556 / 1,264
白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編
ナンパ男は意外と手ごわい2
しおりを挟む「で……まずはどうするんだ?」
デートをすると言っても、別に手も繋がないし肩も寄せないぞ。
ブラックとデートする時はまあ……その……恋人、なんだし……アイツとなら、手を繋ぐくらいは良いけど……いや今はそんな事考えてる場合じゃない。
とにかく、これは取引なのだ。必要以上に馴れ馴れしくする気はない。
警戒しながらちょっと離れる俺に、リオルは苦笑しながら店が並んでいる方向を指さした。
「じゃあまずは定番からだな。ツカサちゃんこっち」
定番ってなんだろうと思いながらもリオルに付いて行くと、なんだか船乗り達が集まっている一画に入り込んできた。
並んでいる店のデザインも、なんだか大人っぽい。そう言えば、昨日はここまで来なかったな。廃墟でワタワタしてたし、今日みたいに船乗りが多くて、聞き込みどころじゃないと思ったし……。
しかし、ここってどういう所なんだろう。キョロキョロしていると、俺の疑問を読み取ったのかリオルが説明してくれた。
「ここは、ベイシェールでもまだ活気のある場所で、宝飾品とかの高級なお土産を取り扱ってる店が並んでるんだ」
「へー……でも、なんでそんな場所が人気なの?」
宝飾品って、この世界で言うアクセサリーとかだよな?
定番の指輪やネックレスに留まらず、宝石箱とか馬具とか……とにかくキラキラして宝石とかが散りばめられている物全般を指すんだよな。
でも、それらは当然高価な物で、気軽に買えるような物ではないはずだが。
それがどうして船乗りたちに人気なのだろうかと思っていると、リオルは解説をしながら俺の手首を掴んで店へと歩き始める。
「なんで人気かって、そりゃ決まってるでしょ。愛しい恋人やら伴侶やらに贈り物をするためさ。貴族様ならともかく、庶民には産地から宝石を取り寄せて加工するなんて事は難しいからな。船乗りに金を渡して買ってきて貰ったり、船乗り自身が買って行く場合も多いってんで、この辺りは村でもずっと変わらず賑わってんだ」
「そっか……産地で買うと、いくらか安いもんな……」
この世界は交通手段が発達してないから、余計に輸送費が高くつく。
そのせいで、宝石も大航海時代のコショウみたいに、べらぼうな値段が付けられたりしてるんだろう。だから、こうして個人経由で買い付けしてるんだな。
……俺の世界だとそれって犯罪のニオイがして来る方法だけど、ここでは信用出来る方法なんだな。まあ、移動するだけで死亡する事がある世界なんだし、まだ近代化してない世界だから詐欺とかも巧妙になりようがないしなあ……。
「で、ツカサちゃんはどういうのが好み?」
「へ?」
「だからさ、指輪とか宝石とか、どういうのが好みなの」
誰にでもそう言うのあるでしょ、とリオルに言われて、俺は首を傾げる。
確かに宝石はキラキラして凄く綺麗だし見ているのは好きだが、金属じゃないし武器に加工できないし……何より付加効果とか無いわけだから、今の俺にとっては欲しいと思うようなものではない。
別に好みは無い、と首を振ると、リオルは目を丸くして驚いた。
「えっ……ほ、宝石、宝飾品だぜ!? 指輪とか首飾りは欲しくないのか?」
「いや、指輪とか付けたら作業する時に物凄く邪魔だし、俺に首飾りとか似合わんにもほどがあるだろ……。いらんいらん。冒険の邪魔」
「じゃ、じゃあ宝石箱とか耳飾りとか」
「入れる宝石を買う経済力もないし、耳飾りなんて付けたら、耳たぶ引きちぎる取っ手に思われちゃうじゃん。わざわざ弱点増やすなんて御免こうむる」
それに、そもそもの話、俺にアクセサリーなんて似合わないだろ。
昔、中二病が酷かった時に、ドクロが付いたゴツい指輪(定価五百円)を買った事があるが、ありゃあ似合わないなんてもんじゃなかったよ。
オタクが装備しても格好良くなるわけじゃないのは解ってたのに、どうして人はああいう物を一度は買いたくなっちまうんだろうな。
あのドクロリングまだ家に在るのかな。やだわ俺の黒歴史。
とにかく、そんな俺にアクセサリーなんて、まさに豚に真珠だ。
いらんいらんと手を振ると、リオルは信じられないと言う顔で俺を見ていた。
な、何。そんな変な事言ったかな俺……耳飾りについての話があまりにもグロでドンビキされたのかな……?
「あの、リオル……?」
「い、いや、そんな事は……。冒険者ってそんなもんなのか……?」
ブツブツ言ってるけどなんだろう。
よく解らなくて首を傾げていると、リオルは強引に俺を引っ張ると適当な店に入って、並べられている宝飾品を強引に見せて来た。
お、おい、なにやってんだお前。
「ツカサちゃん、似合わないなんてそんな謙遜する事ないんだぜ? ホラ、宝石が大きい指輪とかスゲーっしょ? こっちの首飾りとか欲しくない?」
「いやー……俺は別に……でもなんでこんな所に連れて来たんだ?」
「えぇ……いやそれは……」
俺に言われて言いよどむリオル。さっきまでのチャラついた感じじゃないな。
ははーん? さては本命の彼女にプレゼントするためなのかな?
なんで俺を連れて来たのかと思ったけど、もしかして俺と同年代の彼女だったりするんだろうか。そんで、年頃の女子はどんな宝石が好きなのか俺に見立てて欲しいって事か? なるほど、読めたぞリオルの目的が!
俺に執拗にデートに付き合えって言ってたのは、その彼女が喜ぶデートを考えてやりたかったからか! 解る解るぞ、そう言うのって素直に言えないんだよな。
ましてや同じ男に相談とか、切羽詰まってる感出ちゃってすげー情けないし。
そりゃ言えないし誤解するような事もするわ。
なーんだそうならそうと言ってくれればいいのに。早とちりしちまったよ。
俺狙いとかじゃなくてホッとしたし、そう言う事なら協力してやるぞ俺は。
リア充爆発しろとか思ってるけど、まあ俺は大人ですし? 他人の恋を応援するくらいはやれちゃいますし? イケメンは憎いが必死な奴は嫌いじゃないし?
……ゴホン。とにかく、まあ、頑張れリオル。
全てを理解して肩を叩いてやると、相手は妙な困惑顔をして覗き込んできた。
「つ、ツカサちゃん?」
「皆まで言うなリオル。同年代の女子に贈り物をしたいんだろう。分かるぞ」
「え? え? いや、そうじゃ……」
「よし解った、気になってる女の子の容姿を言え、俺が最高に萌えるアクセを選んでやろう。ただし参考程度にしろよ!」
「え、えぇえ……いや、あのねツカサちゃん、そうじゃなくて……」
「そうじゃないの?」
じゃあ何なんだと眉を顰めると、リオルは暫し考え込んだような顔をしたが……気持ちを切り替えたのか、にっこりと笑って俺の肩をポンと叩いた。
「じゃあ、選んでほしいかなー」
「で、その女子はどんな女子なんだ」
「髪の色はめっちゃ暗くて、可愛い顔立ちの子でさぁ……細身でスタイルの良い子なんだよねえ。でも飾りっ気がなくて困ってるんだよ」
「ふーん? 女子なのに珍しいな」
普通女の子ってアクセサリー付けるの好きなんじゃないのか?
俺には良く解らんが、この世界には金属アレルギーとかなさそうだし、そうなると気持ち的な問題だよな。男勝りな子なのかな。それとも自然派なのか?
「だから、その子にどうしても俺の送った物を付けて欲しいんだけどさァ」
俺をじいっと見つめながらそう言うリオル。
首から下をじろじろ見て来るので、体型とかも俺と似てるのかもしれない。
となると、筋骨隆々女子ではないって事だよな。
「女の子なら、定番のルビーとかサファイア……えーと、この宝石とか、あっちに有る青い宝石とかがついた奴が良いんじゃないの? 値段も手ごろだし」
「ツカサちゃんは好きな色とかないの」
「何で俺」
「いいからいいから」
ええー? 良く解らんが、よっぽど参考になる物が無いんだろうか。
まあ、この村は結婚適齢期の女の子が殆どいなくなってるみたいだし、サンプルが少ないんだろうけど……俺の好きな色かー。
別に特別好きな色って言うのは無いけど……。
「うーん…………紫色、かなぁ……」
「え?」
リオルに聞き返されて、はっと我に返る。
「えっ、あ、いや……えっと、そ、そうだな、あと橙色……じゃなくて!! あ、赤、いや青、ああもう違うっ、そうじゃなくて!」
「ツカサちゃん顔真っ赤だけど大丈夫?」
「うっ……。な、なんでもない…………!」
ち、違いますそうじゃないんです。
決して色からあのオッサン共を連想した訳じゃ……あの、だから、ぱっと出た色はいっつも間近で見てるからで……だ、だからそう言うんじゃなくて!!
ナシナシ今のナシ!!
「ツカサちゃーん。おーい」
「い、今のナシ!! えっとその……」
必死に他の色を考えようとしたところに、リオルがふっと笑う。
「やっぱあの赤髪のオッサンが、ツカサちゃんの本命かぁ」
「っ……!?」
「なに意外そうな顔してんの、ツカサちゃんが分かりやす過ぎなんだってば。……手に結婚指輪も何もしてないから、どっちか解んなかったけど……ダンナの目の色が“好きな色”になるくらい、ツカサちゃんはあのオッサンが好きなんだなァ」
「ぃっ、あ、ちがっ……」
や、やばい顔がカッカしてくる。絶対コレ顔が赤くなってる……ッ。
ちくしょーどうして俺はこんな簡単なんだよ!!
リオルの野郎ニヤニヤしやがって、なんだよ! もう笑いたきゃ笑え!
「ふーん……あのオッサンがツカサちゃんに執着してるのは丸わかりだったけど、ツカサちゃんもまさかそーんなにあのオッサンが好きだったとはねえ」
「だっ、も……そ、そう言うんじゃ……っ!」
そりゃ恋人ですけど、す……す、好きだけど……他人にそうやって面白そうに突っつかれたら、どうしたって反論しちまうんだよ!
だってここで開き直っても「ふーん? へーえ?」とかジロジロニヤニヤされて、今よりも恥ずかしくなるだけだし……や、やっぱこういうの苦手……。
くそぉ、なんであんな事言っちゃったんだ俺ぇ……。
「あーあー泣かないで泣かないで。あっ、そうだ。お詫びに美味いメシ奢るからさ! だから元気出して?」
「泣いてない!! っつーかお前が色々言い出した……っ」
「ツカサちゃん、ホテルの中に美味いメシ屋があるの知らないっしょ? 実はさ、そこで珍しいお菓子が食べられるんだぜ? 超美味い奴!」
さっきの小馬鹿にしたようなニヤニヤ笑いは何だったのか、リオルは優しいお兄さんスマイルで俺の肩を掴んで顔を覗き込んでくる。
まるで諭されている子供のようで、俺は内心凄く恥ずかしかったが……だけど、このまま子供のようにあやされるのも癪だったので、ぐっと堪えて口を結んだ。
「ん……め、珍しいお菓子ってなんだよ……」
「あっ、興味ある? やっぱりね~、ツカサちゃん甘いもの好きそうな顔してるし、絶対お菓子食べてる顔とか可愛い……おっと、それはともかく。からかっちゃったお詫びに、フンパツするから許してよ~、ねっ?」
ウインクをしながら小首を傾げるリオルに、俺はちょっとイラッとしたが不機嫌な声を口の端から漏らして確認した。
「……そこで情報とか教えてくれるのか?」
「ん~……逃げられたら悲しいから、ちょっとは教えてあげる。最後まで聞きたいなら、もっと付き合ってね」
「…………解った」
正直な話、ちょっとそのお菓子ってのも興味あるし……奢って貰うくらいは良いよな? さっきの失言はちょっと気になったが、食べる程度ならもうからかわれる事はないだろうし……。
そんな事を考えながら頷いた俺に、リオルはにっこりと笑うと、俺を連れて店を出ようとした。
「あ、あれ……彼女への贈り物を選ぶんじゃないの?」
その為に選んでたんじゃなかったんだっけ?
すっかり忘れそうになっていた本題を慌てて問いかけると、リオルは俺をじっと見つめて……それから、苦笑した。
「相手を“自分のモノだ”って主張できない贈り物を贈るほど、俺もバカじゃあないんでね」
「……?」
なんだかよく解らないけど、俺のせいで宝石を贈るのはやめてしまったようだ。
からかわれたのはムカツクけど、ちょっと悪い事しちゃったかな。
「あはは、ホント分かり易いなツカサちゃん。……ますます気に入ったよ」
「は? なに? 俺またなんか顔に出てたの?!」
頬を手で覆ってみるが、よく解らない。ブラックもクロウも俺に対して「ツカサ君は顔にすぐ出るから分かり易い」って言うけど、マジで自分じゃよく解らん。
やっぱ俺ポーカーフェイス出来てないのかな……?
「ほらほら悩まないで。それよりさ、ホテルのお菓子ってのが凄いんだぜ。白くて大きい貝の形でさ、なのにサクサクしてんだぜ。それが甘いのなんのって……」
「えっ、えっ!? さくさくで甘いのか!? な、なんだそれ、どんなのだ……!?」
白くてさくさくって、なんだろ、お煎餅みたいな感じ?
それともラスクか、いや薄焼きのクッキーとか……ああ想像が出来ない!
店を出て、船員達をかき分けながら歩く途中で、俺はふとある事を思いついて、ちらっと背後を見やる。
そこには、俺をちゃんと見張ってくれているブラックとクロウが居て、俺はほっと溜息を吐くとリオルの顔を見上げた。
「なあリオル、そのお菓子って……お持ち帰りとかできる?」
さっきの事が有って何だか恥ずかしかったが、リオルはそんな俺を見て、妙な生温い顔をしていたものの……また苦笑して頷いた。
→
※次なんて言うかブラックがストーカーで物凄く気持ち悪いかもです
先に謝っておきますすみません:(;^ω^):
21
お気に入りに追加
3,684
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。





久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる