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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編
25.綺麗に終われないのが人生の常
しおりを挟むこの世界にも、食べられる野草と言うのは沢山ある。
俺が良く使っているタマグサ(タマネギにとても良く似た根菜)やマーズロウ、モギ(ヨモギに似ている野草)、恐ろしい生え方をしたシダレイモに、ニンニクっぽさがあるクキマメ、それに何故か荒野に自生していると言うトマト……とまあ、他にもあるのだが、俺が知ってるだけでもその種類はかなり多い。
特にこの常春の国であるライクネスでは、かなりの野草が自生していた。
だから……という訳でも無かろうが、帰り道の間ラスターは俺に野草の事を色々と教えてくれた。
彼の屋敷にある温室の植物は「国の有事に備えて育てている」と言っていたが、ラスターは木の曜術を使う日の曜術師だからか、植物にも関心が有るらしい。
もちろん、野草の知識を教えて貰えるのは素直に嬉しいので、帰路の間はずっとラスターの講義をありがたく拝聴していたのだが……まあそんな事をすれば、オッサン二人がいい顔をしようはずもなく。
適宜ブラック達とも話したのだが、結局機嫌を損ねさせたままでトランクルまで戻って来てしまった。解っちゃいた事だが、本当こいつらは表面上だけでも仲良くするという事が出来ないんだなあ……。
今更な事ではあるが、改めて「曜術師同士は仲が悪い」と言うのを実感する。
いやまあ、この件に関してはそれとは関係ないかも知れないが。
ともかく、ラスターには俺が作った木材用強化剤をしっかりと守って貰い、樵のマイルズさんへと確実に届けて貰うために、村に入ってから別れた。
「…………ハァ、やっと面倒臭いのが行ったか」
「と言ってもまた戻って来るがな」
せいせいしたとでも言いたげに盛大に溜息を吐いたブラックに、低い声でクロウがボソリと呟く。
なんというか物凄く気まずいが、今の俺は残念ながら口を挟む事が出来ない。
だって……ラスターに頼みごとをした「報酬」ってのが……お客用のベッドがやって来たら、貸家に泊まらせるっていう……。
いや、別に、ラスターは嫁になれとか、もてなせと言った訳じゃないよ?
「ツカサの手料理を食べてみたい」とか「お試しで」とか訳の分からんことを言っていたがそれくらいで、別にやらしい事をしろって言われた訳じゃないし。
それに……俺としては、ラスターに泊まってもらうのは実はありがたい。
だって、ラスターは野草や植物に詳しいし、実際に植物を育てている。
そう、広義の意味でのガーデニングをしているのだ!
今までどうした物かと放置していた庭を整えようとした時に、そんなラスターが来てくれた。これほどに頼もしい先生はいないではないか。
ラスターに協力して貰えば、食料用の畑とナントカ風ガーデンの両立が出来るかもしれない。これは大きなチャンスだよな。頼まない手はない。
しかし、【緑樹の書】のグリモアである木の曜術師よりも、複合的な存在である“日の曜術師”の方がガーデニングしてるだなんて不思議な感じだ。
でも、考えてみりゃ分野が違うから仕方ないんだけどね。
アドニスの場合は植物を育てるんじゃなくて研究する立場だから、実用的な物として育てる事はあまりないもんなあ。
まあなんにせよ、先生が見つかってよかった。
泊まらせてメシ食わせる程度なら変な事にならないだろうし、そのくらいなら俺だって一軒屋の主として歓迎してやれる。
……俺が主なのかはわからんが。
とにかく、この程度なら問題はない――――はずなんだけど、ブラックとクロウは気に入らないみたいなんだよなあ……。
「お前ら、ラスターを泊める事の何が気に入らないんだよ。これ以上ないくらいに健全じゃんか。何も膝に乗れとか嫁になれとか言ってるんじゃないんだぞ?」
人気が全くない道だから好き勝手に喋りながら歩いているが、そんな俺に対して不機嫌なブラックは頬を膨らませながらむうと鳴く。
「だって、相手は信用ならない奴だよ? ツカサ君を狙ってるんだよっ?! いつツカサ君を手籠めにして自分の物にしようとするか解らないじゃないか!」
「そうだぞツカサ。男は獣だ。こいつを見ていればわかるだろう? 油断して襲われないようにと教育したのを忘れたのか」
お前らが言うな。お勉強とか言いながら結局変態プレイしたくせにぃいい……!
……と言いたい気持ちをぐっとこらえて、俺は冷静に手を振る。
「覚えてる、覚えてるよ! でも、貸家なら二人がずっと一緒だし、マーサお爺ちゃんやリオルがいるだろ? 一人でいなきゃ問題ないって」
お屋敷の風呂場でポカをやらかしたラスターが、再び俺に襲い掛かってくるとは思えないし、なによりどの道一人でいたら危ない事に変わりはない。
だったら、一番軽そうな約束を喜んで受け入れて、自衛するためにブラック達に一緒に居て貰った方がよっぽどいいじゃないか。
そんなような事を説明すると、オッサン二人は顔を見合せたが…………
何故か嬉しそうにニヤニヤと笑いだして、両側から俺を挟んできた。
「い、一緒に? 一日中ずっと一緒に引っ付いてて良いの……?」
「あいつに触れられないように守ればいいのだろう? と言う事は、こうして肩を触れ合わせたり手を握っていたりしても良いと言う事だな?」
「はぁっ!? そっ、そこまでは言ってな」
「つまりいちゃいちゃしていいんだね!? あのクソ若造に見せつけて良いんだねぇええええ!!」
ア――――ッ!!
この野郎、俺の意図とは全く違った結論に辿り着きやがったぁあああ!!
どうしてこいつらは、いつも斜め上の解釈をしてくるんだよ!
俺一言もイチャイチャするとか言ってないよね!? 一緒に居るってだけしか言ってないよね!? なんでこう言う時だけ超ポジティブ解釈なの!
「ふふ、ふふふふふ……あ、あいつに見せつけてやろうねツカサ君……」
「オレも協力するぞ、ツカサ……」
両側から手ぇ握って来ないで。歩きにくいし恥ずかしいからやめて!
勘弁して下さいと泣きたくなるが、上機嫌になったこいつらにはもう何を言っても無駄だ。不機嫌になっても面倒臭いし機嫌が良くても面倒臭いって、これなんの地獄なのかな……。
貸家までの帰り道に人気が無い事だけが唯一の救いだなとゲッソリしつつ、俺は両側にオッサンの熱気を感じながらひたすら歩く事に努めた。
こうなったらもう早く貸家に帰りたい。
大した距離じゃないので、早足で歩こうと頑張るが、ブラック達の歩幅は元々俺よりも物凄く広いので、俺が早歩きしただけじゃ大した違いはない。
これだから足の長い男は嫌いなんだ。泣いてない。泣いてないぞ俺は。
色々な物を堪えながらひたすら歩いていると、やっと貸家が見えてきた。
よかった。これで解放される……と、褪せた色のドアを見やると……ドアの前に、何者かがじっと突っ立っているのに気付いた。
銀灰色のローブに身を包み、全身を隠しているが……なんだか見覚えがある。
長身で、すらりとした体型。
誰だろうかと三人で顔を見合わせて近付くと……相手が、こちらを振り向いた。
「あ…………」
思わず、声を上げる。
その、来訪者は――――
「お久しぶりです、ツカサ様」
世にも美しい容貌を持つ、毒舌巨乳金髪エルフのエネさんだった。
「え、エネさん!? どうしてここへ……」
「今日は、シアン様の手紙を渡しに参りました」
そう言うと、彼女はマントの端を掴んで淑女のように深々とお辞儀をすると――ちらりとクロウを見て、俺をじっと見つめた。
……んん? なんでクロウを……?
「手紙って……ツカサ君が出したモロモロのアレかい?」
「解っているのなら早く家に招いて頂きたいのですが。重要な話をしに来たと理解していてどうして当然の行動への理解が遅れるのでしょうか? さすがは下等な人族と言った感じですね。私にはとても真似が出来ません」
「耳を削ぎ落してただのインケン女にしてやろうか」
「こらっブラック! そ、そうですよね! どうぞ、入って下さい」
何も家具が無くて殺風景ですが……と言いながらドアを開けてエスコートする俺に対して、またもやオッサン二人の機嫌が悪くなっていく。
……あれかな、もしかして俺って今日は厄日なのかな……?
→
※次は新しい章です\\└('ω')┘//
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