異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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湖畔村トランクル、湖の村で小休憩編

6.俺らがやらずに誰がやる!

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 ベルカ村はセイフトとセレーネの森のちょうど中間に位置する村で、村人は自給自足の暮らしを送っている長閑のどかな村だ。

 めったに人が訪ねて来ることも無く、外からの客人と言えば迷った冒険者や商人くらいのもので、村人以外の人間を見る機会なんて、街に出た時くらいだった。

 そんな貧しくも穏やかな村は、半年前から突然の狂気に曝される事になった。
 最初は家の物の盗難だけで済んでいたが、徐々に野盗が姿を現し、今では農作物や金品だけではなく、女子供を狙うようにもなったという。

 最初は自警団も善戦し、金に余裕のあった時期に購入した安価な障壁バリア発生装置でなんとか持ちこたえていたが、障壁装置が稼働できない時間に野盗と自警団が何度も衝突する事によって、徐々に村人に怪我人が増え、今のままでは野盗達を追い払う事すらも難しくなっていた。

 このままでは、村が全滅してしまう。
 そのため、街で雑貨屋を営んでいるアニタさんの孫である、ベルカ村のアドルフ村長は助けを求める為にギルドに依頼を出したらしいのだが……。

「なんで街の自警団とかに協力要請しなかったのかな?」

 アニタさんに荷物を預けてベルカ村へ向かう途中、ふと疑問が湧いて俺は首をかしげる。いやだってさ、普通そういうのって警察とかの公僕の仕事だよな?
 ヤクザな冒険者に頼むより、実力も装備もしっかりした人達に任せた方が良かったのでは……などと考えていると、隣で藍鉄にまたがるブラックが呆れたような溜息をついた。

「ツカサ君、ここは国境でも無い辺境の地域だよ? 応援を頼むなんてムリムリ。ハッキリ言うと、人口が数十人程度の村が襲われたって警備兵達は動かないよ。その程度の増減なんて微々たるものだし、村が消えれば野盗はいずれ人口の多い所に辿たどり着くだろう? いつもの事だし、警備隊もそれまで動く気がないんだよ」
「えぇ……なにそれ、警備隊がいる意味なくないか?!」
「騎士の風上にも置けんな」

 驚く俺に、憤るかのように俺を乗せながら荒い鼻息を漏らす熊さんバージョンのクロウ。考え方は乱暴者だけど、正義を重んじる常識を持ち合わせているクロウにとっては、強い者が弱い者を守らないのは我慢ならないのだろう。
 こう言う所は本当に常識人なんだけどなあ……。

「仕方ないんじゃない? 国が違えば価値観も違うからね。この常春の国は飢饉ききん飢餓きがなんて滅多に起こらないし、奴隷制が廃止されない程度には人がいる。となれば、自然と人命の価値なんて軽くなっていくもんだよ。大体、広い国土に村が点在している状態で、人口の一割にも満たない警備隊がどこの地域にもすぐ駆けつけるなんて事が出来ると思うかい?」

 当たり前の事実だとでも言うようにサラッと酷い事を言い出すブラックに、一瞬「そんなバカな事が有ってたまるか」と言いそうになったが……ここは異世界だ。人権第一の平和な日本じゃない。
 確かに、この世界の状況をかんがみればそうなっても仕方がないだろう。

 交通の便は悪く、俺達に協力してくれる馬より早いモンスター……藍鉄のような争馬そうば種による移動も、まだまだ一般的ではない。その上、広大な国土に限られた人数の警備兵とくれば、命を切り捨ててしまうのは仕方ないかも知れない。
 ……だけど、当たり前だと言われちゃうのはやっぱり納得できないよな……。

「事情は分かるけど……どうにも出来ないのか?」

 精一杯の当たり障りのない言葉を言うと、ブラックは首を振った。

「現状では無理だね。それを理解してるから、どこの村も冒険者達に頼むんだよ。まあ実際、冒険者は掃いて捨てるほどいるし、金さえ払えばキチンと依頼をこなしてくれるからね。……そういう存在が居るから、警備兵が増えないのかも知れないけど……ま、僕らには関係ない事だ」
「理由は解るが納得は出来ん。正義のしもべとしての気概は無いのか人族は」

 言いながら、うなりつつ鼻をフンフン鳴らすご立腹のクロウ。
 牙を剥き出して明らかに怒ってるけど……ちょっと可愛いと思ってしまった。
 いやだって、喋る熊ってやっぱ可愛くない? そんな場合じゃないのは解ってるけど、やっぱほら、サツバツとした話題になるとね。ついね。

 不覚にもキュンとしている俺に構わず、ブラックは呆れたように肩を竦めた。

「獣人と一緒にするなよ。人族サマは誇りや名誉じゃメシは喰ってけないし、第一獣人のような怪力が人族にあれば、この国はもっと力で支配されててとんでもない事になってただろうよ。誰もが正義に燃える訳じゃないのは解るだろ」
「ンン……」
「それに、そのお蔭で僕達冒険者は儲けられるんだから、警備兵の少なさには感謝しないとね。……おっと、ベルカ村が見えて来たよ」

 ブラックが指さす先には、俺達がアコール卿国で滞在した村よりもこじんまりとした村が見えた。広場が中心にあって、数件の家が底を中心にして建っている。
 周囲は簡単な木のさくで囲んではいるが……全方位見通しが良いせいか、どうにも防犯面に不安があるように思えた。

 柵の位置は低くて、なにより貧弱だ。あれじゃ豚でも簡単に飛び越えられるし、激突すればすぐに折れてしまうだろう。
 もしかしたら野盗が来た時に壊されて、急拵えで作ったのかも知れないが……パッと見で貧相に見えるって、それ多分柵の意味ないよな……。

 色々考えると今から気が滅入りそうだったが、それを振り払って俺達は村へと近付いた。今回はクロウには熊の姿のままでいて貰う。
 その方が野盗達への威嚇にもなるし、なによりクロウ自身が「人族の姿に化けていると、力の加減が解らなくなる」と言ってたからな。
 急な襲撃に備えるためにも、そのままで居て貰わねば。人の姿のままでうっかり人を殺されたら物凄く困る。っていうか、殺してほしくない。

「しかし……このまま入って大丈夫かな……? クロウみたいな大きな熊に乗って来たら、村の人達が驚かないかな?」
「フフ、その時は喋って説明すれば良い。オレはツカサのしもべだとな」
「し、しもべって……」
「オレはツカサのためならどこまでも走るぞ。この姿のままでもツカサをあい」
「おいこらそこの駄熊!! 調子に乗ってんじゃねえぞおおお!!」

 村の入口を目の前にして大声でツッコミを入れるブラックと、変な事を言いだすクロウでは、どちらがマシだろうか。
 暗澹あんたんたる気持ちになる俺の耳に、がやがやと人の声が聞こえてきた。

 まさか、村人が出て来たのだろうかと村の方を見やると。

「うわっ、うわああああ!! モンスターだあああああ!!」
「いやああああもう終わりよ、今度こそおわりよおおおお!!」
「チクショウ盗賊どもめ、こんどはモンスターまで俺達にけしかけようってのか! おい村長呼んで来い、迎え撃つぞ!!」

 …………あ……やっぱり物凄く誤解されてる……。
 やっぱりクロウには人の姿になってて貰った方が良かったかな、と思いながら、俺とブラックは村人たちの恐慌をどう鎮めるべきかと溜息を吐いた。



   ◆



 質素な家の中、まだ若々しい青年が俺達に向かって頭を下げる。

「いや、本当に申し訳ない……。依頼を見て来て下さった方とは知らず、村の者がとんだ御無礼を……」

 心底申し訳なさそうに言う相手に、俺は我慢出来なくってしまい慌てて相手の顔を上げさせた。だって、怖がらせたのは完全に俺達が悪いんだもの。
 野盗に襲われまくってる村なんだから、もうちょっと配慮すべきだったんだよ。

「あの、もう良いんですよ! 怪しい風体してた俺達も悪いですし!!」

 そう言いながら無理矢理青年……村長のアドルフさんの姿勢を正して、俺は背後で不機嫌な顔をしているブラック達に負けないように、精一杯の笑顔で「安心してください」と村長さんに笑いかける。
 ちなみにクロウは外で待機しているが、村の人達の安寧のためにも早く話を進めなければ。

 そんな気合の入った笑顔を見て安心したのか、アドルフさんはやっと顔を緩めてくれた。

「お、お許し下さってありがとうございます……! この村の者は、外の事を何も知りませんで……モンスターを従えられる冒険者さんがいるというのは、風の噂で聞いた事がありましたが……それも、私が知っていたくらいの物でして」
「ははあ……いや、それなら仕方ないですよ。気にしないで下さい。……それで、依頼の事なんですけど……」

 こう言う話は簡潔に済ませて、夜になる前に作戦を練るに限る。
 俺達の思惑を解ってくれたのか、それとも俺達……いや、俺の背後に居る怖い顔のオッサンの機嫌を損ねたくないと思ったのか、アドルフさんは野盗達がどこからやって来るのかなどの情報を簡潔に説明してくれた。

 まず、野盗達は夜……特に、曇りだったり月が隠れた暗い夜に現れるらしい。
 数はそれほど多くは無く、首領一人に子分六人くらいのグループで、それぞれが武器を所持しバラバラの場所から襲って来るという。

 自警団も日々フォーメーションを変えたりして、野盗を水際で撃退できるように様々な策を練って対峙したらしいのだが、彼らには不思議とこちらの動きが見えているらしく、どれほど警戒しても必ず警戒をすり抜けられてしまうらしい。
 そのため、村の若者で組織された自警団は徐々に数を減らし、今動ける者はもう五人程度しかいなくなってしまったのだとか。

「こちらも手を打っているのですが……どうしても、彼らの裏をかけないのです。何故か、野盗達は私達の動きを読んでいるらしく、どう網を張ってもすり抜けて私達を襲ってきて……もう、どうしようもなく……。このままでは、私の村の人々が彼らに奪われてしまう……!」

 悔しそうに下唇を噛み締めて臍を噛むアドルフさんに、俺は胸が苦しくなる。
 そうだよな、もうすでに実害が出ていて、村の仲間が大勢怪我をしているんだ。
 最悪の場合は、男達が全滅して守る者がいなくなり、村が滅んでしまう。それを思うと、アドルフさんも我慢できないのだろう。

 ……やっぱここは、冒険者として助けなきゃいけないよな……!!

「わかりました、お任せください!」
「つ、ツカサ君?」
「とりあえず、まずは怪我人の手当てをしましょう! それで自警できる数が増えるようなら、その人達とも合わせて野盗を迎え撃つ作戦を考えます!!」

 勢いよくそう言うと、アドルフさんは涙で目を潤ませながら俺を見詰め、何度も「ありがとうございます」と頭を下げる。
 俺達に頭をほどの辛さだったんだろう、そんな姿を見て「怖がられたから帰ります」なんて言えるわけがないじゃないか!!

「お任せください、俺達が野盗を成敗してやります!!」
「あーあー、変な方向にやる気になっちゃった……変な事にならなきゃいいけど」

 後ろで何か聞こえるけど、俺には何にも聞えません!!










※つぎは恐ろしくなるくらいモテモテです(´^ω^`)ハハハ
 
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