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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編
大切な人の大切なこと2
しおりを挟む「そ、それより、その……食べないと…………」
「あっ、そうだね、溶けちゃうもんね! せっかくツカサ君が僕のために! 僕のために作ってくれたのに!!」
「二度繰り返す意味あったか今」
ツッコミを入れたが、ブラックはどこ吹く風で。俺を抱き締めたままテーブルへと引き摺ると、俺を抱え上げて椅子に座った。
……ああ、当然のように膝抱っこされてる……。
「ぶ、ブラック……」
「ん? なぁにツカサ君」
「あの、この状態で固定すんの……?」
「だってイチャイチャするって言ったじゃないか。それなら、遠慮なくツカサ君を堪能しないとね~」
語尾にハートマークでも付きそうな程の上機嫌さで肩を揺らしながら、ブラックは自分の方へとお盆を寄せる。
アイスクリームはまだ溶けてなかったが、液体になられても困るので、仕方なく今の状況を我慢する事にした。
ま、まあ、膝抱っこだって、何度かされてるし……。
「そんでツカサ君、これ別々に食べていいの?」
「あ、うん。一緒に食べろって訳じゃないし。ブラックの口に合わなかったら、別々に食べて良いから。……あと、俺が酒を飲ませてやるってのは無理だぞ。絶対に零すしもったいない」
ねだられる前に釘をさすと、ブラックは少しソレを期待していたのか、ぎこちなく笑いつつ俺の目の前にあるアイスにスプーンを刺した。
「じゃ、じゃあこっちお願いしようかな」
そう言いながらデカンタに入った琥珀色の酒をコップに移し、背後で煽る。
ごくり、という音が耳元で聞こえた気がして息を呑むと、酒のにおいがする息が生温い温度で俺の頬にかかった。
「ふー……そう言えば、晩酌も最近ご無沙汰だったなあ……」
「そ、そっか……。ええと、じゃあ……食べる? アイス」
「うん! ツカサ君こっちむいてー」
自分が真正面に座らせたのに、今度は俺の腰を持って俺をくるりと横抱きにする形に動かす。そうすると左側にブラックの顔が見えるようになって、俺は何だか妙に居心地が悪くなってきた。
いや、その、ブラックが嫌とかじゃなくて、なんか凄くざわざわするというか。
「ツカサ君、早く早く。口の中の酒がなくなっちゃう」
「わかったわかった! えっと……じゃあ……あ、あーん……?」
スプーンで少し柔らかくなったアイスを掬い、下に手を添えてブラックに持って行く。高い位置にある口に少し腕を伸ばすと、ブラックは無邪気に喜ぶような顔をしてアイスをスプーンごと口に含んだ。
ブラックの口が動いた感触が、スプーンを通して軽く伝わってくる。
普段はあまり気にしてなかったけど、こうやって人に食べさせると言う行為って、よっぽど親しい間柄でないと出来ないんだよな。……そんな事実がじんわり頭に染みて来て、俺は段々と恥ずかしくなってきた。
自分でやろうと決めた癖に、いや、そう決めたからこそ、今やっている行為が「恋人達で行うこと」だと自覚してしまい、凄く居た堪れなくなってくるのだ。
それを、女の子とかじゃなくて俺が……可愛い女子にじゃなく、ムサいオッサンにやっているというのが……何かもう、なんか……なんかもう!!
「ん~~! おいひぃよ~ツカサ君~! ラム酒とアイスクリームって物凄く合うんだねえ……! これ、もうかけちゃった方が美味しいんじゃないかな?」
「えっ、え? そ、そうなの?」
あ、でも、確かに父さんがそんな事してたかも。
夜中に起きた時に偶然見かけたんだけど、父さんがカップ入りのバニラアイスをこっそり買って来てて、そこに酒をどばどば入れてたんだよな。
カラメルがけっぽくて凄く美味そうだったから「俺にもちょーだい」って言ったんだけど、酒がかかってるからダメって言われて悔しかったのを覚えてるわ。まあその後アイスもう一個買って来て貰ったけど。
そうか……アイスに酒を掛けると美味いのか……。
でも、酒の種類にもよるのかな? うーん、俺は呑んじゃ駄目だから解らんぞ。
「アイスの真ん中に穴をあけて、ちょっとだけ浸るくらいに……。よし! ツカサ君、また食べさせてっ」
「はいはい」
酒を少し入れてアイスを刳り貫きブラックの口へと運ぶ。
どんな感じだろうかと相手の顔を見上げていると……ブラックは目を笑ませて頬を紅潮させながら、蕩けそうな顔で口をもごもごさせた。
「んんん~~~! んん~」
「うまい?」
「ん、ん!」
そんなにでれでれな顔になるって事は、かなり美味いんだろうか酒とアイス……ぐう、羨ましい……俺だってこの世界では酒が飲める年齢なのに、なんでブラックは俺に酒を飲むなって言うんだろう。
俺ってそんなに酒乱なのかな……全く覚えてないから物凄く悩ましい。
美味そうな顔を見せられて自分だけ味わえないなんて、結構な拷問だよ。
「ツカサ君はやくはやく」
「わーってる! ……ったくもう、人の前でうまそうに食いやがって……」
「ん? 食べたい?」
スプーンをもごもごさせながら言うブラックに、俺は口をへの字に曲げたが……やっぱり食べたかったので、素直に頷いた。
そんな俺にブラックは少々困ったように顔を歪めたものの、すぐに気楽そうな顔に切り替えて、俺の手から優しくスプーンを奪い取った。
「まあ、一口だけなら……いいかな? 流石にスプーン一杯だし、部屋の中だし」
「んん……?」
よく解らないが、何だか食べさせてくれる気になったらしい。
ブラックは慎重にラム酒を避けてアイスだけを取ると、俺の方へとスプーンを持って来た。この展開は……。
「はい、ツカサ君! あ~んっ」
……おい、語尾にハートマークを散らすな。
オッサンに食べさせて貰って誰が嬉し……お、俺は嬉しくないからな!? これはブラックが喜ぶって解ってたからやっただけで、ブラックに“あーん”されて俺が喜ぶとかそういうのは無いから! 恋人だからってそれは違うから!!
「ツカサ君顔真っ赤で可愛いねぇ……ふ、ふふ、ツカサ君嬉しい……?」
「うううう嬉しくない! ああもう食べりゃいいんだろ!!」
「でへへ、かわいいなぁ……。ほら、僕のスプーン、ちゃんと咥えて……」
「変な言い方すんな!」
だあもう食べればいいんだろ!
このままだとまた変な事を言われると思い、俺は目の前のスプーンに食い付いた。
「ん゛……っ」
冷たさと共に、甘く鼻に突き抜ける酒の味が口腔に広がる。
甘くて冷たいはずなのに喉を通る液体は熱くて、腹に落ちると妙に体がジンジンとして来た。……ぶっちゃけ、味が良く解らない。
アイスクリームが甘くて、なんか別の甘さも有ったような気もしたけど……お酒の独特のにおいとアルコール分のせいで、カーッとする感覚しか解んないぞこれ。
うーん、やっぱ俺、お酒はまだ早いのかな……。
「美味しかった?」
「う、うん……」
「ふふ……その顔は良く解らなかったって顔だね……。でも、それで良いんだよ。ツカサ君はねぇ、お酒に弱くてまだ何にも侵されてない所も良いんだから……」
良く解らなかったのに、ブラックは嬉しそうに目を細めて俺の口からゆっくりと引き出したスプーンを見せつけるように口に含む。
わざと舌を見せてねぶるその仕草が異様にやらしく思えて、俺は思わずびくりと体を震わせてしまった。
「な、何やってんだよ! ばかっ、変なことするな!」
「何が変なことのさ。美味しい物を舐めてるだけだよ、僕は」
「お、お、おいし、って」
「もちろん……ツカサ君の、唾液……」
う、ううううう、とっ、鳥肌っ、鳥肌立ったぞ今!!
美味しいって、お、お前っ、恋人同士でもオッケーな事とオッケーじゃない事があるだろ、そういうのは恋人同士じゃなくてモブおじさんがやる事だろおおお!?
「だっだえきって! バカ、やめろ! マナー違反だろ!!」
「えー? ここにはツカサ君と僕の二人っきりなんだよ? それならマナーなんてどうでも良いじゃない。それより僕はツカサ君の唾液がもっとほしいなあ……」
菫色の瞳に変な光を宿しながら、ブラックは俺の顔へと顔を近付けて来る。
いくらイチャイチャするとは言ってもこう言うのは違うだろ、恋人ってそういう切欠で押し倒したりしないだろ!?
ああっ、解らん、コイツ以外に本物の恋人持ったことが無いから判らんんん!
「ツカサ君、ねぇ……もっと僕に甘い唾液ちょうだい……?」
「ちょっ、ちょっと待って、駄目っ、アイス、アイス溶けるから……!」
「アイスが溶けたら、ツカサ君が口に含んで僕に食べさせてよ……ふ、ふふふ……恋人なんだし、僕達はそれ以上にエッチな事してるんだから……このくらいの事はイチャイチャの範疇だよね……?」
「ぅあ、ぁ……っ」
肩を掴まれて、逃げられないように顎を掬い上げられる。
目の前にはぎらぎらした目で笑う肉食獣のようなブラックの顔が有って、その頬を紅潮させた表情を見ていると……どうしても、動けなくて。
「ツカサ君可愛い……。真っ赤になって目を潤ませてるその顔……ほんとにたまらないよ……。僕の事が大好きで、僕だけを受け入れてくれる、その可愛い表情……何度見ても、最高に興奮する……」
そう言いながら、ブラックは俺の頬にキスをした。
酒の香りが充満する息が、唇から洩れて来る。それが熱い頬に掛かって、鼻孔に嫌と言うほど頭を蕩けさせる香気を送り込んできて。
頭が茹だりそうな程のにおいに眩暈がするが、ブラックはそんな俺の混乱をより強めようとでも言うように、唇に移動する事は無く、顎を伝って首筋へ降り、ちゅうちゅうと吸い付きながら生温い舌で汗ばんだ鎖骨を舐めはじめた。
「あっ、や……! そこっ、痕つけちゃだめ……っ」
「やだ。ツカサ君が僕のモノだって証は、ちゃんと付けておかないとね……」
噛みつくように強くキスをして、鎖骨に痕を残そうとするブラックの強引さに、体が勝手に反応してしまう。我慢しようと思うのに、軽く歯を立てられただけで腰がびくりと動いてしまってかなりヤバい。
酒のにおいのせいか、俺もかなりマズい事になっていた。
だ、駄目だ。明日も沢山やる事が有るのに、ここでヤッたらまた半日寝たきりになってしまう……!!
「っ、ぁ……だめ、ま、まだ、今日はまだ駄目ぇ……っ!」
「んん……何で……? ツカサ君だって、この雰囲気ならセックスするんだって解ってくれてるんでしょ……? なのに、生殺しなんて酷いよぉ……」
「だ、だって、明日も色々、やる事があるのに……」
「それじゃ僕はいつツカサ君と愛し合える訳? 毎晩こうしてイチャイチャしてても、セックスできなきゃイライラが募る一方だよ……! 僕のいきり立ったペニスをどうしてくれるのさ!」
しらねーよ、お前が勝手に愚息をスタンダップさせたんだろ!?
と、言いたかったが、ここで口喧嘩をしてもどうしようもない。
俺は冷静になれと自分自身を諭すと、ブラックに向き直った。
……た、多少目が泳いでるのは許して。
「そ……その……あとで……して、いいから……」
「えっ」
どういうこと、と呆けるブラックに、俺は今まで考えていた事を話してやった。
……ほんとは、ラスターが村人を説得し終えてから話そうと思ってたんだけど。
「ちょ、ちょっと、……考えてる事があって……。あの、ほら、やっぱりさ、再建するにもモデル……ええと、お手本が有った方がいいだろ? だから、その……セルザさんとラスターに頼んで、ゴシキ温泉郷を見学させて貰えないかなって……。あの、今度は使節として。その時に……あ、アンタと、二人っきりなら、って」
「つかさくん……」
あ、だめ……なんか顔を見てらんない……。
熱い頬が更に痛いほどに熱くなって、俺は顔を逸らそうとしたが……ブラックに阻止されて、思いきり口を塞がれてしまった。
「んぅっ、ん……!!」
くちゅくちゅと恥ずかしい音をたてられ、一気に口の中に舌を入れられる。
逃げる暇もないくらいに性急に舌を絡め捕られ、吸われて、その刺激が下腹部にダイレクトに伝わるような感覚に耐えられず、思わずブラックの服を掴んだ。
だけど、それでブラックが満足するはずも無く。
ひくひくと反応する俺の口の中を、相手は暫く堪能していたが……名残惜しそうに、口を離した。
「はっ……はぁ、は……」
「う、う、うれしい、よ……ツカサ君……っ。そ、そっか、誰にも邪魔されずに……ふ、二人きりで……誰にも邪魔されない所で、じっくりセックスしようって、か、考えてくれたんだね……」
「ぅ…………」
「ツカサ君……っ、あぁ……嬉し過ぎて、また股間が爆発しそうだよ……」
普通、恋人に対してそんな事言うか……。
とは思ったものの、でもやっぱり、ブラックはそういう奴な訳で。
そんな奴の為に、俺は妙な事を画策してしまっていた訳で……なんかもう、穴が有ったら入りたい。つーかもう何も考えたくない。
でも、その……恋人って言えた方が良いって、言われたし……。
だったら、なんていうか……俺としても、そう自覚できるように努力した方が良いんじゃないかって思ったから。
俺だって、ブラックを不安にさせたくないから……だから、こんな事考えたんだけど……どうも、悪手を打ったような気がしてならない。
ブラックが俺の足にぐいぐいとお元気な物を押し付けてくるのを感じながら、俺は自分のトチ狂った考えを暴露してしまった事を心底後悔した。
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