異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編

33.すてきな観光地をつくろう!―湖浄化作戦1―

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 添い寝の約束を必ず果たすと言われたクロウは、そりゃあもう機嫌がよかった。どのくらい機嫌がいいかと言うと……大工さん達の力だけなら、何ヶ月も掛かったであろう各建物の土台を……ほぼ完成の所まで持って来てしまうくらい……。

 …………うん、おかしいよね。俺もおかしいと思う。
 あとは屋根を乗せるだけっていうレベルに造り上げるのが一日だけって、本当に夢でも見てるんじゃないかってくらいだ。

 でも、これはまぎれもない現実であり、レンガの壁はいくら叩いても崩れないほどにしっかりと積み上げられている。ふと思いついて曜気を確かめてみると、不思議な事にレンガ一つ一つにぎゅっと土の曜気が詰まっていて、明らかに他の建物とは様子が違っていた。

 他の家のレンガは、普通の土で作られた物って感じなのに……クロウが曜気をたっぷり使って組み立てたレンガの壁は、こんなにがっちりしてるなんて……。
 ホントに限定解除級レベルの曜術師は凄いんだな……。

 ブラックも炎と金の属性はそれぞれ限定解除級って言ってたけど、良く考えたら俺の周りはすげー曜術師ばっかり居すぎて、他の人の曜術なんてほとんど見た事がなかったから、どんなレベルで凄いのかあんまり解らなかったんだよな。
 今更だけどびっくり仰天だわ。流石この世界で言う所のS級魔法使い……。

 でもまあ、クロウのお蔭で大幅に準備期間も費用もカット出来たし、その功績に免じてかブラックも渋々添い寝を認めてくれたし、穏便に済んだから良し!

 いや、よくねえなコレ! なんか良く解んないけどモヤモヤするぞ!
 俺が認めちゃったのも悪いと思うけど、なんかこれ俺が抱き枕扱いされてね?! 完全に物品的な受け渡しされてるんだけど、どうなんだろうねこれ!
 ブラックとクロウの場合は傍若無人いつものことだから仕方ないけど、これ他の奴がやったら間違いなくおまわりさんを呼ぶべき案件だからねほんと!

 ……ええと、まあ、それはそれとして。

 大幅に工程が短縮されたので、大工さん達の数人が他の準備を手伝ってくれる事になった。この世界の大工さんは、建築を生業なりわいとしているだけあって、道の舗装や外壁の補修、そして塗装なども楽々こなしてくれる。

 その見事な仕事っぷりは俺達の世界の大工さんとあまり変わりはないんだけど、しかしここはファンタジー世界だ。
 欠けたレンガには謎の液体に漬けた欠片かけらを張り付け補修し、塗装もペンキではない、ニスかハッカか判断のつかない微妙な香りのする謎の液体を、ハケでぺそぺそと塗ってせた色の壁を元の鮮やかな色に戻していた。

 ……普通、ペンキ的な物って塗り直すとかじゃなかったっけ……。
 この世界ではそういう事を考えるのは無駄だと解っているが、色々と俺の常識外の事が起こってしまうと、逐一ちくいち目を疑わずにはいられない訳で。

 異世界のアレコレって見るのは楽しいけど、段々と自分の常識と剥離していくと精神が疲れて来るのが難点だな……驚き過ぎてもう疲れたよぅ……。

 ラスターが言うには「資金が潤沢にあるから、補修する為の資材を購入できた」とのことで、あの液体が一般的でない事は解ったが、やっぱりこうも簡単に色々と直せる世界だったら、進歩が無いのもある意味当然の事なのかもしれない。

 それはともかく、念願のマジカル建築も見たので満足した俺は、遊技場が出来るまで他の場所でお手伝いでもしようかと、大人三人を連れ立って歩いていたのだが……湖の所で面倒な場面を発見してしまった。

 その面倒な場面はと言うと。

「だーかーらー! カレンドレスの花粉をどうにかしなければ、風呂には水が引けないと言っているだろうが!! お前はアホか!?」
「お前こそアホだろ! 花粉は熱すると効力を失うんだから、一度水を沸騰させて冷ましてから流せば問題はないと言っている!」
「だからそのわずかに覚ました時に花粉が復活したらどうしたらと……」

 …………ああ、あの二人は……ペッテリさんとダニエルさん……。
 湖のほとりで何をしているのかと思ったら、また風呂の事で喧嘩してたのか。

 ペッテリさんはどうしても間近に有る湖を使いたいらしいが、ダニエルさんが憂鬱ゆううつ花粉を心配してかそれを許可してくれないらしい。
 まあ、カレンドレスをウリにする以上駆除する訳にもいかないし、対処法は解っているとは言え、それが番人に通じる訳じゃないからなあ。やっぱり、あの花粉はどうにかしないと駄目なのかな。

「おい、お前ら何を騒いでいる。喧嘩をする暇が有るなら、他の村人達と共に周囲の草むしりをせんか」

 おや、いつの間にかラスターが二人を止めに行ってるぞ。
 さすがは騎士団長……調和を乱す奴は放っては置けないって事か。

 ブラックとクロウは「ええ、首を突っ込むの……?」と思いっきり嫌そうな顔をしていたが、俺は二人の背中をバンと叩いてペッテリさん達に近付いた。

「ペッテリさん、ダニエルさん」
「ああ、ツカサさん……すみません、こんな所でまでお恥ずかしい所を……」

 しっかりもののダニエルさんは眼鏡をくいっと上げて軽く頭を下げる。
 ペッテリさんもバツが悪そうな顔をして頭を下げたが、俺の後ろで面倒臭そうにしている中年どもと比べたら、自分を恥じて反省するだけ大人だよ。
 だけどあまり突っつくと話が長引きそうなので、俺は話を切って話題を変えた。

「えっと……憂鬱花粉の話? やっぱり気になるんですよね」

 俺が問いかけると、仁王立ちで腕を組むラスターを真ん中に挟んで、二人はそれぞれ何とも言えない顔をして頷く。

「はい……名物になる事は解っているのですが、どうしても不安で……。私は妻と子供がおりますので、子連れ客の立場になれば、自殺願望を誘発するような存在がいる場所になど、大事なものを連れていけないと思いまして……」
「……俺は、その……資材や費用の面から見て、湖から水を引くのが一番確実だと思ったんです。だから、あの花粉を無害化する策も考えたんですが……」

 それぞれの言い分を聞いて、ブラックは呆れたような声を出して頭を掻いた。

「なるほどね、経済面対安全面か。確かにどちらにも真面目な言い分があるみたいだけど、普通そう言うのって喧嘩じゃなくて真っ当な話し合いが必要なんじゃないかい? 別に解決不可能な問題じゃなさそうだし……そう喧嘩腰になっていたら、成るものも成らなくなると思うんだけどねえ」
「う……」
「お……おっしゃる通りです……」

 ブラックの言葉に、怒りでヒートアップしていた二人は落ち込んで小さくなってしまう。まあ、ブラックの言う事は確かにそうなんだけど、本当にコイツは言葉を優しくぼかす事を知らないんだからなあもう……。でも、いつも喧嘩してる二人なんだから、このくらい言った方が良かったのかな?

「ダニエル、お前は湖の水を引く事自体は反対ではないのだな」

 ラスターの言葉に、ダニエルさんは深く頷く。

「はい、安全が保障されれば……」
「だがお前は、風呂の水をどうこうと言う前に、この湖自体の安全面に不安が有ると言っている。ならば、仮に風呂を沸かす水が無害になっても、お前の不満は消えないのではないか?」
「……その、通りでございます……」
「ふむ……問題は根深いな……。だが、湖自体を熱する訳にもいかん。……どうにかして、人が花粉に触れないようにすることが出来ればいいのだが」

 ラスターの思わしげな言葉に、俺ももっともだと頷いた。
 そうだよな、結局あの花が有る限り、大惨事が起こるかも知れないって言う不安は居座り続けるんだ。人に愛される観光地にするのなら、やっぱし花粉は大きなネックだよな……。

「花粉自体をどうにかする策はないのか?」

 クロウが耳を動かしつつ首を傾げるが、ペッテリさん達は頭を振る。

「俺達は温めれば無効って事ぐらいしか知らないんですわ……。あの花粉は、光ってるからでっかく見えますが、実際は砂粒程度の小さいモンなんで、出現したら掬ってポイなんて事も出来ませんし……」
「掴む事は出来なくないんですが……いかんせん数も多いし、それほど細かい網となると高価になるので、私達にはとても購入できません……」
「うーん……」

 確かに、カレンドレスの花粉はかなり細かいんだよな。
 光ってるから捕まえ易そうにみえるけどそうでもないし……そうそう、アク抜きの時だって、小麦粉が無ければ花粉が抜けたかどうかすら…………。

「あっ、そうだ」
「ん? ツカサ君どうしたの?」

 横から覗き込んでくるブラックに、俺は視線だけを寄越して小さく頷く。
 自分でも驚いたが、今急にカレンドレスの花粉をどうにかする方法を思いついたのだ。いやもう、本当に、急に。ピンと来たって多分こう言う感じだ。
 おっと、俺ってばもしかして天才……ってそれは置いといて。

「あの……ちょっとご相談があるんですけど……」

 ペッテリさんとダニエルさんを手を振って招いて、俺は内緒話をするように声を潜める。俺の様子に何か感じる物が有ったのか、円陣を組んで話を逃さないようにする大人達を見ていると、ダニエルさんが不思議そうに問いかけて来た。

「相談とは……なんです?」
「ちょっと、あるを湖に放つ許可を貰いたいんですけど……」
「ほう? そのモノとは……?」

 一斉に目を丸くして俺を見やる大人達に、俺はニヤリと笑って――――
 その、“あるモノ”の名前を告げた。










※次ちょっとセクハラです。モンスターとか。
 
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