異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編

4.小人の老人に赤帽を

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 お爺さん……砂浜にうずくまったお爺さん? なんで?

 いやでも何か困ってるなら手助けしないと。お年寄りは大事にしなきゃいけないもんな。あんな格好してるってことは、転んじゃったのかもしれないし。

 俺はまっさらな砂浜をざくざくと駆けると、お爺ちゃんの前に座り込んだ。

「あの、大丈夫? お爺ちゃんどうしたの?」

 そう言うと、お爺ちゃんの体がぴくりと動く。
 耳が少し遠いのかな、それとも痛くて動けないとか?
 心配になって来て、俺は恐る恐るお爺ちゃんの小さな背中に手を当てた。

「お、おじいちゃん……?」

 半疑問形の声でそう言いながら、背中を擦ろうとしたと同時。

「うぉおおっ!?」

 お爺ちゃんはいきなり跳ね上がると、その姿勢のまま砂浜に落ち、盛大に尻餅をついてしまった。
 やべえ驚かせちゃったみたいだ。
 慌てて小人みたいなお爺ちゃんの体を起こして、体に付着した砂を落とした。

「あの、大丈夫ですか? 驚かせてしまってすみません」

 謝りつつ、改めて目を丸くしたまま座り込んでいるお爺ちゃんを観察する。
 立派な鷲鼻わしばなに、ふさふさした白髭しろひげ。それに、幼稚園児が着ているような上着……スモックって言うんだっけか? とにかく、そんな上着ともんぺみたいなズボンを穿いたどこかの森の小人みたいな格好だ。これでとんがり帽子でもかぶっていたら、本当にハイホーって言いそうなお爺ちゃんだなあ……少し目付きが鋭いけど。

 いやそれにしても、この世界ってマジで小人みたいな人もいるんだな。流石はファンタジーな世界だ……。
 なんて事を考えていると、お爺ちゃんは俺を見上げて来た。

「お主……正気か?」
「は、はい?」

 なに。正気かってどういうこと?
 良く解らないけど、助けた事にびっくりしたのかな。まあ偏屈へんくつなお爺ちゃんとかだと開口一番に暴言をぶつけてきたりするし、このくらいは普通のやりとりか。
 俺は出来るだけ優しく微笑んで、明るく返した。

「一応、お爺ちゃんの事を助けようと思うくらいには、正気のつもりだよ」

 再度、大丈夫かと聞いたら、お爺ちゃんは目を丸くしたまま黙ってしまった。
 ……俺、選択肢間違ったかな?
 でもそれ以外に言う事なかったし……怒られないと良いんだがと思っていると、小人のようなお爺ちゃんは、自分の子供のように小さな手をじっと見た。

「そうか……正気なのか……」
「えっと、お爺ちゃんどうしてこんな所でうずくまってたの?」

 そう訊くと、お爺ちゃんは自分の手を見るのを止めて、また俺を見上げた。

「……帽子…………」
「ぼうし?」
「帽子を、探しておってな……赤い帽子なんじゃ……」
「ここで失くしたの? 俺で良ければ探すけど……」

 そう言うと、お爺ちゃんは首を振った。
 どうも砂浜で失くした訳ではないらしい。

「風に飛ばされて、海の中に入ってしもうたんじゃ……。ワシは海には入れんし、帽子はもう流されてしもうたじゃろうが……けども、ワシはあの赤い帽子がなければいかんのじゃ」
「帽子が海に……」

 そりゃ大変だ。
 何とかして探してあげたいが……と思って、俺はふとある事を思いついた。

 海では水の曜術が使えないって言うけど……もしかしたら、チート能力持ちの俺なら、海でも水の曜術が使えるんじゃないかと!
 それに、俺だって水の曜術師二級の端くれだ。水の道筋や性質を分析できる水の最上級術【アクア・レクス】を使ったら、海に沈んでしまったお爺ちゃんの帽子も見つけられるかもしれない。

 よし、そうとなったらやってみよう!
 物凄く気分が悪くなるのは怖いけど、アドニスと神泉郷で【アクア・レクス】を使った時に「漠然と知ろうとせずに範囲を絞れ」と言われたのを思い出せば……。

「ど、どうしたんじゃ、何をする気じゃ?」
「ちょっと俺、この周辺の水の中を確かめてみます」
「ええ?!」

 驚くお爺ちゃんに「大丈夫だから」と笑ってやって、俺は青く透き通った海へと足を進める。ふくらはぎ辺りまで水にかって、俺は周囲を見回した。
 ううむ……範囲を指定すると言っても目印がないな……。

「とりあえず、あの海岸の端から、村の波止場まで……一キロ程度かな? まあ、やれるだけやってみよう!」

 どーせ気分が悪いのは少しの間だけだ。
 せっかくの力なんだから、人助けに使わなくっちゃな。
 そう思って、俺は両手を海の水にひたした。

「よし、やるぞ……」

 と言う訳で覚悟を決めてアクア・レクスを使ってみた――――のだが。

「ぐぉおおおおおお!! いてぇええええ!!」
「だ、大丈夫か、大丈夫かの! すまんの!?」

 思わず叫びそうになるのを必死にこらえたが、やっぱり痛い。気持ち悪い。
 範囲がまだ広すぎたのか、情報量が多すぎて思わず倒れそうになってしまう。咄嗟とっさこらえて出来るだけ声を抑えたが、しかしひざまずくくのは我慢できず、海に突っ込んでしまう。でも土下座スタイルまでは堪えたからセーフ……!

 しかし、海でアクア・レクスを使うと余計酷いな。いつものレーダー画面みたいな物に更にノイズがかった感じになって、見辛いせいで余計に頭が痛くなる。
 海は不純物が多くて水の曜術が使えないって言ってたけど、その不純物が原因でこんなにノイズが発生したんだろうか……。
 いやでも、なんとなく海中の様子は解ったぞ。

「ここは遠浅とおあさの海で、小さな魚影と複数の岩が確認できた……。なんか昔の道具か何かが沈んでたみたいだけど……帽子っぽい物はなかったな」

 ほんの数十秒の調査だったが、脳内に直接叩き込まれた情報だ。そんなものを間違うはずがない。俺は頭痛を抑えてゆっくりと立ち上がると、砂浜でオロオロしているお爺ちゃんに今見た事を話した。

「……と言う訳なんだけど……」
「そうか……この周辺に無いと言う事は、もう遠くへ流されたか、消えてしもうたんじゃろうな……ありがとうな、辛い思いまでしてくれたというのに」

 そう言って、しょぼんと肩を落とす小人のお爺ちゃん。
 ……そ、そんなに悲しむなんて……やっぱ大事な帽子だったんだな……。

「お爺ちゃん、帽子見つけられなくてごめんな……」

 そう言うと、相手は俺を見上げて悲しそうに眉を寄せる。

「いや、なに……気にする事は無い。大事なヒトの形見の一つじゃったが……ワシが不注意で失くしてしまったのだから、仕方のない事じゃ……頭が寒いが、まあこれも自分へのいましめと思うて、我慢しようと思いますじゃ」

 ああ、あ、ダメだってそんな事言っちゃ。
 お爺ちゃんが悲しそうな顔してたら俺も悲しくなるよ。俺ご老人が可哀想なのは見てらんないんだって! 若いカップルはどうにでもなれと思うけど!

 チクショウ、俺じゃ遠くまで泳げないし、探すにしろ俺だけじゃ無理だし……。
 どうにかしてこの可哀想なお爺ちゃんを笑顔に出来ないかと考えて……俺は、ふと思いついた事を、お爺ちゃんに問いかけてみた。

「あの……お爺ちゃん、もし良かったら……俺が赤い帽子作ってあげようか?」
「え……?」

 悲しみに暮れるお爺ちゃんが、俺をじっとみやる。
 そんな相手に出来るだけ明るい笑顔を見せると、俺は腕まくりをして見せた。

「俺さ、こう見えて裁縫は得意なんだ! その……だから、形見の代わりにはならないとは思うけど……その形見の“思い出”を忘れないためにも……どうかな」

 俺が形見の帽子を再現する……なんて事は言えないけど、それくらいのお手伝いなら出来るんじゃないだろうか。
 赤い帽子にどんな思い出が有ったのかは解らないけど、同じような物が有ればもっと長く忘れずにいられるだろうし……。

 そう思って提案した事に、お爺ちゃんは目を丸くしていたが……いかにもな鷲鼻をすんと動かして、嬉しそうに笑ってくれた。

「そうか……ならば頼もうかのう……」
「ホント!? あ、じゃあさ、どんな帽子だったのか教えてくれる? あと、お爺ちゃんの頭の大きさも測らせてね」

 思わず嬉しくなって弾んだ声でそう言うと、お爺ちゃんは俺の分かり易い態度に苦笑しながら、砂に帽子の形状を描いてくれた。
 お爺ちゃんの小人みたいな姿からして、大体は想像してたけど……やっぱり白雪姫に仕えてそうな小人さんの帽子そのまんまだ。
 …………いや、そのまんますぎる……。

 一瞬このお爺ちゃんは人族なのかと疑いかけたが、実体も有るし、ただ帽子を海に落としちゃって落ち込んでただけだし、少なくとも悪い存在ではないよな?
 あ、そうだ。観光客ってセンも有るか。

 この辺りって獣人でも普通に接してくれる人が多いし、それだったら小人族的な人が居ても気にしないよな。なんだ、やっぱ普通の人か。
 だったら、なおさら帽子をどうにかしてあげたいな。
 お爺ちゃんの頭のサイズを紐で測って、大体の大きさを記録しておく。布の種類も聞いたけど、安いので良いと言われてしまった。

「すまんのう……代価は必ず払うでの」
「そんなの気にしなくていいですよ。えっとじゃあ……どこに届ければ良いかな」
「じゃあ、明日またこの浜に来ておくれ。またここで座って待っておるよ」
「わかりました」

 小さくて布袋みたいな帽子なら俺だって一日で作れるし、手間はかからない。
 明日調査する前に持って行ってあげようと思い、俺は二つ返事で頷いた。

「おーい、ツカサくーん」

 お爺ちゃんの帽子の事が一段落ついたタイミングで、背後からブラック達の声が近付いて来た。おお、ナイスタイミング。
 振り返って、俺は二人に手を振る。

「こっちこっちー」
「もー、海に入るなり膝から崩れ落ちるし砂浜でしゃがむし、何してるのか心配になっちゃったじゃないかー」
「ツカサ、魚釣りはあんな風にやるのか……?」
「ごめんごめん! ちょっとお爺ちゃんにさ……」

 と、説明しようとすると、俺に合流してきたブラックとクロウは首を傾げた。

「お爺ちゃん?」
「そんな人、どこにいるの?」
「え?」

 どこって、俺の後ろに居るじゃないか。と、振り返ると。

「……あれ?」

 おかしいな、今さっきまでここに居たのに……。
 いやでも足跡はここから草原の方へ歩いてるのが一つあるし、モンスターとかお、お化けって訳でもない……みたいだし……。

「ツカサ君青くなってどうしたの」
「ななななんでもないよ! そ、そーだあのさ、また村の中を歩いてみようぜ! 誰かが何かを思い出してるかもしれないし!」
「釣りは良いのか」
「あ、あ、明日も有るしな! 今日はもう昼過ぎたし、魚に俺の陰が見えちまうから……とにかく、いくぞ!」

 そう言って歩き出そうとする俺に、ブラックが慌てて肩を掴んで制止する。

「ちょっと! ツカサ君ズボンがびしょぬれじゃないか! そんな太腿を強調した格好で外を歩いたら男達に輪姦されちゃうよ!! 宿、宿に帰ろう!」
「りっ、りんか……っ」

 何を言い出すんだお前はと怒鳴ろうとしたのだが、クロウがそうはさせじと俺を軽々と抱え歩きだしてしまう。
 おいおい待て待て、小脇に抱えたらケツにズボンが張り付く!

「ま、待てって! この抱え方はヤバい……っ」
「とにかく早く着替えだ」
「そうそう、行くよツカサ君!」

 行くよじゃないよせめて布を腰に巻かせろよぉ!!










※次はちょっとすけべ ( ^)o(^ )
 
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