99 / 147
玖 夜道怪ノ章
玖ノ参 やさしさのかたち
しおりを挟む
「そんなのいや! なんでわたしだけ仲間ハズレなの?」
夜道怪探しを手伝えると思っていたのに、留守番命令を出されてヒナは大声を出しました。
フェノエレーゼが外出禁止を言い渡した理由を察して、ナギは半泣きになるヒナをなだめます。
「仲間はずれではありません。ヒナさん、よく考えてください。夜道怪が出ると幼い童や女性が失踪する。ヒナさんにもしものことがあったら、みんな心配します」
「そうならないために、そのヤドウカイを捕まえるんでしょう? 人手は多いほうがいいでしょ?」
「それは、そうなんですが」
「おいこら。言いくるめられるなナギ」
他人に強い口調でものを言えないのが災いして、ヒナを説得するどころか説得されてしまう始末。雀やオーサキたち人語を話せないでは言葉が届かないし、フェノエレーゼの眉間のシワが深くなります。
「すみませんフェノエレーゼさん。おれでは力及ばず……」
誰かの役に立ちたいというヒナの精神は見上げたものがありますが、今回ばかりは大人しくしていないと危険です。
フェノエレーゼはもう一度強く言います。
「屁理屈こねたってだめだ。留守番していろ。それがお前の役目だ。夜道怪に誘拐されたいのか」
「でもでもでもでも! 何もできないなんて嫌」
「何もしないほうが助かるんだが」
「むむむぅ!」
何がなんでも手伝うと言って聞かなくて、フェノエレーゼとナギは頭の痛い思いでした。
『きゅい~。主様、あたしたちこの子が無茶しないよう見張ってます!』
『にゃ! オイラたちはミハリ!』
『チチチィ。それならあっしも嬢ちゃんの側にいまさ! 何かあったらすぐに飛んでいきまさ!』
「なら頼む。オーサキ、タビ」
「ふん。そこまで言ったからには役目を全うしろよ、雀」
オーサキの提案を受け入れ、雨が上がってすぐ、フェノエレーゼとナギの夜道怪捜しがはじまりました。
住職が村まで同行して「夜道怪の調査をしに来てくれた陰陽師と連れだ」と紹介してくれたおかげで、村人はようやく信用してくれました。
まずは五日前に行方しれずとなった童の家族へ、聞き込みします。
「息子さんがいなくなって、辛い思いをされているとは存じますが、夜道怪を捕らえるために協力していただけませんか」
ナギが正座して丁寧にお願いすると、中年の夫婦は戸惑いながらも話しはじめました。
「日暮れ前までは、近所の童と村はずれの草原で遊んどったん。息子ーーシンタは五つになったばかりでな。日が落ちても帰ってこないから探し回ったんだが、返事もないんだ。その晩、夜道怪が村に来た」
「そのとき現れた夜道怪の、風貌《ふうぼう》はわかりますか?」
「竹がさをかぶっていて、黒い衣に袈裟《けさ》をかけていた。たまにおるんよ、小さい鉢を持っているもんが。一見僧侶だが、どこか普通の僧とは違う」
「なるほど……」
夜道怪が寺の坊主そっくりの姿形をしているのなら、子どもたちが警戒しないのもうなずけます。
「このへんは今の時期になるとホタルが出るんでな、あの子は“お父とお母にホタル取ってきてやる”つって意気込んで、夕方まで外にいた。ホタルなんていいから早よけえれって言えばよかった。どうか無事に帰ってきておくれ、シンタ」
両手で顔をおおって泣き崩れる母親と、肩に手をそえる父親。
家族がいないため、親心や家族を想う心というものを知らないので、フェノエレーゼは二人がどうしてそこまで悲しむのか理解できません。
夜になると夜道怪がでて危ないと知っているなら、はなから外に出さなければいいのにと、そんなことを頭の隅で考えました。
こういうしめっぽい空気はどうにも苦手で、フェノエレーゼは無言でその場を離れます。その様子をちらりと見て、ナギは子どもの家族に頭を下げました。
「心痛お察しします。夜道怪のことを教えていただいて、ありがとうございます。おれたちが夜道怪を見つけます。息子さんのことも聞き出します。だからどうか泣かないで。息子さんを、笑顔で出迎えてあげてください」
「どうか、どうかシンタのことをお願いします。陰陽師さま」
夫婦は涙をぬぐって笑顔になりました。
家を出て、他の失踪者の家族からも話を聞き、二人は寺への帰途につきます。
「ナギは根っからこういうことに向いているんだな」
「そうでしょうか。師匠や政信には、お前は甘い、未熟だと言われてしまうのですが」
何でも割り切って、淡々と依頼を全うする。安永だけでなく、政信や他の兄弟子だってそうです。ナギは親身に話を聞きすぎて、依頼と関係ないことまで背負ってしまうと。
自信なさげに苦笑するナギに、フェノエレーゼは言います。
「気づいていたか? あの二人は、寺に行く前私を追い払った奴らだ。私ではなく、ナギを信用したから全てを話したんだ。だから、甘いと笑われようとその心根を誇れ。私はお前の甘さ、嫌いじゃないぞ」
自信ありげに口のはしを少し持ち上げる独特の笑い方で、フェノエレーゼが微笑みます。
やはりフェノエレーゼは優しい、ナギは胸が熱くなるを感じて、笑い返しました。
「ありがとうございます、フェノエレーゼさん」
夜道怪探しを手伝えると思っていたのに、留守番命令を出されてヒナは大声を出しました。
フェノエレーゼが外出禁止を言い渡した理由を察して、ナギは半泣きになるヒナをなだめます。
「仲間はずれではありません。ヒナさん、よく考えてください。夜道怪が出ると幼い童や女性が失踪する。ヒナさんにもしものことがあったら、みんな心配します」
「そうならないために、そのヤドウカイを捕まえるんでしょう? 人手は多いほうがいいでしょ?」
「それは、そうなんですが」
「おいこら。言いくるめられるなナギ」
他人に強い口調でものを言えないのが災いして、ヒナを説得するどころか説得されてしまう始末。雀やオーサキたち人語を話せないでは言葉が届かないし、フェノエレーゼの眉間のシワが深くなります。
「すみませんフェノエレーゼさん。おれでは力及ばず……」
誰かの役に立ちたいというヒナの精神は見上げたものがありますが、今回ばかりは大人しくしていないと危険です。
フェノエレーゼはもう一度強く言います。
「屁理屈こねたってだめだ。留守番していろ。それがお前の役目だ。夜道怪に誘拐されたいのか」
「でもでもでもでも! 何もできないなんて嫌」
「何もしないほうが助かるんだが」
「むむむぅ!」
何がなんでも手伝うと言って聞かなくて、フェノエレーゼとナギは頭の痛い思いでした。
『きゅい~。主様、あたしたちこの子が無茶しないよう見張ってます!』
『にゃ! オイラたちはミハリ!』
『チチチィ。それならあっしも嬢ちゃんの側にいまさ! 何かあったらすぐに飛んでいきまさ!』
「なら頼む。オーサキ、タビ」
「ふん。そこまで言ったからには役目を全うしろよ、雀」
オーサキの提案を受け入れ、雨が上がってすぐ、フェノエレーゼとナギの夜道怪捜しがはじまりました。
住職が村まで同行して「夜道怪の調査をしに来てくれた陰陽師と連れだ」と紹介してくれたおかげで、村人はようやく信用してくれました。
まずは五日前に行方しれずとなった童の家族へ、聞き込みします。
「息子さんがいなくなって、辛い思いをされているとは存じますが、夜道怪を捕らえるために協力していただけませんか」
ナギが正座して丁寧にお願いすると、中年の夫婦は戸惑いながらも話しはじめました。
「日暮れ前までは、近所の童と村はずれの草原で遊んどったん。息子ーーシンタは五つになったばかりでな。日が落ちても帰ってこないから探し回ったんだが、返事もないんだ。その晩、夜道怪が村に来た」
「そのとき現れた夜道怪の、風貌《ふうぼう》はわかりますか?」
「竹がさをかぶっていて、黒い衣に袈裟《けさ》をかけていた。たまにおるんよ、小さい鉢を持っているもんが。一見僧侶だが、どこか普通の僧とは違う」
「なるほど……」
夜道怪が寺の坊主そっくりの姿形をしているのなら、子どもたちが警戒しないのもうなずけます。
「このへんは今の時期になるとホタルが出るんでな、あの子は“お父とお母にホタル取ってきてやる”つって意気込んで、夕方まで外にいた。ホタルなんていいから早よけえれって言えばよかった。どうか無事に帰ってきておくれ、シンタ」
両手で顔をおおって泣き崩れる母親と、肩に手をそえる父親。
家族がいないため、親心や家族を想う心というものを知らないので、フェノエレーゼは二人がどうしてそこまで悲しむのか理解できません。
夜になると夜道怪がでて危ないと知っているなら、はなから外に出さなければいいのにと、そんなことを頭の隅で考えました。
こういうしめっぽい空気はどうにも苦手で、フェノエレーゼは無言でその場を離れます。その様子をちらりと見て、ナギは子どもの家族に頭を下げました。
「心痛お察しします。夜道怪のことを教えていただいて、ありがとうございます。おれたちが夜道怪を見つけます。息子さんのことも聞き出します。だからどうか泣かないで。息子さんを、笑顔で出迎えてあげてください」
「どうか、どうかシンタのことをお願いします。陰陽師さま」
夫婦は涙をぬぐって笑顔になりました。
家を出て、他の失踪者の家族からも話を聞き、二人は寺への帰途につきます。
「ナギは根っからこういうことに向いているんだな」
「そうでしょうか。師匠や政信には、お前は甘い、未熟だと言われてしまうのですが」
何でも割り切って、淡々と依頼を全うする。安永だけでなく、政信や他の兄弟子だってそうです。ナギは親身に話を聞きすぎて、依頼と関係ないことまで背負ってしまうと。
自信なさげに苦笑するナギに、フェノエレーゼは言います。
「気づいていたか? あの二人は、寺に行く前私を追い払った奴らだ。私ではなく、ナギを信用したから全てを話したんだ。だから、甘いと笑われようとその心根を誇れ。私はお前の甘さ、嫌いじゃないぞ」
自信ありげに口のはしを少し持ち上げる独特の笑い方で、フェノエレーゼが微笑みます。
やはりフェノエレーゼは優しい、ナギは胸が熱くなるを感じて、笑い返しました。
「ありがとうございます、フェノエレーゼさん」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる