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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編
8.不思議な家と不快なイケメン
しおりを挟むひんひん。ロクデナシのクソバカ中年が俺に嫌がらせするよぉ。
とか可愛く言えちゃうショタっ子であれば、俺もこんな理不尽な肝試しをしなくても良かったのだろうが、残念ながら俺はもう高校生なのでそんな事は言えない。
つーか俺が言ってもギャグにしかならないんだよなあ。
この世界では背が低い扱いの俺だけど、日本では平均身長に少し……ほんの少し足りないだけの、平均的日本男児なのだ。真面目にそんな事を言うのは憚られる。
……まあギャグで言っても、あの中年どもの事だ、絶対にオロオロする事も無く変なリアクションをしてきて俺を困らせるに違いない。
なので、俺は涙を呑んで男らしく一人で肝試しをするしかないのだ。
「ううぅ……ちくしょう、あとで覚えてやがれ……」
思わず恨み言を言ってしまうが、これくらいは許してほしいと思う。
だって、草木に侵食されて朽ちた家や、まだ誰かが住んでいそうなボロボロの家……それに、蔦なんかが絡まって、緑の化物みたいになってる廃屋とかがぐるっと道を取り囲んでるんだぞ。何だこの廃屋ストリートは。
「た、たぶんみんな、呪いを受けた家の近くに居たくなくて、どんどん移動したんだろうな……。だから、村の人が住んでいる家は、一か所に固まってたんだ……」
独り言でも言わないとやってらんない。
黙って歩いていたら妙な音を耳が拾ってしまいそうで、俺はわざと足音を出してブツブツ呟きながら必死に歩を進めた。
ちくしょー、昼間だってのになんでこんなに怖いんだよ……。
「昼間は幽霊でない、昼間は幽霊でない……」
呪文のように己に言い聞かせながら、突き当りをじっとみて歩いて行く。
周囲を見るから怖くなるんであって、真正面だけを見ていたらそんなに怖くないはず。いや、真正面にもめっちゃ怖い廃屋あるんだけど、でも沢山あるぞって思うよりましじゃん! 俺の周り廃墟だらけとか「やーい、お前ん家おっ化け屋敷~」より嫌じゃんか! そらこんな廃墟タウン住みたくないわ!
「うぅうう、これで幽霊出たらアイツら恨んでやるぅううう……」
だけど絶対に助けなんか呼ばないぞ。そんな情けない事したら、あいつらに何日からかわれるか解ったもんじゃない。
ちくしょう、幽霊がなんだ、オッサンどもがなんだ、俺は絶対にクリアしてやるぞ……とかなんとか思っていると、ふと良い匂いが微かに漂ってきた。
「ん……?」
今まで磯の香りか力強い草のにおいしか漂って来なかったのに、この匂いは何だか違うぞ。これは……花か何かだろうか?
思わず右の方を振り返ると、そこには廃屋の間に小さな道が有った。
先にはまた家があるようだが……。
「もしかして、花畑でもあるのかな?」
人に打ち捨てられた場所で、ひっそりと咲き続ける花畑か……うーん、ナイスじゃないですか! そんな場所なら怖くないぞ。いやむしろ、そういう現実っぽい場所があったら、ここも「元々人が住んでいた所だったんだな」って認識できて、怖くなくなるかもしれない。
怖いのは、非現実的な感じがするからだ。
だったらここが現実的な場所だと思い込めばいい!
「そ、そうだな。戻ったら罰ゲームだけど、寄り道するのは構わないはず……」
よし、そうと決まったらちょっと行ってみよう。
俺はくるりと行先を変更すると、朽ちかけた廃屋の間の細い道に入った。
崩れた木の柵を飛び越えて進むたびに、花の香りが強くなっていく。一体どんな風景が広がっているんだろうと薄暗い道を抜けると。
「うわ……!」
道の先、行き止まりにあった所には――――
辛うじて形を保っている古い家と、その家を取り囲む庭を埋め尽くすほどに咲き誇る色とりどりの花が、静かに存在していた。
「なんだここ、すっげぇ……」
窓は割れて屋根も所々崩落している家なのに、陽の明るさと花々の鮮やかな色があるからなのか、不思議と怖いとは思わない。
むしろ神聖な場所と言う気すらして来る。
明るくて花が在るだけでこんなに違うと言うのは驚きだが、俺的にはこんな風景なら大歓迎だ。青い空と花畑があれば、なんとかなるもんなんだな。
嬉しくなって古びた柵に近付くと、庭一面の花々の下にぽつぽつと欠けた煉瓦が並んでいるのが見えた。もしかして……元々は花壇が有って、花々はそこに咲いていたのかな。
それが打ち捨てられて、庭に溢れだした結果こうなったのか……。
「うーん、しかし凄いな。カメラが有れば撮ってたくらいに素晴らしい風景だ」
黄色にピンクに白、薄紅色や青紫の小さな花もぽつぽつと咲いていて、賑やかで微笑ましい。きっとこの家の人は花が大好きだったんだろう。
花が大好きか……綺麗なお姉さんが住んでたりとか?
金髪でワンピースが似合う美少女がこの家に住んでて、それで毎日お花のお世話なんかをしてたりしたとか……た、たまらんな。
「これが美少女の育てた花なのかもしれないのか……」
そう思うとなんかより一層大切なものに思えるな。
最近女子高生のかほりがするナントカとか売ってるらしいが、俺としてはやはりナマの美少女や美女が育てた花や野菜を購入して、その人の手の息吹に触れて大地の恵みに感謝したい……って何言ってんだ。
しかしそうか。そうだな。この世界の女性は基本的にどんな容姿であれ美しいし愛嬌がある。男としては感謝したくなるほどの素晴らしい世界だ。
だとすると、あの廃墟の家々にも確実に美女が住んでいた訳で、そう考えると、この村の廃墟は美女の記憶が残る家と言えなくもない……。
「美女の記憶が……なるほど、怖くなくなってきたぞ?」
むしろ夫婦生活をしていた美女があの廃墟の家でうふんあはんな事をヤッてたと考えると、むしろその記憶の亡骸っぽくて興奮出来なくもない……?
お化けには性欲が効くって言うし、むしろエロい事を考えながら行くというのも、アリかもしれない。いや、アリだ! 大ありだ!!
ここに女子が居たらドンビキされてそうだけど、今は俺一人だし問題ない。
よし、じゃあこれからは家一軒に付き一エロ妄想をすることにしよう!
そうすればきっと怖くないぞ!
「よーし! 色々元気になって来たぞ、ありがとう美少女の花畑の家!」
この綺麗な風景のお蔭で、俺はエロ妄想を思いつきました……いや、それも何か失礼な気がするな。でも事実だしなあ……。
とにかく元気になったのは確かなので、お礼として深々と頭を下げる。
そうして頭を上げた所で――――背後から足音が聞えた。
「あれ、キミなにやってんの」
「え?」
聞き覚えのない軽くて若々しい声に頭を上げて振り返ると、そこにはこんな場所には似つかわしくない青年が立っていた。
「えっと……こ、こんにちは」
もしかしたら花畑の家の住人かも知れないので、とりあえず挨拶しておく。
すると、やたらにイケメンな青年は苦笑して俺に近付いてきた。
「礼儀正しいね~キミ! で、なにやってたの」
「あ、えーと……もう話を聞いてるかもしれないんですが……」
ここの住民という事は、俺達が「離婚の呪い」についての調査をしている事は知っているだろう。しかし、一応自分の身分を説明しておかねば不審者扱いされてしまう。ってな訳で、イケメン青年にも説明すると、相手はほうほうと頷きながら片手で顎を擦った。
「へー、じゃあ君が呪いを調べてくれてる冒険者さん」
「あ、はいそうです。俺はツカサ……で、あの多分ここに来る途中で変なオッサン二人を見たと思うんですが、そいつらも俺の仲間です」
「あー、あいつらか……変な奴らがいるなあと思ってたんだよなぁ」
「あの……ところで貴方は……」
一応相手の素性も聞いておかなければと思い伺うと、相手は意外そうに顔を歪めて、慌てて頭を掻いた。
「え、お、おれ? 俺はえーっと……まぁ……リオル……リオルって名前だ」
「リオル、さん?」
「そうそう。リオル。よろしくな」
軽い調子で言いながら、にこっと笑って俺と強引に握手してくる。
陽キャだ。コイツ確実に陽キャだ。陰キャの俺と対局を成す奴だ……。
だって、髪型は毛先を遊ばせた感じの肩まであるチャラい茶髪だし、眉も自信満々に上がっているイケメン眉だ。目は凛々しく女子にウケそうだし、口だって声をかけ易そうに弧に曲がっている。
なんなら服装もイケメン村人って感じだ。なんかムカツク。腕にはアクセサリーを付けてるし、耳にもピアスしてるっぽいし、なんかスゲームカつくんですけど。
ラッタディア地下世界の住人・トルベールも中々にチャラい兄ちゃんだったが、しかし、あっちはまだ「夜の世界の住人」な感じだったから気にしなかったけど……こいつは歳も近そうだし、なんてったって爽やかチャラいイケメンなのが気に入らない。
チクショウ、絶対コイツ彼女いるわ。爆発しろ。
「なに、どうしたのツカサちゃん」
「チャッ……な、なんでもないです! あの、すんませんけど“ちゃん”って言うのはやめて貰って良いッスか……」
「いいじゃんいいじゃん、キミ可愛いしさー」
なんて事を言いながら、リオルは俺の肩を抱いて来る。
こ、この陽キャめ、人との距離感がまるでねえ!!
「でもさあ、ツカサちゃんみたいな可愛い子がここに来るのはオススメしないぜ」
「やめ……え、何でですか?」
「呪いを調べてるってんなら予想は付いてるだろうけど、ここの廃墟は全部“離婚の呪い”で別れた奴らの家なんだよ。だから、村人は呪いを受けるのを恐れて近寄らねえんだ。見たところ未成年っぽいけど、ツカサちゃんは冒険者なんだから多分成人してんだろ? だったらやめといた方が良いって」
なんだこのチャライケメン……口調もノリも軽い割に、結構俺の事をズバズバと当てて来るぞ。もしかして、結構な切れ者なのかな?
それに、結構情報も持ってるみたいだし……もしかしたら何か知ってるかも。
何故か至近距離にいるリオルの顔を見上げて、俺は改めて訊いてみた。
「あの、もしかしてリオルって離婚の呪いに詳しかったりする?」
「ん? まあ長い事ここで暮らしてるから、まあまあ詳しくはあるかな。ホラ俺、いわゆっちゃうトコロの情報通って奴だから?」
あーイラッとする、こういう陽キャの半疑問形めっちゃイラッとするー。
でもこれほど自信満々に言うんだから、色々知ってるってのは確かだよな。
落ちつけ、落ちつけ俺。陽キャは敵じゃない、本当の敵は己の陰キャ心だ。
必死に自分を押し殺してから、俺は何故かまた近くなってるリオルに問うた。
「じゃあ、もし良かったら俺に色々と教えてくれないかな。村を歩き回ってる人にしか解らない事ってあるかもしれないし……リオルなら、若い女の子の事とか色々知ってそうだしさ」
こんなチャラ男なんだから、絶対女子の情報の一つや二つ持ってるよな?
そう思って再び見上げると――――リオルは笑ったまま目を細めて、俺の頬に手を添えて来た。
「別にいいけどー……じゃあさ、ツカサちゃん。俺と一回付き合ってくれる?」
「え゛?」
「だから~、ツカサちゃんが俺の恋人になってくれたら考えてあげる……って、言ってるんだけど?」
お、お、お前もそういう奴かぁあああああ!!
ぎゃー!! やべえ、こんな所ブラックに見られたら絶対に怒られるっ、とんでもないお仕置きされるうううう!
ペコリアが出てこないから油断してた、こんなチャラ男が男まで範囲内だなんて思わなかったから油断してたああああ!!
「ちょっとちょっと、逃げるのは酷くね?」
「だーっ! 無理っ、無理だってほか当たれよ!!」
「なんでよ~。ツカサちゃんは、あのオッサン達と恋人なんだろー? 一夫多妻か一妻多夫かは知らないけど、だったら俺も仲間にいれてくれよ~」
「ッ……! っ、……っ!?」
な、な、なんで、なんでそんな事……。
まさか、俺達が手を繋いでる所でも見てたってのか……!?
「おー、顔が赤くなってるな。可愛いじゃねーのツカサちゃん」
「だっ、あ……」
「じゃあ付き合わなくても良いからさ、俺と一回逢引してよ。そしたら他の村人が知らない下世話な情報もたーっぷり教えてやるぜ?」
「ぇ…………」
それって……まさか、離婚の呪いに関係するエグい話題かな……。
だとしたら、聞きたい……いやでも、それで頷いたらブラックに怒られるし、何より自衛するって言ってた俺自身に背く事になるし……。
つーか逢引って、あれだよな……デートだよな……?
デートって、デートってお前、それ絶対ヤバいって……。
「おっと、じゃあ考えといてよ。また来るからさ」
「え?」
一生懸命悩んでいる途中でそんな事を言われて我に返ると、リオルはいつの間にか俺から離れて廃屋の間をすり抜けるように逃げて行ってしまった。
何が起こったのかとポカンとしていると。
「ツカサくうううううんんんん!!」
「えっ、え!? ブラック!?」
どうしてここに。つーか何で今頃!?
目を丸くしながらブラックがダッシュして来るのを見ていると、相手は物凄く怖い顔で息を切らして俺の肩をおもいっきり強く掴んできた。
「ハッ、ハァッ、ハァ……つ、ツカサ君が、何かまた男にちょっかい掛けられてるような気がして、飛んできたんだよ……ッ。い、いま、男……男がいただろ!?」
「え、ぇ……いや……えっと……」
何この人、どうやって解ったの。こわい。めっちゃ怖い。
でも男にナンパされてたのは間違いないし……。
「ツカサ、正直に言わないとまた酷い目に遭わされるぞ」
背後からゆったりと歩いて近付いてきたクロウにそう言われて、俺はびくりと体を震わせたが……仕方なく、今あった事を話す事にした。
……なんかもうどっちにしろお仕置き受けるような気がするけど、嘘つくよりはマシだからね……。
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