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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編
怖い怖いと思っているから怖くなる訳で2
しおりを挟む「……?」
なんだろう……家鳴りかな? それとも、静かすぎて隣の部屋の音とかが聞こえてきちゃったとか……。
何にせよ、聞いてて気持ちのいいもんじゃない。
特に、音がほとんど消えてしまう夜じゃちょっとした物音も怖い……いやいや、気になっちゃうもんだからな。
でも、家鳴りなんて科学的に証明されてる事象だし、何も怖がる必要なんてないよな、たぶん……。いやきっと。絶対だ。
なーに俺の両隣りにはお化けより怖いオッサン達がいるんだし、大丈夫だよな、色々と! 二人の寝息の方が大きい音なんだし、気にする事はない。
それよりもせっかく安眠出来る機会なんだから、俺も寝なければ……。
布団を被ったら、些細な音なんてきっと聞こえなくなるさ。
そう思って、俺は寝返りを打ちながら掛け布を被ろうと動いた。
すると、布ずれの音に混じって――――カタ、と、何かが動くような音が。
「………………」
えっと、あの……そうだ。あれだ。俺が気にし過ぎで脳内で音を再生しちゃったんだよ。ほら、よくあるよな。寝ようとしてる時に音が聞こえたと思ったら、その音は自分が脳内で想像してた音だったとか……。
変に怖がってるからいけないんだ。もうホント寝よう。
ビクビクしてても始まらない、と目を閉じたと同時。
――――カチャ。
「っ!?」
え? な、なんか開いた? なに、ドア、ドアが開いたの!?
うそマジかよどうしよう、いや待て幻聴の可能性もある。むしろその可能性しかない。でも「謎の影」とかだったらどうしよう。やべえめっちゃ怖い。
布団被っといてよかった、何も見えないしあっちからも俺が起きてる事は解らないはず……ってなんかミシッって音がする、人がいる気配がするうううう!!
ど、ど、どうしよううわ、これ近付いて来てない? ウソ、幻聴はっきり聞こえすぎだろふざけんなよ、も、もうダメだって、これは夢、夢、夢だから……!
「!!」
ヒッ……な、なんだこれ、ベッドがギシッって言った……。
明らかにさっきの音とは違う感じに戸惑っていると――掛け布の下が、もぞっと動くような気配がした。一瞬ブラックじゃないかと思おうとしたのだが、どう考えてもアイツじゃない。なんというか、入って来た時の動きが違う。
何が起こっているのか解らず混乱していると、謎のモノがまた近付いてきた。
布ずれの音を立てて、ゆっくりと何かが足先に這い寄って来る。
よく解らない事態に固まっていると、ついに足先にそれが触れた。
「……っ!」
な、なんだこれ……。
足が、なんか変だ。人に捕まれているような、でも気のせいなような……。
なんにしろおかしい、こんな感触……ま、まさかこれって……おば……。
「ひっ……」
足を掴みながら、じりじりと変な感触が上がってくる。
だけど怖さに声が出せなくて、俺は震えながらその動きに戸惑うしかない。
そんな俺を嘲笑うように、謎の感覚は足の付け根まで這い寄って来て、腰を撫でながらゆっくりとシャツの中に侵入してきた。
「っ、ぇ……!?」
情けない小声しか出せない俺に構わず、ソレは素肌にぴとりと密着する。
ひっ、い、いやだ、ひんやりしてるこれ……!
し、しかも、手っぽい感触がある!? けど、ブラックやクロウの手のような、人間らしい起伏が無い。まるで、に……人形の手みたいな、それか磨き上げられた石みたいな感触……ってことは、これやっぱりお、おばけ……っ。
「ぃっ、や……やだっ……」
声を出してブラックに助けを求めようとするが、口が恐怖で動かない。
だけど、体は触られる度に動いてるわけで。金縛りにはなってない、動けるはずなんだ。せめて掛け布を捲ってブラック達に助けを求めようと思い、俺は体の熱が急激に冷えて行くのを感じながら、布団から這い出ようとした。が。
急に掛け布が浮き上がった感触がしたかと思うと、ぐっと肩を押さえつけられて固定される痛みを覚えた。
ま、まさかこれ……やっぱり、お化けに圧し掛かられてる……!?
咄嗟に目を見開いて自分の真正面を向いたが、何もない。
「ひ、ぃ……」
なにも、ないのに、布が、浮いてる。なにかの形に、う、う、浮いて。
シャツも、ひ、ひとの、ての、かたち……――――
「ぁっ、っ、はひっ、ひ……っ」
なにこれ、幽霊、幽霊、おばけ、なに、わからない。
お、落ちつけ俺、これはお化けじゃないかも、にっ、人間かも……いや人間だとしても怖いって、なんで、なんで人間が透明なの!?
混乱してるのに、その「なにか」は冷たい手をどんどん上へと移動させていく。
そして、胸の所へと辿り着いてしまった。
「あ、あぁあ……っ」
し、心臓? 心臓握るの? こ、こんなとこで死ぬのはやだ……!
「ゃ……やめ、て……」
涙で揺らぐ視界で、自分でも心底落ち込むくらいの情けない声が出る。
だけどそれ以上もうなんにも言えなくて、俺は目の前の透明な「なにか」に懇願するような視線を必死に送った。
そんな俺が哀れだと思ったのか、俺の肩を掴んだ相手の動きは一瞬止まったようだったが……すぐにまた動きだし、片手で俺の胸部をまんべんなく触って来る。
迷いがない。もうあれだ、間違いなく俺を殺す気なんだ。
ブラックとクロウに助けを求めようと思っても、大声が出せない。
怖くて、口が動かなくって、肩を掴まれて押し付けられているだけなのに、逃げようと思う勇気すら出て来なくて。
「ぅ……うぅ……の、のろぃ、殺さないで……っ、おねが、ぃ……します……っ」
喉を絞って、必死で頼む。
どうしても殺されたくない。だって、もう、こうなると後は首を絞められるか、心臓を取り出されるかしかないし、そんなのやだよ、絶対ヤダ!!
もうこの際首に絞め痕が残るくらい気にしないから、本当に呪わないで。
そんな必死の願いを込めた言葉に、透明な「なにか」はわずかに肩を掴んだ手をかくかくと震わせた。な、なんだ。なんだこれ怒ってんの。
うわあヤバい、ヤバいよおおお!
もう駄目か、もう呪い殺されるしかないのか、そう思って涙と鼻水をだらだらと流しながら、必死で救われるためにどうすれば良いのか考えていると――――
「ひっ……!?」
俺の胸の辺りを探っていた“手の感触をしたなにか”は、唐突に俺の片胸を掌で包んで、ゆっくりと揉みだした。
「やっ、な、なに……!?」
手のような感触が、俺の平らな胸を内側に寄せるように揉んでいる。
その動きの意味が解らなくて、俺は一瞬思考を停止してしまったが――やっと、この動きが何を意味するのか解って、冷えた頬に熱が集まるのを感じた。
「なっ、なにして……っ、だめ、や、やめて……っ」
冷たい手の感触が肌に食い込んでくる。女みたいな胸なんてないのに、その手は俺の胸部の肉を熱心に集めて、執拗に掌で揉みしだいて来た。
時折その掌らしい感触が乳首を擦ってくるのが妙に生々しくて、怖くて、震えが止まらない。だけど、その手は俺の様子を嘲笑うように、胸を離れて下へ……
って、ず、ズボンの中に入って来る!?
だ、だめだめだめそれだめ、ブラックが怒るっ、絶対にお仕置きされる!
「や、やだ、そこは駄目ぇえ!!」
ブラックに自分でも考えられないくらいの大声と力が出て、肩を掴んでいた手を勢いで強引に振り切った。
――――のだが。
「…………え……。あれ……?」
体を起こした俺の上には誰もおらず、顔中汁だらけで汗をかいている自分だけが、肩で息をしながら間抜けに真っ暗な部屋を見つめていた。
恐る恐る、自分の掛け布を手でポンポンと叩いてみるが……膨らみは無い。
気付けば左右から二人の緊張感のない寝息が聞こえて来て、部屋には閉じた雨戸の隙間からは月光が差し込み、周囲は少し明るくなっていた。
「…………」
恐ろしい雰囲気が一気に消えたような部屋の様子に、一気に体が弛緩する。
だけどまだ状況が呑み込めなくて、俺は震える足でベッドから降りると、ドアが閉まっているかを確かめに行ってしまった。
ああ、ドアは確かに閉まってるし、鍵が掛かっている。
ということは、今まで俺が見ていた怖くてやらしいものって……。
「……まさか……ゆめ……?」
じゃあ、無理矢理ベッドに押さえつけられて無い胸を揉まれのも、俺の脳内だけで繰り広げられた物でしかなかったってことなのか。
じゃあ、えっと、それってまさか……淫夢って奴……?
「ぅ、わ……」
やっと自分の状況が呑み込めてくると、なんだか物凄く恥ずかしくなって来て、全身が羞恥の熱でカッカしてくる。
あ、あんな夢見るなんて最悪だ。何であんな変な夢見ちゃったんだろう。
考えれば考えるほど恥ずかしくなって、俺は顔を拭って震える頬を叩いた。
怖い場所に一人で行った事と、ブラック達にお仕置きされるのを無意識に恐れていたせいで、あんな気持ち悪い夢をみてしまったんだろうか。
だけどお化けがあんな痴漢、いや、ブラックみたいな事……。
「…………ま、まさか俺ってば……自分でも知らないウチに、ブラックにあんな事されるのを望んでたんじゃ……」
確かに、ブラックは過去何度か俺のベッドに入って来て、あんな風ないやらしい触り方をして来た事がある。それに、今日はブラック達も珍しく部屋で俺に変な事をしなかった。
よくよく考えると、「珍しく」なんて言うくらいに、俺はあいつらの行動に慣らされているのだ。とすると、俺は自分自身でも気付かない内にブラック達にいじめられるのを望んでいて、それが無かった事で欲求不満になって、あんな怖いやらしい悪夢を見た可能性が……。
ってナイナイ! 絶対に無いッ!! あってたまるかそんな事!!
お、お、俺はそんな事望んでない、えっちな事なんてされたくないんだよ!
なのにどうしてそんな最悪な夢を見なくちゃなんねーんだ!!
「ち、違うっ、絶対に違うっ、昨日変な事されたから、それが混ざって……」
「んん~……? つかさくん、どしたのぉ……」
俺が起きているのに気付いたのか、ブラックが呑気な声を出しながら眠そうな顔をこちらに向けて来る。
まるで性欲なんぞ抱いていないその顔に、俺は何故か一瞬物凄く悔しくなったが……人に八つ当たりするのは子供っぽいと思ってぐっと堪え、自分のベッドに戻って平常心を装った。
「な、なんでもない。良いから寝ろよ、疲れ取れないぞ」
とは言いつつも、やっぱり不安でブラックの方を向いてしまうと、相手は目をしょぼしょぼさせながら、だらしない笑顔でへにゃりと笑った。
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そう言いながら、ブラックは寝惚けた顔でこちらに手を突きだしてくる。
「っ、ぅ……ば、バカにすんな! いいから寝ろ!!」
その笑顔に何故かドキッとして、反射的に拒否してしまう。
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……でも、ほんの少しだけ、ブラックに添い寝して貰った方が、もう怖い夢もみないんじゃないかと思ったんだけど……そんな軟弱な事を考えるのすら恥ずかしくて、俺は布団の中でひっそりと後悔する事しか出来なかった。
→
※というわけで、こんな感じが続いて最終的に我慢しきれなくなるみたいな
展開になりますやったー。 特に伏線とかは絡んでないので、ツカサが
思い悩みながら恥ずかしがるのをお楽しみいただけたら幸いです
本当趣味全開ですみません…:(;^ω^):
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