスターもちょくちょく俺達から離れてた時間が在ったし……もしかしたら、あの時に王様に文か何かを送ってたのかな。まあ、危機的な状況にならないように、予め策を講じておくのは、守る物が有る立場としては当然だから仕方ないけどね。
ラスターは気にしていたみたいだけど……まあ、こっちだってとんでもない事を今まで隠してたんだから、怒る筋合いは無いよな。
爆弾しょった人間が自国を出入りしてるなんて、そりゃ要職についてる人間にとっては危なっかしくて放っておけないだろうし。
「にしても……とんでもない事になっちまったなあ……」
廊下を歩きながら、今までの事を反芻して溜息を吐く。
国王……ルガールとラスターに俺の本当の能力を説明した後、改めて彼の言う「頼み」とやらの詳細を聞いたのだが……それは、かなり難しいものだった。
彼の頼みとは、こうだ。
――プレイン共和国南西、国境の山近くに存在する【星の終わり】……別名では『ユーハ』とも呼ばれる大峡谷のどこかに存在する遺跡【エンテレケイア】を探し、そこに未だに残されているであろう過去の異物を、本当に異世界人が残した物なのか俺に確かめて来て欲しいのだという。
なぜそんな情報が有るのかは解らないが、もしかしたら俺がアタラクシアで見た「女賢者ちゃんの日記」みたいなものが国王の手元にあるのかも知れない。
……まあ、それはともかく。
突然言われたって、そりゃ当然すぐには頷けないよな。
だから俺は、何らかの抜け道は無いかと「プレインに頼まないんですか」とか「探検隊は出さないんですか」と質問したのだが、国王はその全てに首を振った。
なんでも、これはあくまでも個人的な調査で、兵を出せないのだという。
それに、何やら状況が色々と立て込んでいるらしくて、国が動く事は出来ないという話で……だから、俺に調査を頼みたかったんだとか。
【エンテレケイア】遺跡は、国王の持つ異世界人に関する資料に記載されていた遺跡で、ある重要な異世界人が最後に訪れた場所とされている。
だが、その遺跡は他国……プレインに存在しており、尚且つ所在不明の遺跡だったため、現在に至るまで探す事も出来なかったらしい。しかも、そこに異世界人が訪れたとは言っても、それを確認できる人間は今までいなかった。
遺跡にある物が異世界の物かどうかを確認できるのは、異世界人だけだもんな。
だから、国王は俺を異世界人であるか否かを確かめようと、今までこの機会をずっと狙っていたらしい。
――――お前は良かれ悪しかれ噂になっている。だから、公にお前を呼ぶ事は躊躇われた。だから、トランクルの再興にかこつけて祝宴と言う形でお前達を功労者として招き、この場に連れてこようと思ったのだよ。
そう言われた時は「は?」と思ったが、今考えるとなるほど、だから村人達ではなく俺達だけが宴に呼ばれていた訳だ。
明かされてみれば簡単な話だが、しかし俺達が一度この国を出てからずっとこういう騒動を起こすまで待っていたと言われると、何とも言えなくなる。
なんつう気が長い王様なんだ……。
「…………まあでも、今まで野放しにしておいてくれたって事だしなあ」
しかしそうまで待たれると、凄く大変な冒険なのではと勘繰ってしまう訳で。
一応、プレイン共和国はその“謎の遺跡”の存在を把握しているのかも聞いたのだが、恐らく把握していないだろうとの事だった。未確認地帯である『空白の国』の一部だからかと思ったんだが、どうもそう言う訳でもないらしい。
とにかく行けと命令されて、俺はペッと解放されてしまった。
ううむ、有無を言わさぬ横暴っぷり。やっぱり王様って奴はいけすかねえ。
でも最高権力に自由に行動するのを許されてるんだから、これくらいは従わなきゃな……。ここは大人しく王様の命令を実行したほうが良いってもんだ。
結局、他の異世界人がどうかって話はして貰えなかったし。
「ちくしょー、あのキンピカ王絶対まだ何か情報を隠してんだよな……。ニヤニヤしてたし、俺をおちょくってるのは間違いねぇ。報告しに帰って来たら、今度こそ色々話して貰うんだからな……!」
そっちがその気なら、こっちだってまだ全部は教えねえぞ。
いやあんまり聞かれなかったから、重要な「相手に曜気を与える」って能力以外は全く説明してなかっただけなんですけどね!
本当は、俺の能力について何か言う事はあるのかとドキドキしてたんだが、王様は俺が黒曜の使者である事を知らず、また俺の曜気を分け与える能力に関しても「そうか。我々の国ではあまり必要のない力だな」とだけしか言わなかった。
……拍子抜けしちゃったけど……まあ、いいのかな……?
王様自身なんか強そうだったし、何より【勇者】のラスターがいるんだもんな。
それに、ここは常春の国で飢餓なんかないし、今のトコはうまく回ってるみたいだし……。国の王様に知られたら利用される! なんて勝手に思ってたけど、まあ相手が別に興味が無かったらそりゃそんな反応だよな。
……嬉しいような悲しいような。
「しかし、問題はブラック達だよな……」
ブラックもクロウも、絶対怒るぞ……「こんな事勝手に決めてー!」って。
今から気が重いが、口止め料みたいな所もあるし、あとほら、俺の力についても何か手がかりが貰える可能性もあるし……。
「だからなんちゅうか……」
だぁあそれにしても髪飾りとかがチャリチャリ言うのがうざったい。
なんなんだコレ。女の人はよく付けてられるなこんな煩いの。シルバーアクセもこんなに音がするのかな。でも、よく考えたら、格好いい金属付きのベルトや中二病な腕輪とかも固い物に擦れると煩いもんな……ああもう鬱陶しい。
俺のアクセは剣に龍が巻き付いたキーホルダーだけでいいよもう。女の子っぽい髪飾りとか服装するよりは、中二病御用達グッズのが馴染みが有るしマシだ。
恥ずかしすぎて鏡とかしっかり見てなかったけど、こんなん絶対似合わな……。
「…………まてよ、ガチで似合ってなかったりしたらどうしよう」
よくよく考えたら俺が髪飾りとかベールとかヤバくね……?
反応してたのブラック達しかいなかったし、貴族達の話題と言ったらリタリアさんとかトランクルの話題とかしかしてなかった気がするし。
……ヤバい。こ、これは、会場に戻る前に一度確かめねば……。
トイレとかなら流石に鏡もあるよなと思い、俺は慌てて扉の前に居る管理人さんにお手洗いの位置と鏡の有無を聞くと、一度そちらに向かった。
幸いな事に、トイレはすぐ近くにあるらしい。
色々な部屋を過ぎて通路を左に曲がると、閉まったいくつかのドアの向こうに、トイレらしき二つ並んだ入り口が見えた。おお、あそこだな。
急ごうと思い、うざったい裾をヒラヒラさせながら早足で向かおうとすると――不意に、手前の部屋から人が出て来た。
「あれ、セルザさん?」
誰かと思ったら、セルザさんじゃないか。今まで姿が見えなかったけど、こんな所に居たのか。声を掛けようと思ったら、続いて見知らぬ人物が二人出て来た。
豪奢な刺繍の入った美しいマントで姿を隠し、フードを目深に被っている不思議な二人組だ。
「あっ、ツカサか?」
俺に気付いたのか、セルザさんが近寄ってくる。
「セルザさん、今までどこに?」
「ああ、いや、彼らと商談をしていたんだ。だが、色々と立て込んでしまってな……。その様子だと、宴はもう始まってしまっていたか」
「はい、だいぶ前に……」
そう言うと、セルザさんは俺を頭から爪先までじっと眺めて、ふむと頷いた。
「俺としては、いつものお前の方が好みだがなあ」
「そ、そう言う事言うのヤメテクダサイ……」
こういう時に「セクハラはやめて下さい」って言えば良いのかな。
冗談だろうけど、この世界だと洒落にならないんで本当勘弁して……。
そんな事を思っていると、背後から謎の二人組が近付いて来た。
「あ、すみませんダリアさん。この少年はツカサと言いまして、先ほどお話した、シンジュの樹を守ったという冒険者です。今はめかしこんでますがね」
セルザさんが言うと、男達の一人が一歩こちらへ歩み出て手を差し出した。
「おお、そうでしたか。いやあ貴方のお蔭で助かりました。シンジュの樹はベイシェールの呪いのせいで、今まで流通が制限されておりましたからな」
意外と若い男の声。流通がナンタラってことは、相手は商人かな?
差し出された手を握ると、相手は軽く震えて、ぎゅっと握り返してきた。
「是非とも、貴方とも良い関係を築きたいものですね」
「あ、アハハ……光栄です……」
「ああ、ダリアさん達はプレインからの使者でな、フードを取らないのは彼らなりの礼儀だから、気にしないように」
「へえ、プレインの……」
今日は良くプレインの名前を聞くなあ。
しかし、こんな時にまで商談ってほんと大変なんだなセルザさん。まあ、お金が入ってくるのは良い事だし、明るい顔をしてるから変な取引じゃないんだろうけど。
そんな事を思っていると、後ろでずっと黙って立っていたもう一人が、なんだかフラフラと近付いて来た。
どうしたんだろうかと思っていると、ダリアという名前らしい目の前の人が、俺との握手をやめて背後のフードの人を前に押し出す。
目の前に来たそのフードの人はやっぱり背が高くて、思わず見上げると、相手は僅かに狼狽した。もしかしたら、極度の人見知りなんだろうか。
ただじっと見つめていると、相手は恐る恐る手を差し出してきた。
「あっ……。えっと……よろしくお願いします……?」
意外と大きな手を握る。と、相手はダリアさんの比じゃないレベルでビクリと肩を跳ねさせ、慌てたように俺をぎゅっと握って来た。
……ん……? なんか、ブラックの手と似てるな。
固くて俺とは全然違う手……剣ダコか何かがあるっぽいから、もしかしたらこの御付の人は用心棒か何かなんだろうか。
用心棒も常時警戒しなきゃ行けないし大変だよなあ。
そう思って、労いの思いを込めて、再度「よろしくお願いします」と笑いかけると、相手は何だか息を呑んで先程より強く手を握って来た。
……ええと、多分……好意的なのかな……?
「シャド、いくら可愛らしい相手だからって、挨拶が長過ぎますよ。……さ、もう行かねば。我々にはやる事が沢山あるのですからね。……では、宜しくお願いしますね、ファンラウンド様」
「ええ、詳しい事は後で書面にて」
シャドと呼ばれた背の高い相手(たぶん男)は、名残惜しそうに俺の手を放すと、会釈して去るダリアさんに付いて行ってしまった。
何だかよく解らんが……まあ、悪い人じゃないのかな?
それにしても、ダリアさんの声は何か聞いた事のあるような声だったな。
「ところでツカサ君はどうしてここに?」
「あっ、そうだ忘れてた、俺ちょっとト……け、けしょぉ、しつに」
「ああなるほど。……しかし、別に崩れているような部分は無いんだがなあ。まったく、淑女の支度と言う物は難儀な物だ」
だーっ!! なんで化粧を直しに行くもんだとナチュラルに思ってんだよ!!
俺のどこが化粧してるように見えるってんだ、俺が化粧するような奴に見えるのか、なんで「ああトイレね」って普通に思ってくれないのかなぁああ!
「お、俺もう行きますね!!」
「さっさと戻ってこいよ」
「はいはい!!」
ええいもう畜生、俺はただ単に自分の格好が変じゃないかを確認しようとしてるだけで、決して化粧を直し……いや待てよ、着飾ってるアクセサリーを直すのも、一応化粧に入るのではないか……?
だとしたら、俺も淑女の仲間い……か、かんがえるな、考えたら終わりだ……。
とにかく早く自分をちゃんと確認しよう。
とりあえず男用のトイレに入り、鏡で自分の姿を確認しようとする。と。
「……?」
あれ。なんか足音が近付いて来るぞ。
誰だろう。
→
※次はえろです久々に三人で(`・ω・´)
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