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結 㤅ノ章(アイノショウ)

拾参ノ弐 あやかしに襲われた村

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 半刻ほど歩いて着いたのは、どこか暗い雰囲気をもつ村でした。

 人の住まう家と同じくらいの数、厩《うまや》も建っています。
 厩は馬を飼育するための小屋です。何戸も並んでいますが、小屋の主が住んでいないので、物寂しさがあります。

 収穫の時期を終えた畑も土がむきだし。緑がありません。出歩く人はいません。

 さびれた村の中を歩きながら、ナギは言います。

「ここは宮に馬を卸すことを生業としている村だそうです。三月《みつき》ほど前にあやかしの被害に遭ったばかりだと、師匠からの文にありました」

「なるほどな。どうりで陰気臭い」

『チチチチ。身もふたもないでさ』

 フェノエレーゼの歯に衣着せぬ物言いに、ナギも苦笑いです。

『きゅい~。あんたもう少し言葉を選びなさいな。元気ない村、いるだけで気が滅入る』

「お前の言い方も大差ないではないか」

 いつもなら「丸ちゃんたちは何を言っているの。教えて教えて」と一行の空気を明るく和やかにしてくれるヒナは眠ったまま。
 フェノエレーゼたちの空気は、村の陰気さにあてられ、トゲトゲしてしまいます。

 タビが何かニオイを感じ取って、前かがみになります。

『にゃ、あるじさま、あっち、人が何人かいる』

「でかしたぞ、タビ。まずその人に話を聞こう。医者の家を教えてもらわないと」

『ほめられた。オイラ、できるこにゃ』

 頭を撫でられて満足そうに喉を鳴らします。
 フェノエレーゼたちは急ぎ、集まっている老人たちに声をかけました。

「このあたりに医者はいないか。こいつが熱を出して、薬が必要なんだ」

 すると、それまで笑顔で談笑していた村人たちは顔色を変えました。

「ギ、ギ、ギ……馬魔《ギバ》!? おまん、薬って、まさか薬をそん馬魔につかうんか。なんておそがいこといっとん!!」

「は!? 馬魔? 私はただこいつを診て薬をくれと言っただけじゃないか!」

「おまんが負っているそれは、馬魔だら!」

 ヒナを指差して、まるで化物を見るかのように恐れ慄いた顔をします。老人の声を聞きつけて次々村人たちが家から出てきます。

「いやああああ! 馬魔よ!」

「なんで馬魔がおるんだ!」

 そして老人と同じように、ヒナを見て悲鳴を上げるのです。

 ヒナはどこからどう見ても人間の童《わらわ》です。十にも満たない幼子を、なぜそこまで忌み嫌うのか。フェノエレーゼには理解できません。

「ええぃ! 馬魔なんぞわしらの村に連れてくるんでねぇ! ちゃっとけえれ!」

 次々に投げつけられるイシツブテ。
 ある者はクワを、またある者はカマをふりあげます。

「話を聞け。解熱の薬をくれるだけでいい。金なら払う」

「化け物を助けようとしてる奴なんかの言うことを信じるものか!」

「ま、待ってください! この子は馬魔ではありません。れっきとした人間です! お願いだから医師を」

「黙れ黙れ! さもないとナタくすげるぞ!」

「チッ。一旦引くぞ、ナギ」

 村人たちに追われ、フェノエレーゼとナギはヒナを連れて山に逃げました。
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