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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編
13.戦闘中ですよおまいら 1
しおりを挟む※すみません台風の影響でがっつり書けず話進んでません…('、3)_ヽ)_
他の地域の方も被害が出ていないとよいのですが……
「おあぁあああああ!!?」
「むう……あれほどの炎を自力で起こすとは……。やはり強いな……」
いやクロウなに感心してんの!
陸地が! ブラックが、っつーかカエル達が燃える、燃えてるってば!!
「心配するなツカサ、ブラックは沼を全て燃やし尽くしているだけだ」
「それ、心配しなくて良いレベルのことじゃないよね!?」
沼を全てって、まさか沼の水を炎で蒸発させてるってこと……?
だとしたらあの高い土の壁を超える程の巨大な火柱も納得できる。ブラックは沼ごと一気に敵を退治しようとしてるのか。そう言えば、炎の轟音だけではない何かが蒸発するような音も響いている。
確かに、腐り沼自体を消し去ればずっと戦闘はやり易くなるけど……でも、攻撃にも限度ってモンが有るだろおおおおお!!
「大丈夫なの!? 色々と、その、大丈夫なの!?」
「骨まで残さず灰になるだろうが、まあ、範囲は腐り沼の水が有る範囲だけだから大丈夫だろう。カエル達はどうしようもないが」
「おぉおおお……な、ナムアミダブツナムアミダブツ……」
ごめん、カエル達本当にゴメン……。
肉体と肉体でぶつかった結果斃されたならまだしも、本当に捨て駒みたいな死を迎えるなんて……俺が歩兵なら耐えられん。アホと言われようが、せめて敵に立ち向かって名誉の死を迎えたい……。
でも、長く操られた挙句に食われるよりかは、一瞬で焼き尽くされて苦痛も無く昇天した方がマシなのかもしれないよな。
よくよく考えると、意識が有るままで操られているんならそれこそマジで「生き地獄」だろうし……アカン、それだったら名誉の死とか言っとられんわ。
なんにせよ、彼らが苦しまなかったらいいのだがと手を合わせていると――壁の向こうから形容しがたい何者かの声が聞こえた。
けたたましい笛のような音と、そして、大型の獣が吠えるような声。
全く異なる二つの叫びが業火の音に掻き消されたと同時、巨大な炎の柱が一瞬で消え去った。本当に、なにも残すことなく。
「…………おわった……のか?」
全ては土の壁の向こうに隠れてしまっていて、何が起こったかも判らない。
暫くクロウに抱っこされたままで静観していると、いきなり真正面に有る土の壁の一部がドコンと吹っ飛んだ。
「うわぁ!?」
なになに敵襲!? まさかまだ敵が残ってたの!?
でもクロウのパワーアップした術を破れる奴なんて、それこそボスクラスと言われるモンスターしかいなさそうだし、まさかブラックの目をかいくぐって!?
うわああどうしようどうしよううううう!
俺は思いきり慌てて、思わずクロウの服を掴んで身構えた。が。
「はぁー……しんどい…………」
壁を易々と壊して出て来たのは、疲れた顔をしたブラックだった。
…………なるほど、ブラックならそりゃ簡単に壊せるよね。
色々と規格外だもんねこの人……。
いやでも無事でよかった。どこも焦げてないし。
クロウに降ろして貰ってブラックに近付くと、ブラックは下がり眉の情けない顔のまま俺をじいっと見つめたが、深い溜息を吐くと覆い被さるように抱き着いて来た。思わず驚いてしまったが、ま、まあ、一番戦ったのはブラックだし。
「うぐぅうう……ツカサ君つかれたよぉおお」
「はいはい、頑張ったなブラック」
俺の髪に顔を埋めて思いきりぐりぐり動かしてくるブラックに、労わりの気持ちを最大限発動しながら、広い背中に手を回してぽんぽんと叩いてやる。
まあぶっちゃけ、前衛で戦ってくれたのはブラックとクロウだもんな。
一番危険な事を頑張ってくれたんだから、恥ずかしくはあるけど抱き着くくらいは我慢してやりたい。でも、こういうのってオッサンがやる事じゃないと思うんだけどなあ……今更だし、そんな事言っても仕方ないけど。
ブラックは片手に剣を持ったまま暫く俺を抱き締め、髪の中で思いきり深呼吸を繰り返すと、やっと少し満足したのか顔を離した。
人の髪のにおいを嗅ぎながら深呼吸という部分にモノ申したくはあったが、満足したようなのでお口チャックすることにする。疲れてる時に喧嘩したくないしな。
満ちたりたのならばよし、と、抱かれたままで俺はブラックの顔を見上げた。
「しかしブラック、お前なにやったんだ? 沼を蒸発させたのは解るけど……」
俺には作戦が聞こえていなかったので改めて問うと、ブラックは気の抜けた顔でへにゃりと笑い、自分が穴をあけた壁の方を見やった。
「簡単な事さ。ツカサ君がブルーパイパーフロッグの居場所を知らせてくれた事で、あいつの住処が“腐り沼”の中だって事が判ったろう? だから、あの沼ごと一掃しようと思って、熊公に壁を作らせて水を遮断し、炎で蒸発させたんだ」
「それに加えて、水が蒸発するほどの凄まじい業火で焼かれれば、さしもの相手も抵抗のしようがない。住処の入口が沼にしか存在しない事がアダとなって、ブルーパイパーフロッグは蒸し殺されたか……あるいは、慌てて出てきた所をブラックの炎に焼かれてしまったんだろうな」
横から言葉を継いでクロウが解説してくれた事で、ようやく壁の向こうの情景が理解出来て、俺は思わず感心するように頷いてしまった。
ブラックとクロウはあの沼に「ブルーパイパーフロッグがカエルを操る為に撒き散らした液体が混ざっている」という事や、沼の中にはまだ多くの歩兵達が潜んでいたと言う事も知らなかっただろうけど、恐らく予想はしていたはずだ。
だから、俺の言葉で敵の大将が沼の中に潜んでいると知って、一網打尽にする為にあえてあんなハデな術を使ったのだろう。
消耗戦に持ち込まれるより先に、相手の退路を断って全てを焼き尽くす。
相手からすれば「そんな殺生な!」って感じの滅茶苦茶な行動だが、こちらからすればそれが一番効果的で安全な方法だったんだよな……。
それに、あの沼は危険だった。だから、どのみち消滅させる必要があったし……なんにせよ、ブラックがやった事はまさに値千金の働きだった訳だ。
ほんと、コイツみたいな奴が一騎当千って言うんだろうな……ぐう、羨ましい。
そうは思うのだが。
「ツカサくぅうん、つかれたよぉ……僕にもちゅーして補給させてよぉ」
俺に抱き着いたまま、低くて渋い声で甘えるような台詞を恥ずかしげも無く言う相手に、俺の中の羨ましさとその他諸々の好意的な感情が散り散りになって行く。
……こう言う所が無ければ、憧れられる存在のはずなんだけどなあ……。
一緒に居て恋人にまでなっちまった俺が言うのもなんだけど、何故この中年は毎度毎度「格好いいところ」で止まれずに「ダメおやじなところ」にすぐに着地してしまうんだろうか。その……せっかく強い上に格好いいんだから、ビシッとした所で我慢しておけばいいのに。
そしたら、変態ってだけじゃ無くて、格好いい奴だなって色んな人に思って貰えるのに…………って違う、そうじゃない。違う違う何考えてんだ俺。
「ツカサくぅうううんんん……僕頑張ったよ、一番頑張ったんだよぉお」
「あーもー解ったわかった! やりゃあ良いんだろ、コンチクショウ! ほ、補給できるかどうかなんて知らねーからなもう!!」
人が一生懸命お前の事を考えてる時に間抜けな声だしやがって。
こんにゃろ、クロウ以外に人がいないから、仕方なく今ここでやるだけで、人が沢山居たら絶対にこんな事やらないんだからな! もうクジラ島の時みたいな衆人環視プレイはこりごりだ!!
「め、目ぇつぶれよ!」
「はぇっ!? し、してくれるの!? つつつツカサくっ、き、きしゅ」
「もー! 今更興奮すんなよばかあ!!」
キスなんて何度もやってんのに、なんで噛むくらい興奮してんの!!
もうやだこの中年、俺が恥ずかしくなる事を解っててやってないこれ。わざとじゃないよな? わざとだったらぶん殴るぞマジで。
「ど、どこ? どこにしてくれるの?」
「ほっぺ!! もう良いから黙れ!! く、クロウちょっとあっち向いてて」
「うむ」
ああもう顔が熱い、痛い。意識されるとこっちが余計に恥ずかしいんだってば。
くそう、早く済ませよう……。
クロウがちゃんと明後日の方向を見ているのを確かめ、ブラックの方に向き直ると……相手は、頬を軽く染めて子供のようにワクワクしながら肩を揺らしていた。
あほ、アホバカ、目ぇキラキラさせてんじゃないよこんくらいで。
「えへ、えへへへ、勝利の女神のキスだあ」
「っ……も、もう、バカな事言うとしないからな!!」
そう言うと素直に黙るのがまたイラッとするうううう……。
しかも勝利の女神ってあれじゃん、ラフターシュカの……ああもうチクショウ、俺もどうしてそんな事覚えてるかなあ……。
覚えてなけりゃ、こんなに恥ずかしくなる事も無かったのに。
でも、忘れられたら苦労なんてないよ。
……こいつと一緒にいると、そんな事ばっかりでどうしようもないんだから。
「………………目、つぶれ」
「ふへ、は、はぁい」
まったく格好つかない。かっこよくない。
無精髭だし、顔はやにさがってだらしない顔してるし、美形台無しだし。
……だけど、そんな奴を「格好いい」と思ってしまったのは、俺自身で。
「………………むかつく」
そうは言いながらも、体は自然にブラックの頬を優しく包んで――
相手の髭でちくちくする頬に、顔を近付けてしまっていた。
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