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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編
14.ボスモンスターはすべからく良い素材
しおりを挟む「爪、牙、複眼……このくらいか。ツカサ、とったぞ」
「あ、ああ……。ありがと……」
綺麗に肉を剥がして水(俺が曜術で出した)で洗った戦利品を、風呂敷代わりの布で包み、一息つく。冒険者ギルドに「沼になんかいる」と言った手前、調査報告をしない訳にもいかないし、討伐した証拠がなかったら、ここに冒険者が押し寄せて来てカエル達が間違って狩られちゃったりするからな。
俺達が倒したんなら、ちゃんとそれを報告しなければならない。
それにしてもでけえ牙と爪だよ……俺の掌二つ分くらいあるぞこの二つ。
複眼も……まあ……蜘蛛みたいな目のお蔭で、パッと見は赤黒い宝石に見えない事も無いから良いけども。
しかし……残った肉とか内臓はどうしたらいいんだろう。
このまま残していくのは俺の主義に反する……と思ったのだが、ここでブラックとクロウがとんでもない事を言い出した。
なんと、残った肉や内臓は、クラッパーフロッグ達に食わせると言うのだ。
……マジか、と思ったが、モンスターが共食いするのはよく有る事らしい。
とは言えそれは同じ系統でも別種族のモンスターだったりとか、縄張り争いなどをして、相手を負かした時などが多いらしいが、その辺りは俺の世界の動物達とちょっと違うな。なんか得する事が有るのかな。
早く済ませようと二人が言うので、とりあえず待機していたクラッパーフロッグ達に「もう大丈夫」と説明し、蔓に捕まったカエル達も放してやってから、ブルーパイパーフロッグの所に連れていくと……彼らは大喜びで大蛙の肉を食い始めた。
さ、さすが雑食性……。
「ほんとに同族を喰うんだな……」
「彼らにとっては、喰う事が力を付ける事だからね。特に、雑食性のモンスターは基本的な能力が低いから、他のモンスターや人族を喰らう事を喜ぶんだ。生き物を取り込めば、いくらかは相手の力を取り込んで強くなれるからね」
「基本が肉食のモンスターは、そのまま能力を取り込んで強くなれるから、よく人を襲う。だが、雑食性は他の生物の命を奪っても能力が上がりにくいらしい。確実に強くなるには、自分より強い相手を喰らわねばならんようだ」
はえー、なるほど……。
二人ともよく知ってんなあ。いやまあブラックは元・凄腕の冒険者だし、クロウはモンスターと近しい獣人だもんな。二人とも詳しいのは不思議じゃないが、でもこんなにすらすらとモンスターの知識が出て来るのはやっぱり凄い。これが経験に裏打ちされたなんとやらって奴なんだろうか……。
マタギが獲物の事を良く知ってるみたいなもんかな?
うむむ……悔しいけど格好いい……。
あ、そういえば、ロクの元々の種族だった「ダハ」も雑食だったよな。
……ってことは……本当にロクの種族って弱いオブ弱いってことに…………。
いや、いい。良いんだよ。ダハは弱くても可愛いからいいの。
頭が良くてとっても良い子だからそれでいいの!!
「ツカサ君なに急に怒ってんの」
「なんでもない! でも……食べるだけで強くなれるって凄いな。俺達だったら、そうはいかないし……」
「そうでもないよ。自分の能力を高めるには強い敵の肉を喰らう必要が有るから、食事とは別に本気で戦わなきゃいけないし……それで返り討ちになるモンスターが沢山居る訳だからね。むしろ、鍛錬するほかに武具で能力を底上げ出来たり、曜術まで使える僕達の方が彼らには羨ましいだろうさ」
「あー……そうか、モンスター達にはそういうのがないのか……」
ブラックの言葉に思わず頷いてしまった。
そうだよな、俺達は弱かろうが魔法のアイテムである“曜具”を使えばある程度は戦えるし、訓練所だってあっていつでも鍛錬が出来る。
だけど、野生で生きるモンスター達はそうはいかないもんなあ。
ダハだって、そういう感じだから集団で人を襲ったりしてたんだろうし……。
「うーん……モンスターの世界もかなり世知辛いんだなあ……」
そういえば、モンスターに転生した系のチート小説でも、自分より強い奴を食べないとレベルアップできないって感じだったな。
読んでる時は「うおおおお成り上がり面白れえええ」とか思ってたけど、実際に説明されるとなんか絶対転生したくないなこれ……俺は転移でよかった……。
俺みたいなのがスライムやベビードラゴンになっても、串焼きにされるのがオチだわホント。逆境に強いスキルは残念ながら俺には備わっていないようだ。
そんな事を思いながら、カエル達の共食……いや、にっくき仇を殲滅する行為を見届けていると、ブルーパイパーフロッグに群がるカエルの中から、長老ガエルが何かを持ってヨタヨタと二足歩行でこちらに歩いてきた。
お、お爺ちゃん、二足歩行出来たのね。
「な、なに、どうしたの?」
慌てて近付くと、長老ガエルは俺達に何か棒のような物を差し出した。
それは、両端が膨らんでいる硬そうな棒。しかしそれは息を呑むほどに美しい青色に輝いており、棒を持っている手が透けてみえる程の透明度だった。
もしかしなくてもこれ、骨だよな。
「これ、ブルーパイパーフロッグの骨?」
「ゲココッ。ケコッケコッ」
俺の言葉が解っているのかいないのか、長老ガエルは俺の手をひっぱって、その骨を握らせようとして来る。もしかして「あげる」って言ってるのかしら。
素直に握ってみると、長老ガエルは満足そうにケコココと喉を鳴らして、今度は屍に群がっているカエル達に大声を張り上げた。
その声が合図になったかのように、巨大な屍を覆っていたカエル達がその場から退いていく。綺麗に肉が取り除かれた軍曹蛙の姿を改めて見やって――俺達は思わず目を丸くして息を呑んだ。
「うっ、わ……!」
「凄い、こんな骨……見たのは初めてだ…………」
「…………!」
それぞれ、口を開いて驚かざるを得ない。
何故ならカエル達が食らった後に現れた物は、宝石としか言いようがないほどに美しい色を放つ、ブルーパイパーフロッグの骨の山だったのだから。
「これ……なんで、こんな骨に……?」
思わず近付いて肉が綺麗に拭い去られた頭蓋骨に触れると、ブラックも同じように骨を見て指で己の顎を擦る。
「色に付いては良く解らないけど……骨自体は本当に鉱石のように硬いみたいだ。もしかしたら、この骨や筋肉を使って、ブルーパイパーフロッグはあの警笛を更に響くようにしていたんじゃないかな。だってほら、骨同士を叩いてみると……」
そう言いながらブラックは骨を持って肋骨らしき部分を叩くと、途端に洞窟の中にコンという音が響き渡る。しかも、その音はかなり粘り強くて、まるでゴムを思いっきり引っ張って揺らした時のように、びんびんと揺らいで鳴り続けていた。
うおお、ホントだ。骨が音をかなり変化させてる。
喉から発する警笛にこの骨がどう作用していたのかは俺には解らないが、本当に不思議な生物だよなあ、モンスターって……。
「ケコッ、ケコケコ」
「む。どうやら持って帰れと言っているようだな。確かにモンスターの骨はかなり有用な素材だが……どうする?」
クロウが首を傾げるが……俺もどうしたら良いやら判断が付かない。
「くれるなら貰って行きたいけど……この大きさだとなあ……」
持って帰りたいのはやまやまだが、この量はちょっと多すぎる。
……と、思っていたら、長老ガエルがまたもや号令をかけるように鳴いた。
途端、カエル達が一斉にゲコッと鳴いて、またもや骨に群がり始める。何をするのかと目を見張っていると、彼らは骨を抱えて、そのまま外へ脱出し始めた。
どうやら、亡者ヶ沼の淵まで持って行ってくれるらしい。
そんな事までして貰って良いんだろうかと思ったが、カエル達にどう伝えて良いかも判らず、結局ご厚意に甘えて陸地にまで運んで貰ってしまった。
まあ……ブルーパイパーフロッグを討伐した証拠を取った後は、クロウに頼んで土の壁を除去して、ここに元の沼の水を引こうと思ってたから、このままだと骨は沼の底だったし……ありがたいっちゃありがたいんだけどね。
でも交渉の他にこう言う事までして貰うのはなんか申し訳ないな……。
やっぱ菓子折りとか持って行った方が良い?
モンスターでも持ちつ持たれつが大事だよな?
「それで……後は沼の水を戻して、閣下を呼んで来ればいいんだっけ? このままギルドに行くのも面倒くさいし、先に交渉をすませちゃおっか、ツカサ君」
「その前に水だな。ツカサ、土の壁を崩していいか」
「う、うん。あ、でも待って。カエル達を陸地に集合させとかなきゃ」
一気に水が入って来て彼らが溺れたら大変だもんな。幾ら水棲生物だからって、水の勢いに勝てるとは限らないし。万が一に備えてやっとかなきゃな。
という訳で、クロウに土の壁を割って貰う前にカエル達を陸地に上げ、こちらを窺っていた綺麗な水の方にいるカエル達にも岸に上がって貰うように頼み、俺達は改めて陸地へと戻った。
ここじゃないと、水がどのくらいの勢いで流れて来るか解らない。
それに、万が一向こう側で落ちたら、引っ張られて渦に呑まれてしまう。
落ちる訳がないと思っていても安全第一だ。
「よし! 準備完了! クロウお願いしやすっ」
「む、お願いされた。では行くぞ」
クロウはすうっと息を吸って、両手を土の壁に向ける。
深く息を吐いたと同時に、ゆらゆらとクロウの周囲から橙色の綺麗な光が湧き上がって来て、その光が手に集まり始めた。
「城壁よ、流れに朽ちて眠れ。我が血に応えろ――【ルイーナ】……!」
低く凛とした声が、聞いた事のない術の名を発したと、同時。
クロウの掌を覆っていた膨大な量の光が弾け、光が一気に土の壁に広がる。
一気に土色の壁を発光する橙色に染め変えたクロウは、両手を少しだけ捻った。その動きに呼応したのか、穴が開いていた中央部分から壁が崩れ始める。しかし崩落はあくまでも上からであり、決して派手には崩れなかった。
これが、曜術での崩落か。
まるで人為的に解体されていくかのように上から崩れて行き、トンネルの部分の小さなヒビがゆっくりと壁に入って行く。
その割れ目から、じわじわと水が流れ出した。
「あ……水が…………」
壁が、時間をかけて「岩」となり、こちら側へ崩れて来る。
水はその隙間からゆるく流れ込んで来るけれど、決して激流が起こる事は無い。
クロウの手が動く度に水量は増えていくが、壁は押し流されずに緩やかな崩落を続けた。そうして、腐り沼が有った場所にも綺麗な水が溜まって行く。
やがて崩落を終えた壁はまるで中央が途切れたアーチのようになり、水は勢いを増して空の溝を全て満たしてしまった。
――灰が少し混ざって濁ってはいるが、それでも美しい水が湛えられた亡者ヶ沼は、完全に姿を取り戻したのだ。
「ゲコッ……ケコッケコケコッ!」
長老の声に、一斉にクラッパーフロッグ達がケコケコと濁音のない嬉しそうな声を出して舌を鳴らす。その音はまるで俺達に拍手をしているようで、俺達は何だか照れ臭くて笑ってしまった。
まさか、モンスターに拍手して貰えるようになるとは思わなかったよ。
「何だか不思議な感じだねえ、普段は戦ってる奴らに感謝されるなんて」
「それを言うなら、モンスターに討伐依頼を受けるのも不思議だけどな」
「はは、それは言えてるかも」
まあでも、たまにはこんな事も悪くない。
なんだかんだでやっとまともな討伐クエストが出来たような気がするし。
これだよ、これぞ冒険の醍醐味ってやつだよな!
モンスター倒してお金と素材を手に入れて感謝される! これが俺の求めていた冒険者らしいクエストって奴なんだよ!!
出来れば、盗賊退治もこういう感じで俺が狙われる事なく普通にやりたかったんですけどね! なんで人間相手だとああなるんだろう。いや忘れよう。
よし、次はお使いクエストや採取クエストだな……とは言っても、そんなに都合よく依頼があったら苦労はしないんだけどね。
でもまあ、いっか。
ブラックもクロウも照れ臭そうだけど、なんだか嬉しそうだし。
人に感謝されてこう言う顔する二人を見れるのは、俺もちょっと嬉しいかも。
二人には絶対に内緒だけど。
→
※次はなんかこう……*級のエロです。
モンスターにツカサがべろんべろんにされますのでご注意ください。
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