異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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湖畔村トランクル、湖の村で小休憩編

17.ファンタジーな素材は強力なほど性質がヤバい

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 ……翌日。
 あれ夜中だから「朝」じゃねーのとかあの後どうしたのかって事は置いといて、翌日。翌日ったら翌日! 寝て起きたら次の日ってことなの!
 俺はもう忘れた、メスイキしたことなんて忘れたんだ!!

 とにかく! 湿布を貼って夜中の時より鈍痛が増した腰をいたわりながら、俺は朝から優雅にベッドの上で読書と洒落しゃれ込んでいた。
 ……洒落込んでねーけど。洒落込みたくなかったんだけど。

 いかん、怨嗟えんさが漏れる。落ちつけ俺。ビークールビークール。

 …………ええと、読書と言ってもただの読書ではない。
 以前妖精の国で貰った書物や携帯百科事典をさらい、俺は目的の薬を見つけようとしているのである。
 どうせ動けないんなら、動かなくても出来る事をしなくちゃな。

 そんな訳で、本や紙束をベッドの脇に持って来て貰ったテーブルに並べてみたのだが……。

「えーっと……妖精の育成指南書に、秘薬を作れる薬品事典……それと、妖精族に伝わる伝承を記した本にお菓子のレシピ……こっちの紙束は……」

 そう言えば本はタイトルを見てすぐに解ったが、紙束はきちんと内容を確認してなかったんだっけ。
 三つの紙束はどれも分厚く閉じられており、不思議とそれほど劣化したようには見えない。ウィリー爺ちゃんの「時間を停止させる」という能力のおかげで、あの妖精の国自体が劣化とは無縁の場所だったのかも。

「何て書いてあるんだろ」

 ぺらっと紙をめくって、それぞれの紙束の本文を読んでみると。

「んんん……? 【アスピドケロン諸島調査報告書】に【四柱の神の関係についての考察】……後は【カラドリウス草案】……? なんか論文っぽいけど、どうしてこんなものが妖精の国に……」

 調査報告書はその名の通りどこかの群島について記されており、四柱の神様の話も一枚目を見た限りでは真面目な文章が続いているっぽい。あとは、この【カラドリウス草案】って奴だけど……正直良く解らん。

 何故なら、この紙束だけ俺が知らない文字で書かれていたからだ。
 図案が有るので恐らくは何かの設計に関する物なのだろうが……俺が読めないって事は、昔の時代の文字なのかな?

 なんにせよ、今の俺にはどう扱っていいのか解らない。
 ……こりゃ死蔵決定だな……俺が何かに役立てられるまで眠らせておこう。

 三つの紙束は劣化しないように厳重に包んで保管して置く事にして、今必要なのは……やっぱり妖精の薬品事典と携帯百科事典だな。
 とりあえず、薬品事典をパラパラと眺めてみる。

「ふーむ……。なんか物凄い薬が色々とあるんだけど……今は見なかった事にしておこう……つーか、なんか蘇生薬とか溶解剤とか色々怖いのばっかりだったんですけど。妖精達、何に使うつもりだったのこれ……」

 いやまあ、神仙のたぐいは昔から凄い威力の薬を作れるって言うけども、俺は普通の薬師か後衛曜術師として成長していきたいんで、ちょっとこう言うのは。
 そら俺もチートしたいけど、目立つ真似をして目を付けられるのは嫌ですよ。

 逃げたって永遠に追われ続けるだろうし、そんなの御免こうむる。
 いくらチート能力持ちでも、国や巨大組織を相手にするなんて、小心者の俺には出来そうにない。俺は逃げ回る生活なんてまっぴらごめんだしな。

「しかし……普通の薬は無いんだろうか……」

 ペラペラと捲っていると、本の三分の二の部分から唐突に本の内容が変わった。
 どうやら、植物の絵が描き込まれた植物図鑑になっているらしい。
 もしかしたら、木材に塗布する強化剤や催涙スプレーに役立つ植物が記載されているかも……。そう思って手を進めていくと。

「……お!」

 だいぶ後半になったページに、とうとう俺のお目当ての植物が見つかった。

「えーと……これは……シンジュの樹……かな?」

 独特な癖字を指で辿たどって、俺は解説を読んでみた。


【シンジュの樹】
 別名:ジゴクガラシ 真白珠しんはくじゅの樹 三日喰みっかぐらい
 東方の諸島でも一部の地域、ライクネス王国の西部極地にて見られる植物。
 美しい名前とは裏腹に凶悪な繁殖力を誇る特定危険植物である。
 ひとたびこの木の種が森に放たれると、驚異的な速度で成長し
 その周辺の栄養、曜気などを全て吸い尽くしながら成長する。
 種は親の樹の周辺に落ちるが、種は周囲の栄養が無ければ親の根に
 寄生して成長する事も出来る。
 地獄の地すら荒らしかねない程の性質とされこの別名が付けられた。
 しかし、シンジュの樹は砂浜などの荒れ地に植える事で性質が逆転し、
 成長すると己の蓄えた養分を放出し周囲に緑を作ろうとする。
 その際蓄えていた養分を出しきった事で、シンジュの樹は美しい乳白色の
 枯れ木に変化し、自ら倒れその身を持って栄養となる。

 この枯れたシンジュの樹は石のように固いが、強い衝撃を加えると崩れ、
 それを水に溶いて幾つかの薬品と合わせる事で、家具や木材などの強度を
 飛躍的に向上させる強化剤として使う事が出来る。
 いくつかの鉱石や貴金属に混ぜても耐久性が上がるが、特定の物に
 塗布すると途端に強度が下がり崩れやすくなるので注意。


「…………何だかんだで物凄い樹だな……。こんなに青々してるのに、砂浜とかに生えるだなんて……」

 少し青くなりながら、解説の横に詳細に模写されている植物を見る。
 シンジュの樹は枝が見えない程に葉が茂って、しっかりとした太い幹にもっさりと垂れ下がっている。パッと見キノコのようなシルエットにも見えるな。
 この独特なフォルムは覚えやすいかも知れない。

「西部極地か……海岸沿いに南に向かえば一本くらいは見つかるかな? ここってライクネスでも北に近い所だし、運が良ければすぐ近くで見つかるかも知れない。……危険な植物だって言うし、それならギルドとかが情報持ってないかな?」

 モンスターではないけど、シンジュの樹は間違いなく恐ろしい危険植物だ。
 だとすれば、異常繁殖した際は冒険者ギルドにも「駆除してくれ~」なんて依頼が舞い込むかもしれない。一応聞いてみても損は無いよな。

 一応マイルズさんにも後で聞いてみるか。
 あとはー……催涙スプレーだな。

「でも、催涙スプレーってちょっと怖いよな……。出来ればあんまり後遺症が残らない感じの奴を作りたいんだが……」

 確か、俺の世界の催涙スプレーには唐辛子エキスとか、とにかく攻撃性の高い物が使われてたりして、結構エグい効果があったはず。
 かなり危険な物って事だったけど……正直そんな凶悪な道具は作りたくない。
 後遺症で逆恨みとかされたら嫌だしな。

 今度は携帯百科事典を取り出して、俺は植物図鑑をぺらぺらめくる。
 催涙植物……というのはちょっと思い浮かばないが、幸い俺はそれと同じような効果を持つ植物を知っていた。それは……キノコだ!

 前にアコールの街でお姉さんにキノコについて教えて貰った時、俺はオコリタケやモドシタケという敵がひるむような効果を持つキノコの存在を知った。
 この世界のキノコは名前が判りやすいし、何より植物よりバリバリファンタジーな要素が強くて一目で見分けられるキノコが多いので、探しやすいと思ったのだ。

「えーっと、キノコキノコ……お、このページからだな」

 やっと見つけたキノコの項目を、俺はじっと眺める。
 体が痛いのも忘れて半透明のページをめくっていると……。

「……ん……? これかな?」

 青と白の水玉模様のキノコが描かれている頁を見つけて、俺は目を止めた。
 これも中々ヤバい色のキノコだが、説明によるとそこまでエグい効果が有るものではないらしい。その名も【ナミダタケ】だ。

「このキノコを食べる、または胞子を吸い込むと涙と鼻水が止まらなくなる……か。効果はせいぜい数時間ほどだし、これを煎じて水に溶かしたら作れるかな?」

 ナミダタケは湿地に生えるらしいので、シンジュの樹とは全く方向が違うが……まあ何とかなるだろう。これもギルドか薬屋で情報が貰えるかな。
 よし、これで一応材料についての情報は揃ったぞ。

 ちゃんと調べられた事に安心してベッドに倒れ込むと、丁度ブラックとクロウが部屋にやって来た。

「おーいツカサ君……ってうわ! 何この本の量!!」
「ツカサ、ちゃんと寝てないと駄目だろう」

 そう言うなり俺の周りにあった本を片付け始める二人に、俺は何をするかと顔をしかめて腕を組む。調べ終わった後だからもう良いけど、こいつら本当過保護だな。
 まあ、俺がベッドになついているのはこいつらのせいだから仕方ないけどね!

「にしても……ツカサ君何読んでたの?」
「ん? 強化剤とか、催涙スプレーの為の材料の事をちょっと……」
「さいるいすぷれー?」

 二人して首を傾げるオッサン共に、思わず説明しようかと思ったが……やめた。
 用途を詳しく解説したら、難癖付けられて止められるかもしれんしな。

「まあそれは大したことない物だから……それより強化剤だよ強化剤! ちょうど良い材料を見つけてさあ!」

 話を逸らすかのように二人にシンジュの樹の事を話して、動けるようになったらギルドに情報を貰いに行こうと提案すると、二人は感心したように頷いてくれた。

「確かにそれは良い案かもね。人に危害を加えるような存在なら、モンスターじゃなくても情報が入って来るだろうし」
「高い木材を買うより楽かもしれんな。何より旅が出来て楽しそうだ」

 ふんふんと鼻息を漏らしながら腕を動かすクロウは、なんだかやる気だ。
 やっぱ冒険となると野生の血が騒ぐんだろうな。

「でも……ロクショウ君の事はどうするんだい?」
「日数を計算して貰って、行けるところまで行くよ。藍鉄あいてつに手伝って貰えば、そこそこ距離を稼げるだろうし」
「ベッドを作るためにそんなにするのも大げさな気もするけどなあ」

 おめーさては意地でも別のベッドに移動しない気だな。
 だけど俺にも我慢の限界ってもんがあるんだ。毎日毎日発情してるとか昨日言いやがったやからと毎晩一緒に寝てられるかよ。

「ベッド作るのに協力しなかったら、もうこれから一生添い寝しねえ」
「解ったよツカサ君! さあ早く体を直してマイルズに話を聞きに行こうねえ!」

 …………こ、このオッサン……。
 いやまあ良い、やる気になってくれるのが大事なんだ。

 ここは俺が大人になって堪えねば……。

「所でツカサ、昼はどうする。まだ無理そうならオレ達が作るが」

 そう言って心配そうにうかがうクロウに、俺は笑って手を振った。

「もう具合は良さそうだから、昼飯は俺が作るよ。それに、今日は作りたいモンがあるからな!」
「作りたいもの?」

 そう。この世界で食べられなかったアレ。
 アレを、今こそ作るのだ!










※次はおいしいものを作るよ ヽ(*・ω・)ノ
 
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