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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編
トラブルメイカー・リターンズ 2
しおりを挟む…………ど、どうしよう。困った。マジで困ったぞ……。
ラスターが前に言っていた「正妻にするために攫いに来る」という約束がマジだったなんて思わなかった。……うん、ええと、正直に言うと、冗談だと思いたくて本気かどうかは考えてなかったので、今まで忘れたも同然だったんだけどね。
でも、ラスターからしてみれば本気で言ったんだよな、あの勝手な約束は。
俺は一言も「うん」とは言っていないが、ラスター的には「喋った時点で約束は成された」と言う感じだったのだろう。この男は基本的に自己中で人の話を聞かないので、俺が了承したと勝手に思い込んでしまうのだ。
だったら、「そんな約束はしてない」とはっきり言うべきなのだろうが……残念ながら、ラスターもブラックに負けず劣らず人の話を聞かない奴なのだ。
俺が何を言おうがこいつはビクともしない。
寧ろ拒否を“照れ”だと勘違いしてくる。
そして、俺が怒っていても、全てをポジティブに受け取ってしまうのだ。
まさに、暖簾に腕押し。馬耳東風。
俺が怒った時の受け取り方はブラックとどっこいどっこいだが、照れたりせずに勢いでゴーイングマイウェイしてしまうコイツの方が余計にあしらい辛い。
ブラックも人の話は聞かないけど、本気で怒ったらアハハって笑ってすぐに話題を変えてくれるし……あれって実は大人な対応だったのか?
いやまさかな。若い分ラスターが激し過ぎるだけなのだ、きっと。
……ってそんな事はどうでもよくて!
とにかく何とかして切り抜けないと……と、思っていると、クロウがラスターの隙をついて俺を引き剥がしてくれた。すぐに守るようにぎゅっと抱き締められたが、今は状況が状況なので有り難く甘受しておこう。
そんな俺の思惑に気付かず、クロウは不機嫌な声をラスターにぶつけた。
「何だお前はいきなりツカサに求婚して。なんのつもりだ? ツカサの“つがい”になりたいのなら、まずブラックと話をしろ」
そう言う所は生真面目なクロウは、俺のことを「自分のモノだ」とは主張せず、ラスターを牽制するように吐き捨てる。
しかしラスターも大したもので、怒気どころか殺気すら放ち始めているクロウに対して嘲笑するような笑みを見せると、オーバーリアクションで肩を竦めた。
「お前こそなんだ、保護者のつもりか? 俺とツカサの愛の語らいを邪魔するとは良い度胸だな。ツカサに求婚するのにロクデナシの保護者の同意が要るとでも言うのか? ツカサは子供じゃないんだぞ」
「ツカサは群れの長であるブラックの恋人だ。それに、二番目はオレだ。横から入って来て掟も守らず娶ろうなど、そちらの方が余程いい度胸だ。お前がツカサを娶りたいと言うのなら、オレに殺されてから頼め。そこまですれば、聞いてやらん事もない」
クロウ。クロウさん。それ死んでます。もう頼めないです。
しかも聞いてやらん事も無いって、要するに聞く気が無いって事だよね!
あれれ、おかしいぞ、クロウってこんなに凶暴だったかな。
「く、クロウ待って、落ち着こう」
「そんなまどろっこしい事をするより、痴漢を切り捨てた方が余程早そうだが? 閨事を野外で行うなど、それこそ獣のする事だ。愛しい妻の素肌を日に曝すなど、一番だろうが二番だろうが下劣な行為に変わりはない。好きな女であれば、大切に扱うのが男と言う物だろう。まったく、雄が聞いて呆れるわ!!」
……た、たしかに……。言われてみれば、変だよな……。
アカン、野外で犯され過ぎて俺も感覚が麻痺してたみたいだ。そ……そうだよ、野外プレイって本来アブノーマルプレイじゃんか! 恥ずかしいことじゃんか!
せめて家に帰ってやってくれればラスターにも気付かれなかったし、穏便に事が終わったのに……いや待て、そうすると俺は搾り取られて動けなくなっていた可能性が……って詰みじゃん、どっちにしろ俺は大迷惑被ってるんですけど。
おっと、落ちつけ俺。今はタラレバの話をするんじゃない。
とにかく一戦交えたがってるクロウとラスターをどうにかしなければ。
「二人とも頼むから落ち着いて……ほら、あの、ラスターもさ、俺を攫うっつってもこの状況で攫うなんて、貴族としては格好良くないんじゃない? クロウもさ、俺がどうしたいか解ってくれてるよな?」
優しくそう言って交互に顔を見やる。すると、クロウとラスターは不満げに顔を顰めてはいたものの、こっくりと頷いてくれた。
ほっ……よ、良かった……とりあえず戦闘回避成功だ。
「だが、俺はどうもその獣が信用出来ん。ツカサ、セイフトに行くのなら付き合うぞ。またこの獣がお前を襲わんとも限らんからな」
「それはこっちの台詞だ。空気の読めないくだらん人族が、ツカサを無理矢理拐かさんとも限らん。ツカサ、オレの傍に居ろ。誘拐犯に近付くんじゃない」
あぁあああ……せっかく収まっていた話がまた蒸し返されてもうぅ……。
そりゃまあ、クロウは誇り高い獣人族で、人族に対しては多少の見下し感は持ってるし、ラスターもラスターでお貴族様至上主義だから下等民のみならず他の人間は普通に見下してる奴だからなあ……相性悪いよなあ……。
この状態でブラックを迎えに言ったら、更に酷い自体になるんじゃないかとは思ったが、戻らなければそれはそれで酷い事になる。
二人の仲裁は諦めて、俺はとりあえず冒険者ギルドに戻る事にした。
…………なんかまた、嫌な予感がするなあ……。
◆
再び冒険者ギルドに帰って来た俺達は、ブラックがまだ戻って来ていない事を確認すると、出来るだけ人目に付かない場所に座った。
ここに戻るまでの間、ラスターもクロウも一言も喋らなかった……というか、口を開けばすぐに喧嘩しそうだったので、俺が喋らせなかったんだが……それはともかく、二人ともお互いに気を許そうとはしていなかった。
そんな居た堪れない雰囲気に俺の繊細な胃は痛んだが、それ以上に胃をキリキリと痛めつけたのは、酒場でのんだくれてる冒険者たちの奇異の目だった。
さもありなん。さっき恋人(誤認)と出て行った奴が、変な奴を連れてここに戻って来たのだ。「何が有ったんだ」とジロジロ見てしまうのは仕方がない。
そりゃそーよ、俺だってそんなの見るわ。でも視線が痛い、痛いんだよ。
野性的美形のオッサンに加え、新たに正統派美青年を連れて帰って来た謎のクソガキって目で見ないで下さい。俺の顔面偏差値は俺が一番わかってるから。
解ってるよ、この世界でもだいぶ駄目な方だって理解してるから!!
チクショウめ、だから美形が多い世界は嫌いなんだっ!! でも美少女とか美女とか綺麗なお婆ちゃんとかばっかり居るからそこは好きだけどね!!
でもこの状況は辛すぎる……。
だってもう、俺達が入ってきた途端にざわざわしてんだもん!!
「おい、誰だあの優男」
「貴族? 貴族か?」
「きゃーっ、あの子ったら若いのにもうあんなに奥さんを!?」
「三角関係! 三角関係よ!」
奥さん違う。どっちかっていうと俺が奥さん。嫌だけど。
それ以外はあながち間違ってないので、何とも言えないのが本当に辛い。
やっぱりラスターは外で待たせた方が良かったかなあ……。
「それで、あの男はまだ書類とやらを書いているのか」
落ちこんでいる所をラスターに問われて、俺はうんと頷く。
クロウは俺の隣にちゃっかり座っているが、ラスターはどうしてか座らずに俺の真正面に立って腕を組んでいた。なんだろ、下賤な椅子には座りたくないとか?
まあ良いかと思い、俺は言葉を続けた。
「なんか素材とか色々新しいモンを見つけちゃったからね」
「お前の話では新素材や新発見との事だったな。しかし……そうなると、領主にも話さないといけなくなるかも知れんぞ」
「え?」
どういう事、と目を丸くすると、ラスターは「何故そんな顔をする?」と不思議そうに首を傾げて目を瞬かせた。
「なんだ、知らんのか? 【空白の国】などの未踏地域や探索などで新たな発見をすると、その発見をした地を治める領主に報告せねばならんのだ。あの男が書いている書類も、一度領主に回されるはずだ。……領主にとって、モンスターに関する情報はかなり重要だ。だから、その“スポーン・サイト”とやらに付いて、領主が話を聞きたがるかもしれん」
「そ、そうなの?」
今まで【空白の国】や大事になってる依頼を受けた事なんて無かったから知らなかったよ。最近やっとギルドでまともな依頼を受け始めたんだもんな。
俺が間抜けな声で問いかけると、ラスターは頷いた。
「通常なら、ギルドがその報告から調査を一手に引き受けているが……今回の場合お前達の目で見た事が全てだからな。そんな恐ろしい物が領地にあると知れば、誰だって詳しい情報を手に入れたがるだろう? それにベイシェールでの功績もあるし、まあ、そんなに優秀な冒険者となれば……会いたがるはずだ」
よせやい優秀だなんて。照れるじゃないか。
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とてもじゃないがご対面できる気がしない。
「でもそれ、必ずって訳じゃないんだろう? 行かなくても良いんだよな?」
「召喚状が届かなければ、無視する冒険者もいるとは聞いたが……どうだろうな、何しろこの地の領主は…………」
と、ラスターが言葉を続けようとしていたら。
「な、なっ、なんで……なんでお前がここに……!?」
ああ、ブラックが戻ってきちゃった。
まーた面倒臭い一悶着があるぞと思いながら、俺は深い溜息を吐いたのだった。
→
※というわけでラスターがパーティーに出たり入ったりします(´^ω^`)
とは言え別段また事件に巻き込まれる訳じゃないので
まためんどくさい奴が来たぞレベルでお楽しみいただけると嬉しいです
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