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湖畔村トランクル、湖の村で小休憩編
18.おとぎ話の王女様でも、昔ならとても食べられない
しおりを挟む※サーセン今週一週間特に忙しくてちょっと文字数減ります(;^ω^)
展開遅くなっちゃうけど許して下さると嬉しいです(´;ω;`)<スンマセン
ベッドでゴロゴロしてたらだいぶマシになったし、もう歩いても大丈夫だろう。
と言う訳で、俺はさっそく昼飯を作るべく用意を始めた。今回の昼飯は、流石に中年二人も俺に遠慮したのか、いつものポタージュやパンなどで軽く済ませて良いと言われたので甘えさせてもらう。
なんたって、俺が昼食のついでに作ろうとしていた料理は、作るのがわりと大変なモノだからな。
まだ体の動きはぎこちないが、まあ出来ない事は無かろう。
何か有れば、背後のテーブルでモソモソメシを食ってる中年どもに頼めばいい。
さて、まずは材料の準備だが……その前にバロ乳が腐ってないかチェックだ。
「バロ乳のツボよー……出てこいっ」
リオート・リングを振ると、今日も今日とて目の前にいきなり壺が現れる。
ううむ、いつ見ても物凄い唐突だ。背後でオッサン達の「うおっ!?」とか言う野太い驚きの声が聞こえたが、今は無視しておこう。
中身を確かめてみたが、やっぱりバロ乳は昨日と変わりない味だった。
……となると、ある程度冷蔵して置けば、殺菌された牛乳程度には持つのかな。常温がダメなだけで、バロ乳って実はかなり保存性の高い物だったりして。
飼育が簡単だったら、オーデル皇国で育てるのに適してそうなんだけどなあ。
そう言えば何でバロメッツがいなかったんだろう。育たないのかな?
不思議に思いつつも、俺はバロ乳をボウルに移して腕を組んだ。
……実は、生クリームが欲しいとこなんだが……アレって確か、牛乳から分離がどうとかって話だったよな。かき混ぜて作るんだっけ?
でも昨日オムレツを作った時には生クリームなんて出て来なかったし……。
「…………いやまてよ」
生クリームは出来なかったけど、あの時卵にバロ乳を混ぜてかき混ぜていたら、なんだかもったりしたような感覚になった記憶が有る。
もしかしたら、卵……いや、卵白と混ぜ合わせるとどうにかなるんじゃないか?
卵白からはメレンゲってのが作れるし、似てないことも無いよな? だったら、混ぜ合わせれば何とかならないかな……いやほら、バロ乳って牛乳と似た味なのに、性質はまるで違う不思議なモンだし……。
とりあえずやってみるか!
「えーっと、卵を割って卵白を選り分けて……」
「ツカサ、何故卵を分離する? 喰わんのか?」
不思議そうに俺の肩越しに覗いてきたクロウに、俺は苦笑しながら釘を刺す。
「卵黄は後で使うから食べちゃ駄目だぞ」
「ウグ」
図星だったか。まあでもちょうど良い。どうせだし、クロウにクリームを作るのを手伝って貰おうか。
俺は卵白を集めたボウルをクロウに持たせると、この前セイフトの街の卸売店で買った泡だて器を渡した。何故卸売店かと言うと、そこでしか買えなかったから。
泡だて器ですら雑貨店じゃ売って無ないんだよこの世界。ほんと料理に関してはヤバいくらい進んでないよ。アカン。
閑話休題。
クロウに素早くボウルの中の卵白を泡立てて貰いながら、俺は卵白に対して一対一の割合の牛乳を注ぎ込む。そうして、数回に分けて砂糖を入れた。
上手く行ってくれるといいんだが……。
そう思ってクロウの逞しい腕が混ぜるボウルの中を見ていると、白い材料達は次第に混ざり合い、驚くほど早く形を変え始めた。それは、液体ではなく……。
「クロウストップ!」
「すと……? ンン?」
「ちょっとごめんな」
泡だて器を引き上げると、ふわっとボウルの中の白い物体が持ち上がり、ツノが柔らかく立ち上がる。その姿は正しく、クリームそのものだ。
しかし、問題は味である。見た目が幾らクリームぽくっても、味が良くなければ意味がない。クロウにも無駄骨を折らせてしまう。
どうか上手く行っていてくれよと思いつつ、泡だて器に付いてきた生クリーム(仮)を指で掬い、意を決して口の中に入れてみると。
「……ッ!!」
「ど、どうしたのツカサ君」
「なんだ、マズかったのか?」
いつの間にか両隣から俺を見ているオッサン達に、俺は必死に首を振る。
そうじゃない、そうじゃないんだ。
だって、これは。この味は――――
「ま、まさしく生クリーム……!!」
「生クリーム……?」
ああもう、説明してあげたいけどこの世界の物で例えられない!!
とにかく食べてみろと泡だて器を向けると、二人は俺の頭上で顔を見合わせたが、それぞれに太い指で掬ってぱくりと口に入れた。
「――んんっ!? あっ、あまっ、しかも溶けてなくなっちゃったよ!?」
「な、何だこれは……うまい……甘い! ツカサ、どうしてこれは甘いんだ、雪のようなのに雪じゃないぞ、甘くて軽くてすぐに溶ける!」
ブラックもクロウも毛を逆立てんばかりに驚いていたが、特に興奮したのは甘いもの好きのクロウだった。味が全然想像できなかった分、物凄く驚いたんだろう。
わかる、解るぞその気持ち。
訳解んない料理がめっちゃ美味しかったら興奮しちゃうよね。
俺はとりあえず知ってる限りの生クリームの知識を大まかに伝えて、二人に落ち着いて貰った。
「へぇえ……これがツカサ君の世界のお菓子には普通に使われてるんだ……」
「こんなもの、貴族でもそうそう口に出来んぞ。甘くて溶けるのに、しつこくなくて幾らでも食べられる……恐ろしいな、生クリーム……」
うん、やっぱクロウの驚き方が異常だな。
そんなに感動したのか生クリームに……。この調子じゃ、俺が“本当に食べたかった物”を食わせたら失神するんじゃないのか。
そう言えば、この世界じゃケーキには生クリームも付かないし、そもそもお菓子と言えば焼き菓子とかばかりだったっけ……ライクネスではそれに加えて砂糖をめっちゃ使うから、物凄く甘すぎて頭が痛くなるという……。
美味しい料理も有るのに、本当にこの世界ってのは極端だよなあ。
「それで……ツカサ君、この生クリームを使ってどんな料理を作るんだい?」
「ふふふ、厳密に言えばお菓子なんだけど……まあ見てろって! 冷たくて甘くて美味しい、俺が大好きだったモノを作ってやるからよ!」
生クリームをクリアした今、俺に怖いものなど何もない!
田舎の婆ちゃん家で「個人商店に行くのがめんどい」と言うだけで、ダチと作りまくって怒られたアレを、今こそ異世界に顕現させるのだ!
「よーし、まずは用意した材料をまぜーる!」
卵黄と砂糖を混ぜて砂糖が混ざったのを確認出来たら、次に生クリームとバロ乳を混ぜた物を火にかけて、小さな泡が軽く湧く程度に温める。材料が混ざったのを確認したら、卵黄と砂糖を混ぜた物に少しずつ投入して合わせる。
混ざったのを確認して、粗熱を取ったら次の段階だ。
「コレを金属の器に移して蓋をして……と」
「出来上がり?」
「いやいや、まだだよ。これを冷蔵庫……リオート・リングの中で冷やして、半刻に一度混ぜるのを四五回程度続けたら、やっと出来上がりだ」
そう言いながら、リオート・リングに器をしまう俺に、ブラックとクロウは同時に「えぇええ!」と情けない声を上げた。
……どうやら、そこまで長くかかるとは思っていなかったらしい。
まあ、そりゃそうか。今までの料理は作ったらすぐ食べられたんだもんな。
「そんなに手間のかかる料理……いや、お菓子なのかい?」
げんなりしたような声を漏らすブラックに、俺は苦笑しつつ頷く。
「そ。アイスクリームってのは、手間がかかるんだよ。でもその分、本当天国に昇っちまいそうなくらい美味しいから、楽しみに待ってろよ。今の時間からなら、夕食のデザートには間に合いそうだからさ」
「あいすくりーむ…………ほんとか……?」
あーあークロウも耳をしょぼーんと垂らして、指を咥えている。
そんなに美味しかったんかい生クリーム。
「そう落ち込むなって。これからは色んな甘いお菓子を作ってやれるから。な?」
生クリームの作り方も解った事だし、これからもっと作れる物の幅が広がるぞ。
少々落ち込みモードのブラックとクロウにそう言うと、この中年二人は途端に顔を明るくして、目を輝かせながら必死に頷いてきた。
「う、うんうん! 楽しみにしてるよツカサ君……!」
「ツカサの作るものは何でも美味しい……凄く期待している」
そ、そう真正面から期待されると照れちゃうじゃんかよ。
ちょっと照れくさくなったが、二人に期待して貰えるのは凄く嬉しかったので、俺は調子に乗ってどんと自分の胸を叩いた。
「任せなさい! ふっふっふ、俺の腕に驚くなよ」
「んもー、ツカサ君本当こういう時は自信満々なんだから~」
「自分の力量を褒められて胸を張るのの何が悪い。んじゃまあ、夕方になるまで、俺は本を読みながらゴロゴロしようかなー」
半刻の鐘を聞きながらアイスをかき混ぜなきゃ行けないし、今日は体を休めて出来るだけゆっくりしよう。この状態で庭いじりとか街に出るとかやってたら、腰の痛みが余計に悪化しそうだしな……。立ち仕事も長時間は無理だ。
と言う訳で後片付けを始める俺に、ブラックが不満たらたらで抱き着いて来る。
「えぇえー……折角起きたんだから、イチャイチャしようよツカサ君~」
「お前はちょっとは反省せい!! 誰のせいで痛みが悪化したと思っとるんだ!」
いい加減にしろと頬を突っぱねるが、ブラックはへらへら笑うだけで。
ああもう本当にこの中年はもう。
一回本当に突き離してやろうかと思っていると、すぐ隣の至近距離でクロウがじっと俺を見つめながら呟いた。
「ツカサ……オレもイチャイチャしたい……」
「だーもーこのオッサンどもはぁああ!!」
人がちょっと元気になったらすぐこれだよもう!
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