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湖畔村トランクル、湖の村で小休憩編
24.だったら俺も頑張るしかないでしょう
しおりを挟む「じゃあな、また一週間後を楽しみにしておけ」
「グァッ、ガァ!」
俺の料理を「ものすごい絶品だ」と褒めてくれたアンナさんと、俺をずっと胡坐の上に乗せて心底嬉しそうにニコニコとしていたロクは、食事を終えるとまた森の中へと帰って行ってしまった。
次に会えるのはまた一週間後なのが寂しいが、悲しんでばかりはいられない。
俺達はこれから木材の耐久性を高める「強化剤」の材料を取りに行くべく、この村から遥か西へと向かわねばならないのだから。
西の果ての砂浜……と聞くとゴートゥーザウェスト西遊記と思わず言いたくなるが、残念ながらこのパーティーに美しい三蔵法師はいない。俺達だと、どっちかと言うとヘッポコ三人組とかそういうアレだ。
ここに金髪巨乳美女エルフのエネさんがいれば、完璧な西遊記だったのに……と言う俺の願望はまあ置いておくとして。
とにかく、俺達は西端である浜辺に向かうべく、後片付けを行った後村長さんやマイルズさんに少々貸家を離れる旨を話し、トランクルを出発した。
一応話しておかないと、心配するかもしれないからね。
今までは旅から旅へって感じだったから、誰かに何か言伝をして出発する事などなかったんだけど、こういうのはちょっと新鮮だ。
これも長逗留ならではだと少し嬉しかったが……今の状況は、残念ながらウフフと気軽に笑っていられるような物ではなかった。
「ぶ……ブラック……」
「なんだい、ツカサ君」
上機嫌で俺の名を呼ぶブラックに気が遠くなりそうになりながら、俺はなるべく柔らかーく問いかける。
そんな俺の態度を理解しているのか、ブラックは鼻がくっつくほどに近付いて、俺の顔を覗き込んでくる。いつもなら身長差でそんなに接近できないはずなのだが……残念ながら、今の俺達にはそんな距離など無かった。何故なら。
「あ、あの、お願い……降ろして……」
そう、俺は今……ブラックにお姫様抱っこをされながら、森の中を移動させられているのだから…………。
「うっ、うっ、恥ずかしくて死ぬ……」
「降りちゃ駄目だよ~。ツカサ君が良いって言ったんだからね? 思う存分イチャイチャさせて貰うよフフフフフ……」
そう、俺はさっき約束してしまったのだ。
ロクショウの胡坐の上に座っているのを許して貰う代わりに、一週間はこう言う辱め……いや、イチャイチャを許してやるという事を……。
だからもう、俺には拒否する事も出来ない訳で、さっきから恥ずかしゅうて死にそうで、メソメソしているのであるが。
「ブラック、ずるいぞ」
「るっさいな、お前はこれまでツカサ君に馬乗りになられて思う存分ぷにぷに柔らかい股間の感触を背中に味わって来ただろうが」
「そういうやらしい言い方やめてくださる!?」
デブだってか、俺の下半身がデブってか!?
他に理由があるとか言わないでね! 下ネタとかもうウンザリだから!!
「確かにツカサのたまぶ」
「だーーーーっ!! 良いからはよいけ旅の準備があるんじゃー!!」
今何か芸能人の名前を言おうとしたようですけど、生憎急がねばならない旅ですのでね! 戯れている暇はないんですよありがとうございます!
え? この世界に筋太郎の名前なんて存在しないだろうだって?
いやだなあファンタジー世界だから何でもアリなんですよ、きっとそういう名前も存在するんですよそう思わせてくれマジで。何でクロウがその名前をいま唐突に呟こうとしたのっていうツッコミもいらないです本当に。
自分のキンタマが柔らかいとかそう言う情報要らないんで本当に。死ぬ。
「もうやだ……このおじちゃんたちこあい……」
お姫様抱っこをされながら両手で顔を覆ってシクシク泣くが、そんなしおらしい態度をしても、この中年どもは俺を離してはくれない。
と言うかそれどころか。
「お、お、おじちゃん……? つ、ツカサ君、その呼び方ちょっといっ、いいね……僕の事可愛い声でおじちゃんって呼んでみて……?」
「ツカサ、オレも。無垢な少女のようにおじちゃんと呼んでくれ」
「おねがぁあい、今すぐこいつらに雷落ちてぇえ……」
何も邪魔するものが居ないと思ったら、本当にこう言う事ばっかり言い出すから困る。こいつら変態すぎる。もうやだ。
なんで俺、こんな奴らにお姫様抱っこされて、ヤバい台詞ばっかり投げつけられてんの。罰? クロウと結構アレな約束しちゃった罰なの?
やだもう本当に軽く死にたい。
「所でツカサ君、セイフトに着いたら旅の準備をするって言ってたけど……それ、一日で終わるのかい?」
「あ、それはご心配なく。先に雑貨屋のアニタお婆ちゃんに必要な物を用意して貰っておいたから、あとはお金払うだけだ。ブラック達にはその間に冒険者ギルドで購入許可証を取って来て貰いたい」
「え……熊公と……?」
あからさまに嫌そうな顔をしたブラックに、俺は目を細める。
「俺とクロウが二人っきりの方が良いか?」
そう言うと、ブラックは嫌そうな顔を更に歪めて首を振った。
おう、そうだろうそうだろう。何となく嫌な気配を感じ取っているお前としては、今は余計に俺とクロウに二人きりにしたくはないはずだ。
……正直ちょっと悪い気もするけど、こればっかりは納得してもらうしかない。
俺の計画の為にもな。
「でも……」
折角ツカサ君とイチャイチャしてるのに……とばかりにしょぼんとするブラックに、俺は少し口籠りそうになったが……意を決してブラックに耳打ちした。
「あ、後で……ちゃんと、サービスしてやるから…………」
どもってしまったが、間近に有るブラックの耳にそう囁くと――――
「ふ、ふへ」
「……ふへ?」
「さ、さ、ささささーびすって、いうのがよくわからないけど、なんか、いっ、い、いい、いいぃ言葉だにぇ?」
やだ。ブラックがバグった。
「ツカサ、ささささーびすとは何だ。ブラックが壊れたぞ」
「俺だって何言ってんだか聞きたい」
ブラック、多分「サービス」って言葉の意味知らないよね?
英語だし、俺の世界以外では何の意味も無い単語のはずだし。
なのにどうしてブラックは耳打ちしただけでいやらしい意味を感じ……まさか、俺が恥を忍んで必死に伝えた事で「何の意味かは解らないけど、とりあえずエロそうな単語」だと認識したと言うのか?
バカな……変態だ変態だとは思っていたけど、性欲が有り余り過ぎると雰囲気だけで、エロい単語かそうでないかを認識してしまえると言うのか……?
「ブラック……?」
「ツカサ君……さっ、サービス……楽しみにしてるね……?」
…………ヤバい事になったと思ったが、今更発言を取り消す事も出来ない。
ああ、せめて街に着く前に、このお姫様抱っこをやめて貰えますように……。
つーか、三十分以上も俺を抱えて平気で移動してるのとか、本当おかしいから。マジで異常だから……。
ブラックよ、お前ったらどうしてそんなに体力お化けなの。
あの夜俺を白濁液塗れにしたいとか言ってたけど、アレは冗談じゃなくてガチだったのかもしれない……ああ、どうしよう、本当にどうしよう……。
そんな事を思いながら、俺はただただ森を抜けるまでオッサンの腕の中で揺られ続けたのだった。
◆
そもそも、何で俺が一人になりたかったかと言うと……それは、クロウとの約束を何とか良い方向へ持って行けないかの作戦を練るためだった。
その為には、まず俺がブラックに献身的である事や、クロウとの行為を行ってもアイツに対しての思いは揺るがないって事を示さねばならない。
……平たく言えば、俺がアイツに「どんな事があっても、お前が一番好き」って言う気持ちを伝えなければならないわけで……ってああもう本当なんで俺こんな事考えてるんでしょうね。
とにかく、俺のブラックに対しての思いが唯一のものだと示した上で、クロウの事を「やらねばならない事」として認めてもらう必要が有るのだ。
正直な話、クロウの食事に関しては俺は血液などで摂取して貰うほうが良いとは思っているのだが、それを提案してもクロウは絶対に拒否するだろう。
なにせ、俺を孕ませたいとか言うとんでもない事を豪語している上に、俺と交尾する事を我慢してでも付いて来ているのだ。しかしそれでいて、俺を籠絡しようとじりじり迫っているのだから、俺の血液で我慢しますなんて言う訳がない。
その上、クロウは「嫌だ」と思ったら死んでも拒否する奴だ。
もし「ツカサの体に二度と体に触れるな」とでもブラックに言われたら、クロウは死んでしまいかねない。それほど強い意志を持っているのである。
だけど、死なせるなんて出来ない。
俺がアイツを生かしたのだから、そんな事は許されるはずがないんだ。
生かした者として、俺にはクロウの事を最大限認めてやる義務がある。クロウの意思がまだ俺に向いている以上、それは避けられない事なのだ。……死のうとしていた彼を、生かした者として。
……絶望した存在を救うと言うのなら、自分の身を削らねばならない。
それこそ、己の命を賭してでも。
――その意思を実行する事が、これほど大変だとは思っても見なかったが。
でも、俺は約束しちゃったんだから仕方ない。一緒に居るって。必要だって。
だから、クロウがまた絶望しないためにも、俺はアイツを受け入れなければならないのだ。……最後の一線は、さすがに越えられない……けど……。
とにかく、だからこそブラックには俺の好意を伝える必要が有るんだ。
人に興味がないはずのブラックがあんなに怒るのは、恐らく俺が何の合意もなく離れやしないかと不安に思うからだ。
ブラックって変に子供っぽい所があるし、基本的に人を信じてないからな。
まあ、十八年酷い事されてきたんだから当然な気もするけど……でも、だから、ちゃんと言ってやらなきゃ駄目なんだよな。
俺は、ブラックだけだって。
アンタ以外には……本気で甘えたりはしないって……。
「…………という訳で、その……疑り深くて嫉妬心が強すぎる恋人相手には、どういう事をすれば安心して貰えますかね……?」
用意して貰った荷物の代金を払いながら、俺はアニタお婆ちゃんに問いかける。
そう。俺が一人でやりたかった事とは、アニタお婆ちゃんに知恵を貸して貰う事だったのである。別に知恵を貸して貰うだけなら構わないんだけど、内容が内容なだけに、あいつらには聞かせられないからな……。
と言う訳で、恥を忍んで、酸いも甘いも知っているであろうアニタお婆ちゃんにお知恵を拝借しているのだが。
「そうねえ……。一番は、相手がやって欲しい事をしてあげる事……特に、ツカサさんがやらなかった事を、やってあげる事かしらねぇ」
シワシワの口をもごもごと動かしながら、アニタお婆ちゃんは空を見上げる。
のんびり話をしていても手はしっかり勘定しているんだから、やっぱり凄い。
その凄い手さばきをじっと見ていると、お婆ちゃんは問いかけて来た。
「ちなみに、その恋人に言われてやってない事とかあるかしら?」
「…………えっと……それが、その……なんていうか、あの……」
「ははぁ。みなまで言わないでいいのよ。……ふむ、そうなると……」
え、解ってくれたの、解ってくれたの……!?
まって、それもそれで凄く恥ずかしいんですけど!!
段々と「相談しなきゃ良かったかも」と顔に熱が上がって行く俺に、アニタお婆ちゃんはシバシバと目を瞬かせて、ぽんと手を叩いた。
「ああ、そうだそうだ! 良いモノが在るのよ」
そう言いながら奥に引っ込んだかと思うと、アニタお婆ちゃんはすぐに何かを持って戻ってきた。
良いモノとはなんだろうかと思いながら待っていると、お婆ちゃんはまた俺の前に座って、持って来たものを差し出す。
ソレを見て、俺は――思わず、息が詰まってしまった。
だって、ソレは……その…………。
「新商品の試供品だって言って、卸売りの人が持って来たんだけどねえ……ウチは“こういうモノ”は取り扱わないし、困ってたのよ。でも、そんなに元気な恋人だったら……きっと、喜ぶはずよ。良かったら使っておくれ」
「う、うぐ……お、おばあちゃんん……」
俺正直、お婆ちゃんから夜の営みに関するモノは貰いたくなかったな……。
でもこの世界は性にオープンだから仕方ない。仕方ないんだ。
それに……確かに、俺からブラックを誘ったり、その……変態っぽいことをして興奮させたら……喜ぶかもしれないし……。
「とりあえず、なりふり構わずにやってみなさいな。相手の望みを聞きもしないで悩んでたって、どうしようもないだろう?」
「……そう、ですね……」
確かに、言われてみればそうだな。
ブラックが何をして欲しいかを聞かない内に悩むのは早計だった。
だったら、相手にどんな事を望まれても良いように……も、貰っておいた方が、いい、のかも……。
「安心おしよ、ブラックさんなら、貴方の事を捨てたりはしないはずよ。……なんてったって、あの人はツカサさんが買い物している間もずっと、ツカサさんの事を見て、自分の嫁だって嬉しそうに話してたんだからねぇ」
「えっ……」
あ、あいつ、アホな事言いながらそんなあからさまに……。
「相手が好きなら、まず正直に言う事よ。怖がらずに、ね」
頑張ってね、と笑いかけてくれるアニタお婆ちゃんの言葉に、俺はただただ赤面して頷く事しか出来なかった。
→
※あと一話モジモジしたら章を分けますー
次は「家」には欠かせない仲間が増える章なのでよろしくお願いします!
いちゃいちゃも引き続き沢山入れられるように頑張るよヽ(*・ω・)ノ
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