異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

文字の大きさ
上 下
550 / 1,264
白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編

7.意地を張ると後で大抵酷い事になる

しおりを挟む
 
※申し訳ないです、ちょっと諸事情で忙しく短くなってしまいました……
 



 
 
 元々観光客が多い土地だと、店が並ぶ場所と民家は別のエリアにある。
 人が集まる所で稼ぎたいってのは商売人としては当然の事なので、必然的に人が住まうエリアは一画に固まって行くのである。

 まあ町全体が特殊な形態とかだったらまた違うんだけど、ここは昔は普通の村だったみたいだし、商業区域と居住区域が離れるのは別に変ではない。
 ってなわけで、お爺ちゃんに言われるがまま俺達は村の人達の家が並ぶエリアにやって来たのだけど……。

「……ひっそりしてるね」

 ブラックの言葉に、俺は頷く。
 村の居住区はトランクルと同じく閑散としていて、子供達だっているはずなのに道に人の気配はまるでなかった。どうやらこの村の子供達は外で遊んではいけないらしい。……恐らく、みんな「離婚の呪い」が怖いんだろうな。

 どういう経緯で呪いが降りかかるのかが全くわからないから、何をしても呪いを受けちゃうような気がして家から出られないに違いない。
 ……そう考えると、迷信とかってまだ親切だよなあと思う。
 ○○をしたら○○の呪いが降りかかる! なんてわざわざやっちゃいけない事を教えてくれてるんだし……ああいうのって誰が発見してくれたんだろうなホント。

 いや、そんな事を考えている場合じゃないか。
 ベイシェールは何十年もこのまんまなんだし、俺達がその呪いの原因を見つけてやるって気概で行かないと見つかる物も見つからないよな!
 せめて、どうして心変わりするのかの切欠くらいは見つけたい……。

「しかし、ここになんの手がかりがあるんだろうねえ」
「……別に妙な感じはしないのだが……」

 そう言いながら、周囲を眺めるブラックとクロウ。確かに、見ている限りは何の変哲へんてつもない普通の村だけど……でも、お爺ちゃんが教えてくれたんだから、きっと何か有るはずだ。あのお爺ちゃんはきっとアレだ。お化けじゃないし、仮にお化けだとしても妖怪ヒント爺みたいな良い妖怪に違いないんだ。
 いやもう別に愉快犯でも良いから、実体のある存在だと思わせて下さいお願い。

 そんな事を願いながら、しらみつぶしに居住区を歩いていると……奥の方に進む内にどんどん周りが寂れて来た。
 どうやらここは、昔住んでいた人達……たぶん、この村からいなくなってしまった人達の家が固まっているようだ。これはかなりのゴーストタウンだな……。
 廃墟ならまだしも、崩れかけた家とか草に埋もれた家とか本当凄いぞ。

 無意識に後退して二人の背後に隠れると、クロウが俺を気遣ってか、ぎゅっと手を握って来た。俺は無意識に震えていたらしく、触れられて初めて自分が情けない事になっているのに気付いて頬が熱くなった。
 ぐうう、は、廃墟は別に怖くなかったはずなのにぃいい。

「ツカサ、大丈夫だぞ。オレとブラックが付いている」
「わ、わかってるけど……その、違うぞ! これはな、あの、あれだ。酒の臭いのせいで体が震える禁断症状が……」
「なにワケの解んないことを言ってるんだい。と言うか駄熊! 人の見てない所で点数稼ごうとするんじゃないよ!」

 何を対抗してるんだか、クロウが俺の手を握っているのを見つけるや否や、「僕を差し置いて何をやってるんだ」とブラックはもう片方の手を握ってくる。
 ああ、また警備員と不審者みたいな構図に……。

「だあもう怖くない、怖くなくなったからありがとう! もう良いってば!!」
「なんだ、怖かったのかツカサ」
「あれー? 何々、ツカサ君何が怖かったの? もしかしておばけ……?」
「くっ……こいつら……」

 わ、解ってるくせに。解ってるくせにこう言う事を……!
 いや違う、そうじゃない。俺は怖がってないから分からなくて当然だけど、でもこういう「あれれ~? おかしいぞ~」みたいなのはちょっとさあ!

「だーもー離せっ!! 俺は別に怖がってない!」
「しかしツカサ、さっきは怖くなくなったと」
「お前はマジボケしてたんか! と、とにかく俺は何とも思ってないから!」

 変な勘繰かんぐりはよせと手を離すと、ブラックはヘラヘラと笑って腕を広げた。

「えぇ~、そうかなー? ほんとかなー? ふふふっ……いいんだよツカサ君、怖いって素直に言っても! 僕がぎゅって抱き締めて守ってあげるから!」
「怖くないっつってんだろ!」
「そうかな? じゃあ……この辺り、三人で手分けして探ってみる?」
「う゛っ……!?」

 思わぬブラックの言葉に、俺は思わずおののく。しかし相手は俺が拒否するだろうと言わんばかりにニヤニヤと笑って腰に手を当てる。
 頼みの綱のクロウもブラックに加勢するつもりなのか、腕を組んで黙っていた。
 まるで、絶対に俺が降伏するだろうと言わんばかりに。
 こ、この野郎……こいつら俺の事を完全に見くびってやがる……!

「そんな事、こんな廃墟だらけの場所でやっても意味ないよねっ。だからさ、ここは怖くないように仲良く手を繋いで……」
「やる!!」
「へ?」

 目を丸くして虚を突かれたように固まる二人に、俺は肩を怒らせて言い切る。
 もうこっちは舐められまいと必死だった。

「だ、だ、誰が廃墟が怖いって言ったよ!」
「いや、いまさっ」
「お前ら俺をバカにしてるようだが、そのくらい俺だって肝試しという夏の風物詩で何度もやっとるわい! やってやろうじゃねーかおう!」

 啖呵たんかを切るようにまくし立てると、ブラックとクロウは目をぱちくりさせながら、ぽかんと口を開けて固まっている。
 そうだろうそうだろう、お前達は、俺がこんな怖い場所を一人で探すなんて言うと思っていなかったんだからな。そう、怖い場所、怖い…………。
 …………あ、どうしよう……プライドまかせでついこんな事言っちゃった……。

 いやでも、バカにされるのは男の沽券にかかわるし、ブラック達に「俺はオバケが怖い」と思い込まれて、それを変に利用されたりすると困るし。

 今だって俺の恐怖心に付け込んで手を握って来たんだ、調子に乗らせてると怖さで俺を支配してセクハラしてこないとも限らない。
 普通なら「そんな酷い事しないだろう」と思えるけど、こいつらは変態だ。それに加えて性欲に物凄く忠実なケダモノなのだ。警戒し過ぎて無駄と言う事はない。

 だから、大丈夫だ。むしろこれは付け込まれる部分を失くすチャンスなのだ。
 な、なーに今は昼前の明るい時間帯なんだし、廃墟をちょっと見て回るくらい、なんてことはない。明るい場所で見れば廃墟も芸術作品だよ!
 とか思いつつ必死で自分を奮い立たせていると。

「そっか……そっかそっか、じゃあ……僕達ここで待ってるから、ツカサ君この先まで探してきなよ。それをちゃんと出来たら、ツカサ君は怖がってなかったって、ちゃんと認めてあげるからさ」
「え」
「ツカサ君は廃墟は怖くないんだから、それくらいは出来るよね~? あっ、もし泣きながら走って戻って来たら、嘘を吐いた罰としてお仕置きするからね」

 とか言いながら、語尾にハートマークを付ける邪悪なオッサン。

 ……まじ。まじっすか。

 こ、この廃墟をひとりで…………。
 いやでも、自分で怖くないって言ったんだから後戻りは許されない訳で、ああでも正直言うと本当昼間でもおばけ出そうな所は勘弁してっていうかあぁあああ!!

「頑張ってね、ツカサ君」
「期待しているぞツカサ」

 二人して親指を立ててグッドラックしてくるオッサン達の背後に、何かとんでもない邪悪な気配を感じたが……今の俺にはどうする事も出来ず。
 今さっきの意地っ張りな自分を引っ叩きたい気持ちでいっぱいになりつつ、恐ろしい場所へと足を向ける事しか出来なかった。













※つぎちょっとナンパです
 
しおりを挟む
感想 1,345

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...