異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編

  警戒もやりすぎるとしんどい 2

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「上半身だけ? 上半身だけしかぬぐわないの?」
「うぐっ……べ、別にいいだろ! つーかお前が見てる前でけるか!」
「えぇ~……まあ良いけど。あとは髪を洗ったら終わり?」
「一応な」

 お湯だけで頭をすすぐっていうのもちょっと心許ない気がしたが、しかしここには石鹸が無いのだから仕方がない。ブラックに手伝って貰って頭をすすぐと、その後で最近気になる足もちゃんと洗って俺は一応人心地ついた。

 ……ほんとは靴とかシャツとか色々なモノのニオイが気になるんだけど、今洗っても仕方ないしな。クロウに色々言われてから、最近特に体臭が気になるようになっちゃったのがイカンわ。

 多少は男臭い方が女子に好かれる世界なんだから、こう、逆に汗臭い方が良いんじゃないかとは思うんだけど……やっぱ駄目だ、二人にがれたくない。

「ツカサ君?」
「なっ、なんでもないです」
「んー、やっぱ湯浴みしちゃうとツカサ君の汗の臭いが薄まっちゃうなぁ……」
「だから嗅ぐなっちゅーに!!」

 うなじに鼻を近付けて来るんじゃないと押しのけるが、ブラックはびくともしない。えぇくそこれだからデカブツ体力お化けは。

「でも、ツカサ君がせっかく気を使ってくれてるんだし……だったら、僕も上半身くらいは洗おうかなあ」
「そ、そうだなそれがいい! ついでに髪も洗っとけよ。潮風のせいか、また結構な具合でごわついてるし」
「え? そう? ツカサ君が言うんなら……」

 自分では気付いてなかったのか、もじゃついた自分の髪を確かめるブラック。
 髪の毛がウェーブがかっててうねうねしてるせいか、そんなにボリュームとかが変化しないから気付きにくいのかな。もしくは毛根が強いとか。
 でもまあ、流石にこの綺麗な赤髪が抜けるのは勿体ないし、俺としてはこまめに洗って頂きたいのだが。

「でもこの状態だと上手く洗えないから、ツカサ君手伝ってくれる?」
「それくらいなら構わんよ」

 俺もまだ上着を着てないし、ズボンの方は濡れても寝てる間に干して置けば乾くからな。最悪、曜術を使って乾かせばいいし……それに……ブラックの髪を触るのは、嫌いじゃないし……。

 それはともかく、服を脱いで貰って、まず自分の体は自分で拭いて頂こう。
 「えぇ~手伝ってくれないのー?」とブラックは不満げだったが、こんな場所でそこまでやってやる義理は無い。しかしまあ、背中を洗うにはリボンでくくった長い髪が邪魔だったから、そこは手伝ってやったが。

「うーん、やっぱちょっと手触りが悪い」
「ホント? 僕の髪、潮風とかには弱いのかなぁ……」

 呟きながら、ちょっとシュンとするブラック。不覚にも可愛いと思ってしまったが、そんな自分を心の中でビンタしながら冷静に答える。

「普通に考えたら、ろくに手入れとかしてないからだろう。女みたいに蜂蜜とかの髪を保護するもので手入れしたり……あ、そうだ。カンランの実の油とかも良いと思うぞ。アレって確かオリーブオイル……いや、俺の世界では、髪を落ち着かせたりしっとりさせる効果があるって話らしいし」
「えっ、じゃあ、僕の髪の毛も直毛になるかな?!」

 俺の話を聞いた途端に食いついてきたブラックに、俺はちょっと気圧けおされる。
 直毛になるって……もしかして、ブラックはこのうねうねしたくせっ毛が嫌なんだろうか。折角こんな綺麗で格好いい髪なのに。

 背中をこする手を止めてしまったブラックに心配になり、俺は赤い髪を両手で持ち上げたまま、少し体をずらして相手の横顔を覗いた。

「ブラック、今の髪型が嫌なのか?」

 そう訊くと、相手はちょっと口を尖らせて不満げに目を伏せる。

「ん……だって……あんまり良い思い出ないから……」

 伊達男の顔を持ちながら何を言う、と思ったが……多分、屋敷に閉じ込められていた十八年間の中で何か有ったんだろうな。
 普段なら俺がちょっとでもドキッとすると、調子に乗って「ツカサ君は、僕が髪を下ろした姿が好きなんだよね! 僕の髪好きなんだよね!」とか言うくせして、こんな時ばっかりネガティブになるんだからもう。

「ツカサ君だって……ホントはさらさらした髪の方が好きだろう?」

 ねたように言うブラックに、俺は思いっきり仏頂面をして頬をつねった。

「いったい!? な、なにすんのさ!」
「バァアアアアカ! 人の気も知らないで勝手な事言ってんなよ! 誰がアンタの髪が嫌いだって言ったよ、言ってねーだろうがっ!」

 一人で思いこんでんじゃねーよと髪の毛をわしゃわしゃ掻き乱すと、ブラックは頬を赤らめて、へにゃりと表情を緩めるとだらしなく笑った。

「えへ……えへへ……つ、ツカサ君、僕の髪……そんなに好きなんだ……」
「気色悪い笑い方すんな! ほら、髪洗うぞ!」
「ふへへ、はーい」

 だーもーこのアホンダラ、すぐに機嫌が直るくらいなら簡単に自信喪失すなよなもう。さといくせに変な所ばっかりにぶくて疑り深いんだから。
 ブラックの背中を叩いて急がせると、俺はさっさと髪を洗わせるべく髪を縛っているリボンを解いた。

「…………」

 ブラックの広くてたくましい背中に、綺麗な赤色をしたうねる髪が広がる。その光景だけで胸が強く高鳴ってしまって、俺はぐっと息を詰まらせた。
 ……無意識にこんな事になるのに、嫌いなはずねーじゃん……。

 オッサン相手に無条件でこんな事になるなんて、昔の俺なら絶対にありえなかったのに……そう考えると、何か物凄く納得がいかなく思えてしまう。
 なので、もう一回赤髪に覆われた背中を叩いてしまった。

「わぉっ! んもー、ツカサ君たら照れちゃって~」
「うるさい照れてない!」

 いいから早く髪を前に流せと怒鳴ると、ブラックはのそのそと体を曲げて、長い髪を前へと垂らし直した。筋肉の起伏が見える背中と、そこに繋がるうなじが露わになって、俺はふと間近に有る部位に目をしばたたかせた。……そう言えば俺、こいつのうなじをちゃんと見た事が無かったような気がする。

 頭と体を繋ぐ太く強い筋が見える首は、背部ですら男らしい。
 肩へと繋がる筋がうっすらと浮かび上がっていて、俺も思わず自分の項を撫でてみるが、その起伏は感じられなかった。

 同じ男として負けたようで悔しくはあるが、その悔しさ以上になんだか胸が苦しくなって、俺はぐっと口をつぐんだ。
 う、うう……ほんとおれ、こう言う時にドキドキすんのやめたいわ……。

「ツカサくーん、この体勢辛いよぉ……」
「あっ、はっ、はいはい、お湯ね、お湯かけるぞ!」

 はぁ、ブラックが髪の暖簾で視界を遮られてて本当に良かった。
 ずりずりと桶をブラックの前に持って来て、ブラックの隣にしゃがむ。俺の気配が解ったのか、ブラックは長い髪の暖簾のれんを手でけてちらりと俺を見た。

「頭の上からかけるの?」
「うん。こまめに掛けるから、髪は自分で洗うんだぞ」

 水をむ桶をちょっと拝借してお湯を汲み、ブラックの頭にゆっくりと掛けると、相手は素直に髪を手でき始めた。
 だけどあまり上手じゃなくて、何度も何度も引っ掻けては「いてて」と声を漏らしている。太く武骨な指では難しいのか、それとも慣れていないのか。
 どっちにしろ危なっかしくて見ていられなくて、俺はブラックと役割を交代する事にした。俺が髪を洗う役で、ブラックが俺の指示でお湯を被る役だ。

「ほら、お湯かけて」
「えへ、へへへ、はーい」

 ったくもうこのオッサンは……。
 髪で隠れていようが容易に表情が想像出来ると呆れつつ、俺はお湯で柔らかくなった髪を、もつれないように注意しながら指でいた。
 うーむ、やっぱ潮風で髪がキシキシしてる……。俺は長髪になった事もないし、よく考えたら母さんの髪すら触った事が無いので良く解らないが、この状態は良くないって事だけはわかるぞ。

 消臭剤にトリートメントにって……本当金掛かるオッサンだな、ブラックよ。
 まあ顔だけは格好いいんだし、メンテに金がかかるのは仕方ないような気もするけどな。……俺はどうなんだとか言ってはいけない。どうせ俺はモテませんよ。

「ツカサ君の手、やっぱり気持ちいいなぁ……。どうしてそんなに簡単に僕の髪を解けるのかな? やっぱり僕の運命の人だからかなぁ」
「ばーっ!! アホか! アンタがぶきっちょ過ぎるんだよ!」

 簡単に運命を感じて貰っちゃ困るっての!!
 まったく、ほんとコイツは……ああもう、顔が見えなくて良かった。なんか顔が熱くて変な感じだし……絶対今赤くなってるんだろうし……くそっ、どうして俺もこう簡単に赤面するのかなあもう。

 もうちょっと大人っぽく、男らしく笑って流せたら、こんな風に意地を張ったりせずに恋人らしく出来るのかも知れないのに……。
 そう思って、再びブラックの髪に手を差し込こんで下へ降ろそうとした。と。

「――――っ……」

 何故か、急に胸が強く脈打つ感じがした。

「……?」
「ツカサ君?」
「あ、いや、なんでもない……もっかいお湯で流して」

 俺の言葉に、ブラックが髪の毛をかき分けて、その間から綺麗な菫色の瞳を覗かせる。うつむきがちなその表情は彫りの深い顔立ちと高い鼻を強調していて、俺の胸がまた強く鼓動を打った。

 ……え……ど、どうして……。
 なんだ、これ……どういう事だ……?
 
 自分でも自分の変化が良く解らなくて混乱している間に、ブラックは桶で汲んだお湯を頭から被った。その飛沫が、腕や胸に掛かる。

「……も、もう一回ぐらいでいいかな……」

 何事も無いように呟いて、ブラックの髪を撫でるように手を動かすが、けれども胸を伝う水滴がなんだか異様に生々しく伝わって来て、体内が熱くなっていく。
 この感覚には、嫌と言うほど覚えがあった。
 だけど、どうしてこうなるのか解らない。俺は困り顔になりつつも必死に耐え、平常心を装ってブラックの髪を梳き続けた。

「あはっ、もう絡まってる所なくなってきたね!」
「そう、だな」

 無邪気に笑う顔が、髪の隙間からうっすらと見える。
 ドキドキするたびになんだか胸が熱くなって、生温い熱に包まれているようで、俺は眉を寄せて必死にその感覚に耐えながら平静を保ち続けた。
 だけど。

「っ……!」

 なんだ、これ、本当に変だ。おかしい。
 裸のはずの胸が、何かに覆われているように熱い。明らかに自分の熱い体温とは違う。なのに、自分の裸には何の変化も無くて、ただ濡れているだけだ。

 素肌そのままで、何もなくて……。
 なのに……なのに、なんで乳首が勃ってるんだよお!!

 なにこれ寒いから? でも別に寒くないよ、寧ろ熱いよ!?
 も、もしかして俺、ブラックの何気ない仕草に勝手に興奮して……いやでもそれだと胸にキュンっていうか腰にズンッて感じじゃないの? 違うの?
 どうして何もしてないのに変な所が勃ってんだよぉ……。

「えへへ、ツカサ君、寝てる時僕の髪沢山触って良いからね! もうもつれてないから、いくら触っても大丈夫だよ!」
「う、うん……っ」

 ブラックの声に、何故か乳首がきゅうっとなる。
 摘ままれているような感覚が有って、だけどそれは今までに感じた事のない物で余計に訳が分からなくなる。

 声を聞いただけで変な所が感じて、勝手に勃っちゃうなんて。嘘だ。こんな事が有る訳がない。だけど、そう思う度に、乳首が両方ともきゅうきゅうと摘ままれて捏ねられるような感覚がして、俺は足を擦り合わせて身悶えたくなるのを堪えた。

 こ、こんなの……変……絶対変だって……!
 なんでこんな事に……っ、あっ、ま、まさかこれが淫魔の仕業……!?
 はっ、まさか昨日の気持ち悪いスケベな夢も、淫魔がみせた物なんじゃ……。

 いやでも俺、淫魔になんて会った記憶もないし、それに夢から覚めたら全然興奮なんてしてなかったし……だったらこれは、俺自身が勝手に発情してるって事なのか……? そ、そんなの嫌すぎる。
 いくら髪を降ろしたブラックが好きだからって、こんなことで……っ。

「っ……ん……………っ……っ……!」

 だ、だめ。胸が熱い。乳首が引っ張られる感覚がして、どうしても腰が揺れそうになる。こんなの絶対おかしいのに、どうしても正常に戻ってくれない。
 やだよ、俺、こんなの違うのに、こんな風になる事なんて思ってないのに……!

「ツカサ君、もういいー?」
「ふひゃっ!? あっ、う、い」
「い? どしたの?」

 や、ヤバい。胸の感触に集中し過ぎてて変な声が。
 このまま顔を上げられたら絶対に駄目だ。とにかく逃げなきゃ……!

「な、なんでも、ない! あ、あの、俺ちょっとションベンいってくるな! 後は自分で髪を絞るだけだから!」
「えっ、え? ツカサ君?」
「後片付けはやるから置いといてくれー!」

 髪を垂らしたままでキョトンとしているブラックにそう言い、俺は立ち上がって服を取ると、その場から逃げるようにして駆けだした。

「ほんと……これ、どうなってんだよ……っ」

 逃げ出しても、胸の違和感が取れない。
 気付けば、もうどうしようも出来ないくらいに股間が膨れていた。

「う……うぅ……絶対変だ、きっと淫魔の仕業だこんなの……!」

 プライドを守るためにそう言うけれど、淫魔に誘惑されてもいないのにそんな事になる訳がないのは、自分が一番良く解っていた。











 
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