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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編
23.シリアスな話し合いって難しくない?
しおりを挟む※また遅刻ですみません……_| ̄|○
その後、俺達はルーベックさんに掛け合って書類を修正すると、領主に送るのを少し伸ばして貰い、ラスターの事も口裏を合わせて貰う事にした。
まあルーベックさんはラスターが来るのを知ってて黙ってたんだもんな。俺達をラスターに売ったんだからそのくらいはして貰わないと割に合わん。
しかも、最高権威のお貴族様からも頼まれたとあっちゃあ、さすがのギルド長も断れないだろう。相手は胃が痛そうだったが、存分に苦しんで頂く。
ってな訳で、明日ラスターと共に再び【亡者ヶ沼】に行くことを約束させられた俺達はぐったりしながら貸家に戻ってきたんだが……。
「ツカサ君……ちょっと二人で話そうか……?」
うわぁい、帰ってきて早々ブラックが人を殺しそうな顔で俺を捕まえて来るよ!
……いかん現実逃避するんじゃない。
ついにこの時が来てしまったか……。しかし、きちんと色々話し合ってなかった俺も悪い。一応付き合ってるんだから、察してくれるだろうじゃなくて、ちゃんと俺からも話して、ブラックとの落としどころを探って行かなきゃな。
でも、物凄く気が重い……。
だって、今から揉めるような事話すって解り切ってんだもんなあ。
こんな気持ちは、つい無断外泊して両親に怒られるために家に帰った時以来だ。あと、もう何をするか解ってるっていう意味では、こいつと初めて会う前の時以来の気の重さだなあこれ……。
だが嫌がっていても始まらない。だいたい、こんなヘンテコで歪な関係なんだから、そりゃ納得できない部分ってのは何にしろ出て来るわけで……。ブラックからすれば、俺がクロウに食事を与える為にやってる事だって本当は嫌なんだもんな。
こっちが恥ずかしいえっちするのはやめて欲しいのと同じで、ブラックだって、本当ならクロウとアレコレするのはやめてほしいはずだ。
それを話し合わないままで居るのは、不健全だと思う。だから、話し合わなきゃ行けないのは解ってるんだが……ああ、気が重い。
だって、浮気と言われりゃ反論できないもんな……クロウとの事は……。
でも、クロウに「やめろ」なんて俺はとても言えない。約束してるし。
……なので、ここらで一発落としどころを決めなくては。
ブラックに対して誠実な気持ちが有るなら、恥ずかしがらずに態度で示さなきゃ行けない時も有るんだよな、たぶん。
…………ぐうううでも恥ずかしい気が重い険悪なムード作りたくないぃいい。
「ツカサ君?」
「う、うう、解った……。あ、でも、それならリオルに家事を頼んでいいか? 何かを気にしながらってのもちょっと集中できないし……」
リオルは家事妖精だから、夕食の支度もきっちりやってくれるはずだ。
しかし、彼を納屋から出すには他の奴に確認せねばならない。
俺が提案すると、ブラックは渋々と言った様子で頷き、クロウに向けてぶっきらぼうに言葉を放った。
「そう言う訳だからお前が呼びに行け」
「わかった」
…………これだけ聞いたらどんだけ横暴なんだと思われそうだな。
まあ、不機嫌になるような事しちゃったからしょうがないけど。
にしても、クロウだけが殴られるってのもなんか納得いかないよなあ。
ブラックがクロウを半殺しにしかけてる時、俺は「俺の事も殴れ」と言ったんだが、コイツは聞く耳を持たなかった。俺としては自分だけ責任を取らされていないようで凄く居た堪れなかったのだが、抱き着いて来るって事は俺の事を嫌いにはなってないんだろうか……それならホッとするけど、御咎めナシなのは何か嫌だ。
罰をくれという訳でもないが……いや、何もせずにいる事が罰って事なのか?
俺の罪悪感に訴えかける作戦なのだろうか。でも、そのつもりなら話そうかとか言わないよな。ううむ……。
「さ、ツカサ君寝室に行こうか」
「はっ、話し合いなのに!? 話すだけだよな!?」
「ツカサ君が素直だったら話し合いで済む予定だよ」
それって、成り行き次第によっては何か良からぬ事が起こると言う事か。
いや、きっとそうはなるまい。ブラックの言葉を信じよう。
つーかそう思わないと話が進まん。
俺は覚悟を決めて二階へ移動すると、ブラックと一緒に寝室に入った。
ブラックがドアに鍵をかけたが、いつもの事だ。平常心平常心。
二人でベッドに腰掛けると、ブラックは俺の肩を掴んで自分の方へと強引に振り向かせる。別段拒否をする理由も無かったので、なすがままになってブラックを見上げると、相手はひくりと口の端を緩めた。
「そ、そんな可愛い顔しても駄目だからね!」
「いや、それはおかしい」
なんだ可愛い顔って。俺何もしてないんですけど。
しかしブラックはぐぬぬと顔を歪めて、頬を染めつつ悔しそうな顔をする。
「ぐうっ、ぼ、僕怒ってるんだからね、話しするんだからね!?」
お前は一人で何をムッとしたり顔を赤くしたりしとるんだ……。
逆に冷静になってきちゃったよもう。
「それで……話ってやっぱり、その……クロウのこと?」
「む……それもあるけど、あの若造についてもとか……色々ある」
「そうか…………」
覚悟してみたはいいものの、ブラックの言葉が何だか子供っぽくて拍子抜けしてしまう。いや、神妙な気持ちで居ようとはしてるんだが、怒る側の当の本人も何か妙に戸惑っているらしく、どうしたものかとまごまごしているのだ。
…………そういや、激昂せず真面目に怒るって行為自体、初めてのような……?
ってことは、ブラック自身どうしっかり怒った物かと悩んでいるって事かな。
……そっか。“普通に”怒ろうとしてるのか、ブラック。
「な、なに、笑ってるのツカサ君」
「あっ、いや、ごめん。なんか……ちょっと和んじゃって」
「なご……ぼ、僕怒ろうとしてるんだけど!?」
「ごめんごめんて、ほら、ちゃんと話聞くから。な?」
ブラックのこういう素の時の子供っぽさは、俺もわりと嫌いじゃない。
ごめんな、とご立腹な相手の顔を見上げると、ブラックはなんだか困ったような怒り損ねたような妙な表情になって、目を反らした。
「ううぅ……っ! んもぉお、ツカサ君ずるい、ずるいよー! せっかく真面目に怒ろうとしてたのにそんな可愛い顔して笑ってー!! これじゃ話になんないじゃないか、もうっ、すきっ!!」
「だーっ!」
好きっ、じゃねーよ! 怒ろうとしてる奴が抱き着いてくんな!!
まったくもう真面目にしようとすればするほど間抜けになるんだからもう。
「もう!」ってこっちの台詞だっての。
話が進まないだろうがと無理矢理引き剥がし、俺は自分から切り出した。
「ブラック、怒るならちゃんと怒ってくれないと俺も困る! あと……クロウとの事を怒る前に聞きたかったんだけどさ……お前、なんで俺を殴らないんだ?」
「え?」
「だって、俺もお前が嫌な事をしたんだぞ? それなのに、クロウだけ殴って俺は御咎めなしってのはちょっと変だと思うんだけど」
そう言うと、ブラックは理解出来ないとでも言うように眉を顰めた。
「え……なんでツカサ君を殴らなきゃ行けないの?」
「は!?」
「だって、ツカサ君は約束があるからアイツに食事をさせてるんだろう? それに、ツカサ君からは一度も誘った事は無いよね? 素股だって、あのクソ熊が無理矢理やった事だし……別にツカサ君を殴る理由がないじゃないか」
「いや、でも、俺拒めなかったし、正直クロウを拒み切れないっていうか……」
「それさあ、僕が一番よく解ってるから怒れないんだよ……」
な、なるほど……。そういやお前も俺が押しに弱いのを良い事に、何度も強引にやらしい行為をしてきやがったな。
それを思うとイラッとしたが、でもそれとこれとは別な気がするんだが。
「だけど、ブラックは俺とクロウが……その……ああいうやらしい事をするのは嫌なんだろ? 嫌だったから怒ってるんだろ?」
それで俺に殴り掛からないと言うのはちょっと理解出来ない。
暴力を振るえとは言っていないが、クロウに向ける怒りがあれほどならば、俺に怒鳴るくらいのことは仕方ないと思うんだけど……。
何故俺には怒らないのかと食い下がると、ブラックは何故だか目を泳がせて、居心地が悪そうに肩を小さく縮めた。
「それはそうだけど……。でも、僕は……ツカサ君には暴力振るいたくないよ。だって、ツカサ君は僕の大事な恋人だし、それに……物凄く怒って距離を取られるのやだもん……」
「ブラック、お前……」
そんな事思ってたのか。
ブラックが嫌だなと思う事をやってるのは俺なんだから、嫌う訳がないのに。
……本当に、変な所で臆病なんだからなあ、アンタって奴は。
「そ、それに……」
「ん?」
「…………ツカサ君、もし僕が他の女を毎晩抱きに行ったらどう思う?」
「なにそれ」
「い、良いから。どう思う?」
何だか妙な方向に話が進んでいるような気がするが、何故かしょんぼりと肩を落としているブラックに答えない訳にもいかず、俺は正直に答えた。
「えっと……。まあ、女の方が抱き心地いいだろうし……何か言われない限りは黙ってようかなと……」
そもそも、隠遁生活をするまでのブラックは、女をとっかえひっかえの女たらしだったんだし、男を抱くよりは断然女の方が良いだろう。
ブラックが不貞を働くとは思ってないけど、人の心なんて他人が縛れないもんだし……ショックは受けるだろうけど、ブラックがそれで良いなら俺は、まあ……。
だけど、それと思うとちょっとどころか凄く胸が苦しくなってしまい、俺は胸を抑えたいのを必死で堪えて何でもない風を装った。
なのにブラックはというと、めちゃくちゃに顔を歪めて頭を掻き乱した。
「っ、あぁああ~~~~もぉおおおおお!! それぇっ! そうなるから駄目なんだよぉおっ! ツカサ君そうやってすぐ離れようとするじゃないかっ、僕のこと放っておいちゃうじゃないかー!!」
「えぇええ!? ちょっ、ちょっと落ちつけって!」
「ツカサ君がそう言う子だから怒れないの! 解る!?」
「ご、ごめん、解らん」
「うぅうううううでも好きぃいいいい」
だーもーまた抱き着いてきやがって。
何だかよく解らんが、俺のそう言う部分が気になって怒れないって事?
だとしたら、やっぱ俺が悪いんじゃないの……?
ううむ……どうしたら良いのかよく解らなくなって来たけど……だけど、要点は別に変わらないよな?
二人で折衷案を作ってお互いに安心する事。それが重要なはずなんだ。
何とかブラックを落ち着かせて話をしなければ。
ブラックの背中に手を回しポンポンと叩いて落ち着かせながら、俺は自分に圧し掛かるように抱き付いているブラックに問いかけた。
「お前が殴れない怒れない理由は解らんけど……でも、嫌な事が有るんなら話してほしいし、俺もクロウとの事はお前に申し訳ないと思ってたから……だから、二人で納得いくように話し合いたいんだ。……だから、な?」
子供のように肩に顔を埋めて来るブラックに優しくそう言うと、相手はぐすっと鼻を一つ鳴らして小さく頷いた。
「ツカサ君は、あの熊の事どうしたいの……?」
問われて、少し間が開く。
だけど、それを言う為に俺は覚悟を決めたんだ。
ちゃんと伝えなきゃいけない。腹にグッと力を籠めて、俺はブラックに告げた。
「俺は……正直、クロウの事をどうしてか拒めない。約束も有るし、その……一番美味い物が欲しいって言われたら、差し出してしまう。クロウの気持ちも解ってるから、どうしてもそういう時はお前の事を口に出せなくなる。……でも、俺はお前との関係を否定したい訳じゃないし、クロウは……恋人じゃ、ないし……。だから、出来れば、二人とも満足して欲しいと思ってる。……俺にとっては、二人とも大事な奴だから」
「………………」
「だから……抱くって事以外は……許してくれないかな……」
素股はその、怒っても仕方ないかもだけど、殴るのは勘弁してあげて欲しい。
でもその代わりに絶対にヤらないって約束してるし、俺だってそんな事になるのは遠慮したい。……まあそれはクロウの理性に頼るしかないんだけど……。
そんな俺の正直な話を聞いて、ブラックは少し体に力を込めたようだったが……ふうと溜息を吐いて俺を強く抱き込んだ。
「そっか……。そうだね……そうだよね。……アイツの食事に関しては、僕も許しちゃった部分はあるし……だから、ムカツクけど、それは我慢するよ。でも、それならそれで、これからは隠さずに言ってね? ……じゃないと、僕本当に、嫉妬でアイツを殺しそうだから……」
「……わ、解った……。クロウにも伝えて、これからはちゃんと食べさせる時には報告する事にする」
「あと……食べさせた後……僕にも同じ事してよ」
「えっ!?」
それはどういう事だ。まさか続けてえっちしろって事か?
慌てる俺に、ブラックはそうではないと首を振った。
「いちゃいちゃしたい……。だって、ツカサ君は僕の恋人だもん……。そのくらいはさせてよ……」
「…………やっぱり、不安……?」
そう訊くと、ブラックは「ん……」と声を漏らして頷いた。
まあそうだよな。俺だって、さっきの事を想像するだけで苦しかったし……。
やっぱ……こう言う事はちゃんとしておいた方がいいよな。
…………よし、や、やるぞ。やってやるぞ。
「ブラック、あのさ……。その……俺が、お前だけにしかやらない事をしたら……安心してくれるか?」
「……え?」
俺の言葉に思わず顔を上げたブラックに、俺は軽く何度か頷く。
「その……。よ、よる、とか」
「えっ……よ、夜……っ?! 夜に、夜にすることなの!? ぼっ、ぼ、僕にしかやらない夜の事を!? しっ、してくれるの!?」
「お、おう……」
待て待て喰い付きが凄いんだけど。
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「きょ、今日は駄目だって! 明日ラスターを沼に連れてくんだから!! そっ……その……でも……近い内にするから…………」
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だけど、ブラックだけにやってやろうとする思いは汲んでくれたのか、ブラックは俄かに元気づくと目を輝かせて何度も頷いた。
「ぼ、僕にだけの奴、たのっ、たっ、楽しみにしてるね!?」
「う……うん……。あの、だから……アンタだけ、だから……ラスターとかにも、ヤキモチ焼いたりすんなよ……?」
段々と恥ずかしくなってきて目を逸らすが、ブラックは嬉しそうに笑いながら、そのまま俺をずっと抱き締めていた。
しかし……これって、話し合いって言うんだろうか……。
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