2 / 31
序章
2.生きるために待つ
しおりを挟む「……蜃気楼……な……わけ……ないよな……」
ゴシゴシと目を擦る。
だけど、宝石のようにキラキラと光っている橙色の生き物は消えない。
蜃気楼ってユラユラ揺れてる感じのイメージだけど、アレはどっちかというと空の上で自由に動いてるし移動してるし、どう考えても蜃気楼じゃないっぽい。
じゃあ生き物……いや、そんな。あんなモノ地球上に存在するはずが……。
「目を擦っても……いるな……」
幸い、今の俺は正常な状態だ。
ついさっき砂漠に放り込まれはしたが、まだ極限状態ではない。
だから自分の理性を信じられるんだけど……だったらアレはなんなんだ。
正体を確かめたくても、俺の足ではあの“なにか”の下には辿り着けない。悔しいがこの場所で眺め続けるしかなかった。
ううう、見てるだけってのが一番つらいなぁ……。
「あ、ああ……行っちゃう……」
謎の何かは、俺が見ている事なんてまったく気付かずに、思った以上の速さで空を飛んで行ってしまった。砂漠が続いているかどうかも分からない、遠くの方へ。
「…………幻じゃない、と、するなら……」
あっちの方に俺も行った方が良いのかな。
アレがもし幻じゃ無く人工的な物体だったとしても、行き先が在るんならそっちの方へ付いて行けば人のいる場所に出る可能性があるよな。
いや、だけど、幻じゃないと思っていいのか?
自分で思うより俺は危険な状態かも知れないし、もう既に幻覚なんかが見え始めるヤバイ状態なのかも知れないぞ。
それに、この場所に来た時の状況が明らかに「普通じゃ無かった」ことを考えると、俺が今いるところは俺の世界ではないかもしれない。
そんな可能性がある場所で、ヘンテコな物体の後を追っていいんだろうか。
幻覚じゃないとしたら……俺、うっかりアイツに見つかって踏まれたり食べられたりするのでは。一貫のジ・エンドなのでは……?
「やっぱり、ここ……異世界……いや、決めつけるのは早い。俺は神様に会ってないじゃないか。チートだって知らんぞ、ステータスオープン! ……ってホラ叫んだってなんにも出てこないし! どう考えても現実、これが現実間違いない!」
何か忘れているような気もする……というか、思い出さなきゃならないような何かが有ったような気がするが、思い出せないし今はグズグズしていられない。
とにかく、この状況から抜け出さなくては。
幸い俺は異世界でチートをやっちゃう小説をたくさん読んでいる。
スマホでゲームをしないぶん、ソッチ方面なら俺はくわしいんだ。まかせろ。
その中に砂漠モノもあったはずだ。思い出せ。思い出せ俺。サバイバル系の小説も読んだ気がする。このままだと幻覚と戯れながら死ぬことになるぞ。思い出せ俺!
「はっ……そ、そう言えば、日中は動くなとか何とか言ってたっけ……」
そう言われても既に動いてしまったが、確か小説には「夜明けや夕方に歩くように」とか書いてあったような気がする。だとしたら……焦る気持ちはあるけど、ここは一旦降りて、夕方を待とう。そうだ、日よけも必要だっけ。
「あっ、確か……昨日入れっぱなしにしといた折り畳み傘があったはず……!」
ナイスだ、ナイスだぞ忘れっぽい俺!
どうりで今日はいつもより鞄が重いなと思ったぜ。ふふふ、普段は宿題がある教科以外の教科書は全部ロッカーに置きっぱするほどに重みに敏感な俺だったが、そんな主義も忘れっぽい俺の脳みそには勝てなかったようだ。
おかげで助かったぜ。サンキュー昨日の俺!
さっそく砂丘を滑り降りてなるべく太陽から離れると、俺は傘を開いて出来るだけ体を縮めながら、その日陰の中に入り込んだ。
……とにかく、今は体力温存だ。助けが来るかは謎だが、無暗に動いてカラカラのミイラになるわけにはいかん。汗が噴き出し続けるのには焦るけど……なんとか自制心を保って夕方を待とう。とりあえず……鞄の中を漁って、何か無いか確かめるか。
「…………今日に限ってお菓子も飲み物も持って来てねーなぁ……」
ハンカチ、ティッシュ、国語の教科書とノートに筆記用具。電波ゼロのスマホとかは夜に明かり代わりに使うとして、安物のイヤホンに定期や財布、家の鍵。あと他には絆創膏や家に持ち帰る予定の体操服……渇きを癒すモンが何も無いな……。
ここでモバイルバッテリーでもあれば火起こしとか出来たかもしれないが、スマホは電話と友達への連絡程度にしか使わない俺には無用の長物でな……。
まあ流行ってるものにちょっとトラウマがあるから仕方ないんだけれど、砂漠に放り出されるなら苦手意識を持たずにゲームとかやっときゃよかった。エロいからとそのゲームの中身も知らずにイラストをブクマ&保存してごめんよ作者さん……。
「まったくもって後悔先に立たずだな……」
いざって時に使いなさいねと毎回おこづかいとは別に渡される虎の子の五百円も、その「いざ」が砂漠では使い所が無い。
だけど、俺の事を思って余分な「お助け金」を渡してくれていた母さんの事を思うと、じわりと目の奥が熱くなってくる。情けないことに、目からも汗が出そうだ。
こんな事を考えて泣きそうになるなんて、ガキかよ俺は。
心細いなんて思うトシじゃないのに、不安になって怖がるなんて男らしくない。
ドジで運動音痴で根性も無いなんて、これ以上最低になってどうすんだよ俺。
「…………これも……天罰なのかな……」
呟いて、小さい傘の中で体育座りのまま丸くなる。
元を正せば結局俺が撒いた種だし、アホなことをしでかさなければワケも分からず砂漠に放り出されることなんて無かっただろう。
…………だけど、校則違反しただけでこれって厳し過ぎない……?
それとも、いつ消えるともわからない素晴らしいエロ絵を未成年で保存したのが罪なのか。じゃあ田舎の婆ちゃんの集落に落ちてたエロ本を拾ったのもダメなの!?
宝物拾いでカルマが溜まるなんて俺の世界厳し過ぎるんだが!!
「や、やっぱこっそり十八禁セーフサーチをオフッたのがダメだったのか……」
ネットでの思春期的なヤンチャも地獄判定に加わるなんて……スケベ心で地獄へと案内されるとは聞いてないぞ。こんな事になるなら善行を積んでおけばよかった。
女体に対して多大な興奮をする事は最早止められないことなので、是非とも善行を積む方向で許して欲しかったがもう遅いなこれ。なにこれ新しい追放系?
「スケベだから追放か……スケベ具合なら尾井川も同じなんだがな……」
俺の二次元エロ師匠である同級生の悪友は、俺以上にヤバいぞ。ストライクゾーンが広すぎるんだぞ。ってそういう話じゃないか。
ともかく……これが自分のせいだってんなら、クヨクヨしたって仕方ないよな。
……生きて行けるかどうかも分からないけど、罰かも知れないけど、希望を捨ててしまったら全部そこで終わってしまう。だから、絶対に諦めないぞ。
だったら、なんとしてでも砂漠から脱出しなければ。
家に帰って、またなんでもない日を送るんだ。シカトされようがハブられようが、俺のせいで婆ちゃん達が悲しむなんて俺自身が許せない。
きっと、帰らなきゃ。
絶対に。
「…………何が出来るかな、今の俺で……」
自分を責めるのはもうやめだ。
こんな場所で鬱々してたって仕方ない。
俺だって立派なオトナの男だ、やってやれないことはないさ。
そんな言葉で自分を奮い立たせながら、俺はジリジリと焼ける地獄のような砂漠の中で、夜が来るのをじっと待ち続けた。
→
20
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.
砂竜使いアースィムの訳ありな妻
平本りこ
恋愛
【 広大な世界を夢見る変わり者の皇女、灼熱の砂漠へ降嫁する―― 】
水神の恵みを受けるマルシブ帝国の西端には、広大な砂漠が広がっている。
この地の治安を担うのは、帝国の忠臣砂竜(さりゅう)族。その名の通り、砂竜と共に暮らす部族である。
砂竜族、白の氏族長の長男アースィムは戦乱の折、皇子の盾となり、片腕を失ってしまう。
そのことに心を痛めた皇帝は、アースィムに自らの娘を降嫁させることにした。選ばれたのは、水と会話をすると噂の変わり者皇女ラフィア。
広大な世界を夢を見て育ったラフィアは砂漠に向かい、次第に居場所を得ていくのだが、夫婦を引き裂く不穏が忍び寄る……。
欲しかったのは自由か、それとも。
水巡る帝国を舞台に繰り広げられる、とある選択の物語。
※カクヨムさんでも公開中です。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる