異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編

35.くまさんはじょうしきじん(パーティーの中では)

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 それから俺は、就寝時間が近付くにつれて不機嫌になって行くブラックと、それとは反対に嬉しそうな雰囲気を撒き散らすクロウと、オッサンどもがどういう反応をしていようが全く興味を示さないラスターと共に夕食を終えると、マーサさんを加えて暫し歓談をしたのち、就寝の為にそれぞれ部屋に戻った。

 ……しかし、俺は自分の部屋で眠る訳にはいかない。
 そのまま自室で眠ってしまおうかと考えてしまったが、それでは約束を違える事になる。かぶりを振って、俺は自分の身を一度観察した。
 とりあえず汚れてはいない……とは思うけど、歩いたから汗臭いかな……。

 ぶ、ブラックとは一緒に寝る事も多かったし、別に、相手の体臭なんて気にしてなかったけど……クロウと寝るのって、そういえば初めてな気がするし、相手は獣人なんだからやっぱ汗を流すくらいはした方が良いような。

 うう……クロウと寝る為に風呂に入るのか……。
 ……な、なんか妙に恥ずかしくなってきた。

「いかん、考えるな、考えるな俺……。ま、まあ、クロウも不潔よりは清潔な方が良いよな……いくらなんでも寝る時まで汗の臭いなんて嗅ぎたくないだろうし」

 いくらクロウが汗を舐めるのが好きだと言っても、TPOをわきまえねば。
 正直言うと、間近で臭いを嗅がれて「汗臭いな」と言われるのが嫌なだけなんだけど、良く考えたら汗を気にするのも男らしくない気もするし、でも俺としては、ブラックやクロウに臭いねって言われるとショックだからヤだし……。
 …………と、とにかく、風呂! 悩むなら風呂に入った方が良いよな!

 そう思って、タオル代わりの布を持って部屋を出ると。

「ツカサ」
「うぎゃあ!?」

 ひぃいっ! とっ、扉の前に大柄な男……ってクロウ!

「僕も居るよ……」
「わああブラックまで! な、なんで二人ともドアの前にいるんだよ!?」

 扉のすぐ前で大柄なオッサン二人がぼけーっと立ってるとか悪夢かよ。
 驚きながらもラスターに気付かれないように必死に声を抑える俺に、クロウはじぃっと俺を見ながら熊耳を少し動かした。

「いや、ツカサが部屋に入ったっきり出て来なかったから不安で」
「入ったきりって……俺五分も入って無かったよ!?」
「それに風呂に入るかもしれないと思ったから止めに来た」

 う……考えてた事がばれてーら……。
 思わずタオルを後ろ手で隠そうとしたが、クロウに取られてしまった。

「ツカサ……オレは悲しいぞ……。ツカサの汗は良い匂いだといつも言っているのに、オレと同衾する日に限って風呂に入ろうとするなんて……」
「だ、だって、獣人の鼻だと汗臭いかもしれないし……」
「良い匂いだと言っただろう。そんな風に焦らすのなら、オレも強引になるぞ」
「ふぁっ」

 間抜けな声を出したと同時。
 俺はクロウに掬い上げられて、いとも簡単に抱き抱えられてしまった。
 本当に強引ですねクロウさん……いやでも約束だし、仕方ないか……。しかし、そう思ってない奴が、先程からこちらに殺気を向けているわけで。

「おいコラ駄熊、言っておくが添い寝だけだ。添い寝だけだからな。それ以上の事をやったら半殺しにして窓から投げ捨てるぞ」

 有無を言わさず俺を部屋に連行しようとするクロウの横で追走するブラックが、不機嫌さを隠しもしない顔で俺を抱えた熊さんを睨みまくっている。
 その顔を見て、クロウは目をぱちくりさせていたが、物怖じもせず首を傾げた。

「……そう言えば、何故ブラックは一緒にいるんだ」
「お前が暴挙に出ないように隣で見張るんだよ!!」

 半ギレ状態のブラックが精一杯声を押し殺して怒鳴るが、クロウはどこ吹く風で「心外だ」とばかりに眉を上げる。

「俺がツカサを犯すと思っているのか。そんなバカな、お前じゃあるまいし」
「ほーう?」
「ツカサを犯す事は無いから安心しろ。というか、お前は今までオレのなにを見て来たんだ。これしきの事でオレが肉欲に負けるとでも?」

 それを言われるとブラックも弱いようで、ぐっと口をつぐんでしまった。
 まあ確かに、今までの事を考えたら、クロウが添い寝で理性を崩壊させて、俺に何かするなんて考えられないわな。
 白ニーハイと半パンをビリビリに破いて大興奮していた時だって、結局は俺を犯す所まで行かなかったし……ううむ、よく考えると凄いなクロウの忍耐力……。

「ブラック、お前も約束したのなら、男として引くべきだぞ。ツカサだって目の前でじっと見られていたら、眠れずに寝不足になるだろう。お前は、寝不足でフラフラのツカサを人前にだしたいのか?」
「ぐ……そ、それはちょっと…………ああもう解ったよ。……でもツカサ君、明日の朝はちゃんと正直に僕に報告してよ。隠し事はナシだからね」

 俺がフラフラな事の何が嫌だったのか、ブラックは急に物分りが良くなって、俺にしっかりと注意をするとさっさと部屋に戻ってしまった。

「な、なぜ急に……」

 クロウに抱っこされたままクロウの部屋に入る。
 すると、クロウは俺をベッドに降ろしながら、当然とでも言いたげに答えた。

「ツカサは普段から襲いやすそうなのに、フラフラしてたら余計に襲われる確率が高まるからな。最近のツカサはオスの視線に気を付けているから偉いが、フラフラになるとそうもいかんだろう」
「そ、そういうモン……?」

 いつもそう言う系の事を二人には言われるけど、実際に俺をいやらしい目で見るような気配なんて殆ど感じないから、実感がわかないんだよなあ……。
 そりゃ下卑た事を言われる事はあるが、直接近寄ってくる奇特な奴とか、冗談で俺を可愛いとか言ってる奴がわりと居るくらいで……いや、待てよ……それか? そう言う奴らの事なのか……?

 俺的にはからかってるんだと……って、そういう意識がダメなんだって二人にめっちゃ怒られたんだったな。アレは本気だって事らしいし、だから俺もなるべくは自意識過剰に身を慎むようにしてはいた訳だが。

「ツカサ、何を考えている。もう寝るぞ」
「あっ、う、うん」

 明かりを消されて、俺はベッドに潜り込む。
 ……そういえば、クロウの部屋に来たのは久しぶりだな……。
 ふと気付いて鼻を動かしてみるが、シーツは人が使ったようなにおいはしない。クロウが寝る時には、いつも熊の姿で敷物の上に丸くなってるって話だったから、部屋が割り当てられてからはベッドではあまり寝てなかったのかな。

「…………」

 そう考えると、何だかクロウの部屋の「におい」がどんなものなのか気になって、俺はちょっと空気を嗅いでみた。……なんだろ。なんか……不思議な匂いだ。
 変だとは思わないけど、嗅いだ事が有るのに思い出せない……。しいて言えば、何かの生き物のにおいがするんだけどなあ。

「ツカサ……オレのニオイが気になるのか」

 鼻を動かしているのに気付いたのか、背後からクロウが問いかける。
 知った相手だからか特に危機感も無くて、俺は頷いた。

「ん……いや、なんか不思議なニオイだなーって」
「臭いのか?」
「ううん。嫌な臭いじゃないけど……なんだろなあ……ケモノっぽいにおいとかでもなくて、でも人のニオイって感じでもないっていうか……」

 背後から問いかけられて素直に答えつつ、ふんふんと嗅いでいると。

「なら、直接嗅いでみれば良い」
「え? う、うわっ」

 そう言うなりクロウは俺の体を引っ掴み、いとも簡単にくるりと返して自分の方へと引き寄せてしまった。薄暗い空間とは言えど、間近にあればさすがに、夜目の効かない俺でも相手の体の形は理解出来てしまって。

 だけど、その目の前に有る胸板や太い首、俺を捕まえている逞しい腕が、いつも自分を抱くものではないと理解してしまうと……何だか、物凄く恥ずかしくなって。

 ……いや、普通、こう言う時って違和感とか拒否感とか覚えるものだと思う。
 俺だってそれは解っている。だけど、ブラックの体ではない事と、それがクロウの体である事を理解してしまうと、嫌悪感や拒否感よりも先に、何故か強烈な羞恥を覚えてしまって。固く僅かに膨らんだ鍛え上げられた胸板や、ブラックの腕より太い腕が視界に見えてしまうと、異様に心臓がドキドキしてたまらなかった。

「ツカサ、オレはどんなにおいがする?」
「え……ぁ……」
「人族がニオイで相手を判断するという話はあまり聞かんが……オレと同じように、ツカサもオレのニオイを覚えてくれると嬉しいぞ」
「……そんなもん……?」
「ああ。獣人にとって、好きな相手のニオイは何物にも勝る“良い匂い”だからな。ツカサにもそう思って覚えて貰えたら、オレはとても嬉しい」
「そ、そうなんだ……」

 におい……。
 そ、そうだな。クロウがどんなニオイなのかって方向に集中していれば、すぐに寝られるかもしれないし、何より変にドキドキしないで済むぞ。
 とりあえずこの健全な雰囲気を保たなくては。
 そう思い、俺は少し見上げる位置にあるクロウの顔を見ないようにして、鎖骨の辺りだけを凝視してニオイに集中した。

 ……いや、その……顔を見たら余計にドキドキするし、他の部分をみちゃったら、ブラックの事思い出して悪循環になりそうだったから……。

 だけど、そんな俺を知ってか知らずか、クロウは。

「もちろん、オレにとってはツカサの全てが、誰よりもいい匂いだ……」
「っ……」

 鼻先が、頭のてっぺんに触れる。
 それから、クロウの顔が髪の中に埋もれて、すうっと頭皮が冷たくなって、すぐに温かい息で熱くなった。深呼吸レベルで、頭のにおいを深く嗅がれてるんだ。
 ちょ、ちょっと、それはやばいって。
 獣人なんてかなりの嗅覚なのに……。

「く、クロウ……っ」
「寝るまでずっとお前の良い匂いを嗅いでいられるなんて、信じられない程の幸福だな……。ああ、しかし……なんて美味そうな匂いなんだ……」

 クロウの声が、段々と下に降りてくる。
 高い鼻が、唇が、さわさわと髪の間を通って、下へと。
 反射的に身を縮めようとしたけど、その前に顎を取られて持ち上げられる。
 枕との隙間が空いたその場所に、顔が入り込んで……クロウの唇が、俺の耳の端を柔らかく食んだ。

「んっ……!」
「ブラックはいつも、ツカサの柔らかい体をこんな風にいいようにしながら寝ているのか……。羨ましいな……」

 耳を食んで、舌で裏側を撫でながら、軽く吸って来る。
 たかが耳の端っこなのに……俺は、簡単に反応してしまって。

「っ、ぁ……ま、って……」
「美味いな……それに……柔らかい……」
「ふあぁっ!? やっ、だ、だめ……そこ揉んじゃやだ……っ!」

 耳を舐めたり吸われたりされているだけでも大変なのに、その上クロウは俺の尻を大きな手で掴んで、もどかしいくらいにゆっくりと揉んできて。
 まるで味わうように指を食いこませて、何度も何度も片方の尻肉だけを揉むもんだから、大っぴらに反応も出来なくて俺は歯を食いしばるしかなくて。

 なのに、クロウはちっとも止めてくれない。

「ンン……。やわい……おいしぃ……ツカサ……しあわせら…………」

 あ、あ……待って、声がとろんてしてる。
 このまま寝ないでよクロウ、こんな事しながら寝られても困るんだってば!

「クロ、ぅ、だめ……ちょっと、まって……!」

 駄目、このまま寝たら駄目だってば。
 せめてお尻揉むのをやめるか、耳をしゃぶるのをやめて……!

「クロウ、ね……クロウったら……!」
「ング……ゥ…………グゥ……」
「クロ…………って、寝てるぅう!?」

 ま、待って、待ってよ、手がまだ揉んでんですけど、耳もぺちゃぺちゃ聞こえてるんですけど! なんで、ねえ、何で寝てるのに手も口も動いてるの!?
 つーか俺の耳をおしゃぶり代わりにするのはやめてくれえええ!!

「っ、だ、め、だめだって……! ね、起きて……起きてってばぁ……っ」

 う、うう、やだ、これじゃ寝れないよう……なんでこんな事に……。

 何とかして必死にクロウを起こそうとしたけど、がっちりとホールドされていて俺は動けないし、クロウの口も手も俺から離れてはくれない。
 寝ているはずなのに、どうしてこんなに力が入ってるんだよ!

「はっ……ぁ……ば、か……も……ばかぁあ……!」

 確かに犯しちゃいないけど、これもこれで充分にセクハラなんですけど!!

 そうは言えど、相手はもう眠りの淵に落ちてしまっている訳で。
 ……結局、俺は強制的に意識が落ちるまで理不尽に身悶えるしかなかった。










※約束通りえっちなことはしてないクロウだった
 
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