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Ⅰ. 二人きりの荒野
6.謎の生物
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すっかり寝こけてしまって、何事も無い朝が来た。
夜の内に食われなくて良かったなあと思いつつ、わびしい朝食の後俺は早速曜術を使えるように練習する事にした。
いくら食用の野草が見つかったからといっても、それだけじゃ辛いし、なにより火を起こせなければどうしようもないからな……。
せっかくクロウが「食べられる」らしいモンスターの肉を狩って来てくれても、生肉は俺の体に合わない。食べ慣れてないから、きっと腹を下すだろう。
そうなれば病気にかかりやすくなるし、体力だって落ちて行くのだ。
あと……未知の肉は色々気になるしな……虫とか……。
な、なので、無理して食べて衰弱するよりも、味気ないが水と草で食いつなぐ方が良いってことだ。でも、俺は自分で言うのもなんだが育ちざかりだし、いつまでも草と水だけに頼っても居られない。
なんとかして、炎が出せるようにならないとな。
それには、まず【土の曜気】ってのを認識できるようにならねば。
「クロウが言うには、五曜……五つの属性の曜気には色があるんだっけ」
外の光が届くところまで移動して、洞窟の中で指折り数える。
土の曜術が夕日……橙色で、炎は赤色。水は青、木は緑、金は白。そして五曜のどれにも当てはまらない“大地の気”というナゾの存在は金色だ。
土がオレンジで金の属性が白ってのはちょっと驚いたが、まあどちらもなくはない色だもんな。ともかく、曜気を扱うにはそういう色を認識するのが大事なのだそうな。
曜気が存在する事を意識して、見えるものを見えるようにと考えて……。
「…………とはいえ、全然見えないなぁ……。大地の気ってのは見えるのに、なんで他のモノは見えないんだろう。土はこんなにたくさんあるのに」
ゴツゴツした岩肌を手で触るが、やっぱりなにも感じない。
クロウが言うには「この大陸は曜気がとても少ない」らしく、この岩も土の曜気などほぼ入ってないカチカチ岩なのだそうな。
そして、砂漠もまったく土の曜気がないらしい。
……硬い岩と砂漠の砂が同じってどういうこっちゃ。
まったく理屈が解からなかったが、まあ、異世界だしそういう物かもしれない。
生憎と俺はまったく勉強が出来ないので、そのあたりはおてあげだ。
ともかく、解からないなら解からないなりに頑張らないとな。
今日はクロウが「狩りに行って来る」と出かけていったからヒマだし、その間に俺も出来る事をやらねば。……まあ、危険だから洞窟から出るなって言われているので、曜術の練習をするしかないんだが。
「うーん……曜気、曜気……」
大地の気みたいなイメージで赤いのや青いのを想像してみるが、全然頭の中に入って来ない。凄い素質だと言われたのに、使えなければ意味がないよなぁ。
はあ……どうやったら曜術ってのが使えるようになるんだろう。
「いや、待て。落ちこんでても仕方ないぞ。ここは一気にマスターするチャンスだ。そうすれば、クロウも食べようとは考えないだろうし…!」
落ちこむよりも実践だ!
――――ってなワケで、俺は夕方になるまで、たっぷりと気合を入れて全力で曜気を見る練習をしていたのだが。
「なんだツカサ、ずっと洞窟の入口に座ってたのか」
ずるずるとデカい何かを引き摺りながら帰って来た熊さんが、俺を見る。
相変わらず愛くるしい熊さんの姿だが、その姿は普通の熊より明らかに二倍くらいのデカさだし、なんなら持ち帰った獲物もヤバい。
恐らく子供の象くらいは大きい、ツルッとした水色肌のワニっぽいモンスター。その首は根元から爪でザックリと切り裂かれてブラブラしている。
しかも熊さんはかなりの血塗れだ。これが映像なら、絶対にモザイクを掛けられているだろう。だがこれは俺が見ている現実なのでダイレクトだ。つらい。
……いや、動物を食べたりすることには抵抗は無いし、そういう光景は婆ちゃんの田舎で見た事があるから、グロいのもある程度は大丈夫なんだけど……にしたって血塗れな姿はさすがにちょっと込み上げる物がある。
だがそこは必死にこらえて、俺はなんとか男らしくクロウを出迎えてやった。
「お、おかえりクロウ。血塗れだな……」
「ムゥ……ちょっと手こずった。ラミルテムサは砂に潜っているので見つけにくい」
そう言いながら、クロウはドスンとラミなんとかを地面に放る。
水色ワニの重さでちょっと地面が揺れた気がしたが、きっと気のせいだろう。
つーか、どうやって倒したんですかコレ。いや聞きたくないが。
「と、ともかくコレがクロウの今日のごはんなんだな」
「うむ。……お前も生肉が食える種族なら良かったんだが」
「い、いやぁ……俺は腹が弱いからなぁ……。遠慮せず食ってくれよ。俺が炎の曜術を習得出来たら、ありがたく分けて貰うからさ」
「ムゥ」
相変わらずの無表情だが、でも雰囲気でしょんぼりしてるのが解って可愛い。
声はシブいオッサンの声なのに、どうしてこう可愛いんだろうなあ……。動物ってのはズルい。例え血塗れでも意思疎通が出来て穏やかなら可愛いのだ。
……喋る相手が熊さんしかいないから、ちょっと極まってるきがしないでもないが。
「では、オレだけで食わせて貰う。洞窟の中は汚れるから、ここで食うぞ」
「どうぞどうぞ」
さすがに掃除するのも大変だもんな。
俺は水と草で我慢するんで、なんて言いながら勧めると、クロウはウムと頷いて、水色肌のでっかいワニの腹に遠慮なくかぶりついた。
……めきょっとかイヤな音が聞こえたが、たぶん気のせいだろう。
恐ろし過ぎるな、モンスターの生食。
「む……ラミルテムサはやはり美味い。鶏肉に似ているし毒もないから、人族のお前でも食えると思ったんだがな」
爪を立て、鋭く大きな牙で腹を食い破りムシャムシャしながら、クロウは言う。
その心遣いは嬉しいが、凄まじい音を立てているので仮に俺が曜術を使えたとしても、食べられるかどうかは怪しいかも知れない。
だって、明らかに普通の肉の音じゃあないんだもんな……。
ワニっぽいから、たぶん表面のワニ革的な所がヤバいのかな。
そんな事を思いながら、血のニオイが充満するクロウの食事風景を眺めていると。
「…………ん?」
なにか……ワニの長い口が、もぞりと動いた気がする。
いやでもクロウが食べてるんだし、その動きにつられて動いただけかな。
気のせいかと思い、座った体勢を少し崩して胡坐になると……また、ワニの口だけがヒクヒクと動いた。今度はクロウが咀嚼していて動かしていない。
じゃあやっぱり、気のせいじゃないのか?
でも今の動きは生きているような感じがしない。
そもそもワニっぽいモンスターは今腹を喰われてる最中なんだ。生きてるはずないだろう。ってことは……なんで口が動いてるんだ。
あれっ、もしかして口の中に何か隠し手があったりするのか。
だったらクロウが危ないんじゃないか。
「ちょっ……く、クロウそいつの口動いてるぞ!」
「ム?」
さすがに気のせいとも言っていられなくて、慌てて立ち上がり指を差す。
その俺の声にやっと気が付いたクロウは、のたりと頭の方へ目を向ける。
と、その瞬間。
「う゛ぅう――――ッ!!」
「うえぇ!?」
ワニの口が僅かに開いたかと思った瞬間。
牙が僅かに開いたまま固まっているその隙間から、何かが飛び出した!
「なっ……」
「な、なになになに!?」
飛び上がったものが、こっちに向かって来る。
どうしたらいいのか解らずその場でぐるぐる駆け回っている俺の頭に、それが一気に落ちて来ぶはああっ。
「ツカサ!」
ぶ、ぐ、ぐぐぐ、顔にぶつかった、めっちゃぶつかった。
い゛だい゛んですけどっ、なにこれ、俺顔面ヤバいことになってないよね!?
顔を覆う真っ黒な何かに恐ろしさを覚えながらも、ソレをわしづかんで離す。
すると、それは……むにむにと動いた。
「ぷくー!」
「……ん? ぷく……?」
なんか謎の声が聞こえたんだけど、なにこれ。
どういうことだと掴んだモノをもう一度見返してみると……。
「ぷくぷく」
「プクプクって……これは……なに?」
俺が掴んだ、わらびもちみたいなヒンヤリぷにぷに感がある物体。
それは――――なんだかよく分からないが、ゆるいキャラデザのサソリみたいな形をした、ぬいぐるみみたいな謎生物だった。
→
※ドタバタして更新遅れてしまいました
(;´Д`)すみませぬ
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