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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編
30.すてきな観光地をつくろう!―チュートリアル―
しおりを挟むトランクルが復活するには、村人達のやる気が必要だ。
そう思ったからこそゴシキ温泉郷に彼らを招待し、今まで観光と勉強をみっちりやって貰ったのだが……なんだか、妙な方向に進んでいるような気がする。
というのも、昨日までヒルダさんに指導を受け、今日の昼前にやっとトランクルに帰って来た村長さんと村人二人が、異様に燃えていたからだ。
いや、燃えるのは良いと思うんですよ。ゴシキ温泉郷の凄さを存分に思い知って「よーし、おらが村もあんな風にすっぺ!」的なやる気に満ち溢れるのは、とても良い事だと思う。しかし、その情熱が溢れすぎるとヤバいというか……。
「保養施設としての宿は良い、それは賛成だ。しかし、風呂がただの広い風呂とはなんだ! だいたい、水はどうする。量も必要だが貴族と平民が同じ風呂に入ると言うのはあの場所だから許容されてるんだぞ! 分けるとすると大変だろうが!」
「観光名所が湖しかないんだから、保養施設として再起するほかないだろ! 風呂は湖から水を引けばいいじゃないか、熱するから花粉も問題ない!」
「万が一があるだろうがこのバカ!」
「なんだとこのクズパン頭、やってみなけりゃわからんだろ!」
……とまあこんな具合に「方向性は一緒なんだが細かい所で喧嘩する」みたいな事態になってしまっていて、自体はより混沌とした方向へ行ってしまっていた。
情熱が有りすぎると盲目になるって事なんだろうか……。
それでもまあ、話と言う物は続けていれば纏まるもので。
俺達に加え、体調が回復して参加出来るようになったセルザさんが、途中途中で外様的な意見を出して調整しながら、村人総勢で話し合い……その合間に、俺らやラスターが決定した事の為の資材を集めたり、途中でロクとイチャイチャしている内に話は徐々に固まり、村人達もやっと個々が納得できる意見に収束していった。
俺はみんなで何かを決めるっていうのは苦手だし、少人数でワイワイやってれば良いかと思うような性格なので、素直にこう言うのは凄いと思う。
自力でまとめ上げた村長さんとリーダー格の人達も凄いけど、数日にわたる議論を発狂せずにやりきった村の人達もかなりの理性的な大人だ。
なんだかんだで、大人ってもんはどこの世界でも凄いもんだよな。
……まあ、十七年しか生きてない俺からすれば誰だって凄いんだけども。
あと俺は社会のマナーとか知らんし覚えらんないし……いや、高校を卒業したら覚えるはずでしたよ。覚えるはずだったんですよ多分。
お、俺の話はいいな! 閑話休題!
とにかく話はまとまったって事だ。
で、結局のところどんな観光地にするかって事になったんだけど……。
「名付けて『だれでも王族気分! ワクワク保養地大作戦計画』です」
「ほ……ほう……?」
村長さんの執務室にお呼ばれした俺達四人とセルザさんは、ぴっかり頭が今日も眩しい村長さんの隣で鼻息を荒くする青年に声を漏らす。
彼は、俺達と一緒にゴシキ温泉郷で視察をした、景観保全派のリーダーだ。
褪せた藁色の髪に、強く輝く茶色の瞳という親しみやすい熱血お兄さん系の人で、名前はペッテリさんと言うらしく、セイフトの街で大工さんをしているんだとか。因みに、もう一人の景観改革派のリーダーはダニエルさんと言って、こちらは意外にも村役場の書記官をしている人である。ダニエルさんは薄紫色の大人しめの髪型に群青色の瞳の眼鏡青年だった。ちなみにこっちは結婚してるんだって。
俺としては、街に出稼ぎに行っている人の方が改革するもんだと思ってたけど、まさか役人が改革派だったとは。村にいるからこそって思いもあったのかな、ダニエルさん。人って解らんもんだね。
――ま、それはそれとして。
今、俺達は、視察お兄さんズの一人であるペッテリさんに「ついに計画が纏まりました!」と言われたので、村長さんの執務室に集まっているのだが……その計画と言うのがまさかの微妙な名前で、思わず全員が言葉を飲み込んでしまった。
いや、だって、そんな近所のオッサンが適当に考えた祭りの名前みたいな……。
「あっ、みなさん不安になってますね」
「無理もないぞペッテリ君……だからその名前はやめろといったのだ」
「村長さん待って下さいよ。ここからが良い所なんですから。まあ、みなさんも話を聞いて下さいよ」
ここからがって今から話し始めるところでしょ!
大丈夫かいなと心配になる俺達の前で、ペッテリさんは計画を話し始めた。
内容を掻い摘んで簡単に言うと、こうだ。
【だれでも王族気分! ワクワク保養地大作戦計画】とは……つまり、俺の世界で言う所の豪華リゾート施設みたいにしようって計画である。
母さんがよく見てるなんかマダムな雑誌とかによく載ってる、サウナだのスパだのエステだのが入ってる、俺とは無縁そうなリア充施設だ。
俺には何が良いのかさっぱり解らんが(飯が美味いなら温泉プールのがいい)、リラクゼーション施設とやらが有ると大人は行きたくなるらしい。
ただし、そのリゾートは一つの施設に留まらない。村全体をゴシキ温泉郷の宿のように、オールインワンの場所にしてしまうのだ……!
……って、それが元々の温泉郷なんじゃないかと思うんだが……まあ深くは考えまい。トランクルはそれほど大きな村ではないし、村人の住居が集まるエリア以外の土地をフル活用するとなれば、結局そう言う結論に行き着くからね……。
でも、ただゴシキを真似た感じにするんじゃないらしい。
宿に関しては過去の潤沢な資料を使って昔の宿を再現し、俺の世界で言う所の「レトロ」を演出しつつ、基本的に温故知新の方向でいくんだとか。
このファンタジー世界でレトロ推しってのはどうなんだろう……とは思ったが、トランクルの場合は“元・王族の保養地”という強力なカードが存在する。よって、最新の施設にするよりも当時を再現する方が良いとの結論に至ったようだ。
まあ確かに……誰でも過去の王族の避暑地に行けますよってなったら、そこそこ気になるしな。宣伝文句としては上出来と言った所だろう。
観光地というかアミューズメント施設の話になるけど、一貫したテーマで建物などを造ると、風景を見たいってだけで来てくれる人もいるからな。
だが、今回の場合はそれだけには留まらないのだそうだ。
ゴシキ温泉郷から許可を貰い、幾つかのおみやげを真似させて貰ったり、新たな遊興施設も作るんだって。賭博場も再現するらしいが、それはともかく。
そうなると……ちょっと面倒臭くなる気がするんだよな……。
「……なるほど、計画は解った」
鼻息荒いペッテリさんの計画を聞き終えたラスターが、額に手を当てている。
詳しい内容を聞いたセルザさんやブラック達も、みな何故か眉間に皺をぎゅっと寄せて、沈痛な面持ちになっていた。クロウまでそんな感じの顔だ。
……全員目を閉じて青い顔をしているのは何でだ。
何でみんな「あっちゃぁ~……」みたいな感じになってんだよ。
しかし「ここでその質問をしたら駄目だ。アホだと思われる」と俺の本能が告げているので、ぐっと堪えてラスターの次の言葉を待った。
すると、ラスターは眉間の皺を解しながらペッテリさんを見やった。
「ペッテリ、村人達の情熱は充分に解ったし、トランクルを復興したいと言う熱い気概も感じ取った。……しかしな、そこに生じる金や人員はどう賄う気だ?」
「はえ……?」
「うーむ……あのな、ペッテリ。まあ、建物の事などは私がなんとかするから良いとしても、そこまでの施設を運営するとなると専門の職人を呼ばねばなるまい? 王族の保養地を気取るのであれば、職人も当然一流の者達だ。給金は高く、相応の待遇を求める事も有るだろう。勿論、職人が満足する職場も必要だ。……となると、初期投資が恐ろしいことになるぞ。その金はどう賄うのだ? ラスター様は、そうおっしゃっておられるのだ」
ラスターの言葉を噛み砕いて話したセルザさんに、ペッテリさんは目を丸くして慌てながら両手を振った。
「あっ……そ、それはその、職人を必要とする場合は、その方を師範として迎え、村人に新たな職を与える事にしようと思っております。職人を雇う事自体はそう多くないので、領主さまが用意して下さった金額で充分賄えるかと……。ですが……その、遊興施設については…………」
「……ん?」
何故かペッテリさんがこっちをチラッと見た気がする。
なんだろうかと片眉を上げると、相手は照れくさそうな笑顔でエヘヘと笑った。
「えへ、そ……そのぉ……遊興施設に関しては……ラスター様とツカサさん達に、なんとか我々でも運営出来る物を考えて頂けないかと……。こう言うことは、我々より冒険者の方に考えて頂いた方がいいかと……」
「……そんな事だろうとは思った……。大がかりな計画を夢想するなとは言わんが、他力本願は情けないのではないか? まったく、ツカサは今……」
「あーっ! ラスター、大丈夫、大丈夫だからっ! ええと遊興施設だっけ!? 俺達は何をすればいいのかな!」
こ、こっちの都合はいいんですよ!
つーかお願いだから俺がえっちで衰弱してますとか言わないで!!
慌ててラスターの言葉を遮りながらペッテリさんに問いかけると、相手はちょっと嬉しそうな顔になって、俺達の前に図面を広げた。
「あ、あのですね、ツカサさん達には、宿の傍にあるこの区画に新設する施設に、子供でも楽しめる施設をお願いしたくって……」
そう言いながら示すのは、昔大きな宿が有ったと言う土地のすぐ傍に在る、少し広い土地だった。ペッテリさんが言うには、そこには軽食を楽しめる露店のような物と、雨でも子供達を遊ばせる事の出来るエリアを作ろうとしているらしい。
なんでも、これは子供達の要望だそうな。
……そう言えば、ゴシキ温泉郷には子供が楽しむような施設は無かったな。
あそこは元々冒険者や貴族が訪れる場所だから、子供用のおもちゃのお土産とかはあっても、基本的には大人向けだったし……なるほど、子供をターゲットにするのはとてもいいぞ。子連れの奥様とかも来やすくなるし、リゾート施設なら子供を預かる施設は付きもんだからな。
ここでゴシキとの差別化も図れるから願ったり叶ったりだ。
その事にはクロウも気付いていたのか、興味深げに熊耳を動かしながらふむふむと感心したように頷いていた。
「なるほど、子供の遊び場を作れば、子供も退屈せずに済む。……ここに家政婦やメイドを生業とする物を置けば、子供を預ける事も可能だな」
「そ、そうなんですよ! そうしたら、誰でも貴族様気分でゆったりと楽しむ事が出来ますよね!? 子供達も退屈しませんし……無論、子供を預かる係はこちらでちゃんと選定して用意しますので、これに加えて子供達を飽きさせない遊戯が何かあれば、完璧になると思うのですが……」
……多分、子供達を預ける場所が欲しいと言ったのは、奥さん方だろうな。
まあ俺達からしても、興味のない場所をふらふら連れ歩かれるのは嫌だし、そもそも遊び場も何もない保養地だったら、物凄くつまんないしな。
温泉もメシも大人が楽しみたいからと思って選ぶもんで、連れて行かれる未成年からすれば、メシが美味かろうが風呂が良かろうが、楽しさには全く関係ない。
大人の都合だってのにゲームコーナーもない宿に連れて来られても困るっつの。
だから、子供の為の施設ってのもアリだな。と言うか作ってやらねば。
となると……まあ、案が無いわけではないけど……色々用意が必要だ。
「まず施設がどういう建物になるのか見て見ないと解りませんが、お手伝いできる事は有ると思いますよ」
「ああっ、本当ですかありがとうございます! カレンドレスのテンプラだけでも充分にお手伝い頂いているのに、本当にすみません」
「いえ……乗りかかった船だし、なっ」
そう言いながらブラック達を振り向くと、クロウはムフーと鼻息を漏らしながら頷くが、ブラックは思う所が有るのか微妙な顔で小さく首を動かすだけで。
何だろう。具合でも悪いんだろうか。
「それより……まずは建物の配置と完成予想図だな」
「ああ、それはダニエルの方が模型を作ってくれています。これからその模型を元に話し合いをしますので、皆さまも是非」
「…………やっぱり……」
ペッテリさんの言葉に、ブラックがボソッと呟く。
あ、もしかして、これからまた話し合いになりそうな予感がしたから、微妙な顔をしてたのかな。まあそりゃそうだよな……ブラックは部屋の後ろで所在無げに壁に凭れてるしかない訳だし……。
だけども、参加して貰わなきゃ話にならん。
俺はブラックに近付くと、下から顔を覗き込んだ。
「ブラック、これは俺達全員の仕事なんだからな。お前もちゃんと話だけは聞いててくれよ? 自分が居たい場所に居ていいし、終わるまで隣にいるから」
無理に意見するなんて事はしなくていいので、とりあえず話は聞いててほしい。俺とクロウだけで話を聞くのも、仲間外れみたいで嫌だし……なにより……ゴシキから帰って来てから、なんか微妙に元気ないしな……。
心配だから、なるべく一緒に居たいんだよ。
そう思っていたのが伝わったのか、ブラックは口をごにょごにょと動かしたが、眉尻を下げて緩んだ顔でただ頷いた。
どうやら、酷く落ち込むところまでは行ってないみたいだ。良かった。
ブラックも大丈夫みたいだし、これなら話し合いも参加できるだろう。
ということで、俺達は村人達に混ざり、ダニエルさんが作ったと言う模型の完成予想図を元に交わされる議論を数時間ほど拝聴する事になった。
話し合いは色々と白熱していたのだが……それを振り返ると長くなるので、取りまとめて言うと、街の景観に関しての事は今回で決着したようだ。
しかしそのお蔭で色々と問題も出てきたようで、村人達はまた頭を悩ませる事になってしまったようだが……それはそれとして、村の建物に関しては明日から工事を始める事になった。
昔の地図や建物の図面が残っていたから、すぐに始める事が出来るんだって。
「ふむ……明日から建物をつくりはじめるのか」
ブラックと共に後ろで話を聞いていたクロウが、なんだか思わしげに呟く。
「どうかしたのか? クロウ」
隣の長身を見上げて聞くと、相手は片耳を動かして己の顎に手をやった。
「いや、大工を集めるのはいいが、その中に曜術師がいるのかと思ってな」
「……? 曜術師がいないとダメな事が有るのか?」
そう言えば、この世界ではどうやって家を建てるのかは知らないな、俺。
大工さんがいるって事は、建築自体は俺の世界とそう変わらないと思っていたんだけど……曜術師が必要ってどういうことだろう。
不思議に思っていると、クロウとは反対側にいたブラックが答えてくれた。
「家を建てる時は、土の曜術師の力がいるんだよ。土台を精確に開けたり、支柱を支える為の混ぜ物の粘土を一気に固めたり……まあ、二級三級程度だと、そういう感じだね。地味だけど、土の曜術師が居るのといないのとでは建物の耐久具合が違ってくるから、面倒でも呼んだ方が良いんだよ。でも、一級以上の曜術師なら、地味な仕事にはならないんだけどね」
「へー……」
なんだろ、掘削機とかコンクリートミキサー的な働きをしてくれるのかな?
よく解らんが、そういう部分をきちんとやってくれる人が居たら、ミスが少なくなって耐久度はぐんと上がるよな。
凄いな土の曜術師。
以前、ゴシキ温泉郷で土の曜術師は地味だし使えない曜術師だと聞いたけど、やっぱり土属性は強くて実直な縁の下の力持ちじゃん。
土の事も解るし、何より基礎作りを担ってるんだし!
敵を攻撃できるほどに大地を扱えるのはほんの一握りらしいが、クロウの能力をみたら、土の曜術師をバカになんて出来ませんて。
何たって、島一つ作っちゃうんだからクロウは。コレを他の術師も出来ると言うなら、土の曜術師ってレベルさえ上がれば実は最強なんじゃないかって気もして来るが……それは言い過ぎかな。クロウのは規格外の能力らしいし。
あ、でも、そうか。
そういや俺クロウ以外の土の曜術師にも会った事無いんだっけ……。
よし、だったら明日は建物を建てる現場を見に行こう。
どんなファンタジー建築方法になるのか楽しみだな~!
「ツカサ君、ツカサ君?」
「また何かに気を取られてるな。ツカサは本当に危なっかしいな……」
え? なに?
なんか言いました?
→
※次はクロウが土の曜術師として大活躍な回です\\└('ω')┘//
ペッテリとダニエルは名前だそうだそうと思ってたんですが
先にツカサの方の話を消費したかったので入れる隙間がここしかなかった…
いまさら容姿と名前て('、3)_ヽ)_
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