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クリスマスの準備と、商店街のみんなでけんちん汁②
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「ネルさん、アリスさん。そろそろお昼休憩にしましょう。町内会長がけんちん汁を作ってくれましたよ」
「え、ほんと? 行こ、アリスさん」
初斗が呼びに来た。通行の邪魔にならないよう道具を端にまとめてから、ふたりで大鍋が用意されているところに行く。
町内会長の奥さんが、笑いじわのある顔をさらにくしゃくしゃにして笑う。
スーパーでよく売っている、白いプラスチックの汁椀にあふれそうなくらい盛ってくれた。
「ネルちゃんもアリスちゃんもお疲れ様。おかわりもあるからねぇ」
「えへへ。ありがとうございます」
「どうも」
鍋の横に立つ八百屋の店主が、「里芋もニンジンもネギもうちの店のだからな、美味すぎて二人とも俺に惚れるかもな!」なんて言って奥さんの蹴りを食らった。
恒例の夫婦漫才なので、誰も店主の心配はしない。
アリスは商店街にあるベンチに腰掛けてネルとけんちん汁をいただく。
温かく、とろみがあって、外気で冷えた体にしみる。
芋もニンジンも柔らかくなるまでしっかり煮込まれていて、かんだ瞬間溶けていく。
「おいしいねアリスさん」
「うん、おいしい」
アリスの視線の先、歩は設計図を広げて男性陣に位置の指揮をしている。
「ちょっと原さん。そこの電気は白熱球だから近くに飾りをつけちゃダメよ。電球が過熱して火がついちゃうわよ」
「おっと、悪い悪い。そうだな、危ないもんな」
食べるのを忘れて熱中しているから、初斗が声をかけに言った。
初斗に言われて、歩も休憩に入る。
「ふふふ。やっぱり楽しいわねえ。いい汗かいたわ」
「歩は集中力がすごいからね。でもご飯を食べるのを忘れちゃいけないよ」
「そうね。気をつけるわ」
初斗と歩も、アリスとネルのところにきて汁を食べる。
一日かけて商店街は一気にキラキラクリスマス仕様に変わった。
アリスも普段使わない体力を使って疲れたけれど、商店街のみんなと協力して何かをできるのはとても楽しかった。
空になった箱を倉庫にしまって、開店を遅らせていた店舗の営業にうつる。
「とても助かったわ、アリスちゃん。来年もよろしくね」
「うん。まかせて」
来年の十二月もアリスがここにいる前提で考えていてくれる言葉。
ネルに言われたことを一瞬考えて、頭を左右に振る。
(従業員がいると助かるってそれだけのことだよね、うん)
無理矢理自分を納得させて、アリスは仕事に集中した。
「え、ほんと? 行こ、アリスさん」
初斗が呼びに来た。通行の邪魔にならないよう道具を端にまとめてから、ふたりで大鍋が用意されているところに行く。
町内会長の奥さんが、笑いじわのある顔をさらにくしゃくしゃにして笑う。
スーパーでよく売っている、白いプラスチックの汁椀にあふれそうなくらい盛ってくれた。
「ネルちゃんもアリスちゃんもお疲れ様。おかわりもあるからねぇ」
「えへへ。ありがとうございます」
「どうも」
鍋の横に立つ八百屋の店主が、「里芋もニンジンもネギもうちの店のだからな、美味すぎて二人とも俺に惚れるかもな!」なんて言って奥さんの蹴りを食らった。
恒例の夫婦漫才なので、誰も店主の心配はしない。
アリスは商店街にあるベンチに腰掛けてネルとけんちん汁をいただく。
温かく、とろみがあって、外気で冷えた体にしみる。
芋もニンジンも柔らかくなるまでしっかり煮込まれていて、かんだ瞬間溶けていく。
「おいしいねアリスさん」
「うん、おいしい」
アリスの視線の先、歩は設計図を広げて男性陣に位置の指揮をしている。
「ちょっと原さん。そこの電気は白熱球だから近くに飾りをつけちゃダメよ。電球が過熱して火がついちゃうわよ」
「おっと、悪い悪い。そうだな、危ないもんな」
食べるのを忘れて熱中しているから、初斗が声をかけに言った。
初斗に言われて、歩も休憩に入る。
「ふふふ。やっぱり楽しいわねえ。いい汗かいたわ」
「歩は集中力がすごいからね。でもご飯を食べるのを忘れちゃいけないよ」
「そうね。気をつけるわ」
初斗と歩も、アリスとネルのところにきて汁を食べる。
一日かけて商店街は一気にキラキラクリスマス仕様に変わった。
アリスも普段使わない体力を使って疲れたけれど、商店街のみんなと協力して何かをできるのはとても楽しかった。
空になった箱を倉庫にしまって、開店を遅らせていた店舗の営業にうつる。
「とても助かったわ、アリスちゃん。来年もよろしくね」
「うん。まかせて」
来年の十二月もアリスがここにいる前提で考えていてくれる言葉。
ネルに言われたことを一瞬考えて、頭を左右に振る。
(従業員がいると助かるってそれだけのことだよね、うん)
無理矢理自分を納得させて、アリスは仕事に集中した。
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