異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編

16.調べ物は幅広く1

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※すみませんまた遅れました… あと内容もそこまで進んでないっす(;´Д`)

 
 
 翌日、オッサン二人の髪をいてやって朝食を済ませた俺達は、早速浄水施設に詰めているクレッドさんの所へ向かった。
 あらかじめ結論を予測していると、やっぱり行動ってのは早くなるもんだな。
 だけど、自分の考えた答えに固執してたら真実って奴を見失ってしまうかもしれない……ここは冷静に行かなきゃな!

 とかなんとか似合わない事を考えつつ、俺はクレッドさんにこの前話してくれた事を踏まえて、気になっている事を問いかけた。

「え、水の使用量が増えた区域が分かるか、ですか?」
「はい、クレッドさんなら大体の場所は予想出来るんじゃないかと……」

 彼は空を見て少し考えた後、俺達に答えた。

「多分……民家のある一画だと思います。地下の水路は、この前見て貰ったようにいくつかに分けられていて、それぞれが区分けした所へ流れるようになっているのですが……私の目測としては、そちらに異常があるような感じがします。ですから、妙だと思ったんですよ。あそこは半分くらいがもう空き家ですし、むしろ水の使用量は減るはずです。なのに増えているので……」
「なるほど……あの、クレッドさん、ちなみに呪いに掛かった女の人達は、派手になったり外出が増えたりした感じじゃなかったですか?」
「うーん……私は滅多に外出しませんので、断定はできませんが……話を聞く限りでは、そんなような事を言ってた気がしますね」

 ……話を聞くだけだとやっぱりただの心変わりか不倫の兆候に見えるな……。
 でも、それが立て続けに起こるのはやっぱ変だし、そう思ったから調査した人がいて、謎の影が関係してるかもしれないって思ったんだろうけど……そもそも、この村で離婚が立て続けに起こり始めたのはいつ頃なんだろう?

「あの、クレッドさん。村の人口の増減が分かる人っています?」
「それなら村長さんかな。この村には教会が無いから、村長が戸籍の管理を任されているんだ。調査を頼まれているのなら見せてくれると思うよ」

 この世界では、中世の頃と同じで教会が戸籍とかを管理してるんだっけ。
 そういう組織が無い場合は、国が村長さんに色々と任せてるのか。まあおさだし、当然と言えば当然だけど……何故それを先に教えてくれなかったんだろう。

 離婚が増え始めた時期を見て、その年に何が有ったかを知れば、何かしらの手がかりは掴めるだろうに、それを提案してくれなかったってのが解せない。
 いや、俺達が自分で気付けばよかった事なんだけど……それを考えると、俺もちょっとアホだよな……トホホ……。

 でもとりあえず、クレッドさんからは新たな情報を貰えたし結果オーライだ!

 お礼を言って浄水施設を後にすると、俺達はすぐさま役場へと向かい、村の人口の増減に関する資料を見せて貰う事にした。
 俺達に対応してくれたのは、昨日ヤバい喧嘩をしていた美人な秘書さんだ。

 相手は俺達が修羅場を目撃していた事など知らなかったようで、日常業務とでも言わんばかりにテキパキと対応してくれたが……なんというか、あの光景を見たら微妙な感じになっちゃうな……。

 いや、美女が顔真っ赤にしてキーキー言ってるのは萌えるけど、ホラ、クールなキャラってああいうの人に見られるの嫌がりそうだし……好感度下がりそうだし。
 俺はなるべく女性の好感度は下げたくない!

 と言う訳で喧嘩を見た事は黙っておいて、会議室にずらっと記録を記した書類を並べると、俺は二人と手分けしてここ数年のベイシェール村の人口の増減を調べる事にした。

 とは言っても、戸数こすうも限られた村だ。それほど時間がかかる事も無く、二三時間程度で離婚が急に増え始めた年代を突き止める事が出来た。

「えーっと……新聖王歴628年の、冬の月の終わり……ここら辺から、急に離婚が増え始めてるね。それより前は離婚の承認なんかはほとんどないよ」

 新聖王歴というのは、ライクネス王国特有の年の数え方だ。
 ブラックの話によると、元々はだいたい百年毎に「第一聖王歴」とか付けていたらしいのだが、その「第」が増えすぎたため、何代か前の国王が「めんどくさい」とキレて暦を改め、以前の「第うんたら聖王歴」は「旧聖王歴」と言われるようになってしまったらしい。

 まあ西暦だって一万越えたら面倒臭くなるだろうし、仕方ないかもな。
 そう考えると、日本人が使ってる和暦って楽だよなと思う。
 和暦って覚え始めは物凄く混乱するけど、あれはあれで理に適った暦だったのかも知れない。でも増えすぎたらめんどいし、そう言うのはどこも同じか。

 あ、ちなみに、どこの国でも一応は一年が十二か月なんだけど、それを四つの区分に分けているらしい。春の月だとか夏の月だとか。
 当然、名前の通り四季が元になってるんだけど、月三つ分あるので、最初と最後だけ「初・終」と文頭に付けて区別してるんだって。「初春の月○日」とか、「終春の月○日」とか言う具合に。

「じゃあ、その年代より少し前……四五年しごねんの幅を持たせて、この村の記録を調べてみるか。もしかしたら何か事件が起こってるかもしれないし」
「何故幅を持たせるんだ?」

 クロウが不思議そうに首を傾げるのに、俺は答える。

「事件の切欠きっかけが直前に起こったとは限らないからさ。ホントはもっと範囲を広げた方が良いんだけど、一日ではそんなに調べられないからな。最初は絞って、徐々に範囲を広げようと思って」
「なるほど、ツカサは頭が良いな」

 ふっふっふ、全部ドラマの受け売りですよとは言えませんにこれ。
 母さんに付き合って推理とかサスペンスとかのドラマを見てて良かった。

「じゃあ、秘書に頼んでその時の記録を見せて貰おうか」

 と、ブラックが席を立とうとした時、ドアをノックして秘書さんが入って来た。

「みなさんお疲れ様です。お飲み物をどうぞ」
「ありがとうございます。それと……すみませんが、これより四五年前の村の様子とかを記した資料とかを、全て持って来て貰えますか?」

 そう言うと、秘書さんは目を丸くして俺達をうかがって来た。

「あの……そ、そこまでお調べになるんですか?」
「え、他の人は調べなかったんですか?」

 逆に問いかけると、驚いた表情の秘書さんは頷く。

「ええ、あの……村の出来事などは、呪いとは直接の関係は無いと私どもは思っておりましたので……けれど、そこまでして下さるとは頼もしい限りですわ。分かりました、事件録や他の記録も持ってまいりますね!」

 何故か異様に感動した秘書さんは、風の如く部屋を去ると、すぐに大量の書類を持って帰って来た。あの細腕のどこに山のような書類を抱えて来られたのかちょっと理解出来なかったが、女性にそう言う事を聞くのは失礼かもしれないのでおくちチャックしておく。

「これが全記録ですわ。関係のない物もあるかもしれませんが……一応、村に関係する資料は全てお持ちいたしました」
「ず、随分と残ってるんだね……貴重な紙をこんなに使うなんて……」

 流石にブラックも驚いたのか、机に積み上げられた紙束に目を白黒させている。
 クロウも、紙束の量に気圧けおされてか、耳を痙攣けいれんさせて驚いていた。

「この村は貨物輸送の始点でもありますので、逐一ちくいちこうして書類を作り、国王陛下に当てて郵送しております。そのため、わがベイシェールには過去の資料が多く残っているのですよ」
「へ~、なるほど……村と言っても、実際は街みたいに管理されてるんですね」

 土地の都合上、村という区分に入ってはいるが、やっていることは街と一緒だと聞いていたけど……ほんとしっかりしてんなあ。
 普通の村だったら、紙の資料どころか記録だってない所もあるってのに。
 素直に感心する俺に、秘書さんはなんだか嬉しそうに笑って肩を竦めた。

「ふふ、ベイシェールは古い歴史のある、偉大な村ですから。この浮島が元々は海を漂流していた小島だったなんて言い伝えも残っているくらい、伝統的な場所なのですよ。シンジュの樹が砂浜に群生するのもこの村だけですし」

 元々は海を漂流していた小島……昔放送されてたっていう瓢箪ひょうたん型の島みたいな話だな。でもファンタジー世界だしそれも現実に起こり得るんだろうな。
 しかし、漂流してたって事は……元々はどこかの小島だったんだろうか。でも、一体どこの島だったんだろう。海流とか調べればわかるのかな?

 まあそれは置いておくとして……とにかく今は手がかり探しだ。
 昼前に終わらせようと頑張って調べていると……。

「…………おっ? ツカサ君、これ見て」

 何か見つけたらしいブラックが、俺を呼ぶ。
 クロウと一緒に指を差された項目を見てみると、そこには“とある事件”が詳細につづられていた。

「ええと……ケーラー・ガメイラ夫人による重大規定違反および……そ、村長殺害未遂事件……!?」
「そのケーラー・ガメイラって人の年齢見てみて」
「十七歳……ツカサと同じ年だな」

 クロウの言葉に、ブラックは頷いて頬を掻く。

「この前もいくつか事件は有ったみたいだけど、それでも殺人までは無かったし、離婚の呪いにかかる女達の年齢と合うのは、この事件だけなんだ。それにこれ……結構陰惨な事件みたいだしね」

 確かに、この村での事件は窃盗や強盗などの事件ばかりで、殺人事件などは起きておらず、少なくともこの事件以降はまったく起こっていなかったようだ。
 どんな内容なのかと見てみたら、その事件は予想以上にエグい事件だった。


 ケーラー・ガメイラ夫人は、ベイシェールの村長をしているパーテル・ケラーノに見初められてめとられたうら若き乙女だった。
 貞淑ていしゅくかつ才色兼備であった彼女は、若いながらも村長の妻として立派に勤めを果たしており、周囲からは良妻として人気を集めていたらしい。

 しかしパーテル村長は、そんな有能な妻と対比される事に多大な疲労感を感じていたようで、女を作り不貞に走ってしまったと言う。しかし、ケーラー夫人は夫の不貞を黙認していた。彼女なりに、愛する夫を許そうとしていたのだろう。だが、その夫人の態度にパーテル村長は増長し、最終的に囲った女を二人が暮らす邸宅に住まわせるようになってしまった。
 つまり、夫人は不倫相手との共同生活を強いられてしまったのだ。

 ケーラー夫人は愛する夫の為だとそれすらも許容していたようだが、しかしその許容もついに終わりを迎えてしまった。

 彼女は邸宅から抜け出し、この村に住む人々が守っていた規定……「決して“神秘の入り江”を荒らさぬ事」という約束を破り、全ての倒木を海に流し、その後で邸宅で眠っていた夫を襲ったあと、海に入り自殺をしてしまったと言う。
 このことで村長は深い傷を負ったものの、奇跡的に一命を取り留めた。しかし、妻による規定違反を被って役職をはく奪され、退去処分となったようだ。


 …………とまあ、こんな事件なんだが……。

「えーと……十七歳の女の子には辛すぎると思う……」
「僕も大体同じ状況なんだけど」
「いや俺達の場合は納得済みで話し合ってるだろ」

 お前もちょいちょいクロウを許してるんだからつべこべ言うんじゃないの。
 俺だって喜んでクロウとやらしいことしてる訳じゃないんだからな。
 ブラックの頭をチョップして、話を元に戻す。

「それにしても……被害者も加害者もかなり狂ってるな……この事件……」
「僕はこの夫人の方に同情しちゃうなあ。自分が有能すぎるせいで不幸を被るなんて、絶対に納得いかないよ」
「素直にハーレムを作ればいいものを、この村長は阿呆だな」

 阿呆だな、じゃないですよクロウ。獣人ってハーレムが普通なんですか……。
 色々と思う事はあったが、しかし今する話じゃないと堪えてブラックに問う。

「もしこれが呪いに関係あるとしたら……どう繋がってると思う?」
「うーん、まだ断定はできないけど、淫魔が関わってるなら確実にこの年に何かが起こったって事なんだと思う。でも、何十年以上も前の事だし、証拠とか証言とかはもう取れないだろうねえ」
「今の村長に話を聞いてみたらどうだ? 前村長が断罪された時の事も、彼ならば覚えているかも知れない」
「それもそうか……ケーラー夫人についても何か分かるかもな」

 他に関係しているような事柄が無い以上、これを掘り下げてみるしかない。
 俺達は満場一致で方向を決めると、とりあえず秘書さんに村長の居所を聞いてみる事にした。すると、秘書さんが言う事には、村長は今自宅で休んでいるらしい。

 面会に関しては別段問題はないとのことだったので、秘書さんに紹介状を書いて貰うと、俺達は村長の家へ向かった。









 
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