蛇場見《じゃばみ》さんちのまかないごはん。 〜拒食症アリスとジャバーウォックのワンダーライフ〜

ちはやれいめい

文字の大きさ
上 下
69 / 74

バレンタインの贈り物と、感謝のチョコフォンデュ②

しおりを挟む
「おはよう、アリスちゃん。はい、ハッピーバレンタイン」
「へ!?」

 2月14日。
 アリスが出勤すると同時に歩が、ラッピングされた小さな紙袋をくれた。
 手のひらより少しだけ大きくて、オシャレな赤い袋。かなり軽くて柔らかいから、食べ物の類いではなさそう。

「え、あの、ええ?」
「あらあら混乱しちゃってるわねえ。日本だと女性が贈るのが主流だけど、海外だと男性が花やハンカチを贈るのが一般的なのよ」
「ってことは、これ、バレンタインの贈り物?」
「そうよー」

 まさか自分がもらう側になるなんて想像をしていなかったので、アリスは硬直した。

「さ、開けてみて。気に入ってもらえたら嬉しいんだけど」

 中身は青薔薇を模したシュシュだった。サテン地の布が薔薇の形に、緑のレースリボンが葉の形になっている。縁が金糸で縫われていて、とても上品だ。

「かわいい」
「よかった。アリスちゃんの髪は長くて柔らかいから、いろんなアレンジをできると思うのよね」
「うん、ありがとう。このシュシュ使って、たくさんヘアアレンジをためしてみる」

 アリスはいままで使っていた黒のヘアゴムをとって、薔薇のシュシュを手首に通す。肩のところでゆるくまとめて結わえた。

「ど、どうかな」
「似合うわ。うん。薔薇を選んで良かった」

 こういうことをさりげなくしてくれるから、嬉しくなってしまう。
 にやけてしまうのをおさえられない。

 仕事中もついつい鏡に映る自分を見て、シュシュをとめ直してしまう。自分がずいぶんと単純だなと気づいて少し恥ずかしくなった。

 昼休憩に入る前に、アリスは家から持ってきた箱を取り出す。
 今日のために考えていたお礼の言葉あれこれが全部吹っ飛んで、頭が真っ白くなってしまった。
 ラッピングしなくていいです! と言ってしまったから、スーパーで売っているようなパッケージ箱そのまんま。いまさらながら、ちゃんと包装してもらえば良かったと後悔が押し寄せている。
 歩はちゃんとかわいくラッピングされたものを用意してくれたのに。

「えと、あの、デザートに、チョコフォンデュしましょう。果物も、買ってあるんです」
「あら、楽しそうね。これをお昼にしちゃいましょうよ。さっきコーカスレースで買ってきたバゲットがあるの」
「ベーカリー・コーカスレースのバゲット!? 美味しいんですよね、あそこのパン」

 商店街のパン屋、ベーカリー・コーカスレース。
『コーカスレースにハズレ無し』と近所で評判だ。
 その中でもすぐ完売してしまう人気商品が、バゲットと食パン。

「そうよ~。ネルちゃんが「14日はバゲットを買っておくといいよ」って言っていたんだけど。こういうことだったのね」

 歩はクスクス笑う。
 なぜそんなことを言い出したのか、理由を言ってくれなかったけれど、とりあえず買ってみたという。

「最近の日本じゃ、職場でチョコを配るのも文化としてあるものねぇ。アタシに気を遣わなくていいのよ、アリスちゃん」

 ネルにはただのお礼、深い意味はないって義理チョコ宣言しておきながら、いざ歩に義理チョコだと思われるとなんだか悔しい。

 歩にだけは、なんの意味もない義理チョコだと思われたくなかった。
しおりを挟む
シリーズ作品
初田ハートクリニックの法度(完結済)
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

伊緒さんのお嫁ご飯

三條すずしろ
ライト文芸
貴女がいるから、まっすぐ家に帰ります――。 伊緒さんが作ってくれる、おいしい「お嫁ご飯」が楽しみな僕。 子供のころから憧れていた小さな幸せに、ほっと心が癒されていきます。 ちょっぴり歴女な伊緒さんの、とっても温かい料理のお話。 「第1回ライト文芸大賞」大賞候補作品。 「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にも掲載中です!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

すこやか食堂のゆかいな人々

山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。 母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。 心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。 短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。 そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。 一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。 やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。 じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。

処理中です...