異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編

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※連日遅れてもうしわけねえ……つ、疲れが…次は頑張ります…_| ̄|○




 
 
 村長の家は、村人達の家が密集している区域では無く……何故か高そうな宿屋が並ぶ区域に建てられていた。

 その家と言ったらもう、芸能人が住んでるんスかってレベルの豪邸だ。やっぱり村長ともなるとかなりのお賃金を貰っているのか、白亜の豪邸……とまでは行かずとも、どこぞのカントリーハウスのようなごっつい洋館を自宅になさっていた。

 やっぱ、金があると他の人とは違う場所に住みたくなるんだろうか。権力者って奴は本当に嫌味な野郎だなあ……。いや待て、俺だって金を持ってたら理想のマイハウスとか建てちゃうだろうし、嫉妬はいかんな。うん。
 ここは自分をりっして冷静に行こう。門番さんにも笑顔で対応だ。

 秘書さんの紹介状のおかげで何なく村長宅に入れた俺達は、応接室の豪華なソファに座り込んで、今の村長さんから前村長の話を聞く事にした。

「それで……前村長とケーラー夫人の事件についての事なんですが……」
「なんでも、呪いに関係があるかも知れないとのことでしたな。私も全てを知っているという訳ではありませんが……出来る限りの事をお話しいたしましょう」

 対面の村長さんは、姿勢を正して手を組む。
 ああ、これは話が長くなる奴だな……と直感した俺達は、ソファに深く座り直して気合を入れた。

 ――それで、一時間ほどだった村長さんの話をだいたいまとめると、こうだ。

 前村長パーテル・ケラーノは、当時役人であった村長からみると、どうも怠惰な人間だったらしい。先代村長の息子であったのに加え、観光業のお蔭で黙っていても金が入って来る事に甘えていたのか、随分ずいぶん放蕩ほうとうしていたようだ。
 ……いわゆる金持ちのボンボンだった訳だな。

 当然村でも好き放題していたらしく、ナンパなんかも日常茶飯事だった。
 そんな中で、彼が見初めたのが……くだんの、ケーラー・ガメイラという少女だ。
 彼はケーラーに一目ぼれしたらしく、ナンパして半ば無理矢理に婚約を取り付けてしまったらしい。

 いくら才女と言えども、相手はまだ十七歳の純朴な少女だ。年上の男のたくみな手練手管てれんてくだほだされて、彼女もすっかり騙されてしまった。
 しかし、優れた女をめとると言う事は、存外リスクの高い選択だ。己自身も優れた男性でないと、必ず結婚を後悔する事になる。残念な事だが、パーテルはその例に漏れなかった。村長の職務を立派に代行するケーラーに、パーテルは鬱憤うっぷんが溜まって行き、ついには悪い癖が出て次々に不倫をし始めた。

 さらには、当てつけのように、自分に媚びる美女を家に住まわせて、時には彼女の目の前で情事を始めて酷く傷つけた事も有ったらしい。
 他にも、彼女が大事にしていた物を壊したり、彼女が世話をしていた花壇を荒らしたり……とにかく、ケーラーのプライドが傷つくような事ならなんだってやってたという証言が……いかん俺までイライラして来た。

 善良な女の子に優しくしない奴は最悪だが、相手が自分より格上の存在だからと苛立いらだち、悪態を吐いたり傷つけたりするような奴は、単純に下劣で胸糞が悪い。

 そりゃまあ、好みじゃない子とか男に“格の違い”って奴を見せつけられたら、俺だって良い気はしないし嫉妬心がメラメラしちゃうけど……だからってさ、虐めるような事をするのは、自分から「俺は駄目な奴です」って体現する事になるじゃないか。自らを貶めるような事はしたくないよ。

 何より、ケーラーは何をされてもパーテル村長の事が好きだったのに、そんな風に好意を持ってくれてる子を傷つけるなんて……男としてほんと許せんわ。
 そんな事するんなら御嬢さんを僕に下さい。……いや今はそんな話じゃ無く。

「それで……ケーラー・ガメイラという夫人のことは……」
「すみません、私もよくは知らんのですよ。ケーラー夫人は元々は冒険者の娘とか言う話で、お供と一緒にこの村へ辿り着き、家を買って暮らし始めたらしいのですが……それ以上は。私は役所での仕事に追われておりまして、彼女が夫人になってからも仕事の事で話をする程度の付き合いでしたし」
「おとも、ですか。そのお供は今はどうしているんですか」

 ブラックの問いに、村長は残念そうに首を横に振った。

「残念ながら、消息は……。ですが、パーテルの話によると、主人を追って行ったそうですから……恐らくは、一緒に入水自殺をしたのではないかと」
「ほぉ、そこまで忠義を尽くすとは……家臣の鑑だな」

 騎士とか武士の性格に片足を突っ込んでいるクロウは、満足げに頷く。確かに、そこまでご主人様を慕ってたのは凄いけど……俺がもしその家来だったとしたら、ご主人様には死んでほしくないけどな……。
 でも、この世界は悪即斬ですぐ死刑とかだったりするから、それだったら自殺の方がまだ楽だったりするんだろうか。そこを考えると辛いよなあ。

「じゃあ、ケーラーさんの素性を知ってる人はもうこの村にはいないんですか」
「ええ、恐らくは……。もう何十年も前の事ですし、なにより事件は知っていても、詳しい事は知らない人の方が多いと思います。なにせ、ケーラー夫人は彼に見初みそめられるまでは、滅多に家の外に出なかったそうですから」

 じゃあ、ご近所さんに聞くってのも無理か……。呪いを恐れて村を出て行った人も居るんだろうし、こうなるともう情報源がなくなっちゃったな。
 いや、待て、それでも家が有った場所とかは残ってるんじゃないか?

「あの、村長さん……ケーラーさんの家か、旧村長宅の場所はご存じないでしょうか……? 出来れば、見に行ってみたいんですが」
「ああ、それでしたら……その……村長宅だけは残っておりますが……いや、しかし……本当に調査なさるんですか?」
「出来ればちゃんと見ておきたいと思ってるんですが……」

 駄目なのかな、と思っていると、村長さんは急に汗を掻き出して、顔を布で何度もぬぐい始めた。明らかに冷や汗みたいだが、一体どうしたのだろうか。
 三人揃っていぶかしげな表情を村長さんに向けていると――相手は、と言った様子で言葉を吐きだした。

「そ、その……有るには、有るんですが…………行かない方が良いかと……」
「どうしてです」
「きゅ、旧村長宅は……も、もしかしたら、幽霊が住んでいるかも、しれず……」
「えっ」

 ゆゆゆゆゆ幽霊?
 待って待って、そう言う話は聞いてない、話してほしいとか言ってない。
 村長さん諦めます行きませんそこむがっ。

「幽霊、ですか?」

 ぐおおおおブラック、俺のくちふさいでんじゃねえええ!!
 さてはまた心を読んだのかっ、くそうズルイぞお前ばっかり変な能力持って!

「そうなんですよ……あの、それで私達も“あの一画”を取り壊して、新しい施設を建てようと……い、いやいやそんな話では無くてですね。とにかく、あ、あの場所は行っても何もないかと……」
「あの場所、と言う事はその旧村長宅は今でも存在していると言う事だな?」

 クロウがずばっと切り込むと、村長さんは何故か叱られたようにびくりと身を縮めた。なんだろう。良く解らないが、何か話しにくい事だったのか?
 でっかい手で口を塞がれつつ頭上に疑問符を浮かべる俺だったが、ブラック達は何やら勝手に納得してしまったようで、俺の肩を掴んで立ち上がると、そのでかい図体で村長さんを見下ろしながらこう言った。

「なんとなく旧村長宅の場所は解りましたので、もうおっしゃらなくても大丈夫ですよ。後はこちらで勝手に探しますので」

 えっ。え!? 今ので分かったの!? 俺全然解んないんだけど!
 ほら村長さんもびっくりしてんじゃん、慌ててるじゃん!

「お、お待ちください! あの、その、旧村長宅は……」
「大丈夫ですよ、幽霊は呪いとは関係ないんでしょう? だったら、僕達がついでに退治しますから」
「そう、ゴーストは倒せる」
「い、いえ、ですが、あの、その……」

 いや、倒せたって怖いもんは怖いでしょうが!

 突っ込みたかったのに口を塞がれていてはどうする事も出来ず、俺はそのまま肩を抱かれて強引に村長宅から連れ出されてしまった。
 おおーい! さようならの挨拶くらいせんかーい!
 大人のくせに礼儀ってもんを知らんのかいアンタらは!

「ぶはっ、ちょ、もぉ! せめて失礼しますくらいは行ってから出ろよお前ら!」
「え? ツカサ君そこに怒るの!?」
「口を塞いだのは不問なのか」
「そこも色々言う事有るけど、まずは礼儀!」

 冒険者だって貴族や目上の人に会う時はちゃんとしなきゃならんだろう。
 オッサンにもなってそんな事も解らんのかと睨むと、ブラックとクロウは悪びれもせずに眉を上げて肩を竦めやがった。
 だあもうこのオッサン共は。

「それより、早く旧村長宅に行ってみようよ。今度は中まで調べなきゃだし」
「今度は中までって……」

 と、言う途中で、俺はある事を思い出した。
 そういえば……俺達はつい数日前に、村人達の家が集中した区域の奥にあった、廃墟ばかりが立ち並ぶ恐ろしい場所に足を踏み入れていたな。
 じゃあ、もしかして……あの廃墟の群れの中に旧村長宅が……。

「……あっ、そっか!」
「ツカサ君もやっと気付いたか」
「う、うるさいな! あれだろ、今日まで調べた事を全部繋ぎ合わせると……あの“花が咲き誇る綺麗な廃墟”に行き着くってんだろ!?」

 そう。俺達が今まで調べた事――――住宅が並ぶ区域で起こった水の使用量の妙な増加に、ケーラー夫人が「花を育てていた」って事、そして……その住宅区域で花が咲き誇っている妙な廃墟と……幽霊が住んでいるかも知れない、不貞が原因で起こった事件の現場――――それらを合わせて答えを考えてみれば、丁度あの廃墟に行きつくのである。

 水が妙に減るのは、あの花々に誰かが水をやっているから。
 あの誰も居ない廃墟で花が綺麗に咲き誇っているのは、誰かがあの家にちょくちょく出現しているから。そして、そこに謎の影や女性達の変化に妙にリンクする【ケーラー・ガメイラ夫人の事件】を合わせると……廃墟のだけではなく、俺達が調べている「呪い」とも繋がる気がしてくるのだ。

 ――――もしかしたら、ケーラー夫人の事件が……いや、ケーラー夫人の亡霊が、呪いによって女達を出奔させているのではないか? ――と。

 勿論、これは推測にすぎない。俺としては淫魔の可能性も捨てきれていないし、そもそも幽霊とかし、信じてないし。いないと思ってるし。
 つーかあくまでも「それっぽい」ってだけで、ケーラー夫人の悲しい事件が今回の「離婚の呪い」に関係してるかどうかは判らないからな。

 だけど、水の妙な増減と花畑の関係を考えると、調べてみる価値はある。
 幽霊なんて物は絶対に居ないと思うけど、前村長の家が廃墟として残っているのなら、何かの手がかりくらいは見つかるかもしれない。

 ブラック達は村長の話を聞いて、すぐにそれに気付いたのだろう。

「……お、お前らも、が絶対に関係あるとは思ってないよな?」

 廃墟区域に向かって歩き始めたブラック達に慌てて付いて行きながら、恐る恐るで問いかけると、二人はそれぞれに軽く頷いた。

「まあね。あくまでも予想の一つでしかないよ。でも……よく考えてみると、誰も近寄らない廃墟で花がずっと咲き誇ってるってのはおかしいし……あの廃墟が旧村長宅だと断定できたとしたら、色々と妙な事になると思わないかい?」
「もしかしたら、ゴーストではなく“生きた誰か”が、廃墟の花々を密かに世話しているのかもしれない。とすれば、その存在は、ケーラー夫人の育てていた花に固執している事になる。……その正体が何かはまだ判らんが、生きた物なら淫魔と言う可能性もあるだろう。なにせ、この呪いは長く続いているのだからな」
「あ……なるほど……」

 そういう考え方も有るのか。
 でもそうなると、ずいぶん愛に満ち溢れた淫魔……いや待てよ、呪いをかける事で花に彼女達のパワーとかを溜め込んで、それをすすって生きてるって言う大悪党の可能性もあるな……。やだめっちゃ怖い。

 だんだんと廃墟に近付き始めたのを横目で見て、ちょっと二人に近付いた俺に、ブラックはニヤッと笑いながら目を細めた。

「その“誰か”が【離婚の呪い】に関係ないとしても、何かしらの事情は知ってる奴だと思うよ。どういう存在であれ、捕まえる価値はあるんじゃないかな」
「そ、そっか……まあ、は、花を育ててるんだから、悪い奴じゃないよな……?」

 ほら、あの、花を育ててる奴に悪人はいないとかって話だし。
 二人の間に入り込んで、無意識に小声になりながら言う俺に、二人はニヤニヤと笑いながら肩が引っ付く程に距離を縮めて来た。

「ふふふ、大丈夫だよツカサ君。今度は僕達が付いてるから」
「そうだぞ、心配する事は無い。……お、この路地だな」

 俺を守りたいのかそれとも逃がさないようにしているのか、二人してまた俺の腕を左右で掴んで引き摺るように廃墟の路地の奥へと連れていく。
 もうなんか、慣れたけど……これほんと俺が不審者に見えるからやめてぇ……。

 ちくしょう、俺も背が高かったら、こんな捕まった宇宙人みたいな恰好しなくて済んだのに……と思っていると、急に二人の足が止まった。

「……? ど、どした?」
「シッ……。ツカサ君、あれ見て」

 急に声を潜めたブラックに、俺もぐっと喉を締めてゆっくりと前方を見やった。
 目の前には、美しい花が咲き乱れる廃墟が、ひっそりとたたずんでいる。
 時折流れてくる潮風にさわさわと花が揺れているが、その花の揺れ方が違う所が一か所あるような感じがした。

「…………?」

 なんだろうか、と、目を凝らして見てみると、そこには……――――

「あ…………」

 短い間隔で、ぴょこん、ぴょこんと何かが出たり隠れたりしている。
 それはゆるく尖った形で、特徴的な色をしていた。
 ……そう、例えば…………とても、真っ赤な…………。

「まさか……お、お爺ちゃん…………?」

 呟いた視界の先で、またあの赤く尖った帽子がぴょこんと花の間から現れる。
 そして……はっきりと、お爺ちゃんの顔が見えた。
 やっぱり浜辺で海を見ていたお爺ちゃんだ。

 だけど、なんで。どうして花畑に…………?









 
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