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参 海ノ妖ノ章
参ノ陸 人を襲う牛鬼と天狗
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「あんたみたいな若造が陰陽師だって?」
村娘から村長の家に案内され、座敷に通されるなり村長から投げられた言葉がこれでした。
村長は背筋が真っ直ぐだがハゲの目立つ男で、ナギを頭から爪先まで無遠慮に観察して、不信感をあらわにしました。
恐らくは神職は寺の坊主のような老齢の男ばかりと想像しているのでしょう。
ぞんざいな扱いをされることになれているため、ナギは冷静に言葉を選びます。
「正確には陰陽師の弟子。見習い生です。あやかし祓いならば、幼少の頃より師から学んでおります」
「その師とやらの名前は?」
「信濃の国の、土浦安永様にございます。安永様から桜の村のあやかし祓いを任されて、今は任務の帰りです。一晩の宿を探してあの娘さんに声をかけたところ、こちらに案内されました」
包み隠さず正直に答えると、村長はようやく警戒をときました。あぐらをかいて頭をなでつけます。
「ああ、あすこの村長は、少し前から咲かない桜を伐ろうとすると妙なことばかり起こるってぼやいておったな。まさか、あんたみたいなのが解決したと言うのかい」
『きゅいーー! まさかとはなによこのハゲ! 主様はいちりゅーなんだからツルツルがバカにしないでよ!』
「ぷっ」
村長が妖怪の声を聞ける人でなくて良かった。
オーサキの歯に衣着せない毒舌に、ナギはこらえきれず笑ってしまいました。
「あ、し、失礼。……はい。あの村の桜はもう大丈夫です。あのあやかしはもう人に害をなしません」
「そうか。ならばひとつ頼まれてくれねえか。それを解決してくれるならそれまでの間うちに泊めてやろう」
「……頼みごと、ですか。なんでしょう」
先程の村娘も妖怪のことを聞くとどこかぎこちない様子だったし、この港は何かあったのでしょう。
さざ波の音すらうるさく感じるほどの真剣さと静寂にナギは正座し、居ずまいを正します。
村長は深く息を吸い込み、切り出します。
「あんた、半月ほど前、この辺で嵐があったのは知っているか」
「ええ。あのときは桜の村を目指して旅をしている最中でしたから。嵐にしては突然現れて、一刻ほどで治まりましたね」
あのときは桜の村にいるあやかしのいたずらだろうかと踏んでいたけれど、桜木精に嵐を起こすような力はありません。
だとすると奇怪な嵐は別のあやかしの仕業ということになります。
「……わしは見たんじゃ。空に白い翼を持つ妖怪が現れて嵐を起こすのを。誰も信じてくれんかったがな。そのとき海に出ていたシンベエとケンジロウの乗っていた船が沈んじまった」
村長は悔しそうに拳で畳を叩き、歯をくいしばります。
「ケンジロウは龍神様のお導きで浜に打ち上げられたんだが、シンベエは船ごと消えて遺体すらあがらんかった……。あれ以来ケンジロウは寝込んじまっているんだ。きっとあの白い妖怪に何かされたにちげえねぇ」
だから、ケンジロウを助けてくれ。
村長の願いに、ナギはうなずきます。
先程の娘は、きっとケンジロウという者と近しい。そして村長と同じようにナギが陰陽道の者かどうか疑っていた。だから異変について聞いても口を開かなかったのでしょう。
オーサキが先程の村娘から、妖怪の残り香を感じ取っていました。
海や河で人を襲う化け物ーー牛鬼の臭いを。
牛鬼に空を飛び風を操る力があるとは聞いたことがありません。
嵐を起こしたのと、船を襲ったのは別のあやかしと考えて間違いないでしょう。
結託して人を襲っていたのか、それとも。
牛鬼と、もう一人の羽を持つあやかしが人を食うことを覚えてしまったのならば、被害が拡大する前に手を打たなければなりません。
真相を解明し、ケンジロウを救うためにも、ナギは村長の依頼を受けることにしました。
村娘から村長の家に案内され、座敷に通されるなり村長から投げられた言葉がこれでした。
村長は背筋が真っ直ぐだがハゲの目立つ男で、ナギを頭から爪先まで無遠慮に観察して、不信感をあらわにしました。
恐らくは神職は寺の坊主のような老齢の男ばかりと想像しているのでしょう。
ぞんざいな扱いをされることになれているため、ナギは冷静に言葉を選びます。
「正確には陰陽師の弟子。見習い生です。あやかし祓いならば、幼少の頃より師から学んでおります」
「その師とやらの名前は?」
「信濃の国の、土浦安永様にございます。安永様から桜の村のあやかし祓いを任されて、今は任務の帰りです。一晩の宿を探してあの娘さんに声をかけたところ、こちらに案内されました」
包み隠さず正直に答えると、村長はようやく警戒をときました。あぐらをかいて頭をなでつけます。
「ああ、あすこの村長は、少し前から咲かない桜を伐ろうとすると妙なことばかり起こるってぼやいておったな。まさか、あんたみたいなのが解決したと言うのかい」
『きゅいーー! まさかとはなによこのハゲ! 主様はいちりゅーなんだからツルツルがバカにしないでよ!』
「ぷっ」
村長が妖怪の声を聞ける人でなくて良かった。
オーサキの歯に衣着せない毒舌に、ナギはこらえきれず笑ってしまいました。
「あ、し、失礼。……はい。あの村の桜はもう大丈夫です。あのあやかしはもう人に害をなしません」
「そうか。ならばひとつ頼まれてくれねえか。それを解決してくれるならそれまでの間うちに泊めてやろう」
「……頼みごと、ですか。なんでしょう」
先程の村娘も妖怪のことを聞くとどこかぎこちない様子だったし、この港は何かあったのでしょう。
さざ波の音すらうるさく感じるほどの真剣さと静寂にナギは正座し、居ずまいを正します。
村長は深く息を吸い込み、切り出します。
「あんた、半月ほど前、この辺で嵐があったのは知っているか」
「ええ。あのときは桜の村を目指して旅をしている最中でしたから。嵐にしては突然現れて、一刻ほどで治まりましたね」
あのときは桜の村にいるあやかしのいたずらだろうかと踏んでいたけれど、桜木精に嵐を起こすような力はありません。
だとすると奇怪な嵐は別のあやかしの仕業ということになります。
「……わしは見たんじゃ。空に白い翼を持つ妖怪が現れて嵐を起こすのを。誰も信じてくれんかったがな。そのとき海に出ていたシンベエとケンジロウの乗っていた船が沈んじまった」
村長は悔しそうに拳で畳を叩き、歯をくいしばります。
「ケンジロウは龍神様のお導きで浜に打ち上げられたんだが、シンベエは船ごと消えて遺体すらあがらんかった……。あれ以来ケンジロウは寝込んじまっているんだ。きっとあの白い妖怪に何かされたにちげえねぇ」
だから、ケンジロウを助けてくれ。
村長の願いに、ナギはうなずきます。
先程の娘は、きっとケンジロウという者と近しい。そして村長と同じようにナギが陰陽道の者かどうか疑っていた。だから異変について聞いても口を開かなかったのでしょう。
オーサキが先程の村娘から、妖怪の残り香を感じ取っていました。
海や河で人を襲う化け物ーー牛鬼の臭いを。
牛鬼に空を飛び風を操る力があるとは聞いたことがありません。
嵐を起こしたのと、船を襲ったのは別のあやかしと考えて間違いないでしょう。
結託して人を襲っていたのか、それとも。
牛鬼と、もう一人の羽を持つあやかしが人を食うことを覚えてしまったのならば、被害が拡大する前に手を打たなければなりません。
真相を解明し、ケンジロウを救うためにも、ナギは村長の依頼を受けることにしました。
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