異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編

14.ナンパ男は経験豊富

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※遅れちゃった…すみません……(;´Д`)



 
 
「うぅ……情けない…………」

 トイレにこもって股間を抑えてみるが、しかし状況は全く変わらない。
 こんなんじゃ恥ずかしくてブラックの所に戻れないよ……。でも、早く戻らないとブラックに感付かれてしまう。アイツほんと変な所でカンが良いからなあ……。しかし、それにしても全く治まってくれない。

 ぐううチクショウ、いつもなら安静にしてりゃいい子になるのに。

「やっぱこれ淫魔の……いやいくらなんでも、他人のせいにするのはよくない……でも、それだと俺が勝手に発情して……う、ううう嫌だ、そこまでは落ちたくないぃ……」

 ハッ、そうだ、えるような事を考えるんだ。そうすれば治まってくれるはず!
 ええと、でも萎えるような事ってどんなのだ。女子じゃない物……男? 例えばブラックが女性物の下着を付けて仁王立ちする姿……はあまり想像したくないが、萎えるとかそう言う次元の話じゃないなそれ……。
 だめだ、意味不明な物を想像しても、頭が付いて行かない。もうちょっとこう、生理的嫌悪とかをもよおす物を……ってそう言うのは想像したくないぃ!!

「ああぁあどうしよう、どうしよううううう」

 いつまでもトイレにこもって居られないし、だけどこんな状態でどうやって出れば良いんだ。どうして治まってくれないんだマイ愚息ぅうう!
 頭を抱えてどうしたら良いのか混乱していると、唐突に扉をノックする音が聞こえてきた。あまりに突然の事で、驚きのあまり心臓が飛び出そうになったが、なんとか持ち直して口を押える。

 ヤバい。誰だ。呼びかけて来ないって事はブラックじゃないよな。
 この宿って一階は酒場だし、もしかして酒を飲んでいた客か?
 じゃあ完全に赤の他人じゃねーか! どうしよう、こんな状態で外に出るなんて無理ゲーだし、そもそも出て来た時に股間を抑えてたら変な奴だって思われる。
 ちくしょう、ヌくにしても扉越しに人がいるってのは……。

「おぉーい、早くしてくれぇ、漏れそうなんだよぉ~」
「…………ん?」

 この声、聴き覚えがある……。
 まさかと思ってそっと扉を開けてみると、そこには先程まで一緒に居たチャラい茶髪の男が立っていた。

「あれぇ!? ツカサちゃんじゃん! あっ、宿ココだったんだ!?」
「いや、あの、リオルなんで……」
「えっ? そりゃ飲み……じゃなくて今は後で! ちょいちょいちょい」
「あっ、ま、まって、待って!」

 どわぁ無理矢理開けないでっ、ちょっと、まだ股間がっ股間がぁ!

 押し問答になって慌てて扉を引こうとするが、しかしリオルは優男のくせに意外と力持ちなのか、切羽詰まった顔をしながらドアごと思いっきり俺を引き込んだ。

「うわぁあっ!」

 ドアノブに全体重をかけていた俺は、当然ドアに引き摺られて外に出てしまう。
 しかも、両手を使っていた俺は、完全に股間がノーガードだった訳で……。

「あ……」
「あ? なに、ツカサちゃんなんでそんな所が盛り上がってんだ?」

 うるさいパーティーピーポー。
 ああもう、バレた、ばれちまったよー!! 絶対馬鹿にされる、アゲアゲ野郎にこんな所を見られてバカにされないハズがない。
 もう絶対からかわれる……。

「う……うぅ……」

 思わずへたり込んでしまった俺に、リオルは呆気にとられた顔をしていたが――何故か、急に心配そうな顔をして、座り込んだ俺に視線を合わせて来た。

「お、おいおいどしたんだよ。ナニ? なんか困ってんのか?」
「え……」
「俺で良ければ何でも言ってよ。その様子だと……普通の理由でそうなってんじゃないんでしょ? えっと……ここじゃ何だから、隠れられるとこに行こうぜ」

 そう言いながら、頼もしげに笑ってくれるリオル。
 こんな事、会って数日の奴に話すなんて出来る訳がない。だけど……もう正直、どうしていいのか解らなくて……素直に頷いてしまっていた。



   ◆



 宿から出てすぐの路地に隠れて、壁に背を付け座る。
 けれどもまだ俺の愚息は収まらなくて、仕方なく体育座りをしながら必死にソレを抑えていた。そうでもしないと、熱でどうにかなりそうだったからだ。
 そんな中で、簡潔に今の症状をリオルに説明すると……相手は至極真面目な顔をして、深く頷いてくれた。

「はあ、なるほど……自分の恋人に妙な反応をしてしまったのに、まったく本意じゃなくて困ってると」
「うん……なあ、こう言うのってよくあるもんなのか? 普通じゃないのか?」

 不安に表情を歪めつつ問いかけると、リオルは少し感心したような顔をしつつ、俺の顔をじろじろと見やった。

「ツカサちゃん、ほんとウブなんだな……。いやゴメン、違う、からかったんじゃないって。だからつまり……あのオッサンしか恋人って奴を知らないから、解らなくても仕方ないんだなって事だ」
「う……」

 話したのは俺だけど、そうハッキリ言われるとなんか恥ずかしくて困る。
 思わず顔を歪めてしまうと、リオルは苦笑して俺の頭にポンと手を乗せた。

「恥ずかしがるこたぁねーよ。純潔を捧げた相手と添い遂げるってのは、そうそう出来ねえこった。あのオッサンもさ、何も知らないツカサちゃんを自分好みに染め上げるのが楽しいんだよ。だから無知ってのは何も悪い事じゃないぜ?」

 そっ、そめ、あげ……。
 何そのエロ漫画みたいな台詞、なにそれ!!

「ほら~、そうやってすぐに顔を赤くしちまうから、ウブって言われんだぜ? ……まあそれはともかく、恋人の仕草に興奮するってのは普通の事だとは思うが……流石にその持続時間はちょっと謎だな。今だってまだ勃起してんだろ?」
「う、うぅ……」
「ウブなツカサちゃんだって“何かがおかしい”と思ったから、オッサンから逃げて来たんだろ。じゃあ、それって何か他の原因が有るって事だと思うぜ」
「何でそんなハッキリ言い切れるんだ?」

 助けを求めておいてなんだが、根拠がないと疑ってしまう。
 遅漏早漏なんて言葉がある訳だし、色々な要因でこんな異常事態になる事だってあるかもしれないしなあ。経験豊富なナンパ百戦錬磨の男だからと言っても、症状を断定する事なんて出来ないと思うのだが……。

 困惑顔になってしまった俺だが、リオルは自信満々に己の胸を叩いた。

「なんで言い切れるかって、そりゃー俺のケイケンと知識よ! いっくら若いっつっても、オカズもナシに長時間勃起なんて普通は無理だし……何より、ツカサちゃんは気持ち的に嫌だって思ってんのに、勝手に体が火照ってる訳だろ? 人に触れられても居ないのに、どうにも出来ない熱が続くなんて異常だぜ。の回数だってまだ数えられる程度なら、開発されきってるって訳でもなかろうし……とにかく、おかしいには違いない」

 何だか物凄く過激な単語が並んでいるようだが、しかし俺より大人なリオルにハッキリと言われると、何故か物凄い説得感がある気がして来る。
 これが本当に自分の体の変化にる物じゃないんなら嬉しいけど……でも、それなら俺のこの症状はやっぱり……。

「あの……これ、淫魔のせいって可能性はある……?」

 それ以外に理由が見つからない、と言うと、リオルは難しげに顔を歪めて、髪をがしがしと掻き回した。

「うーん……淫魔……? 淫魔って、魔族の国に居る奴らだよな? 俺的にはああいう体だけの関係ってのは頂けねーし、やっぱし女は清楚で貞淑……じゃなくて、淫魔がこの街にいるかって? ……うーん、それはどうか解らないが、だけどもしツカサちゃんの発情が外からの要因だったら、自分では抑えられねーよな」

 この口ぶりからすると、リオルは淫魔を知ってはいるが、“謎の影”の正体だとは思っていないって事なんだろうか。
 でも、今の所すんなり理由が通るのは淫魔しかないし……とか考えていると、急にリオルが顔を近付けて来た。

「うおお!?」
「ちゃうちゃう、口付けとかしないから。いやほらさ、ツカサちゃんは身持ち固いじゃん? だったら、俺が触れたりすればゾッとして萎えねーかなって」
「あ……なるほど」

 身持ちが固いとかなんとかは聞いてない事にする。
 確かに、俺はブラックやクロウ以外の男に触れられるのは嫌だと思っているし、実際襲われても興奮もしなかった。
 だとしたら、リオルに変な所を触れられれば萎えるかもしれない。

「オッサン置いて来てるんだろ? だったら早いとこ治めねーとな」
「わ、解った。じゃあ……やってくれ。ただし変な所を触るのはナシだぞ」
「ガッテン承知ィ。んじゃ触るよーん」

 そう言って、リオルがどこか楽しそうに手を伸ばしてきた。
 どこを触るんだろうかとちょっと緊張していると――――リオルはいきなり俺に抱き着いてきた。

「わ――――ッ!! な、何しやがるてめぇー!!」
「はい今っ、今どうよ! 萎えた!?」
「えっ、え!?」

 あっ、そうか、こうやって俺を驚かせてシュンとさせる作戦か!?
 すぐさま離れるリオルに言われて、俺は自分の股間を見やる。
 すると……不思議な事に、あれほどに熱を持って体を火照らせていた熱は、俺の体からすっかり消え去ってしまっていた。一応股間をポンポンと限りなく軽く叩いてみたが、別にオウッて感じにはならない。まさかの完全沈黙だった。

 いや、俺はイケメン嫌いだけどさ、でもこんな即効性があるなんて……どんだけ美しさに憎しみ持ってんだよ……逆に怖いよ自分の心の闇が……。

「どうやら治まったみたいだな」
「うん……」
「瞬時に収まるって事は、やっぱなんか変な事が起こってたんだろうな。……淫魔かどうかは解んねーけど……ツカサちゃんさ、オッサンに何か飲まされたりとか、食べさせられたりとかしてないか?」
「え?」

 何それ。どういうこと?
 そりゃ一緒に旅してるパーティーの仲間なんだし、殆どの時間を一緒に過ごしているから、普通に食事は一緒に食べるし、水を渡されたりもするけど。
 イマイチ言っている事が解らないと首を傾げると、リオルは心配そうな顔をして、俺の両肩を手で掴んで少し力を込めた。

「あんまり言いたかねーけどさぁ……その……ツカサちゃん、オッサン達に薬でも盛られてたんじゃないのか?」
「……くすり、って……」
「いや……淫魔が居るかどうかは俺にもわかんねーけど、もしいなかった場合、さっきの異常な反応はどう考えてもおかしいでしょ? 他人に触れられて驚いたらすぐ普通の状態に戻るなんて、玄人でも出来るこっちゃねーよ。……だとしたら、それって薬のせいなんじゃねーかなって……」

 ……確かに、それ以外に説明のしようがない。
 だけど、ブラックが薬を盛ったって……一体どうして。ブラックは俺の恋人なんだから、そんな事をする必要はないし、そもそもこのタイミングで効く薬なんて、アイツが用意するとは思えないんだが。

 いまいち納得できない俺に、相手は口を引き締めて俺をじっと見やる。
 その深緑色の瞳から、何故だか目を離す事が出来ない。何も言えなくてリオルを見返していると、相手は真面目な顔のままで眉根を寄せた。

「ツカサちゃん、俺は確かにナンパ野郎だけどさ……でも、落としたいくらい好きな相手に薬を使うヤローは最低だと思ってんだ」
「でも、ブラックがそんな事……」
「するわけないって? 冗談きついぜツカサちゃん……頭の悪い俺だって、あのオッサンが善人じゃない事は解るんだぜ? 一般人に殺気をぶつけまくってくる男が、そう言う所だけマトモだと思う?」
「………………」

 それを言われると……確かにとしか言いようがない……。
 だって、ブラックは基本的に俺とえっちが出来たら満足な奴なんだ。俺とえっちをするためなら、俺のピンチにかこつけて約束を取り付けようとするし、今だって何かと引き換えに俺に恥ずかしい事をさせようとして来るんだ。どう考えても常識人には程遠いし、やっぱ一般的な大人じゃないよなぁ……。

 …………じゃあ……マジで知らない内に薬を……?
 いやでも、ブラックはそんな事しなくたって良いハズなのに…………。

「ツカサちゃん、俺にはツカサちゃんとあのオッサンの関係は解らないけどさぁ、でも……何か出来る事が有ったら力になるから、何でも言ってくれよ」
「リオル……」
「そうだ、もしまた何か困った事があったらさ、この笛を使って俺を呼んでくれよ。……まあ、ツカサちゃんの恋人のオッサンが薬を使ったかどうかは分かんねーけど、今日みたいな事があったら、俺が駆けつけてすぐ萎えさせてやるからさ」

 そう言いながら、リオルはふところからオカリナのような笛を取り出した。
 どう吹いてもとりあえず音で解るからと言いながら笛を俺に押し付け、リオルはチャラい笑顔で俺を励ますように笑う。
 イケメンは嫌いだけど……そうやって気遣ってくれる事はありがたくて、俺は少し笑うと遠慮がちに笛を受け取った。

 情けない理由で呼ぶ事になるのは恥ずかしいが、しかしどうにもならなくなった時に、助けを呼べると言うのはありがたい事だ。
 自分の体の変化の事は良く解らないけど……でも、この興奮は俺自身の感情から来るものじゃないんだし……逃げる手段は多い方が良いよな。

「んじゃ俺はもう帰るわ。あ、そうそう、俺はいつも村をぶらぶらしてっから、運が良ければまた明日会おうぜ」

 ウインクをしながら投げキッスを放ってくるリオルに、そのキッスを叩き落としながら、俺はちょっと気楽になって笑った。

 ブラックが薬を盛ったとは思ってないけど……俺の興奮の原因がまだ良く解らないなら、余計にさっきの衝動に流されちゃいけないような気がする。
 もしこれが“何者かの意思”にる物だとしたら……最悪の場合、ブラックにも迷惑をかけてしまうかもしれないんだから。異様な興奮に流されてえっちした結果、ブラックに変な事が起きて……なんて事になったら嫌だし。

 リオルに別れを告げて裏庭に戻りながら、俺は穏やかな心音を立てる自分の胸に掌を押し当てた。

「薬……淫魔……それとも別の要因か…………なんにせよ、不気味だな」

 綺麗な観光地だと思っていたけど……この村も、言い知れぬ闇を抱えているのかもしれない。何か、まだ俺達が気付いていないほどの闇が。
 そう思うと少し背中が寒くなったが、裏庭で俺の事を待っているブラックの姿を見つけた瞬間に、何故かその不安は和らいでいた。









 
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