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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編
2.荒くれ者でもTPOは大切に1
しおりを挟む――――数日後、マイルズさんから「ベッドが出来たぞ」との連絡が来たとともに、「召喚状」を持ったラスターが貸家に現れた。
あれから全然貸家に来なかったから少し心配していたんだが、どうやらラスターはラスターなりに色々と動いてくれていたらしい。
俺達がロクショウと会ったり、アンナさんとのジェネレー……いや、ワールドギャップといった物に驚いたりしている間に、冒険者ギルドでヒゲマッチョ……じゃなくて、ギルド長のルーベックさんと話し合ったり、この地域の領主である元・部下のセルザ・ファンラウンドの情報を仕入れたりしていたのだとか。
お、俺達がアホ面ひっさげて遊んでる間に……ごめんねラスター……。
つーか久しぶりに再会するとあまりの「出来る男」っぷりに慄くな……俺の周囲には駄目なオッサンしかいないから、より凄い奴に思える。
傲慢でもちゃんと仕事してくれりゃ、そら良く見えるわな……はは……。
改めて「ラスターは傲慢なだけじゃなくて有能」と言う事を痛感しつつ、俺達は彼の集めてくれた情報を聞いてみる事にした。
「それで……お前の集めた情報ってのはなんだ?」
今度も丁寧に応接室に案内して、粗茶をお出しした……のだが、折角の俺のおもてなしも隣にいる陰険中年が台無しにしてしまう。
ああもうお前らって奴は。
居丈高なブラックの言葉にラスターはヒクリと口の端を歪めたが、無視する事にしたのか俺に向けて話し始めた。
おい、火種を生むような事はやめろ。
「……セルザの事を少し調べて来た。俺の元部下だったとは言え、あいつが領地を治める職に就いてからは、色々忙しくて会えてなかったからな。たかが数週間程度でも、人とは変わる物だ。俺の知らぬ内に性格が変わっていたら困るのでな」
「おお、さすが有能」
さっき思っていた事を思わず口に出すと、ラスターは嬉しそうに顔をにんまりと緩めて、舌が滑らかになったのかのようにペラペラと喋り出す。
「ふふ、そう褒めるな。幾ら俺が崇高なる存在であっても、未来の妻であるお前に褒められると流石に照れてしまう」
「おい熊公、錆びた鎌持ってこい」
「よしきた」
「ああああああああやめてくだしゃい!!」
何それ使う場面を想像するの凄く嫌なんですけど!!
お願いだからグロい事するのはやめて!
話が進まないから黙ってろと二人の口を両手で抑え込んで、俺はぜえはあと息を切らしながらラスターに再び話すように促した。
これには流石のラスターも「お、おう」みたいな戸惑った態度になってしまったが、俺の精一杯の行動を組んでくれたのか、話を続けた。
「それで、このファンラウンド領の事を少し調べてみたのだが……。特に目立った変化はないものの、税収がかなり落ち込んでいてな。これは、ベイシェールなどの主要な観光が今まで動いていなかったからだろう。出来るだけ以前と変わらぬ徴税を行っているようだが、そのせいでかなり財政が苦しくなっているらしい」
「平和そうに見えるけど、この領地ってそんなに苦しいの……?」
俺達はまだ四か所しか街や村を見た事が無いけど、苦しそうでは無かったぞ。
寧ろのんびり楽しそうに暮らしてて、のどかだったんだけどな。
疑問符を浮かべる俺に、ラスターは肩を竦めた。
「苦しいと言っても、現状はまだ領民が飢えに喘ぐほどの物ではない。……このファンラウンド領は北部の端にある領地のためか、農業を行うにはどうしても他の領地より難しい。そのせいで、他の貴族連中と比べるとかなり貧乏でな……。観光業などで足りない分を賄っていたらしいのだが、ここ最近は……」
「ああ……」
そうだね……トランクルも廃墟寸前の遊園地みたいになってるし、ベイシェールも完全に立て直すにはまだ時間がかかるもんね……。
領主になって早々そんな家計が火の車な領地を任されるなんて、どんな悲劇だ。しかもそこにボスモンスターの情報って、どう考えても泣きっ面に蜂過ぎる。
「なんかこう……不運な領地だね……」
物凄く可哀想になって沈んだ声で返すと、ラスターもさもありなんと頷いた。
「治める領主としては頭が痛くなる土地だな。……それを考えると……十中八九、セルザは詳細を残さず聞くためにお前達を絞る勢いで尋問するだろうな。クラッパーフロッグのような益獣ならまだしも、相手はただの害獣だ。なんとかして解決策を見つけようと躍起になる。……あいつは根は真面目だからな」
そういやラスターは宴の時にもセルザさんと仲良さげにしてたし、部下と上司と言う関係である前に、良い友人だったんだろうな。
だから、そこまで断定できるって事か。
でもそうなると、色々と面倒臭いな。
「俺達も詳しい事は知らないのに、ガンガン突っ込んでくるって事?」
「ぶふぉっ」
おい、噴き出すなブラック。俺別にいやらしい意味で言ってないから。
口を塞いでても一々話の腰を折って来るとはちょこざいな。
「まあ突っ込んでくるだろうな、仕事は手を抜かん男だ。どうにかして解決の糸口を見つけようと必死になるだろう。なにせ、凶悪なモンスターの発生源を掴みかけているのだからな。……と言う訳で、ヘタに話を長引かせると、ボロが出る可能性がある。俺もなるべくセルザの気を引くが、ツカサはくれぐれも報告書に書いた事以外を話さないように」
「ぐぅ、わ、解りました……」
そうね、俺テンパったらすぐにドジ踏むもんね……。
俺が喋るよりかは、口も達者でそれなりに猫を被れるブラックと、セルザさんの事を良く知っているラスターに任せた方が良いだろう。
領主の館に行ったら、俺はクロウと口を塞いでいよう。そう固く心に誓った俺を余所に、ラスターは今度はブラックに人差し指をびしりと突き付けた。
「あと、そこの中年。髪は少しマシになったとはいえ……そのむさ苦しい無精髭は領主の前ではかなりの無礼だ。剃れ。絶対に剃れ。でなければ同行させん」
「ハァッ!? お前なにを……」
勝手な事を、と言おうとするブラックに、俺は肩を叩いて首を振る。
「ブラック、俺もそう思う……な、今回だけは剃ろ?」
「オレもその髭は不敬に当たると思う。剃れ」
「ぐぅううう四方八方から剃れ剃れ剃れ剃れと……」
それそれヨイヨイ、とか合いの手を入れたら怒られるなこれ。
でも今回ばかりは仕方ないよ。だって相手は領主だぞ。いくら粗野な冒険者とは言っても、ボロい服を着て行ったりだらしない恰好はして行かないだろう。
特に、相手は元騎士団の一員だ。風紀が乱れた奴は嫌っているかも知れない。
報告自体はスムーズに行ったのに、ブラックのヒゲのせいで領主が激怒した……なんて事になると、目も当てられないだろう。シアンさんに「騒ぎは起こすな」と遠回しに釘を刺されたのに、そんな事になったらどう頭を下げて良いか解らん。
頼むから剃って、と至近距離でお願いすると……ブラックは不承不承頷いた。
「ツカサ君がそう言うなら……。でも、行く直前までは絶対に剃らないからね」
判りやすくむくれるオッサンに、ラスターは溜息を吐きながら告げた。
「安心しろ。召喚は今すぐにだ。そう言う訳だからさっさと髭を剃ってこい」
シッシッと手で払うように追いたてるラスターに、またもや額に青筋を浮かべてワナワナと震えるブラックだったが……怒り狂うよりも「こいつとは長時間一緒に居たくない」と考えたのか、勢いよく立ち上がると部屋を飛び出していった。
うーむ……ちょっと可哀想かも……。
何故なのかは未だによく解んないけど、ブラックとしてはあんまり髭は剃りたくないみたいだし……。
しかも、今のはラスターも悪いよな。あんな虫を追い払うみたいにしてさ。
「……ラスター、頼むからブラックと仲良くしてくれよ」
「あいつが年相応の振る舞いを出来るようになったら考えてやろう」
それ、一生無理って言ってませんか?
「ツカサ、諦めろ。世の中には絶対に相容れぬものと言うのが存在する」
隣で大人しく座っていたクロウにポンと肩を叩かれて、俺はがっくり肩を落としたのだった。……はあ、行くのやだなあ……絶対何か起こりそうだし……。
→
※ワールドギャップの内容はのちのち
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