砂海渡るは獣王の喊声-異世界日帰り漫遊記異説-

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序章

2.生きるために待つ

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「……蜃気楼しんきろう……な……わけ……ないよな……」

 ゴシゴシと目をこする。
 だけど、宝石のようにキラキラと光っている橙色だいだいいろの生き物は消えない。

 蜃気楼しんきろうってユラユラ揺れてる感じのイメージだけど、アレはどっちかというと空の上で自由に動いてるし移動してるし、どう考えても蜃気楼しんきろうじゃないっぽい。
 じゃあ生き物……いや、そんな。あんなモノ地球上に存在するはずが……。

「目をこすっても……いるな……」

 さいわい、今の俺は正常な状態だ。
 ついさっき砂漠に放り込まれはしたが、まだ極限状態ではない。
 だから自分の理性を信じられるんだけど……だったらアレはなんなんだ。

 正体を確かめたくても、俺の足ではあの“なにか”のもとには辿たどけない。くやしいがこの場所でながめ続けるしかなかった。
 ううう、見てるだけってのが一番つらいなぁ……。

「あ、ああ……行っちゃう……」

 謎の何かは、俺が見ている事なんてまったく気付かずに、思った以上の速さで空を飛んで行ってしまった。砂漠が続いているかどうかも分からない、遠くの方へ。

「…………幻じゃない、と、するなら……」

 あっちの方に俺も行った方が良いのかな。
 アレがもし幻じゃ無く人工的な物体だったとしても、行き先がるんならそっちの方へ付いて行けば人のいる場所に出る可能性があるよな。

 いや、だけど、幻じゃないと思っていいのか?
 自分で思うより俺は危険な状態かも知れないし、もう既に幻覚なんかが見え始めるヤバイ状態なのかも知れないぞ。

 それに、この場所に来た時の状況が明らかに「普通じゃ無かった」ことを考えると、俺が今いるところは俺の世界ではないかもしれない。
 そんな可能性がある場所で、ヘンテコな物体の後を追っていいんだろうか。

 幻覚じゃないとしたら……俺、うっかりアイツに見つかって踏まれたり食べられたりするのでは。一貫いっかんのジ・エンドなのでは……?

「やっぱり、ここ……異世界……いや、決めつけるのは早い。俺は神様に会ってないじゃないか。チートだって知らんぞ、ステータスオープン! ……ってホラ叫んだってなんにも出てこないし! どう考えても現実、これが現実間違いない!」

 何か忘れているような気もする……というか、思い出さなきゃならないような何かが有ったような気がするが、思い出せないし今はグズグズしていられない。
 とにかく、この状況から抜け出さなくては。

 幸い俺は異世界でチートをやっちゃう小説をたくさん読んでいる。
 スマホでゲームをしないぶん、ソッチ方面なら俺はくわしいんだ。まかせろ。
 その中に砂漠モノもあったはずだ。思い出せ。思い出せ俺。サバイバル系の小説も読んだ気がする。このままだと幻覚とたわむれながら死ぬことになるぞ。思い出せ俺!

「はっ……そ、そう言えば、日中は動くなとか何とか言ってたっけ……」

 そう言われても既に動いてしまったが、確か小説には「夜明けや夕方に歩くように」とか書いてあったような気がする。だとしたら……あせる気持ちはあるけど、ここは一旦いったん降りて、夕方を待とう。そうだ、日よけも必要だっけ。

「あっ、確か……昨日入れっぱなしにしといたたたがさがあったはず……!」

 ナイスだ、ナイスだぞ忘れっぽい俺!
 どうりで今日はいつもよりかばんが重いなと思ったぜ。ふふふ、普段は宿題がある教科以外の教科書は全部ロッカーに置きっぱするほどに重みに敏感な俺だったが、そんな主義も忘れっぽい俺の脳みそには勝てなかったようだ。
 おかげで助かったぜ。サンキュー昨日の俺!

 さっそく砂丘を滑り降りてなるべく太陽から離れると、俺はかさを開いて出来るだけ体をちぢめながら、その日陰ひかげの中に入り込んだ。
 ……とにかく、今は体力温存だ。助けが来るかは謎だが、無暗に動いてカラカラのミイラになるわけにはいかん。汗がし続けるのにはあせるけど……なんとか自制心をたもって夕方を待とう。とりあえず……鞄の中をあさって、何か無いか確かめるか。

「…………今日に限ってお菓子も飲み物も持って来てねーなぁ……」

 ハンカチ、ティッシュ、国語の教科書とノートに筆記用具。電波ゼロのスマホとかは夜に明かり代わりに使うとして、安物のイヤホンに定期や財布、家の鍵。あと他には絆創膏ばんそうこうや家に持ち帰る予定の体操服……かわきをいやすモンが何も無いな……。

 ここでモバイルバッテリーでもあれば火起こしとか出来たかもしれないが、スマホは電話と友達への連絡程度ていどにしか使わない俺には無用の長物でな……。
 まあにちょっとトラウマがあるから仕方ないんだけれど、砂漠に放り出されるなら苦手意識を持たずにゲームとかやっときゃよかった。エロいからとそのゲームの中身も知らずにイラストをブクマ&保存してごめんよ作者さん……。

「まったくもって後悔こうかい先に立たずだな……」

 いざって時に使いなさいねと毎回おこづかいとは別に渡される虎の子の五百円も、その「いざ」が砂漠では使い所が無い。
 だけど、俺の事を思って余分な「お助け金」を渡してくれていた母さんの事を思うと、じわりと目の奥が熱くなってくる。情けないことに、目からも汗が出そうだ。

 こんな事を考えて泣きそうになるなんて、ガキかよ俺は。
 心細いなんて思うトシじゃないのに、不安になって怖がるなんて男らしくない。
 ドジで運動音痴で根性も無いなんて、これ以上最低になってどうすんだよ俺。

「…………これも……天罰なのかな……」

 呟いて、小さい傘の中で体育座りのまま丸くなる。
 元を正せば結局俺がいた種だし、アホなことをしでかさなければワケも分からず砂漠に放り出されることなんて無かっただろう。

 …………だけど、校則違反しただけでこれってきびし過ぎない……?
 それとも、いつ消えるともわからない素晴らしいエロ絵を未成年で保存したのが罪なのか。じゃあ田舎の婆ちゃんの集落に落ちてたエロ本を拾ったのもダメなの!?
 宝物拾いでカルマが溜まるなんて俺の世界きびし過ぎるんだが!!

「や、やっぱこっそり十八禁セーフサーチをオフッたのがダメだったのか……」

 ネットでの思春期的なヤンチャも地獄判定に加わるなんて……スケベ心で地獄へと案内されるとは聞いてないぞ。こんな事になるなら善行を積んでおけばよかった。
 女体に対して多大な興奮をする事は最早もはや止められないことなので、是非ぜひとも善行をむ方向で許して欲しかったがもう遅いなこれ。なにこれ新しい追放系?

「スケベだから追放か……スケベ具合なら尾井川おいかわも同じなんだがな……」

 俺の二次元エロ師匠である同級生の悪友は、俺以上にヤバいぞ。ストライクゾーンが広すぎるんだぞ。ってそういう話じゃないか。
 ともかく……これが自分のせいだってんなら、クヨクヨしたって仕方ないよな。

 ……生きて行けるかどうかも分からないけど、罰かも知れないけど、希望を捨ててしまったら全部そこで終わってしまう。だから、絶対にあきらめないぞ。

 だったら、なんとしてでも砂漠から脱出しなければ。
 家に帰って、またなんでもない日を送るんだ。シカトされようがハブられようが、俺のせいで婆ちゃん達が悲しむなんて俺自身が許せない。

 きっと、帰らなきゃ。
 絶対に。

「…………何が出来るかな、今の俺で……」

 自分を責めるのはもうやめだ。
 こんな場所で鬱々うつうつしてたって仕方ない。
 俺だって立派なオトナの男だ、やってやれないことはないさ。

 そんな言葉で自分をふるい立たせながら、俺はジリジリと焼ける地獄のような砂漠の中で、夜が来るのをじっと待ち続けた。











 
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