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Ⅰ. 二人きりの荒野
2.生肉を食べるなかれ
しおりを挟む謎の首長鳥と澄んだ水、そしてクロウに教えて貰った植物を幾つか採取した俺は、とりあえずこのくらいで良いだろうと一度洞窟に戻る事にした。
幸い、クロウは俺のような存在……つまり“人族”に関しての知識があったため、俺が耐えられる毒性を持つ植物かどうかを逐一確認してくれた。
クロウの話によると、獣は平気だが人族には毒となる植物が有ったり、その逆で獣には毒だが人族には有益な植物も存在するのだと言う。
この辺は、俺の世界で言う「鳥は食べるが人には食べられない果実」みたいなのと同じだろうか。冬の街路樹の小さな赤い実とか、そういうアレだよな。
ニンニクとかは、クロウ達も食べられるんだろうか……って今はそんな事を気にしている場合じゃないか。
ともかく、俺でも食べられそうなものを見繕って貰ったのである。
一つはコケモモに似た丸……ではなくて、四角い謎の果実。もう一つは、黄色い花のでっかい葉っぱ。そして最後に褪せた赤色の萼(花の部分をささえる根元の茎の部分)が不思議な、釣鐘型の可愛い……けど俺の掌ほどの大きさも有る、サイズ感が狂っているでっかい花。
本当に大丈夫なんだろうかという植物ばっかりだが、熊さんのご飯と成り果てた敵を長く放置して調べる訳にも行かなかったので、これくらいが限度だった。
ざっと見て他にもまだまだ種類がありそうだったが、とりあえず今はこれらの植物をありがたく頂いておこう。砂漠で果物が食えるだけでもありがたいんだしな。
まあ……本当に食べられるかどうかが謎でちょっと勇気がいるが、食わなかったら死が近づいてくるので食べるしかない。
「ツカサ、なにを考え込んでいる。肉は食わんのか」
……熊さんが俺に声を掛けて来る。
ああそうだな、今日は謎の首長鳥もお夕飯の献立に並んでいるんだった。
だけど……あの、流石にナマはちょっと……。
ビタミン的な物は豊富かも知れないけど、そいつって明らかにモンスターっぽいし俺が食べて大丈夫なのかって問題も有りましてね。
分けて貰えるのはありがたいんだけど、やっぱりちょっと血が滴るレア中のレアは俺にはワイルドすぎて危険な香りがすると言いますか。
「ムゥ。そういえば人族はかぶりつけないのだったか。なら肉を噛みちぎって一部分を食べ……」
「わーっ、大丈夫です大丈夫ですっ! っていうか人族は動物お肉をフレッシュなままで食べないんですよ普通はーっ!」
「だから“どーぶつ”ではなくモンスターだと言っているだろう。ふれっしゅ、とか言うのは解からんが、肉はこれが一番美味いのだぞ」
ああああ頼むから割とデカめの肉片をこっちに持ってこないで。
いや肉片は良いんですけど、ワイルドに噛み千切った感じの血がたっぷり滴ってる肉はかなり怖いと言うか、俺にはちょっと刺激的すぎるといいますか。
あと熊さんの口の周りも明らかに鉄臭くて今は抱きつける気がしない。
ケモノなんだからそりゃナマが一番美味いと感じるんだろうけど、俺はそうじゃないんですよ。面倒臭い人族なので、焼いて食べなきゃどうしようもないのです。
あと洞窟の中は換気が難しいせいか、むせかえるような血のニオイでちょっと気分が悪くなってきた。謎の首長鳥が大きすぎるせいで、血の量もハンパないんだ。洞窟の入口の方で食べているから、奥の寝床は汚れてないんだが……今後、入口では血の汚れを見かけるようになるのもキツい。
肉食獣との同居はかなりハードルが高いんだなぁ……はは、ははは……。
「ツカサ、生肉」
「目の前に出してきて現実に引き戻さないでくださいよう……。分けてくれる気持ちは嬉しいんだけど、ホントに生肉はお腹壊しちゃうから無理なんだよ」
「むぅ……人族は生の肉は苦手なのか」
「しっかり火を通さないと、最悪の場合死ぬこともあるんだぞ」
だから頼むからフレッシュな肉を見せつけないでください。
必死に人族のお腹の繊細さを訴えると、口の周りが血だらけな熊さんは、なんだかシュンとしたような雰囲気になると上げていた首を落とした。
ぐっ……か、可愛いけど、だからって生肉は無理なんだからねっ。
例えスプラッタな状況でも、動物が可愛いのはゆるぎないのだ。
っていうかこんな状態でキュンと来てしまうのも重症だとは思うが、相手が理性的な存在だと解っているから、ついつい気が緩んでしまうんだよな……。
だが、だからといって生肉は無理なんだが。
せめて火が起こせれば、見よう見まねで処理して焼く事も出来たかもしれないが、この不毛の血では乾いた木もなにもないからなぁ。
俺だって肉は食べたいけど、でもやっぱり危険な真似は出来ない。
無理にチャレンジせず、大人しく選んで貰った果実をモシャってたほうが大人ってもんだろう。臆病者じゃないぞ。これは勇気ある撤退ってヤツなんだ。
……まあ、自分でもちょっと意固地な気はするが。
「火……火か……。“種火石”があればこの姿でも何とかできるが、この周辺には石が出てくるような目印も無いだろうしな……。そうか……長くこの姿のままだったから、人族は脆い存在と言うのを忘れていた……」
「……?」
頭を下げて何やらブツブツと思い悩んでいるクロウ。
……どうも、俺が知らないような事をまだまだ知っているみたいだ。声がオッサンなだけあって、本当に博識な熊さんだ。
考えている途中で口を挟むのもどうかと思い黙っていると、相手は数分何やら呟きつつ考え込んでいるようだったが、やっと考えがまとまったのか顔を上げた。
「そうだ。お前、人族なら【曜術】か【気の付加術】が使えるのではないのか」
「えっ……?」
な、なに。ヨージュツってなに。妖術?
耳慣れない言葉を理解出来なくて目を瞬かせると、クロウは不思議そうに首を傾げ「なんだ知らんのか」と意外そうな声で首を左右に捻る。
またその可愛い仕草をするう。やめてください気が散るでしょっ。
頭を振ってなんとか理性を保つ俺に、クロウは更に説明してくれた。
「曜術、もしかして知らんのか。人族なら誰でも知っていると物の本に書いてあったが……いや、そういうこともあるのか。お前は未だ成人してもなさそうだからな」
「基準がよく分かんないけど、その……俺、一応は人族の仲間だと思うけど、人族の事は何も知らないから……良かったら、教えてくれる?」
そう言うと、クロウは「そういう事も有るのか」と言わんばかりに可愛いつぶらな目を瞬かせていたが、説明しておく方がいいと判断したのか簡単に教えてくれた。
「ム……。ツカサが属する人族には、オレ達とは別の特別な能力があると言われている。それが【曜術】と【気の付加術】だ。【曜術】は、自然界の力……曜気と呼ばれる目に見えないものを取り込み、攻撃の術としたりするらしい。オレは見た事が無いが、書物によれば五つの属性があると言うぞ」
「それって……もしかして、炎属性とか水属性とか?」
「なんだ、知っているではないか」
へへ……そりゃあ俺だって、チート物小説とか漫画とか大好きですからねっ。
RPGだとお約束の話だが、この世界じゃあまりそういう知識を持っている一般人は少ないのか、熊さんにちょっと一目置かれてしまったようだ。
ふ、ふふふ、これが知識チートってものかな。まあ凄くささやかだが……。
……ゴホン。ともかく、なんとなく理解したぞ。
つまり、この世界の“ヨージュツ”と言うのは俺達の世界における【魔法】と同じ存在なんだ。五つの属性も、たぶん炎・水・土・木・金に違いない。
属性があるということは、何でも出来ちゃう魔法というよりは「自然を操る術」の方に近いのかも知れないが、それでも凄い魔法には変わりない。
確かに、そんな術が使えれば炎だって楽々起こせるだろうな……。
だけど、何だかちょっとこの世界の魔法事情は特殊なようだ。
“ヨージュツ”――――恐らく“五曜”だろうから【曜術】だろう――――は解るとしても、もう一つの【気の付加術】とは何だろうか。
「付加術」の「付加」は何となく理解出来るが、俺の世界じゃ聞いた事も無い。
補助をする術なのかなってボンヤリと想像する程度で、それ以上何なのかっていう想像が出来ない。それに「気」って付いてるのもナゾだし……。
曜術で使うのも「気」なら、同じ物なんじゃないのか?
なんだか余計に気になって来てしまった。
腹が減っているのは確かだけど……術の話をもうちょっと詳しく知りたい。
もし俺がその術を使えたら、俺だって肉を喰えるかもしれないし。
食事中のクロウには悪いけど、もっと教えて貰うべきだよな。
「クロウ、申し訳ないけど……術のこと、もっと詳しく教えてくれないか?」
そう言うと、クロウはキョトンとしたような顔をした……ような雰囲気になったが、俺の頼みをすんなりと聞いてくれた。
「わかった。オレも詳しくは知らないが、知っている限りの事を教えよう。もしツカサが術を使えるのなら、これほど便利な事もないからな」
確かにそうだ。火が使えるなら、いろいろと便利になるしな。
お互いの利益のためにも、ココは勉強しておくべきだろう。
そう思い、俺はクロウの講義を聞く事にした。
→
※謎の首長鳥
てっぺんにクジャクの羽根っぽい飾りが三本生えてるが、
ハゲタカとダチョウを合わせたような姿をしている。
だが足は短く非常にアンバランスな体型。肉はなかなかウマい。
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