異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編

31.すてきな観光地をつくろう!―建設準備―

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 大人は「好きな事を仕事にすべきではない」と言ったり「仕事を好きになれ」と言ったり色々と忙しいが、それでもやっぱり俺は自分の仕事に誇りを持てる、清廉潔白な職人が一番格好いいと思う。

 汚い事をするなとは言わないし、俺の父さんだって「あああずる休みしちゃったあぁあ」なんてころげ回ったりしてたから、時にはそう言う事も大事なんだろう。
 でも、見てる分にはやっぱり自分の仕事を好きでやってる人が一番格好いいし、俺も憧れるなあって思う訳で。なるべくそう言う人を目標にしたいもんだよな。
 まあ、誰だって「嫌々仕事してまーす」なんて言われるの嫌だとは思うが。

 そんな訳で、俺はわりと物を作る人の仕事を見るのは好きだ。
 ガキの頃は各種乗り物の運転手に憧れたし、婆ちゃんの田舎に住んでる農家の兄ちゃんにでっかいトラクターに乗せて貰った時には大興奮して鼻血を出したもんだったが、やっぱ大工さんも格好いいと思うんだよな俺は!
 でっかい建物を作る人っていうのは、なんであんなに格好いいんだろうか。

 なんかこう……ロマンを感じるよな、ロマン!
 俺の打った釘一つ一つがこの建物を支えてるんだ……っていうロマン……!
 出来る事なら俺もそれを感じてみたい。

 この世界に巨大クレーンがあったら間違いなく動かさせてくれと頼みこんだのに、ここはロボと魔法の世界ではないから本当に悲しい。
 俺だって、巨大なブツを動かしたい欲は人並みにあるんだからな……男はいつだって心に少年を住まわせているんだ。だからそう言う夢は持ってていいのだ。
 それに俺は未成年だからまだそういうのはセーフなはず……っ。
 ……いや、そういう話では無くて。

 とにかく、大工さんは格好いいのだ。
 だから今日は朝から大興奮で起きて、ウキウキで朝食を作って、今日から始まる計画に胸を躍らせていたのだが……。

「あああぁ……そうだった……。あれじゃん……まずは空き家を壊さないと始まらないんじゃん……!!」

 そう。
 浮かれててすっかり忘れていたのだが、モノを作るには何かを壊す必要がある。
 以前のトランクルも、娼館や賭博場などを壊して、新たに民家を建設したのだ。と言う事は……以前の景観を取り戻すためには、今居座っている空き家を壊して、元の土地を改めて更地にしないといけない訳で……。

 「今日から始める」って事は、そう言う事ですよねえ!
 ああそうだよね、工事ってそういう所から工事なんだよねえええ!

 そんなワケで、ウッキウキで見に来た工事現場は……今まさに空き家の壁を崩し始めましたという地味な光景でしかなかった。
 その解体作業ってのも、爆誕で爆発させてドーンとかでっかいハンマーでガーンとかって言う方法が無いので、地道に手持ちの道具で静かに壊すしかない。
 粉塵ふんじんが舞う事が無いのは偉いと思うが、それにしても地味な作業だった。

 ……あと、そう言えばリバイバルさせる建物も煉瓦れんがの館だったなと思い出して、暗澹あんたんたる気持ちになる。煉瓦の家って、木造建築みたいに何かを組み合わせて徐々に建てるんじゃなく、地道に煉瓦を積み上げて作るんだよな……。

 勿論強化とか補強とかはするんだろうけど、しかし、ある程度の形になるまではかなり地味な作業のはずだ。
 もちろん、煉瓦を正確に並べて漆喰しっくい石膏せっこうを均等に塗る作業は職人でなければ上手く出来ないだろうし、それは凄いと思うけど……いや、ごねるのはよそう。俺が勝手にウキウキしたのが悪かったんだ。
 地味でもこの作業は大事なんだ……とは、思う物の……。

「そうかぁ……今日は解体作業かぁ……」
「ツカサ君いやにガッカリしてるね」

 作業を遠巻きに見ながら呟く俺に、ブラックは不思議そうに目をしばたたかせる。
 ブラックは俺とは違ってこういうのにワクワクしないので、何にガッカリしてるのか理解出来ないようだ。
 クロウとラスターも、俺の落ち込みように不思議そうに首を傾げていた。
 おい、お前ら全員ロマンの欠片もねえのか。

 俺が少数派みたいじゃねーかとちょっとイラッとしたが、興味が無い物なんてのは人それぞれなんだから、怒っていても仕方ない。
 聞こえない程度の溜息を吐くと、俺は微妙な笑顔で頬を掻いた。

「いや……館を建てるのはまだだったんだなあって思って……」
「ああ、まだ空き家が残っていたからな。これを全部崩してしまってからだ」
「そっか……」

 ラスターは当たり前のように言うが、やっぱりみんなそこは抑えてたのね。
 ううん……舞い上がった俺がやっぱりバカだったんだろうか……。
 思わずしょぼくれていると、クロウが俺の顔を覗き込んできた。

「ツカサは館が建つ所が見たかったのか?」
「う、うん……異世界の建物ってどんな風に建つのかなって思って……」

 ボソボソとクロウに言うと、相手は少し考えるようにあごに手を当てて空を見たが……何やら熊耳をぴこんと動かして、俺の肩を叩いた。

「わかった。ツカサが喜ぶならオレがなんとかしてやろう」
「え?」

 なんとかするって……なにを……?

 ブラックとラスターもクロウの真意が解らないのか、俺と一緒にキョトンとしていたが、相手は無表情ながらも自信満々に頷き、解体現場へと歩いて行った。
 何をするのだろうかと思っていると、クロウは現場監督みたいな人に話しかけて、なにやらゴニョゴニョと喋っている。

「あの駄熊、何を考えてるんだ……?」
「ふむ……解体に関してなにか思う所が有るのか?」

 ブラックとラスターの声を聴きながら、しばしクロウを追っていると――現場監督みたいなおじさんが、急に姿勢を正してペコペコお辞儀をし出した。
 そして、何が起こったのかと思う間もなく急に作業員を撤収させたのだ。

「えっ!?」

 これには三人同時に驚いてしまったが、クロウはこちらを振り返って、何事も無かったかのようにコクコクと頷く。
 一体何を考えているんだろうか。
 思わず近付こうとしたら……クロウの周囲に橙色の光が集まり始めた。

「あの獣人……こんな所で曜術を使うつもりか……?!」
「えっ、曜術? ツカサ君そうなの?」
「う、うん、橙色の光が集まって……ってことは、土の曜術……?」

 ラスターは「気の流れ」が読めるので、何の曜術かは解らないがとりあえず相手が術を発動しそうだと言う事は理解出来たのだろう。
 俺は普通にチート能力で見えてるので、この場でブラックだけがクロウの曜術を認識できないと言う訳だ。まあ、本当ならブラックの方が普通なんだけどね。

「しかし、こんな場所で曜術……しかも土だと? ……ハッ、どうする気なのだ」

 何をしようとしているのか理解したのか、ラスターが途端に嘲笑し始める。
 そういえばコイツ、土の曜術師をバカにしてやがったな。
 このやろーそう言う所は全然変わってないんだから困るぞコラー!

「土の曜術なんだから、土を扱うに決まってんだろ! バカにすんなよ、クロウは凄い土の曜術師なんだからな! 黙って見てろっての、なあブラック!」
「えっ、僕?! う、うん」

 だろ! ブラックはクロウの凄い術知ってるもんな!

 ラスターめ、目にもの見せてやるわ……って、曜術を今から発動するのはクロウなんですけどね!

 心の中でセルフツッコミを入れながら、クロウの動向を見守る。
 俺達に背を向けて、解体途中の建物に掌を向けているクロウは、体の周りにどんどん明るくて温かそうな橙色の光を集めて行く。
 やがてそれは炎のように揺らめいてオーラのように沸き立って行く。

 こちらからは解らないが、おそらくクロウは何らかの詠唱を行っている。
 解体する為の建物に向けた手から、じわじわと光が周囲に広がって行った。
 ――と、思ったら。

「――――――っ」

 一気に橙色の光が飛び散った、刹那。


 目の前の建物が――――
 一切の粉塵も撒き散らすことなく、一気に崩れ落ちた。


「…………え?」

 ちょっと、待って。
 崩れた? 一気に、静かに崩れた……?!

「ええええええ?!」
「なっ……ど、どういうことだこれは……!?」

 思わず驚く俺とラスターだったが、俺達が何か言うよりも先にクロウの所へ大工さんや現場監督がわっと駆け寄って行く。
 彼らの熱狂っぷりに思わず言葉が詰まってしまったが、ブラックは冷静にクロウのやった事を見ていたのか、ほうと納得したような声を出していた。

「なるほど、土の曜術の【ルイーナ】は、建物にも有効なのか……」
「えっ……あ、そっか、あの岩壁を崩した術か……!!」

 ルイーナと言う術は、確か亡者ヶ沼で見た覚えがあるぞ。
 毒沼をさえぎった岩壁を綺麗に崩すためにクロウが使ってた術だよな。

 そうか、あの術だったら一瞬で土で作られた物を壊す事が出来……いや待てよ、レンガは確かに土から造られてるけど、あれって土って言っていいのか?

「なあブラック、レンガって土の曜術で操れるモンなのか……?」
「普通は無理だね。だってほら、レンガって一度焼かれるだろう? だから微量に炎の曜気が含まれていて、操るのが難しいらしくてね。二級の曜術師でも自在に扱うのは無理なんだけど……あの熊公は規格外だから、ああもすんなり解体する事が出来たんだろうねえ」
「確かに……クロウは元々とんでもない能力を持ってたもんな……」

 みんなに囲まれて嬉しそうに耳をぴこぴこ動かしているクロウを見ながら、俺は今までのクロウの凄まじい曜術を脳内で振り返る。
 海の真っただ中で何度も尖塔を出しまくるわ分厚い岩壁を作るわ、なんだったら掴みにくいとされている土の曜気もすぐにキャッチしちゃうわ……階級を付けるとしたら、多分一級よりも上の限定解除級の曜術師なのでは……。

「獣人の分際で、なかなかやるな……」
「なんだその褒め方」

 この光景には流石にラスターも感心したみたいだが、やっぱり上から目線だ。
 ほんとどうしたもんかと思っていると、クロウがこちらに駆け寄ってきた。
 あっ、なんかものすっごく嬉しそうな雰囲気だ。

「ツカサ、見てくれたか」

 駆け寄ってきて嬉しそうに熊耳を動かすクロウに、俺はこくこくと頷く。

「凄いなクロウ……解体が一瞬で済んじゃうなんて……」
「ムフ。これで家が建つのが早くなるぞ。なんなら、オレが建ててもいいんだが」
「えっ」
「ちょ、ちょっとまて熊公。お前そんな事まで出来るのか?」

 これは予想外だったようで、ブラックも慌てて会話に入って来る。
 しかしクロウは別に驚きもせず、ちょっと嬉しそうな無表情で頷いた。

「オレの一族は土地柄そう言う事も叩き込まれている。図面と的確な指示と、後は補助さえあれば、二階建の洋館程度なら一日で作れるぞ」
「いっ、一日ぃい!?」

 お、おいおいおい!
 また三人で声がハモっちまったじゃねーか!!

 クロウ、お前なんつう特技を隠し持って……いや、今まで家を建てるなんて事がなかったから、喋らなかっただけなのか……。
 だけど、あまりにも凄すぎる特技じゃないですか。
 色々と必要とはいえど、しかし材料が完璧に揃っていたら一日で洋館が建つってどういう事なんですか……凄すぎでは……?

「土の曜術師は、極めればとてもすごいのだ」

 俺達の驚きに答えを授けるように、クロウはむふーと鼻息を噴き出しつつ、えっへんと言わんばかりに腰に手を当てて胸を張る。
 ちょっと可愛いと思ってしまったが、しかし、あまりにも現実離れした特技に、俺達はただただクロウのふんぞりかえった姿を凝視しているしかなかった。










※引き続きクロウが役得(´^ω^`)
 
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