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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編
9.聞き込み張り込み奔走中1
しおりを挟む髪の毛がぬるぬるするって、要するにクラッパーフロッグの唾液が取れないって事なんだよな。お湯で何度洗っても駄目って事は、ちゃんとした方法で洗ってやらないといかんのか。
しかし、ぬめり……ぬめりか……。
「うーん…………あ、そうだ」
「はぇ? なに、どしたのツカサ君」
「ちょっと待ってろよ」
人間の髪に有効かどうかは判らないが、ある生き物のぬめりを落とす方法なら、婆ちゃんに昔教えて貰って知ってるぞ。
アレで成功するかどうかは解らないけど、ちょっとやってみよう。
俺は風呂場から出ると、早速台所へ走った。
「ツカサ、どうするんだ?」
風呂場の外から様子を眺めていたクロウが、後ろを付いてきながら不思議そうに首を傾げる。心配するなと笑うと、俺は台所に置いてあった“ある物”を取り、すぐさま風呂場に戻ってきた。
その“ある物”はと言うと…………
「塩と……ええと、それは……カンランの実か?」
「ふっふっふ、左様。これが肝心要なのよ」
塩壺とカンラン油を風呂場の中に入れると、ブラックは目を丸くした。
どうでもいいけど前を隠せお前は。
「な、なにそれ、なんで塩なんだい!? ま、ま、まさか傷口に塩……」
「違うわい! まず塩シャン……じゃなくて、塩水で頭を濯いで、ぬめりを落とすんだよ。そんで、しっかり洗ってからカンランの油で髪を保護するの」
「塩水で……!? だ、だってツカサ君、僕の髪って、潮風でギシギシになるってツカサ君が……」
「それとこれとは別の話。アレは潮に曝して放っておくから、髪が傷んでギシギシになるんだよ。まあぬめりはどうか解らんけど、傷む事は無いから試してみろ」
クロウに持って来て貰った水を温めて湯にしながら、そこに適量の塩を混ぜる。ブラックはそんな俺を見て情けなく眉を下げていたが、こくんと頷いた。
そうそう、ちゃんと大人しくしてたらすぐ終わるから。
「えーと……このくらいで良いかな」
塩がお湯にちゃんと混ざった事を確認すると、俺はブラックに背を向けさせて髪を優しく背中に流した。そうして、塩水を頭から毛先まで満遍なく掛け、頭皮からゆっくりと優しく梳くようにマッサージしていく。勿論、ぬめっている顔や手にも掛けて激しく擦らないように拭う。
二三度そうやって塩入りのお湯を流していると。
「…………あれ。つ、ツカサ君、ぬめりが無くなって来たよ!?」
「よしよし、何度かお湯で流すからな」
嬉しそうに大声を上げるブラックに苦笑しながら、俺は塩水が残らないようにしっかりと髪と体を濯いでやった。
よし、このくらいでいいかな?
「あとは、水をふき取った髪にカンランの油をちょっとだけ振って……」
えーっと確か、頭皮は避けて毛先まで丹念にだっけ?
髪の毛が絡まないように優しく擦りつけて、俺はやっと一息ついた。
「ツカサ君、カンランの油の効果は?」
「髪の毛の保護だよ。キシキシしないようにしたの。俺も良くは知らないんだが、椿油ってのは昔っから髪に良いって言われててさ。だから、ブラックの痛みやすい髪にも良いんじゃないかと思って」
オリーブオイル……とは言うけど、よく考えてみたらカンランの木って実の形状以外は椿に近かったんだよな。ならば、カンランは椿の性質も持っているはず。
婆ちゃんが椿油は髪に良いって言ってたし、確か化粧台に椿油の瓶が乗ってるのを見た事有るし、そんだけ言うなら効くはずだ。
人によっては濡れた髪のままとか、髪を洗う前とかに付ける方が良いのかもしれんが、今回はぬめりを取る事が主体だったからまあ仕方ないな。
「はぁあぁ……き、気持ちいいよぉツカサ君……」
「変な声出すな。やめるぞ」
「あぁん殺生なぁ」
俺はオッサンの喘ぎ声を聞いて悦ぶ趣味はねえ。女子がいい女子が。
昨今のえっちなシーンの大安売りな漫画はどうかと思うが、どうせ喘ぐんなら、やっぱ女の子が喘いでる漫画の方が良いよな。
健全な漫画だからこそ女の子がえっちな目に遭うシーンに興奮するのであって、逆張りでリョナられた男が喘いだって萎えるばかり……ってそれはどうでもいい。つーか何の話だよこれ。
すぐに頭が現実逃避するのはいかんなと自重しつつ、俺はやっと腰を上げた。
「さて、後は乾かすだけだ。意外と時間かかっちまったが、これならまだセイフトの門限には間に合うな。ブラックの髪が乾き次第出発しようぜ」
「それは良いけど……ツカサ君、どうして塩でぬめりが取れるって知ってたの?」
「オレも知りたい」
キョトン顔で見つめて来る二人のオッサンに、俺はアレを説明すべきかどうか迷ったが……まあ、こんな事で激昂する事は無いかと思って答えてやった。
「タコだよ」
「…………は?」
「だから、タコのぬめりを取る方法を使ったの。アレのぬめりを取るには、塩を念入りに揉みこんでぬめりが無くなるまで揉む……ってなんだその顔は」
微妙な顔をしている二人に問いかけると、素っ裸のブラックがいきなり俺に詰め寄って来た。おいおいおい当たる! ブツが当たるからやめろ!!
「タコって……魚じゃん! モンスターじゃん!! 僕にモンスターを食べる時の方法使ったの!? ツカサ君食いしん坊もほどがすぎるよ!!」
「なるほど、確かに髪型だけ見ればブラックは赤いタコだな」
「黙れ駄熊ぁあああああ」
「汚いモンスターを剥き出しにして喋るな、ツカサに当たる」
クロウったら何故かいつにも増して辛辣じゃないですか! やめたげて!!
確かにモンスターだけども、汚いブツ扱いは同じ男としてちょっと傷付く!
「おいおいおい頼むから喧嘩はナシにして! ほら、あの、用事はちゃちゃーっと早く済ませてさ、今日はゆっくり寝ようよ、なっ、な?」
フルチン中年と熊耳の毛をちょっと膨らませて怒ってる中年の間に割り入って、俺は二人を宥めた。とは言え、ブラックの怒りの矛先は俺なわけで、何でそんなにモンスターと一緒が嫌なのか、ブラックはキイキイ騒いで怒り泣きと言った様子で俺に抱き着いて抗議してくる。
でもアレが一番ぬめりが取れるわけで、実際効果が出た訳だし……。
それに、この方法はブラックをモンスター扱いしてるんじゃなくて、ぬめった唾液だから「これが良いかも?」と思って試しただけなんだよ。お前がタコみたいだからじゃないってば。
そう言う事を説明すると、ブラックは不承不承ながらもやっと治まってくれたが、何ともはや、騒がしい入浴だった……。
でもまあ、これで唾液を拭う方法は解ったわけだし、結果オーライだ。
これで唾液にも掛かり放題! ……は嫌だな。やっぱ気を付けよう。
ブラックの服は速乾性なのかもう乾いていたようなので、それを着させて俺達は再びセイフトへと向かった。
街への道のりは、クロウと藍鉄に少し速く走って貰えばすぐに着く距離なので、そこまで急ぐ必要はない。というか取り立てて語る程の道のりでも無い。
いつもは散歩程度の速度で歩いて行くから気にしてなかったけど、本当セイフトはセレーネの森に近いんだな……。
やっぱトランクルの復興は遠いだろうなあ……。まあそれはともかく、藍鉄には門の前で俺特製のお弁当を食べながら少し待ってて貰い、俺達は冒険者ギルドへと向かった。二三度訪れてるから、もう道は知ってるもんね。
相変わらずの西部劇っぽい木造建築に、ガンマンでも出て来そうなスイングドアを開けて、中に入る。
冒険者ギルドの内装は統一されているので、このギルドも入って左は酒場、右は依頼を張り付ける掲示板と受付カウンターと言うお決まりの造りだ。でも、ギルドごとに内装が変わるよりこっちの方が分かり易くて良い。
「とりあえず、受付嬢にでも聞いてみようか」
塩シャンの効果か、はたまたカンラン油の効果なのか、いつも以上にツヤツヤと煌めく髪になったブラックは、何の気なしにそう言う。
うーむ、髪がふわっとして清潔そうになると、やっぱしちょっとは格好良く見えるかも……。くそ、相変わらず無精髭なのにずるい。やっぱ美形は嫌いだ……。
ほんと現実は理不尽だよなと思いながらも、ブラックの提案に従って三人でぞろぞろと受付嬢の所へ向かおうとすると。
「おお、君達はトランクルの!!」
「え?」
背後から#厳つい声を掛けられて三人一緒に振り向くと、そこには褪せた赤茶色の髪を短く整えた、筋骨隆々のヒゲのおじさまが……。
って、ちょっとまてよ。この展開なんかデジャヴだぞ。
「あの、貴方は……」
「おっと、そう言えば初対面だったな。俺はルーベック。このセイフトのギルドを仕切ってるケチな野郎さ」
「と言う事は……ギルド長……?」
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「え、ええ」
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断わったら面倒な事になるだろうし……それにまあ、ギルド長ならもしかしたらクラッパーフロッグの事も色々知ってるかもしれないからな。
とにかく話をしてみよう。
→
※次はドタバタ場所が変わるのでちょっと淡白かもしんないです
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少年がダメージうけた時の声はもっとすき…
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