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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編
43.見た目に似合わぬ声と覇気
しおりを挟む※会話&復習してるだけの回になってもうた…次ちょっと不穏です。
癖ひとつないプラチナブロンドの美しい髪に、まだ少年の幼さが残る凛々しい容貌。煌びやかな装飾が眩しい臙脂色の軍服に似た礼服を身に纏い、彼は堂々と椅子に座り俺達を見下ろしていた。
だが、俺が驚いたのは彼の若々しい容姿だけではない。
一番に目に飛び込んで来たのは、整った顔に嵌め込まれたその切れ長の双眸――今まで見た事も無いほどに濃密な金色の瞳だった。
「楽にせよ、今日はファンラウンドが目覚ましい功績をあげた祝いだ。楽しめ」
そう言うと、貴族達はそれぞれスカートを引いてお辞儀をしたり、深々と腰を折って国王陛下に頭を下げたりして、すぐに先程のようにガヤガヤと話し出した。
な、なんだ、この国はそう言う緩い感じなのか……。
俺はてっきり王様が出て来たら緊張しながらメシ食わなきゃいけないのかと。
「陛下は気さくな方で、私のような位が低い者にも友人のように話しかけて下さるのよ。だから、ツカサさん達も緊張せず楽しんで下さいね」
リタリアさんの言葉に、俺はなるほどと思った。
要するにアレか。異世界チート小説によくある、既成概念をぶち壊す異世界からやってきた優しくて威厳満点の王様……みたいなタイプか。
昔のしきたりとかはどうなるんだと考えてしまうが、まあみんな気楽ならそっちの方がいいって事も有るしな……。
うーん、しかし何故こう俺じゃない人達がそんなハイスペックなんでしょうね。
いやまあ、元々ロースペな俺がハイスペになれないのは仕方ないんだけどさあ。ちょっとくらい夢みたいじゃん。俺も建国チートしてみたかったよ。
治世とか絶対出来なさそうだし数ヶ月で滅びそうな予感はするが。
「しかし、今回はファンラウンドを主役に据えた祝宴なのだろう? 主役の紹介すらも行わずに自由にして良い物なのか?」
ブラックと一緒に俺の背後に避難していたクロウが、リタリアさんに問う。
彼女はその質問も想定していたようで、微笑みながら頷いた。
「ええ、大丈夫です。よその国では色々としきたりが有るのは存じてますが、少なくともルガール国王主催の祝宴の場合は、趣旨を理解していればそれでいい……と言うような感じなので、主題が有ってもそれを元に何かを喋る事はなさらないの。さすがに終わる時にはひと声下さいますけれど」
そんな直行直帰の短期バイトみたいな適当さで良いのかい。
もしや王様もパーティーとか面倒臭がってない?
でもお貴族様も受け入れてるみたいだし、みんな本当に気楽そうにお喋りしてるから、これで良いんだろうな。……まったく、変な所で寛容な国だよホント。
今更ながらに緩い異世界だなあと思っていると、背後から唸るような声が聞こえた。どうしたのか振り向くと、ブラックが小難しげな顔でステージの上の国王様をじぃっと見つめていて。
何故そんなに凝視しているんだろうかと思っていると、ぽつりと呟いた。
「むう……実際に見ると、それなりに納得できなくもないような……」
「納得って……なにが?」
やっと人の波も引いたので美味そうな煮込み肉的な料理に手を出しつつ聞くと、ブラックは給仕からワインを貰いながらふむと息を吐いた。
「ルガール・プリヴィ=エレジエ……ライクネスの国王はね、その有能さから十八歳にして王位を譲り受けた異例の王と呼ばれてるらしくて、見た目は若いけど賢人以上の賢王だともっぱらの評判なんだ。まあそれは良いんだけどね、僕的にはあの年齢で法術……あ、ツカサ君知らないんだったか……」
「え……なに?」
「僕やツカサ君みたいに複数の曜術が使える人間は、稀に曜術とはまったく法則の異なる術……【法術】を使えるようになる事が有るって話は……」
「知ってる! ギルドの試験官の人が話してくれた」
確か、限定解除級と一級がどう違うかとかもその時教えて貰ったんだっけ。
そう言えば禁術がどうとか言ってたが……まあ些細な問題だろう。
にしてもこの煮込み肉スゲー味だな。焦げ付かせまくったカラメルソースを固いゴムに掛けたみたいな味しかしねえぞこれ。なんでライクネスは飯が異次元の味になるんだよ。ベランデルンはあんなに美味しかったのに謎すぎる。
……じゃなくて。ブラックの話を聞こう。
「ツカサ君よく覚えてるね……最初の試験ってだいぶん前だよね? まあいいか。その研鑽を積んだ末に修得する【法術】なんだけど……なんと、あの国王は生まれながらに修得しているらしくてね」
「ええ!?」
驚く俺に、ブラックは口の横に手を当ててヒソヒソ声に切り替える。
クロウも興味が有ったのか俺の真正面に屈んできたが、ブラックは別に構わないと思ったのか、そのまま続けた。
「詳細は良く解らないけど、どうやら始祖の血を受け継ぐ直系子孫だけに遺伝する特殊な【法術】らしくてね……。ただの噂話だと思ってたけど、実際の相手を見ると……さすがにね。あんな瞳の色、普通の人族には現れないだろうし」
「確かに、光が散ったように煌めく金色なんて初めて見たぞ」
……そういやそうだな……。この世界は色んな色の髪や瞳をした人が多いから、あれもてっきり普通なもんだと思ってたんだけど……やっぱこの世界の人からしても特別な目の色なのか。
人間離れした特徴を持つ存在なら、そんな超常的な力が使えてもおかしくないと。まあ、ブラックの場合はもうちょっと色々判断しての発言なんだろうけど。
「でも、普段人の事なんて気にしないお前が珍しいな」
「当たり前だよ。【法術】ってのは、曜術の法則なんて丸無視のズル曜術みたいなもんさ。モンスターの固有技能や、最終形態の“竜”……いや、神と同一視される事すらある“龍”ですら、どうかすれば殺せる力なんだからね。そんな奴にツカサ君が目を付けられたらコトじゃないか。国王だと簡単に殺せないし……。だから、回避するために目を付けてたんじゃないか」
その言葉が意外すぎて、俺は「狙われるわけがあるか」というツッコミの前に、思わず素っ頓狂な声で返してしまっていた。
「え、でも、アンタ強いし“アレ”の力だってあるだろ? それにクロウもいるし」
桁違いの力を持つ奴が二人もいるんだから、負ける訳ないじゃん。
法則丸無視って言うなら、ブラックの術もクロウの術もまるきりそうだし。
それに、さすがに国王様が【災禍の象徴】とか言われている黒髪の俺を欲しがるとは思えないし、そもそも面食いだろうし、万が一いや億が一興味を持たれても、俺だってお断りしたり逃げるくらいの知能は持ってる訳で……。
そんな、囚われの御姫様じゃないんだから、自分で逃げますよ。
と、当たり前の事を言ったつもりだったのだが……ブラックとクロウは何故だか驚いたようで、目を丸々と見開きながら俺を凝視していた。
……ん、なんでアンタらほっぺ赤いの。
「なに? 何で沈黙した?」
「あっ、い、いや、エヘ……と、とにかくね、警戒しようと思ったんだけど……まっ、まーいっか! ツカサ君には僕がいるんだもんねっ! えへへ~」
「ウム……オレも守るぞ。ツカサをたくさん守るぞ」
何故か急にデレデレし始めたブラックと、荒い鼻息を漏らしながら子供みたいな台詞を繰り返してやる気満々のクロウ。
いつもなら日常茶飯事なんだけど、二人とも今せっかく格好いいのに……。
内心アチャーと思いつつも、ふとある事が気になって俺はブラックに問うた。
「そういえば……ブラックは【法術】を使えないのか?」
ブラックだって月の曜術師……金属性と炎属性の曜術が使える凄い奴なんだし、それに限定解除級っていう一級よりも凄い等級持ちなんだから、【法術】が使えても何もおかしくないよな。てか使える方が納得するんだが。
しかし、ブラックは俺の予想に反して首を振った。
「いや、僕の場合は“アレ”を読んじゃったからね……。あの力を授かると、不思議な事に法術が全く発動しなくなるみたいなんだ。僕の場合は覚えてなかったから、別に構わなかったんだけど」
「なるほど……」
“アレ”とは勿論、魔導書の事だ。ブラックは【紫月の書】を読んだんだっけ。
だけど、グリモアになると【法術】が使えなくなっちゃうって……どういう作用が起こるんだろう。何か制約とかがあるのかな?
うーん……。俺的には【法術】についてもまだふんわりした認識だし、予測する事も出来ないな。まあ多分特別スキル枠が埋まっちゃった的なもんなんだろう。
小難しい事は俺には解らん……などと思っていると。
「つっ、ツカサさん、ツカサさん!」
「え? なんスかリタリアさん」
慌てて呼ばれて、リタリアさんの方を向く。すると、彼女は顔を青くして、ある一点を見つめながら俺の方にパタパタと手を上下に動かしていた。
おお、これは「アンタちょっとちょっと!」のポーズ。
けれど何に驚いてるんだろうか……と、リタリアさんの見ている方を向いて――俺も、彼女と同じように固まってしまった。
だ、だって。
俺達が見やったその方向には、煌びやかな正装をしてまさに「白馬の王子様」と化したラスターを従えてこちらに歩いて来る、国王陛下がいたのだから。
「っ……」
しんと静まり返った会場内で、国王の靴だけがカツンカツンと音を立てる。
やがて、その音は俺達の前で止まった。
「……お前が、ツカサという少年だな?」
威厳のある声音が、響く。
少年の面影が残るその姿からは大よそ想像できない声音に戸惑う俺達に、国王は少しだけ口を笑みに歪めると、不可思議に煌めく金色の目で俺を射竦めた。
「大事な話がある。余に付いて来い。……なに、取って食おうという訳ではない。お前には“話しておかねばならん事”があると言うだけだからな」
王の威厳というものは、俺にはよく解らない。
だけど、体の自由が利かないような緊張の中、己の意思とは関係なくただ言葉に従ってしまうほどの威圧感が、王の威厳と言うものであるなら……王と言う存在はなんと恐ろしい物なのだろうと思わずにはいられなかった。
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