異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編

5.計画を立てるのもラクじゃない

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 古来より日本人は、特定の土地でのみ食べられるものを名物と呼び、それをしょくすためだけに旅を計画したりしていた。

 昔は今みたいに車や飛行機でモノをすぐに輸送できる訳じゃ無く、何日も何日もかけて物を運ぶから、都会に居ながらにして田舎の美味い物は食えなかった訳だ。だから、旅先で食べる「その土地だけに存在する美味い物」には、物凄く価値が有ったのである。

 人間の三大欲求の一つである食欲は、時に人を異様にアクティブにさせる。
 うまいことその欲を利用できれば、リピーターを増やす事も出来るのだ。

 食べ物で人を集める。恐らくそれは観光地再建の中で最も簡単な方法だ。
 ならば、それを真っ先に考えない手はないだろう。

 …………と言うような事を三人に説明すると。

「確かに名物は美味しいけど……そんなに重要かなあ?」
「美味い物ならなんでも良いのか?」
「ハァ……食事に執着して再びやって来ようと思うなんて、考えられんぞツカサ。下等民はそこまでいやしい存在なのか……?」

 ――と、きたもんだ。

 この野郎ども、俺が懇切こんせつ丁寧ていねいに説明したのに名物の重要性が解ってないな。
 でもまあ実際こいつらは名物に執着した事が無いから解らないか。
 特に、ブラックは一度訪れた国の名物すらもあまり知らない。白パン(食物のほう)と酒が大好きな事は知っているが、食べ物に関してはノータッチだ。

 ラスターはお貴族様だから「○○産の○○でございます」みたいな食事ばっかりで名物とかいうモノに執着は薄そうだし、クロウは……どうなんだろう? 甘い物とハチミツが大好きなのは知ってるけど、よくわかんないな……。
 でも、こんな事を言うんだから、名物的な物に関しては無頓着なのだろう。

 つまり、このオッサン達と貴族サマは、名物の真髄しんずいを知らない訳だ。

「例えばの話だが……俺がどっかで店を開いて、すんげー美味い料理を出したとする。そんで、その料理がそこでしか食べられない唯一無二の物で、お前が土地から離れる事になったとしたら……出先の土地で、またその料理を食べたいなって思うだろ?」
「つっ、ツカサ君の料理を沢山の他人に食べさせるって!? それに僕がツカサ君から離れて遠くに!? ありえないよ!! 離れない、絶対に離れないよその店に来る男共全員消し炭にしてやるううううう!!」
「ばか、おバカ! そうじゃなくて、えっと、ああもう~……と、とにかく、その土地でしか食べられない、良い思い出が有る食べ物だと、恋しくなるだろ?!」

 お願いだから解ってくれと弱り顔で三人を見やると、クロウがなるほどと言った感じで頷いてくれた。

「要するに、思い出と一緒に食べた物は心に残りやすいと言う事だな。良い旅行だったなら、再びその地を訪れたいと思う物だし、そこに美味い物が有ればなおさら欲求に訴えかける事が出来る」
「そ、そうっ! 大体そんな感じ! それがその土地でしか食べられ無かったら、苦労してでももう一回食べに来ようって思うだろ?」

 ラスターにも解るかな。と顔を向けると、意外にもラスターは納得したような顔をしていた。おお、そう言う旅行の思い出はラスターにもあるのかな?

「そう言われると解るな。なるほど、記憶に訴えかける程の美味か……。それなら名物料理と言う物の価値が理解出来る。しかしツカサ、トランクルの現状を見ると、どうやらそのような名物は無いようだが……」

 う……。た、確かに……そう言われてみれば……。
 トランクルが廃れたのは、何もしていなかったからだと思っていたけど……よく考えたら、景色以外にお客を引き留められる物が無かったからとも考えられる。

 観光地に人が来なくなる理由って、本当に色々要因が有ってパッと見ただけじゃよく解らないものだもんな。だから、立て直しってのには時間がかかるんだ。
 ……まあ、それは父さんの受け売りだけど、ラスターの言っている事はおおむね正しいだろう。名物が有ったにせよ、少なくとも、人をずっと引きつけられるだけの物はなかったのだろう。

 だとすると……名物を宣伝するにしても、自分達で一から開発しなきゃいけないワケか……。これはちょっと難題だぞ。
 でも、やるって言っちゃったんだから今更遅いよな。

「うーん……。仮になかったとしても、その土地ならではの物ってのは必ず有ると思うんだよ俺は。だからさ、とりあえず一度村を回って見ようと思う」

 今日はもうトランクルに帰ったら日が暮れちゃうので、村を詳しく探索するのは明日に回す事にして、もう切り上げておこう。

 立て直し大作戦を組み上げるにしても、まずは現状をしっかり把握はあくして置く事が大事だ。資料の上では解らない事も有るし、それに以前のトランクルはどうだったかという比較だってしなきゃいけない。その途中でセルザさんに力を貸して貰う事も有るだろうしな。

 今回は「とりあえずトランクルを調査してみる」とベッドで寝ているセルザさんに報告し、彼に「これからは自由にこの館に来てくれ」とお許しを貰ってから、俺達はトランクルへの帰路についた。



   ◆



「おっ、帰って来たな」

 再びラスターとセイフトでお別れしてトランクルに戻って来ると、マイルズさんが玄関の前で待っていた。

「マイルズさん、どうして……あっ、そう言えばベッドが完成したんでしたね!」

 そうだったと思わず駆け寄ると、マイルズさんは笑って俺の頭をポンと叩いた。

「おう、村長に鍵を開けて貰ってもう中に運び込んでおいたから、確認すると良い。とりあえず二階の三部屋に入れておいたが……希望はないんだよな? 一応、そこの獣人の兄ちゃんの敷物が有った場所に、熊の姿でも寝られる特製のでけえベッドを置いといたが」

 まあとりあえず見てくれや、と言うので、俺達は早速どんなベッドか見て見る事にした。……ブラックは不満そうな顔をしていたが、黙ってついて来たのは多分、俺があの……ちょっと変な約束しちゃったからかな……。

 ま、まあ、作ってくれた人を目の前にして悪態吐かないだけいいか!

 オッサン三人と連れ立って、まずはクロウのベッドを見てみる。
 そういえばクロウの部屋って入った事なかったけど、なんか置いてんのかな。
 俺は調合器具とかをだしっぱにしたり、本を陰干ししたりしてるけど、クロウは割り当てられた部屋をどう使っているんだろう。

 少々ワクワクしながらクロウが寝ていると言う部屋を開けると。

「…………お、おぉ……?」

 クロウが寝床にしている部屋は、敷物が敷いてあるだけで何もなかった。
 借りてすぐの時と一緒で、家財道具など何もない殺風景な部屋って感じだ。
 そこに、敷物とキングサイズかと思われる白い木枠で作られた素晴らしいベッドがぽつんと置かれていた。

 ……いや、ちょっと熊っぽいケモノ臭はするが、まあ、それだけというか。

「クロウ……部屋になにか置いたりしなかったのか?」

 何故か心配になってクロウを見上げると、クロウは頭上にハテナマークを浮かべたように首を傾げて目をしょぼしょぼさせた。

「オレは荷物を持っていないから、別に置くものなどないぞ? まあ、寝るだけの場所だし、敷物とそれなりの広さが有ればそれでオレは充分だ」
「う、うーん……」

 そうだけど。寝るだけの場所には変わりないんだけど。
 フツー、自分だけの部屋を持てたら、貸家だったとしても嬉しくない?
 大人になると嬉しくなくなるモンなのかな。それとも、クロウがそう言う事には興味が無いって事なんだろうか。いやまあ、それを言うならブラックもそうだが。
 ……オッサンだから殺風景でもいいやって思うのか?

 よくわからん、時々マジで常識ってもんが解らなくなるわ。

「熊の兄さん、すまんがちょっとベッドに寝て確かめてみてくれ。出来ればケモノの格好でやってくれたほうが良いんだが」
「ム? 解った。……これでオレの本来の体重に耐えられれば、必然的にブラックのベッドも客用のベッドも大丈夫だと言う事だな」
「話がはぇえ。よろしく頼むぜ」

 マイルズさんの頼みに快く頷いたクロウは、ぼうんと煙を立てて一瞬で熊の姿に戻……ああまた服が脱げちゃってる。
 人化が上手い獣人だと、獣化しても服をどこかしらに収納して自在に着る事が出来るらしい(クロウ談)んだが、クロウは人化と獣化を切り替えるのにまだ慣れていないらしく、しょっちゅう服を脱いでしまうのだ。

 仕方がない事だが、毎度全裸を見せつけられる俺の身にもなってくれ。
 油断して下半身とか見た日にはもう言葉も出なくなるんだぞ。俺は他人のブツなんて出来れば見たくないんだってば。ブラックのも含めて!!

「ツカサ君、いま僕の事ちょっと嫌がった?」
「お前自身の事は嫌がってないから安心しろ」

 だから、何で心を読めるんだってばよお前は。今のは表情だけじゃそんな細かくわかんねーだろ!

 もうやだほんと怖いこの中年……。
 クロウの熊さんのお尻を見つつ、出来るだけブラックに目をやらないようにしていると、クロウはのそのそと歩いてベッドに足を乗せた。

「ム……。ギシッと言わんな」
「そりゃそうさ。強化剤をたっぷり染み込ませて暗所できっちりと寝かしたからな。さ、寝そべって見てくれや」
「うむ」

 クロウがベッドに上がり、全体重をかける。
 しかしベッドはマットレスが沈むだけで、ギシリとも言わなかった。
 試すようにクロウは軽く足踏みしたりしてみるが、ぴくりとも揺れない。ベッドは全くと言っていい程ノーダメージだった。

「これは……すごいね……」

 ブラックも白いベッドの異様な耐久性が解ったのか、目を丸くして呟く。
 その言葉に気を良くしたのか、マイルズさんは快活に笑って腰に手を当てた。

「ははは、そうだろうそうだろう! シンジュの樹の木材用強化剤ってのは、それくらい凄げぇ物なんだよ。普通の木材さえも、鋼鉄並の強度に変えちまう。まあ、何にせよ大丈夫そうで良かったよ。あ、ベッドにめといたマットも、中々の逸品いっぴんにしといたぜ。早々潰れる事は無いから安心しろ」
「えっ……そ、そこまでして貰ちゃってすみません……」
「なんで謝る? 俺はこのマットレスを三つ買っても有り余るほどの報酬を貰ってんだぜ? これくらいはしないとバチが当たるってもんだ。ま、何か有ったらすぐに駆けつけるからよ、とりあえず数日使って見てくれや」

 そう言うと、マイルズさんは再び俺の頭をポンと叩いて帰ってしまった。
 い、良いのかなあ、こんな凄いベッド三台も作って貰っちゃって……。
 でも、マイルズさんが満足してくれてるなら良いのかな?

 色々と申し訳ない気もするけど、まあ、とりあえずベッドがやって来た事を喜ばなきゃな! やったーこれで一人で寝れるぞー!
 クロウもベッドの感触は満更まんざらでもないみたいだし、俺もあとで客室用のベッドで試してみよう。よーしぼいんぼいん跳ねてみるぞい!

「ところでツカサ君」
「ん? なに?」

 さっきの事も忘れて思わず相手を見上げてしまう俺に、ブラックは何故かヤケに嬉しそうな顔をして、にっこりと微笑んだ。
 そうして、俺に耳打ちをする。

「夜のアレ……いつ、くれるのかな……?」
「っ……」
「ツカサ君のオネガイに免じて、僕も他のベッドで寝てあげるけど……あんまり先延ばししちゃうと……夜這いしちゃうからね……?」

 そう言いながら、ブラックは耳をぺろりと舐めた。

 あまりに唐突な刺激に思わずびくりと大仰に跳ねてしまうが、ブラックは何を言う事もなく、そのまま屈めた腰を元に戻すとまた微笑んで、俺をみやる。

「楽しみにしてるね!」
「…………う、うぅ…………はぃ………」

 してやるって言ったのは俺だし、ブラックも不満ながらもそれで了承してくれたんだから、やらなければ仕方がない。
 仕方がないんだが…………俺が使おうとしているの事を思うと、俺は何故にあんな事を言ってしまったんだろうかと後悔せずにはいられなかった。












※エロはもう少し先ですが次はデートです。そろそろラブラブ成分が欲しい。
 
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