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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編
11.ナンパ男は意外と手ごわい1
しおりを挟むしかし、どこの誰かも解らない相手を探すなんて、どうすればいいのやら。
とりあえず人に聞いてみようかと思い、手近な店に入ろうとした所。
「おっと、つっかさちゃーん! 何してんのかなぁー?」
当の本人が、聞き込みをする前に路地からひょこっと現れた。
丁度良いタイミング過ぎてちょっと驚いてしまったが、しかし不都合と言う事は無い。ブラックとクロウは物凄く不機嫌そうに顔を歪めていたが、必死に宥めて俺達はリオルに近付いた。
「なになに、近寄って来てくれるって事は、俺との逢引考えてくれたクチ? ああでも保護者同伴ってのは駄目だぜ。それじゃ逢引の意味ないからさぁ」
チャラい茶髪を指にくるくると巻きつけながら、リオルは俺ににっこりと笑う。
女性であれば決して悪い気はしないだろう、見事なまでのイケメンスマイルだ。しかし俺は男であり、イケメンに対しては人一倍の憎しみも持っているので、魅了されるどころの話ではない。
つーかなんだコイツは。保護者同伴のデートがダメって、完全に何かする目的じゃねーかオイコラ。同じ男としてそう言う部分は解るんだぞコラ。
こうなったら絶対ノーダメージで情報を引き出してやると意気込んで、俺は背後の二人に振り返ると、お互いに頷いた。
「リオル、今日はそう言うふざけた話をしに来たんじゃないんだよ」
「俺は本気なんですけどー」
「不純な取引はふざけた話も同然なんだよ! ……とにかく、俺達は話をする為にアンタを探してたんだ。この村を守るための話なんだから、ヘラヘラしてないでちゃんと聞いてくれよ」
真剣にそう言えば、チャライケメンのリオルも真面目に話を聞いてくれると思ったのだが……俺の見通しは甘かった。
「村のためぇ? ハァ? ツカサちゃーん、そういう重い話とか俺的にはいらねーのよ、俺はツカサちゃんと逢引したいだけで、それ以上でもそれ以下でもねーの。村がどうとかって話で取引してくれねえなら、情報渡す話はナシだぜ」
「え、えぇ……」
自分の村が大変な事になってるってのに、なんでそんな。
わからん、ナンパ野郎の考えてる事は本当に解らん。
困ってしまって隣に控えているブラックを見上げると、ブラックは俺の顔を見て何だか満足げにむふーと鼻息を漏らすと、自信満々の顔でリオルに向き直った。
「自分の村が呪いのせいで廃れかけてるってのに、随分と余裕じゃないか」
「そりゃオッサンあれッスよ。俺は可愛い子と逢引出来れば村なんてどうでもいいですし? アンタらだって、ツカサちゃんと乳繰り合ってんだから、俺の気持ちは解るっしょ」
「まあ解るけど、その可愛い子とやらは“離婚の呪い”のせいで、すぐに村を出ちゃって年々減って来てるんだぞ? それはお前的にもヤバいんじゃないか」
女たらしのブラックの言葉には、さすがのリオルもぐっと言葉に詰まる。
確かに、このまま事態を放っておくと、俺と同い年から少し上の女性達が村から消えてしまう。結婚してない女性でも村を出て行ってしまうんだから、何もしなければきっと村は男だらけになってしまうだろう。
守備範囲が広ければ男性オンリーの村でも楽しく暮らせるだろうが、見たところリオルは女性か少年にしか興味がなさそうだ。
男もイケるというのに、だらしない恰好だが美形であるブラックや、武骨で格好良いクロウに食指が動かないのだから、リオルの好みはノーマル寄りなのだろう。
俺が可愛いかどうかはともかく、こんだけ俺とデートしたいってだだをこねるって事は、そういう性的嗜好である事の裏付けに……いかん気持ち悪くなってきた。
それが当たり前の世界だとは言え、やっぱり「ナンパ野郎が少年も守備範囲」と言う事実が俺の常識とはかけ離れすぎてて、正常に理解しきれない。
自分と同じ男に性的な感情を向けられるのは、やっぱりまだ慣れなかった。
何故かしらんが、ブラック達に対してはそういう気も起きないんだけどなあ。
思わず考え込んでしまう俺に構わず、ブラックはリオルに畳み掛ける。
「他人のモノに手を出してる余裕がある内に、その“有益な情報”とやらを教えて、呪いの原因解明に手を貸したほうが良いと僕は思うがねえ」
揺さ振りをかけるようなブラックの言葉に、リオルはぐっと言葉に詰まったようだったが、しかし負けじとブラックに言い返す。
「だからって良いオンナを見逃せってのは違うだろ!? 取引に出来る材料が有って、しかもそれで確実に相手を釣れるんだぞ、オッサンはそう言う時に全身全霊をかけて取引に持ち込んだりしねーのかよ!」
何をバカなことを。そんなゲスい事を村の滅亡を置いて考えるなんて、こいつはどんだけナンパに命をかけてるんだよ。
ちょっと理解出来ないが、その理論で崩れるブラックではあるまい。
そう安心してブラックを見ると。
「うーん……確かに……」
「おいコラ!! なに納得しかかってんだ!」
「いやぁ、だってさあ……。ツカサ君を簡単に釣り上げられるエサがあるんなら、僕だってそれを使ってツカサ君にあんな衣装やこんな衣装を……」
「オッサン話わかるぅー」
「だぁああ! お前も共感してんじゃねええええ!」
駄目だ。ブラックの野郎め、女にモテ放題だったせいで思考がチャラ男と微妙にシンクロしちまってる。これだからイケメンは嫌なんだよ! 肌爛れろ!!
ああもうあと一歩だったのにこのオッサンは!
やっぱり俺が面と向かって断って協力して貰うしかあるまい。
俺はブラックを押しのけると、リオルに仁王立ちで立ち向かった。
「おっ、ツカサちゃーん」
「ちゃんを付けるな! 俺はそういうの嫌いなんだよ!」
もうこうなったら徹底的に興味を失わせて、半分強引に聞き出すしかない。
こう言う輩は下手に出ても駄目だ。力でねじ伏せるしかない。そう思って、怒り満面でリオルを睨み上げたのだが……相手はニヤニヤ笑うだけで。
「可愛い子に『ちゃん』を付けるのは、俺の礼儀みたいなもんだから許してよ」
「なにが礼儀だ……人に嫌がる事をする奴と俺は逢引する気なんてないからな! それより、本当に呪いに関しての情報があるならさっさと話せ!」
「えぇ~? 代価もなしにぃ?」
「う……確かに……。じゃあ、金を払うから……」
仕方がない、そこは当然の事だろう。
俺だって金を貰えるならそう交渉するだろう。ゲスいけど、人間そんなもんだ。
多少の出費は覚悟してたし、この際仕方がない。そうは思うが「金」と言われるとどうしても懐が痛んでしまって、俺はちょっと弱気になる。
それを知ってか知らずか、リオルは巧みに弱点を突いてきた。
「金より俺と楽しく逢引した方が安上がりだと思うけど?」
た、たしかに……。いやでも俺は無闇にブラック達を怒らせたくないし、それを許容する訳にはいかない。でも、正直な話、そっちのほうが懐には優しい……いやいや待て、待つんだ俺。相手に流されてはいけない。
「……で、でも俺は」
「俺と逢引してくれたら、ご飯も奢るし村の隠れた穴場も教えちゃうよ? それに、ツカサちゃんが知りたい情報なーんでも話しちゃうんだけどな~……タダで」
「ふぐっ、う、ううぅ……それは、確かにぃ……」
「ツカサ君! なんで君はお金の事になると弱いの!!」
「言葉に詰まるツカサも可愛いな」
ええい煩い煩い、お前らだってナンパ野郎の言葉に負けてたじゃないか!
左右からの立体音響で俺を詰るんじゃないと暴れると、リオルが「やれやれ」と言わんばかりに両の掌を空へと向けて肩を竦めた。
「ハァ~、まったくお話にならないオッサン達だなァ。そもそも、この話の主導権は完全に俺が握ってるワケじゃん? だったら、アンタらに交渉する余地なんてゼロなんですケド、解ってる? 解ってないよなぁ。あーあ、もう面倒くさいから、ツカサちゃん勝手に借りて行きますねー?」
「うぉお!?」
そう言いながら、リオルは一瞬で俺に近付いたかと思うと、手をグイッと引いて俺をブラックとクロウから引き剥がした。
虚を突かれて驚く俺達だったが、ブラックはその事にカチンと来たのか思わず剣に手を伸ばそうとする。
「おっと! 暴力とかはやめてくださいよー。警備隊に報告されたら困るっしょ? 大人しくツカサちゃん貸して下さいよ」
「煩いな、警備隊ごときモンスター以下の存在に僕が後れを取るとでも?」
「だぁあ! ダメダメダメ! ケーサツのお世話になるとかシャレにならん!! 解った、解ったから両者落ちつけ! り、リオル、お前とデー……じゃなく、逢引したら、ホントに何でも教えてくれるのか?」
リオルとオッサン二人の間に入って必死に問いかける俺に、リオルは嬉しそうに笑って頷く。
「もっちろん! 可愛いツカサちゃんが望むなら、何でも教えちゃうよ?」
ああもう、こんな所でイケメンスマイルはいらんって。
なんでこうも懐かれてるのかは知らないけど、信じて良いんだよな?
だったら、もうそこから互いに譲歩して貰うしかない……。俺は覚悟を決めると、リオルを見上げて出来るだけ同情を引けそうな表情をした。
「じゃあ、その……あ、アンタの事信用してない訳じゃないけど……俺も知らない人に付いて行くのはちょっと怖いから、ブラック達が付いて来るのは許してよ」
「えぇ~?」
「な、なにもすぐ後ろに居させるわけじゃないから! リオルが気になるなら少し離れるからさ! なっ、それで良いよな二人とも!?」
頼むからそれで納得しろ、とオッサン二人に必死に視線を向けると、ブラックは物凄く不機嫌な顔をしながら不承不承と言った様子で頷き、クロウは事もなげに無表情で「問題ない」と首を縦に振った。
「なっ、な!? それなら良いだろ、リオル! 情報を聞くまでは、アンタの行きたい所に付き合うからさ!」
「ただし、ツカサ君に不埒な事をしようとしたら本気で斬るけどね」
「ブラック!」
なんで一言多いのアンタは!
また厄介な事にならないだろうかと慌ててリオルを振り返ると、相手は小難しげな顔をして唸っている。
「うーん……。まあ、俺も別にヤリモクで誘ってる訳じゃないし、そもそも俺ってば凄い紳士だし? まあ痛い思いは嫌だからそれでもいっか。俺はツカサちゃんと楽しく逢引出来ればそれでいいからさーっ、ねっ」
そう言いながらも早速肩を抱いて来るリオルに、ブラックが目を見開いて青筋を立てながら剣に手を掛けようとした。
「ワーッ! ワー!! やめろー!!」
「ブラック落ちつけ」
こう言う場面では冷静なクロウが、ブラックを羽交い絞めにして抑えてくれる。
しかしリオルは相変わらず軽い調子で、俺の背後に隠れながら軽口を叩いた。
「うわ怖ッ、ホントなんでツカサちゃんこんな怖いオッサン達と付き合ってんの? この村に住んでたら間違いなく離婚の呪い確定じゃね」
「アンタも余計な事言うなよっ!! ほらっ、さっさと行くぞ!」
「はぁ~い! ツカサちゃんノリノリでお兄さん嬉しーなー」
誰がお兄さんだ誰が。
ああもう、結局デートする事になっちまったなあ。
まあ、ブラック達が後ろからついて来てくれるから大丈夫だと思うけど……なるべく油断しないように、俺も気を引き締めて行こう。
とりあえず……隙あらば肩を抱いて来ようとする不埒な手を、叩き落とす事から始めようかな……。
→
※と言う訳で次はイケメンデートで
その次は歯ぎしりするブラック視点です(´^ω^`)
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