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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編
37.すてきな観光地をつくろう!―プレオープンと待機―
しおりを挟むクロウとの添い寝から、数日経った。
……だいぶ時間が経過してしまったが、その間とりたてて大きな変化も無かったので仕方ない。クロウとの添い寝の報告も、ブラックがクロウにゲンコツを落としたくらいで特筆するほどの大きな変化はなかったしな……。
なので、俺達はとりあえず真面目に働く事に没頭した。
滞りなく過去の景観を再現し、クラッパーフロッグ達との打ち合わせを重ね、俺も俺で商品開発や土産物を作る係への指導などを手伝って忙しい日々を過ごし、そんなこんなでやっと客を呼べるくらいに村を整える事が出来た。
他にも、貴族のコネで来て貰った職人さんにも色々と指導して貰い、子供の預り施設に常駐させるメイドさん達も揃えて村人にも徹底指導し、軽食の店も揃えて……まあとにかく、驚く程迅速に事が運んだって事だ。
あとはプレオープンと宣伝を行うだけだが、お試しご招待をする貴族を募るのは、ラスターとヒルダさんがやってくれる事になった。
貴族へ宣伝するなら、あの二人が適任だからな。
俺達もセルザさんと共に、セイフトだとか近隣の町や村の人、それに連携する予定のベイシェールにも旅行客を回して貰うように頼んだりして、一般の人も集めるように手配しておいた。
プレオープンとはいえ、呼ぶ客は周囲の信頼が厚く拡散力の強い人々ばかりだ。
それを思うと今から恐ろしかったが、トランクルを広く宣伝するには、そう言う人達を集めねばならなかったのだから仕方がない。
――この世界は、コネと噂話で評判が広まる。
チラシなどの宣伝は、紙が高価なこの世界では言語道断だ。新聞に広告を載せるのも良いが、ああいうものは文字が読める層にしか伝わらない。金がかかるワリには宣伝効果が薄いのだ。この世界では、だけどね。
なので、紙で宣伝と言うと、街の掲示板にポスターを貼りまくるくらいしか出来ない。それなら、お貴族様ネットワークを使って情報を流して貰った方がよっぽどましなのだ。貴族が大っぴらに話せば、使用人達の耳にも話が入る訳だからな。
案外、メイド達の噂話の拡散能力もバカには出来ない。
評価サイトも呟きツールもないここでは、人の噂話が重要な意味を持つ。実際に体験した人のお話が、良くも悪くも人を呼ぶ事になるのだ。
なので、彼らの満足する物が出来れば、必然的に噂話は広がって、遠くの国にもいつしか届くって寸法よ。もちろん、それを待っていられないから、セルザさんとベイシェールの役場の人達に頼んで、他国の人もプレオープンに招待したけどね。うまくいけば宣伝効果は二倍だが……。
どうなるかは、村人達のプレオープンでの働きと次第だ。
ここから先は、俺達にはどうにも出来ない。
俺達はあくまでも村人達の計画に少しのアドバイスをしただけで、この村が再び息を吹き返すかどうかはやはり村人達の頑張りに掛かっている。
どんなに良い策を弄しても、結局人心を掴むのは迎える側の真心なのだ。
……なので、俺達は貸家でただ待っている事しか出来ないのだが。
「うーん……ちゃんと出来てるかなあ」
アク抜きしたカレンドレスの花弁をゴリゴリとすりおろしながら、俺は呟く。
自分に割り当てられた主寝室で相変わらず調合に励んでいるが、今まさにプレオープンで頑張っているであろう村人達が気になって仕方がない。
ここまで来たら何も出来る事など無いってのは解ってるんだけど、途中まで共に働いて来た来ただけに、どうしても意識がそっちの方へ行ってしまっていた。
だってほら、失敗してないか心配だし、プレオープンとは言え相手はマジのお客なんだから、何かトラブルが起きたりしたら後々に響くだろうし……。
いやまあ、俺達が気にしたって大したフォローも出来ないんだけど、猫の手も借りたいって事も有るかも知れないし……でもなあ、貴族に対しての接客はラスターが取り仕切って指導してたし、バイトレベルの俺じゃなあ。
「あー、気になる気になる……でもいつまでもここに居る訳じゃないし、だったら顔を出すワケにもいかないし……。ぐぅう……」
結局のところ、今はお客さんが帰るまで自宅待機してるしか無くて。
……本当に困ったら、ダニエルさんが呼びに来るみたいな事は言ってたけど……責任感が強い人達だから、早々来やしないだろうなぁ……。
「……はあ、やきもきしてても仕方ないか……早く作っちまお、消臭剤……」
そう言いながら、磨り潰したカレンドレスを、シズクタケと水を入れた瓶に流し込む。シズクタケは、前にアコールで効能を教えて貰ったキノコで、このキノコと果実を一緒に瓶に入れておくと、果物が溶けていい飲み物になると言う。
その方法を使って、カレンドレスの花びらを液体状にしようとしているのだ。
俺が作ろうとしている消臭剤は、もちろん商売道具ではない。
なんというか、その……余裕が出来たから、ブラックに足の臭いをカバーする薬でも作ってやろうかなと思って……い、いや、別に臭いかどうかは解らないけど、作ってたら色々使えそうじゃん?!
それに、この方法が成功したら、液体が出ない植物でもハクバンに混ぜて、いい匂いの消臭剤が作れるかもしれないし……。
…………だから、その、ブラックのためってだけじゃない……けど……。
「……なんか、こう……なんかなぁ」
呟いて、溜息を吐く。
だけどその溜息は、自分の滑稽さに向けての物ではない。
これは、今脳内で思い浮かべていた相手に対してのものだった。
――――よく解らないが……最近、ブラックの元気がない。
クロウもなんだか時折思いつめたような顔をして黙ったりするし、二人して様子がおかしかった。ブラックの場合は多分、えっちの事でしょげてるんだとは思うんだが、クロウまで何故か元気がないので最近は貸家が静かだって言うか……。
いや、良いんだよ。本来大人は物静かなもんだし、それは良いんだが……でも、ブラックとクロウはそんな普通の大人じゃないわけで。
甘えては来るものの、三日にいっぺんとか嘯いていたえっちも仕掛けて来ない所をみると、かなり相手が深刻な状況であろうことは理解出来る訳で。
……俺が言うのもなんだが、ブラックはスケベオヤジだからブラックなワケで、こう言う風に遠慮して仕掛けて来ないなんて、ブラックらしくない。
だから、何ていうか……調子が狂う訳で。
「メシ作ってもなんか無理して笑顔で食ってるみたいだし、時々よそよそしいし……なんかこう……モヤモヤするっていうか……!」
人の行動に一々ちょっかいを出すなんて、嫌われる行動だと解っている。
話したがらない事を話せと詰め寄るのも、ブラックに対しては悪手だろうし……結局、二人には何も聞けず、俺はただ二人がやつれないようにメシを食わせたり、一々様子をみたりすることしか出来なかった。
半ギレで聞けりゃいいんだろうけど、それが出来たら苦労はない。
そうしたくないから、俺は未だにブラックの過去を全部聞けてないんだしな。
「……はぁ……。どうすりゃいいのかなあ、こういう時……」
机の上に乗っている瓶を屈んで眺めつつ、俺は机に頭を預ける。
ここ数日は村の事で忙しかったから気にしないでいられたけど、貸家で待機って事になったらどうしても二人の変化が気になってしまって。
居たたまれずに一人で部屋に籠っても、やっぱり忘れる事すら出来ない。
ブラック達だって大人なんだし、自分の気持ちの切り替え方ぐらい知ってるとは思うんだけど。でも、二人の元気がないと……俺もなんか、気分がどよんとするって言うか……ほんとダメだな俺……。
二人に対してマシな言葉すらかけてやれないと思うと、何だか自分が情けない。だけどそう思う事が烏滸がましいような気もして、ぐるぐる考えちゃって……。
「……駄目だ、一人でいたら余計に悩む。……あ、そうだ。今後の為に、カンランの木を庭にたくさん植えておこうと思ってたんだっけ。マーサ爺ちゃんに手伝って貰って、土いじりをしよう! うん、そうだな、それがいい!」
ヒメオトシの料理を作るのもいいが、一人でいるとまた悩んじゃうしな。
こういう時は体を動かして発散するに限る。俺には料理で気分転換はまだ早い。
そうと決まれば行動だと思い、俺は調合器具を片付けて外へ出た。
マーサ爺ちゃんはどこだろうかと探すと、リオルが洗濯物を干しているのを見つけた。おう、今はリオルの番なんだな。
「リオル」
「あ、ツカサちゃん。お仕事はどうよ? 後で麦茶持っていこーか?」
「一段落ついたから大丈夫。それより、マーサ爺ちゃん起こせる? カンランの木を庭に生やしておきたいんだけど……」
そう言うと、リオルはシーツをぱんと引いて伸ばしながら、眉を上げた。
「今度は植樹かー。はー、本当ツカサちゃんは働き者だなあ! ……あのクソ中年どもとは大違いだ……」
「い、いや、まあ、アイツらはアイツらで役割が違うから……」
基本的に知識伝授と戦闘メインの人達だから、日常のアレコレとかをやる役目じゃないんすよ。落ち着いてリオル、邪気ださないで。
「役割、役割ねぇ。……ツカサちゃん不安にさせといて、何が役割なんだか」
「え……」
思わぬ事を言い出したリオルに目を見張ると、相手は洗濯物を縄に引っ掛けながら溜息を吐く。
「ツカサちゃんが甘えてないとは言わないけどさあ、あのオッサン共も年甲斐も無く甘えすぎなんだよ。何を怖がってるかしんないけど、恋人不安にさせてウジウジやってるなんて、相手を思う気持ちが有るなら普通やらねんじゃねーの? ホントそう言う所ヘタクソだよなあ、あいつら」
り、リオル、やめてくれ。その言葉は俺にも効く……。
思わず胸を抑えてウグッと呻いてしまったが、しかし言っている事は尤もだ。
相手を放り出して自分一人でウジウジするなんて、男らしくない。相手を思って悩んでいるなら、尚更そんな様子見せちゃいけないんだよな。
だって、俺のせいで余計に相手が不安になっちゃうんだから。
……だったら……。
「…………なあ、リオル」
「ん?」
「やっぱ……歩み寄りって、必要……なんだよな」
そう言うと、リオルは何だか砕けた笑顔で笑って、俺の頭をぽんぽんと叩いた。
「もしかして、温泉に行って来て覚悟決めた系?」
「……ん……そう、かも」
軽く言って貰えるから、すんなり言葉に出来る。
そう言う事も有るのかも知れない。
でも何だか顔が見れなくて俯く俺に、リオルは優しい声で続けた。
「失敗したら、一人で悩まずに俺達んとこ来ればいいよ。俺もマーサも、ツカサちゃんの事を盛大に慰めてやるからさ」
「リオル……」
「だって、こんなに可愛くて従者思いのご主人様が悲しんでるのを、放って置けるワケがないっしょ?」
「お、お前なあ」
思わず呆れた声を出してしまったが、けれど……俺の事を励ましてくれているリオルの気持ちは、とても嬉しくて。
相手を見上げて口だけ緩めると、リオルはポンと肩を叩いた。
「さーさー、マーサも充分寝ただろうし……起こしてやっから、まずはやる事やらなきゃね! 今度俺が起きた時に、庭がどうなってるか楽しみだなぁ」
俺のことを気遣ってくれる相手に申し訳なく思いながらも、俺はモヤモヤが少しだけ晴れたような気がしてはにかみながら頷いた。
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