異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編

2.おつかいクエストも度が過ぎると面倒臭い

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「実は……この村は数十年前から非常に困った事が起こっておりまして……」
「すっ、数十年前から!? えらい長く悩まされてますね……」

 なぜそんなに長々と……と心の中で疑問符を浮かべた俺に、村長さんは気弱そうな笑みを浮かべながら肩を落とす。

「その……なんと言いますか……昔はこの村は観光地として賑わい、荷揚げの船に観光客も乗って来たりして、結構な盛況ぶりだったのですが……ある時から、急に変な事が相次あいつぐようになりまして」
「その変な事ってのは?」

 もうやる気がないのか、耳をほじりながら聞くブラック。
 テメコラちゃんとせんかい。
 後ろから背中をつねってシャンとさせる俺達に構わず、村長さんはぽつりぽつりと話しだす。ああこれは話が長くなるパターンだなと思ったので、ここは割愛する事として……村長さんの「変な事」の例をまとめると、こうだ。

 この村は元々、他の地域から来る荷物の受け渡し場として賑わっていたが、白い砂浜が広がる珍しい観光地としても人気があり、観光業でも儲かっていたらしい。まあカップルとか来そうですもんね。白い砂浜で青い海だしね。チクショウ、彼女持ちなんてうらやにくらしい。全員十円ハゲでも出来ちまえ。いやそうではなく。

 ……えーっと、しかしある時、妙な事が起き出した。
 俺のようなモテない男達のねたみが具現化したのか、それとも何か呪いが発動したのか、ベイシェールに来た観光客のうち、女性だけが妙に彼氏に冷たくなったり、突然に別れ話を切り出したりし始めたのだと言う。

 観光客だけかと思ったら、村に居た男女の夫婦も女の方が態度を豹変させ、この村の離婚率は一年で一気に跳ね上がってしまった。
 しかも独身の女性も何故か村の男達には見向きもしなくなり、村を出て行くことが多くなってしまったのだと言う。
 今では、男女の夫婦はもう数えるほどしか居なくなってしまったのだとか。

「みな、何故心変わりをしたのかは話してくれないし、十七歳を迎えた女性は急に男に対して素っ気無くなってしまい、村を出てしまうのです……。お蔭でこの村は結婚適齢期の女性が寄り付かず、本当に悲惨な事に……」
「えーと……それはただ、村の男達がだらしないとか……」
「それも考えましたが、妙なのですよ。村の男に興味を失くす女や、別れ話を切り出す女は必ず十七歳から三十五歳くらいまでの者で、それは観光客であっても同じなのです。……ここまで連続すると、流石に私達も変だと思いまして……」

 確かにおかしい。
 地形以外は何の変哲もないこの村で、どうして特定の人間が急に態度を変えるようになるんだろうか。普通なら有り得ない事だ。
 しかも、村の女性だけならまだしも、観光に来ただけの人も突然そんな風になるなんて……どう考えても異常としか言いようがないよな……。

 この奇妙な事件にはブラックとクロウも興味が湧いたらしく、態度を改めて村長さんに問いかけた。

「術師の悪戯や、植物が原因という可能性は?」
「ありませんね、この周辺ですと、シンジュの樹以外は浜辺の植物しか生えませんし、我々は砂浜を綺麗に保つための管理もしておりますので……変な植物があれば解るはずです。それに、飲み水に何か混ぜられた訳でもありませんでした。この村は、立地の関係で海水が混じらないように、技術者である水の曜術師様に毎日水質を判断して頂いています。だから、変化が有れば確実に解るのです」
「では、術者に変な術……例えば“催眠”や“魅了”を掛けられた可能性は?」

 ブラックの問いに、村長さんは首を振る。

「何十年にもわたって数十人以上に“魅了”の術を掛けられる術者なんて、伝説級の勇者様か、ランクの高いモンスターしかいないでしょう。しかし……そんな存在がこの周辺に出たなんて話は、聞いた事も有りませんし……」
「ふむ……。確かに上級のモンスターであれば可能かもしれんが……しかし、人族を喰う事もなく延々と矮小わいしょう小競こぜいをさせるなんて、ありえん話だ」

 そうだよなあ。モンスターは俺達人族とは違って【固有技能】という特殊スキルを持っていて、そのおかげで曜気や大地の気ナシで色々な術を使えたりするらしいけど(ブラックから聞いた)、何十年も人を操れる力がある強いモンスターなら、とっくに村の人達を食べてるだろうし、不仲にさせて放って置くってのも解せない……。

「冒険者ギルドや海賊ギルドの方にも調べて頂いたのですが、結局原因が解らず……しかもこの村は僻地へきちですし、モンスターも弱い物しかみかけないので、冒険者さん達は来てくれないのですよぉおお」
「あー……」

 そうだよね、冒険者って強いモンスターとかオタカラの眠る遺跡とか、刺激的で危険なモノが在る方についつい誘引されちゃうもんね……。
 そりゃこんなリゾート地には近寄りませんわ。

 ブラックだって「強いモンスターの討伐依頼ないかなー」なんて言うんだから、他の冒険者達も調査なんてやりたがらなかったんだろうなあ……。
 そうか、だからこそ、冒険者ギルドは俺達がシンジュの樹を探しているのに目を付けて、騙し討ちでこの村に派遣したって訳か……。よくある展開だけど、実際にやられるとイラッとするわー。

 でも、村長さんが困ってるのは確かなんだよなあ……。
 うーん、シンジュの倒木も手に入れたいし、出来れば俺達が手伝えることはしてあげたいけど……この話だけじゃどうする事も出来ないな。
 ブラックもそう思っていたのか、困惑顔で腕を組む。

「お話しから察するに、それを僕達にどうにか解決して欲しいって話なんでしょうが……こっちは一介の冒険者ですし、出来る事は何もないかと……」
「いえ、それが……数十年調べていて解った事なのですが、どうもこの村には謎の影が出現しているらしく、もしかしたらそれが原因なのかも知れないのですよ」
「謎の影?」

 そりゃまた急展開だ。
 驚く俺に、村長さんは視線を向けると、また申し訳なさそうに腰を折る。

「ええ、どうも女達が心変わりをする数日……いや数か月前……とにかく、それが顕著けんちょになる前に、その女の近辺で必ず黒い影が目撃されているんですよ。ただ、影はかなり素早く、一般人の我々では追いかける事も出来ませんで……」
「だから、オレ達に村を見回って影を捕まえてほしい、と言う事か」

 クロウの言葉に村長は頷いた。

「あるいは正確な姿をとらえて下さるだけでも構いません。別の目的で来た貴方達に無理なお願いをしているのはこちらですから……。ですがもし、捕えて下さったのなら、報酬とは別にシンジュの倒木を差し上げます」
「えっ」

 なん、だと。
 強化剤の材料が、無料? タダ? タダで貰えるって言うのか?

「本来、シンジュの倒木は貴重な物なので、一片いっぺんで金貨一枚はくだらない素材なのですが……ご迷惑をおかけするのですから、もし受けて頂ければそれくら」
「やるやるやりますやらせて頂きます!!」

 一片で金貨一枚なんてそんなお高い香木みたいな樹をタダで!
 そんなオイシイ依頼逃すわけにはいきませんよ! まあ依頼を完遂できなくてもお金を払えばいいだけですし、俺達には何のダメージも有りませんよね!
 よっしゃこのお願い受けない理由がねえ!

「またツカサ君の拝金主義が出たよ……」
「ツカサは何故タダに弱いんだ?」

 それはね、クロウ。お金はいくらあっても困らないからだよ。
 でもその事を説明するととても長くなっちゃうから、説明はまたの機会にね!

「おお、受けて下さってありがとうございます……! 原因を解決して下されば、宿泊費等は全てこちらで払わせて頂きますので、何卒よろしくお願いします!」

 なんて太っ腹。益々ますますよろしくお願いされましたとも。
 そうと決まったら早速調査だな! ロクとの逢瀬は六日後……と言う事は、俺達が調査できるのは移動日を抜いたら五日間だな。
 それでは早速調査を始めるか。

 俺達は村長さんとしっかりと約束を交わすと、まずは宿を取って村を歩いてみる事にした。宿は節約して、普通のグレードの宿屋にしておいた。これで依頼を達成出来なかったら、全額自腹だからな。
 金貨一枚のお値段のシンジュの樹を買うために節約をしておかねば。

 で、宿に荷物を預けて、ひとまず村の様子を探ってみたのだが……。

「見事に男ばっかでムサいな」
「年頃の女の子が全滅だねえ……」
「鼻が曲がる」

 三人とも散々な言いようだとは自覚しているが、しかし本音なんだから仕方がない。村の人口の七割が男だったらそりゃゲンナリもするだろう。
 女性は幼女か大人の女性か……とにかく、独身っぽい人はいない。

 妖艶なお姉さんも居るには居たんだけど、そんな女の人の隣には妻だったり夫だったりが常に寄り添っていたので、ハスハスする気も起きない。
 たぶん、妙齢でツレが居る女性は、運良く離婚の呪いから逃れた人なんだな。
 そんな事情を考えると、飛びついてハァハァするのもちょっと……。

「つーか、男でも二人一緒に歩いてる人多いな……みんな夫婦なのかな?」
「離婚の呪いがあるから、みんな不安なんだろうね」
「そっか……」

 俺にはガチムチ属性は無いので、屈強な男二人が肩を寄せ合っている姿は何とも言えない物があるのだが……しかし彼らの不安そうな様子を見ていると、なんとかしてあげたくなってくる。

 俺には良く解らんが、愛し合ってる二人なんだろうし……変な力で操られて離婚しちゃうなんて事になったら、可哀想で見てられないよ。
 やっぱ、呪いの正体くらいは突きとめてやりたいけどなあ……。

「村を見てみるって言っても、ちょっと見当がつかない……」

 謎の影って、女性に害がおよぶ時にしか現れないみたいだしなあ。
 どうしたもんかと首を傾げると、ブラックは腰を曲げて俺の顔を覗き込んだ。

「じゃあ、まずは村の中にある店を回ってみるのはどうかな? こういう件でまず考えられるのは、食料や水に何か薬を盛られてるって場合だからね」
「あ、そっか……水は問題ないんだから、そっちを探ってみるのもアリだよな」
「しかしツカサ、一応水の曜術師の方も訪ねておいた方が良くないか。問題は無いと言っても、技術者なりに気付いた妙な事などが有るかもしれんしな」

 クロウの言う事も一理あるな。
 アドベンチャーゲームとかの推理パートでも、細かい事を聞いたらやっとヒントが出て来るって展開が在るし……確認されてるからって安心してはいけない。
 相手がどんな存在か解らない以上、調べて無駄な事なんて無いだろうしな。

「じゃあ……まずは水質を調査している人に会ってから、店を回ろうか」

 店を回っている自分にちょうどお昼になるだろうし、と俺が言うと、二人は異論はないと頷いたが……何故か、左右から俺の腕をがっしりホールドしてきた。
 ……なにこれ。俺、ガードマンに連れされられる不審者なの?

「あの……アンタら何してんの」
「え? だって、こうしておいた方が謎の影に狙われないんでしょ?」
「だったら、俺達のツカサを守るためにこうして歩くべきだと」
「そ、そんな話、誰もしてなかっただろォ!?」

 村の人達は呪いが怖いからやってただけで、こんなんで呪いが防げる訳がないだろうが! こ、こいつら解ってやってるだろ、絶対解ってんだろ!
 やめろと腕を振り払おうとするが、やっぱり俺にはどうする事も出来ず。
 連行される犯人のように、ずるずると引き摺られて目的地へ向かうのであった。
 …………ああ、人が見てる……絶対俺、盗人か何かだと思われてるぅう……。









 
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