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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編
のめり込みすぎると危ない2
しおりを挟む「じゃあ……これ。ちゃんと着てから降りて来てね」
あれよあれよと二階の寝室に連れ込まれ、ブラックが布の包みを渡してくる。
俺の「一人で着替えさせろ」というお願いには答えてくれたんだろうが……ここまで素直だとなんか怪しくなってくるな……。思い過ごしなら良いんだけど。
そう思いつつ包みを受け取ると、ブラックが去り際に一つ言葉を放って来た。
「あ、そうそう。ソレを着る時には下着はつけないでねー」
「え……」
「こっそり穿いても判っちゃうからね? 見つけたらお仕置きだよ」
「ちょっ、お、おいちょっと!」
言いたい事だけ言って部屋を出て行ってしまったブラックに、俺は立ち尽くす。下着を脱いで服を着ろってどういう事だよ……。意味不明過ぎて混乱しながらも、布の包みを開けてみて――俺は、それがどういう意味かを悟った。
「ああ……これ…………」
布の中から出て来たのは、異様に布面積が少ない服と白いエプロン。
エプロンだけを見れば、料理の時に服を汚さなくて良いなあと思ったのだが……問題は、着甲斐のない服の方で…………。
「なに、この短パンと短いシャツは」
ベッドの上に一通り服を広げて、俺は低い声で唸る。なるほど確かに短パンにはこの世界の一般的な下着は似合わない。
こっちの男性用下着はトランクスっぽい物が普通なので、確かにこの丈では下着がはみ出してしまうのだ。盛大にハミパンするのは流石に恥ずかしいな……。
「しかし、下着ナシってそれはそれで変態なような……」
でもこれら一式を着なければブラックは怒るだろうし……くそ、仕方ない……。
「うぅ……」
誰も居ない事を確認して、バッグや装備を放り投げると服に手をかける。
もういっそいつもの服を洗濯する為だと思った方が良いかも知れないと考え、俺は「服が無いので仕方なくこれを着る」という気持ちになりきって、一気に今まで着ていた服を脱いだ。
も、もう、こう言うのはパッとやったが良いからね!
「えっと……短パン……」
とは言え、部屋の中で全裸というのも恥ずかしいので、すぐに目の前の短パンを掴む。何やら柔らかい生地で出来ているようだが、これは何なんだろうか。
スパッツと麻布の中間っぽい感触なんだけど……いやまあいい、股間部分は少し余裕があるみたいだし、あんまり擦れたりはしないだろう。つーか、いくら俺一人だからって、昼間の部屋でフルチンは恥ずかしい。
俺は短パンの合わせを寛げて、足を通しゆっくり引き上げる。
「ん……な、なんか、やけにぴちっとしてるんだけどこれ……」
引き上げ、合わせを閉じてみて判ったのだが、この短パンは股間から少し下までしかない非常に短い丈であるにも関わらず、その素材のせいかズボンの裾が妙に太腿に食い込んでくるのだ。そらもう、ぎゅっと。
いやまあ、股間部分はゆったりしてるし、ポロリの心配もなさそうだからそれはそれで良いのかも知れないけど……なんか、ここまで足にぴったり張り付くズボンを穿いた事が無かったから……妙に恥ずかしい。
というか……その……ノーパンだから余計に変って言うか……。
な、なんか風通しが良いのはいいけどさ!?
「う、うう、だめだ考えちゃいけない、早く服を着るんだ俺……」
白いシャツは襟付きで、ごく普通の半袖のワイシャツって感じだけど……まあ、着てみればこちらも丈が短くちょっと屈んだり背を伸ばしたりすれば臍が見える……っておい!! 何だよコレ、何考えてんだアイツはーッ!!
確かに露出度高い服よりはだいぶマシだよ。だいぶマシだけど、これは俺みたいなもうすぐ大人である十七歳が着る服じゃねえだろ――!!
俺、高校生! ぢゅうななさい!!
もう半パンで居て良い歳じゃないの!!
しかもノーパンでこんなぴっちぴちなズボンで短いシャツってアイツおい変態の度が過ぎるだろ、直球のスケベ衣装よりよっぽど怖いわこんなん!!
「うええぇ……やだーやだよーなんでこんなカッコしなきゃなんないんだよー」
思わず泣きたくなるが、泣いてもどうしようもない。
俺にやれる事と言ったら、もうこの残った白エプロンをつけ……いやちょっと待て、まだなんか残ってるぞ。このきしめんみたいな長い布は…………。
びろんと伸ばした瞬間にそれが何か把握した俺は、思わず言葉を失くした。
しかし、喉を動かして、やっとの事で言葉を吐き出す。
これは。この、白いものは……――
「に……ニーハイソックス…………」
そう。それは、萌えアイテムとして大人気な、膝上まで有る靴下だったのだ。
……そう……白、ニーハイ…………。
うん……白ニーハイ……確かに俺も好きだけど、それを俺にって……。
ブラックよ……お前、本当にぬかりない変態なんだな…………。
「う、うう……これ穿いてる俺も変態じゃない……? 違う? 違うよね……?」
自問自答しながらも白さが眩しいソックスを着用し、改めて自分の姿を見下ろしてみる。ああ、アカン……この年でこれは絶対にアカンんん……。
でも部屋に閉じこもってる訳にもいかないしやること沢山あるし、夕飯作らなきゃいけないし。その、まあ、大事な所はしっかり守られてるんだから、慣れればなんとかなるかもしれない。まあパンツ一丁で過ごしてると思えば……家の中だし……。
いやまて、パンツ一丁で変態なオッサン達の前を歩き回ってるって言うのも凄く危険なような気が、待て待て、もうそう言う事を考えるのはやめるんだ。
とりあえず、見せれば満足するかもしれないし。
つーか客観的に見て似合ってないし。絶対萎えるよな! こんなん!
よし自信が出て来た。さっさと見せに行って終わらそう。
俺は気合を入れて息を吸うと、靴を履いて勢いよくドアを開けた。
……とりあえず、エプロンは持って行くだけにしておこう。多分、装備して出て来たら文句言われるだろうし……。
「ツカサ君終わったー?」
「はいはい!! 今行きますよ!」
ううう、太腿がなんか変。今更だけどニーソってこんな締め付けんの?
これ新品の学校用の靴下と一緒じゃん。ゴムがきつくて痕が付くやつじゃん!
短パンの方もやばい。これ多分、脱いだ時に痕が二つ付いてる奴だよ。俺ホットパンツ穿いたお姉さん大好きなんだけど、アレってこんな大変なの?
いやでもエロ漫画とかの女性の柔肌に付いた縄痕とかもやらしくて興奮するし、ホットパンツ美女のこういう痕も、実際に想像するとそれはそれでイケるような気も……じゃなくて。
それを俺がやってもしょーがねんだって話だよ!!
「ったく……ほんと何考えてんだか……」
今更ながらに相手の思考が良く解らんと思いつつも、
二階の廊下をずんずん歩いて……たらなんか股間が擦れてちょっとヤバそうだったので、出来るだけ静かに歩いて階段の所までやってくる。
階下には、大人二人がなんの出待ちかってくらいにそわそわして待っていた。
「ツカサ君降りて来て! あっ、ゆっくりとね!」
「はぁ? ゆ、ゆっくり?」
ゆっくり降りて来いって、ファッションショーかよ。
こんな格好早く終わらせたいんだが、しかし約束は約束なわけだし……ええい、一時の恥だ、服を着てるんだし、この格好以上に恥ずかしい事もされてるんだし、だったらこ、この程度は……!
「ツカサ、早く来い」
「う、うぐぐ……わ、笑ったら承知しねえからな!!」
いつもの自分じゃない、やけに細かな歩き方で階段まで辿り着き、階下で俺を待っていた二人を真下に見据える。
すると、俺の姿を見た二人は――――
「あ……あぁ……つ、つかしゃ君……っ」
「ンン゛……ッ!!」
二人同時に変な声を出して目を見開くと、まるでシンクロしたように片手で鼻と口を押えて一歩後退った。
……これは……どういう反応だ?
「笑ってんのか? あ゛? 笑ってんのか?」
鼻と口を押えてるって事は笑ってるんだよな? え、コラ。
ちょっとイラッとしてオッサン達を見下ろすと、二人は慌てて首を振った。
「ち、違うよツカサ君、あ、ああ、は、早く降りておいでよ……!」
「ふっ、フガ」
なに慌ててんだ。取り繕ってんのか。そりゃあ大人の俺にはこんな格好は似合いませんけど!? でもそんなに笑わなくたっていーだろコラ!
チラチラ見てきやがってこの野郎。着ろって言ったのはお前だろ!!
「降りておいでって、笑う気だろ! 笑う気だろこら!」
「わ、笑うなんて」
「じゃーその手ぇ取って見ろってんだ!!」
俺が怒鳴ると、ブラックとクロウは顔を見合わせたが……一度目を逸らして、ゆっくりと顔の下半分を覆っている手を取り去った。
と、そこには。
「げ……」
鼻の下に、明らかに“赤い何か”をふき取ったような跡が。
……って、ことは……ま、まさかコイツら、笑ってたんじゃなくって……。
「つ……ツカサ君……そこに居られたら、僕ら血が足りなくなっちゃうから……」
「えっ……」
そう言われて改めて二人を見ると、ブラック達は俺をじっと見つめていた。
だけど、その視線は徐々に下がって、ある一点に留まっていく。何を見ているのかと同じ場所へ顔を向けて――二人がどこを見ていたのかが分かり、俺は今度こそ一気に顔に熱が昇った。
だって、二人が見てたのは、その……俺の……半ズボンの、あたり、で……。
「う、うわぁあ! どこ見てんだよばかぁ!!」
「だ、だって、つ、つ、ツカサ君のふとももと、か、可愛いふくらみが……っ」
「にっ、肉……むちむち……う、ウゥ゛……ハァ、ハァ……」
わー! クロウがヤバいー!!
近付きたくないけど近付かなかったらもっと酷い事になる気がするー!!
分かりました近付く近付きますから落ち着いて。
股間を庇いながらも慌てて階段を下りるが、しかしその間もブラックとクロウは俺の顔と半ズボンの辺りを交互に凝視してくる。
「う……」
なんだか、余計に恥ずかしい。
二人の視線が似合わない衣装の部分を見ているのが分かる。それがどうにも居た堪れない。太腿を圧迫する部分が二人の眼差しのようにも思えて来て、股間を刺激しないようにと小さくなった歩き方が、余計に女のように内股になってそれも羞恥心を煽ってしまう。
だけど、そんな俺を見る度に、ブラックとクロウは荒い息を吐いて来て。
なんだか二人の顔が見れず、顔を逸らしてしまいながらも、俺はやっとの事で階下に辿り着いた。
これで少なくとも足やズボンへの視線は無くなるだろうと思って少しほっとすると、ブラックが俺の両肩をぐっと掴んできた。
「つ……ツカサ、君……予想以上だよ……。に、似合う似合うとは、思っていたけど、ここまでやら……か、可愛いなんて……っ」
「やら?」
「ふ、ふふ、ハァッ、はっ、ツカサ君、こ、このまま……是非このまま……!!」
おいコラ無視すんな、やらってなんだやらって!
肩を掴む手を剥がしてやろうかと思ったが、興奮して荒い息を吐くブラックの隣でクロウも尋常じゃない目付きで荒い息を漏らしていて、思わず体が硬直する。
何がそんなにクロウの心を乱したのか解らないが、ちょっと本気で怖い。
な、なんか、目が据わってるってレベルじゃないんだけど。目がギラギラしてるのに無表情でハァハァ言ってるせいで、物凄く怖いんですけおお!!
「ぶ、ブラック、クロウがやばい、ヤバいから、あの」
「大丈夫だよツカサ君、僕も結構ヤバいから……」
「何をもって大丈夫と言った!? バカ! もうバカ!! ヤバいんならもういいだろ、俺着替えて来るから離せよ!」
「アーッ! ごめんごめん我慢するっ、我慢するから今日は愛でるだけだから! だから今日はこの服で! この服でいてよ、ねっ!!」
やけに必死にそう説得されるが、しかしブラックとクロウの目付きがヤバいのを見ていると、どうしても不安な気持ちが先に立つ。
これなら爆笑されて終わった方がまだマシだったが、この雰囲気はどう考えてもそういう軽いノリじゃない。さっき鼻血出してたし、完全にこいつらは俺の似合わないコスプレを興奮してみている。
俺としては早く着替えたかったのに、これじゃ着替えさせて貰えそうにない。
だけど、無理やりこんな服を着せたくせに俺に「お願い」してるって事は……ちょっとは俺の都合も考えてくれるって事なのかな。
だったら、せめてこの服で安心して出来る事をやるしかない。
「じゃ……じゃあ……俺、台所でずっと作業する予定だから……エプロンをつけて良いなら、まあ……今日だけは…………」
台所という狭い空間に居れば動き回らずに済むし、何よりエプロンで前を隠せるようになる。それに、調合器具とか本を持ち込めば別に不自由はない。
庭いじりが出来ないのが悔しいが、こうなったら出来るだけ自衛して、二人に変な事をさせないようにするしかない。
お、俺は服を着るとは言ったが、やらしい事をするとは言ってないんだからな。
そんなこちらの思惑を知ってか知らずか、ブラックは俺の顔をじいっと凝視すると――――興奮を抑えきれないぎこちない顔で、気持ち悪く笑った。
「ふ、ふへ……い、いいよ……。たくさん、す、すっ、好きな事、してね……!」
…………このオッサン、美形のはずなのに、どうして興奮するとエロ漫画の竿役みたいな笑い方しか出来なくなるんだろうか……。
恋人のヤバさに色々と思う所は有ったが、まずは身の安全が第一だ。
今のヤバい状態のオッサン達をなんとか正常に戻さねばと思い、俺は改めて台所で籠城戦を決め込む事を決意したのだった。
→
※次ブラック視点です。まあ例によって気持ち悪いです。
モブおじさんみたいなセクハラしかしてないのでほんとすんません
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